ASIA MINOR

  フランスのプログレッシヴ・ロック・グループ「ASIA MINOR」。 71 年結成。 トルコ系フランス人によるグループ。 作品は二枚。

 Crossing The Line
 
Eril Tekeli flute, guitar, bass
Setrak Bakirel lead vocals, guitars, bass
Lionel Beltrami drums, percussion
guest:
Nicolas Vicente keyboards

  79 年発表のアルバム「Crossing The Line」。 内容は、ギター、ベース、ドラムスにフルートを交えたファンタジックなシンフォニック・ロック。 ソフトな音ながらも、思いのほかテクニカルなアンサンブルと、クールで洗練されたタッチとエキゾチズムの微妙な均衡が特徴である。 叙情的でマジカルなメロディを活かしつつ、くっきりと明確なビートと急激なリズム/テンポの変化をびしっと決めるアンサンブルが、楽曲を引き締めている。 変拍子を使ったジャジーな演奏には、CAMEL を思わせるところもある。 決して派手なサウンドではないが、きっちり構成されたアンサンブルが丹念に綴る音がやがてほのかな哀愁を醸し出すところに、多くの人々を惹きつけたブルーズ・ロックのような普遍性の高い魅力があると思う。
   ギターは、位相系のエフェクトを用いたアルペジオとファズ・トーンによるなめらかなフレーズを丹念に弾き分けている。 アコースティック・ギターを用いたフォーク風の透明感ある演奏もいい。 全体の落ちつきは、このギターのプレイによるところが大きい。 リズムをすっ飛ばしてでも自己主張するロック・ギタリストというイメージを払拭したのも、こういったプログレ系のグループの功績である。 このギタリストもそういった知的なタイプであり、曲調をがっちりと構築するという意味では、キーボードに近いニュアンスもある。 一方、フルートはサックス的というか、かなりワイルドな演奏スタイルだ。 リードという点では、ギターとほぼ同等かそれ以上の存在になっている。 アラビア風のエキゾチックな旋律を用いるところがおもしろい。 そして、最大の特徴の一つであるドラムスは、80 年代メインストリームのドラマーに聴かせたかった音数勝負タイプ。 小気味いいロールときっちりしたビート感がうれしい。 ヴォーカリストはノーブルな美声、ただし英語の発声に若干癖がある。 内省的で翳のあるイメージは、歌メロ以上に、この歌唱スタイルにもよるのかもしれない。 演歌調のメロディ・ラインが、妙に日本人の琴線をくすぐらないだろうか。 ゲストのキーボーディストは、主としてストリングス系のシンセサイザーとオルガンで背景に徹している。 刺激に慣れきってしまったこの現代においては、あまりに薄味なサウンドかもしれないが、ほのかなアジアン・エキゾチズムとスクエアなビートが気に入るとかなりハマる可能性はある。 全体に、80 年代不遇の時代に咲いた一輪の良心というべき、格調あるプログレッシヴ・サウンドである。

  「Preface」(4:18)
  「Mahzun Gozler」(8:13)
  「Mystic Dance」(1:45)
  「Misfortune」(4:30)
  「Landscape」(3:50)
  「Visions」(5:35)
  「Without Stir」(1:50)
  「Hayal Dolu Guler Icin」(4:38)
  「Postface」(2:00)

(FGBG 4082.AR)

 Between Flesh And Divine
 
Eril Tekeli flute, guitars
Setrak Bakirel lead vocals, guitars, bass
Lionel Beltrami drums, percussion
Robert Kempler keyboards, bass

  80 年発表のアルバム「Between Flesh And Divine」。 ベーシストが加入。 演奏に余裕が生まれ、アンサンブルもストーリー・テリングも充実した傑作となる。 楽曲はすぐれたプレイの合計以上にはっきりした表情と物語をもち、音楽として前作から格段の飛躍がある。 作風は、ロマンティックにしてやや陰鬱、そして儚い、といった感じ。 ゆったりとメロディアスに歌い上げるシーンの説得力と、小気味いい変拍子リズムでたたみかけるシーンの鋭い運動性は出色。 楽曲はこの二つの場面を巧みに切りかえて展開してゆく。 ノーブルなヴォーカルもいい。 暖かな音色のフルートは、静かなテーマでも、飛び跳ねるようなアンサンブルでも大活躍。 ギターはナチュラルな哀感を帯びたフレーズを丹念に紡いでゆく。 それらのプレイが集まって、演奏全体が、一つのもの悲しい歌声のように聴こえるのだ。 こんなロックが他にそうあるだろうか。 まさにメロディアス・ロックの逸品といえる内容である。 面白いのは、彼らには自然であるだろうほのかな中東風のエキゾチズムが、CAMEL のラテン趣味に通じ、奇数拍子の処理の巧みさともあいまって、演奏がよく似て聴こえることだ。 1 曲目はフルートによる哀愁のメロディと躍動感あるシンフォニック・アレンジがみごとな名品。 4 曲目はオルガン、ギターのハーモニーによるスリリングな演奏と切ないヴォーカルがコントラストする劇的な作品。 若干チープな制作が残念だが、傑作であることに変わりはない。 やさしく、哀しげな作品です。

  「Nightwind」(6:23)
  「Northern Lights」(7:45)
  「Boundless」(3:00)
  「Dedicace」(6:11)
  「Lost In A Dream Yell」(7:42)
  「Dreadful Memories」(3:00)

(FGBG4035.AR)


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