AUTUMN

  イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「AUTUMN」。 74 年 THE ENID 出身のミュージシャンを中心に結成。 ライヴで活動し、アルバムは録音されるも、未発表のまま解散。 キーボードのニック・マグナスはスティーヴ・ハケット・バンドへ、ドラムスのロビー・ドブソンは HAWKWIND を経て THE ENID へ再加入。

 Oceanworld
 
Nick Magnus Fender Rhodes, Hohner clavinet D6, Vox string thing, mini-Moog
Robbie Dobson drums, percussion
Steve Hoff bass
Mark Easton guitar

  99 年発表のアルバム「Oceanworld」。 録音は 77〜78 年にかけて行われたが、99 年まで未発表だった作品である。 内容は、キーボードを中心とした、技巧的で音数の多いシンフォニック・ロック。 奔放なテーマをリードするギターと、副旋律としてギターにからむ明確なベース、エレピ、シンセサイザー、クラヴィネット、ストリングスと多彩なキーボードが織り成す、ポリフォニックなアンサンブルによるインストゥルメンタルである。 全体のイメージは、キーボードを多用し、緊密なアンサンブルを成す 70 年代王道ブリティッシュ・プログレタイプ、すなわち YESGENESIS などの系譜にある音である。 繊細なプレイを一つ一つ積み重ねたファンタジックなアンサンブルが、宝石のような輝きを放っている。 優美でメロディアスな演奏に、トリッキーなプレイの薬味を効かせて、しっかりメリハリをつけているところもうれしい。
  キーボード布陣は、リフはエレピとクラヴィネット、ソロはムーグ、そして、バッキングにストリングス・アンサンブルという典型的なシンフォニック・ロック・スタイルである。 特に、クラヴィネットのおかげで、アンサンブルが軽快で愛らしい響きをもつ。 また、ハモンド・オルガンが使われないのも、いかにも 70 年代後半らしい音作りではないだろうか。 オーケストラ風の音作りのためのオルガンの役割は、この時期すでに、シンセサイザーに取って代わられていたのだろう。 ギター・プレイは、非常に個性的なリフでアンサンブルをドライヴし、機を見ては奔放なソロを繰り広げる、いわば、スティーヴ・ハウ・タイプ。 ヴァイオリン奏法に加え、情感のあるメローな旋律を歌わせることも巧みであり、全体の美しい響きをキーボードとともに担っている。 リズムに関しては、曲が明確な展開を持つだけに、やや敏捷性に欠けるドラムスが気になる。 しかし重大な疵ではない。
  美しく明快なテーマをぐいぐいドライヴするトゥッティに、巧みにギター/キーボードのフレーズを交え、タイムリーにソロをフィーチュアする演奏は、ヴォーカルのない YES といってしまっていいだろう。 また、1 曲目のエレピやギターのコード・カッティング、3 曲目の様な幻想的なアンサンブルと甘美なギターのフレーズには、クロスオーヴァー/フュージョン的な面も見受けられる。 2 曲目のキーボードのプレイには、GENESIS そのもののようなところもある。 おそらく最も近いのは、YES に影響された一連のアメリカのプログレ・バンドだろう。 ストリングス・シンセサイザーの醸し出す立体感とクラヴィネットの歯切れのよさ、さらには、各楽器の緻密なやりとりによって生まれるファンタジックな音響などを考えると、もう一歩テクニカルに進めば HAPPY THE MAN に迫ったかもしれない。
  収録時間が 35 分余りと、やや短いことのみが残念。 このタイムだと、アルバム・マテリアルとしてはもう 1 曲分ほどあると思うのだが。 各曲も鑑賞予定。

  「Oceanworld」(13:30)
  「Some Like It Crunchy」(8:36)
  「Little Finger Exercise」(8:37)
  「The Celebrated Court Jester」(4:17)
  「Oceanworld(reprise)」(1:30)

(AU 001)


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