BABYLON

  アメリカのプログレッシヴ・ロック・グループ「BABYLON」。 76 年結成。 78 年のアルバム発表後解散。 GENESIS フォロワーであり、ヴォーカリストのコスチュームやマルチメディア・ショウ的なステージ・アクトは相当凝ったものだった様だ。北米インディーズの名盤の一つ。

 Babylon
 
Rick Leonard bass, bass pedals, voice
Doroccas lead voice, keyboards
Rodney Best drums, percussion
J.David Boyko guitars
Gary Chambers keyboards, voice

  78 年発表のアルバム「Babylon」。 ロンドン・ポンプよりも三年は早かった GENESIS クローンの佳作。 走りながらも自在にテンポをコントロールする軽快なドラムス、アクセントの強い技巧的なベース、キーボード主体のアンサンブルなど、演奏は GENESIS 直系のものである。 ARP シンセサイザーのよどみないフレージングなど、トニー "Cinema Show" バンクス流だが、一番似ているという観点でいうと、おそらく同時期の英国のグループ ENGLAND だろう。 さらには、GENESIS フォロワーとしてのグレード(そんなものがあるかどうか知らないが)のみならず、音楽としてかなりいい線をいっている。 惜しむらくはオルガンがあまり使われておらず、もう少しオーケストロン(メロトロンに似た楽器らしい)とオルガンの絡みがあれば、フォロワーとして完璧だったのではないだろうか(マニアックですが)。 ギターはもちろん、さざめくアルペジオとアタックのないサステインの効いたソロのコンビネーションを得意とする、あのハケット流である。 インスト部にて若干ジャズロック・タッチ(U.K. に近い)があるところが本家とは異なるが、整然とした繰り返し主体の演奏が周辺から次第に変化し、みるみるうちに高揚してゆくさまはすでに出藍のでき映えである。 そして、ヴォーカリストは無論、声色とデフォルメされた表情を駆使するスタイル。 アメリカンな発声ながらもすばらしく健康そうな不健康型である。 ポップ・チューンを歌ってもハマりそうだ。 個人的には、TWELFTH NIGHT のジェフ・マンを思い出した。 1 曲目、ヴォーカル・パートからテンポが上がってインストに突入するところで痺れれば、しめたもの。 一方、問題は、細部に凝りすぎて曲の全体の印象が薄くなっていること。2 曲目と 3 曲目にその感が強い。 本作の印象の良さは、故ケヴィン・ギルバートによる CD 化の際のプロダクションに負うところも大きい。

  「The Mote In God's Eye」(7:00)テナーとファルセットを自在に使うエキセントリックなヴォーカルと張り詰めた弾力のあるリズムが強烈な印象を残す傑作。 スタッカートのギター・フレーズと魔笛のようなシンセサイザーによるミステリアスな序章から、ゆるやかながらも燃え広がるようにテンポ・アップしてゆく。 ここでの一体感あるアンサンブルがみごと。 快速 7 拍子でリズミカルに走り出してからは、硬めの音でロールするスネア、打ちこむようなベースなど "Trick" GENESIS に酷似する。 インスト・パート後半は、トリルとヴィブラートが独特なアナログ・シンセサイザーがリードする。 これがまたカッコいい。 「続く」的なエンディングも本家風。

  「Before The Fall」(10:54)夢から醒め切っていないような調子の歌ものから、気まぐれにしてスリリングなインストゥルメンタルへと変化する奇想曲風の作品。 序盤はぐっと抑えられた歌ものであり、そこから悠然と膨れ上がって、テンポ、リズム、曲調すべてが変転を重ねてゆく。 メイン・ヴォーカル・パートは、やや弱いながらも、ハーモニーとなっている。(リード・ヴォーカリストが 1 曲目とは異なるようだ) なめらかなシンセサイザーとアタックを殺して細かなフレーズとさざめくアルペジオを繰り出すギターは、まさしく GENESIS である。 フレーズの終りでピッチを上げるシンセサイザーの手癖のようなところまでカヴァーしているから恐れ入る。 やや茫洋とした演奏が、オブリガートと間奏部のキーボードに救われている感じだ。 しかし、中盤から曲調は陽性に変化し、一気に盛り上がる。 テンポ・アップとともに、ギターがやや東洋風のテーマを提示して快調に走り、その後の長いインスト・パートでは、さまざまなモチーフを繰り出して怪奇な変転を繰り広げてゆく。 ここで、目を惹くような何かがもう一発があると、さらにカッコよかったかもしれない。 勢いを持ち直した終盤も、厚みあるインストとヴォーカルが絡みながら、大胆な変拍子パターンを織り交ぜつつ進んでゆく。 ここでは、キーボードはエレクトリック・ピアノが主となる。 アイデアの継ぎ接ぎがそのまま曲の継ぎ接ぎになっている感じもあるが、演奏のキレのよさとネタの豊富さでなんとか最後までもってゆく。

  「Dreamfish」(9:12) 一つ一つはキャッチーなモチーフを無理やり奇怪に組み上げた、凝りすぎテクニカル・チューン。 オリジナルなのにリミックス・ヴァージョンのようなイメージである。 ヴォーカルは、1 曲目に続いて、尖がった声のメイン・ヴォーカリストが担当。 ミックスダウンのバグのような音量の変化が繰り返されると、少し疲れるが、キーボードのつややかなフレーズがタイミングよく救いの手を差し伸べる。 キーボードを中心に、さまざまな音色を使ったアンサンブルを細切れにして、徹底してビジーに場面展開を繰り返す。 どうしても変拍子で突っ走りたいようです。 目まぐるしいが、パートごとの演奏が充実しているため、意外についてゆける。 結末部分がカッコいいので、すべて良しになった感じだ。 メジャー風のプロダクション含めなかなかの力作。

  「Cathedral Of The Mary Ruin」(7:38) 緩急、硬軟の急激な落差を活かし、演劇調も交えた力作。 前半は、キーボードのフレーズを軸に鋭くスタッカートし、ブレイクする変拍子アンサンブルで進む。 跳ねるピアノとレガートなギターのコントラストがカッコいい。 これだけ尖がった演奏を叩きつけられると、ヴォーカリストが交代してしっとりと迫る叙情パートも活きてくる。 ここでも伴奏はピアノが主役。 本曲では全編にピアノが現れ、時にかなりジャジーな表現(「Firth Of Fifth」が少しポピュラー・ピアノになり過ぎた、という感じか)も見せる。 このジャジーな味付けがなかなか新鮮だ。 やや勢いを失ったか、というところでハモンド・オルガン風の角張ったフレーズが現れて一気に持ち直す。 終盤の幻想的な雰囲気は悪くないが、イントロと逆にフェード・アウトするエンディングは、あまりに地味。 もう少しインパクトをつけてくれないと終わったことに気づかない。

(SYNCD 18)


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