BEN

  イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「BEN」。 唯一作はジャジーなインストゥルメンタル・アルバム。 VERTIGO レーベル。

 Ben
 
Peter Davey alto & tenor & soprano & britone saxes, flute, clarinet
Alex Macleery electric piano, harpsichord, moog synthesizer
Gerry Reid electric & acoustic guitar
Len Surtees bass
David Sheen drums, congas, percussion, vocals

  71 年発表のアルバム「Ben」。 内容は、ギターやベースのリフを主体にサックスがリードをとる、サイケデリックなジャズロック。 技巧の切れや音の存在力は本格ジャズには程遠いものの、エレクトリックで毛羽立ったサイケ調サウンドと遠慮のない 8 ビート、角張りながらもメロディアスなテーマに独特の味わいがある。 モダン・ジャズ、フリー・ジャズの薫陶は受けながらも、メンバーごとの素養と解釈の差が大きく、それがそのままとっ散らかった音になっているといってもいい。 ベースらによるユニゾンの変拍子リフを軸にヘヴィなトゥッティで進み、ギターのコード・カッティングとエレピのオブリガートが散りばめられ、各自のソロをフィーチュアする。 饒舌なサックスがときにエルトン・ディーンを思わせるところもあるが、全体に SOFT MACHINE ほどの構築性や緊張感はない。 朴訥としたエレクトリック・ピアノのプレイが印象的なキーボーディストは、技巧を補うように、チェンバロやシンセサイザーを用い、クラシカルなアクセントをなかなか巧みにつけている。 ギターは、バッキングでもソロでもナチュラル・ディストーション・トーンで思い切って弾き捲くるクリス・スペディング型。 ジャズ・ギターというにはあまりに素朴なサイケ・スタイルであり、アラビア風の音階が妙に似合っている。 一人イージー・リスニング調のフルートもいい感じだ。 そしてドラムスは、サウンドこそ垢抜けないが、さまざまな工夫を凝らしたプレイを惜しげなく繰り出すアイデアマン。 全体のペースと調子を仕切るのは、このドラムスである。
  アコースティック・ベースのランニングなど、もろにモダン・ジャズなところもある。 しかし、それ以上に、サックスが思い切り明快なフレーズを叩きつけて、ガシャガシャとドラムスやギターと絡むようなロックっぽさの印象が強い。 ラフに叩き捲くるドラムスにのって繰り広げられるインタープレイは、決してテクニカルではないが、大胆にして明快、それでいて発散はしておらず、まとまりがある。 不協和音を用いたアンサンブルやエキゾチックなパーカッション、ムーグなどの挑戦的なアクセントも、効果的に散りばめられている。 全体に、ほのかなエキゾチズムとともにヴィンテージになり得ない生臭さがある。 同じような編成の TONTON MACOUTE を、さらに武骨で大胆にしたような内容だ。 一部スキャットはあるが、ほぼすべてインストゥルメンタル。 プロデュースはマルコム・コス。

 「The Influence」(10:07)8 部から成る作品。 一部の作曲が K.Jarrett となっているが、これはキース・ジャレットの UK ツアーのオープニング・アクトを務めていたためらしい。 ベースのシンコペーション・パターンが導く軽妙なオープニングから、フルート中心のラウンジ風のクールなインストゥルメンタルが始まる。 クールでなめらかに進むかと思えば、フリージャズ調の野卑なサックスとギターの連なる 7 拍子のリフで疾走したり、ブルージーな 8 ビートで迫るなど緩急自在でぐいぐいと進んでゆく。 5 分半辺りから始まるサイケにして妙にクラシカルなエレピ・ソロと力強く叩きつけるような全体演奏が印象的。

 「Gibbon」(9:32) サクセロらしきヒステリックな管楽器による荒っぽくもマジカルなテーマと、8 分の 6 拍子のぼんやりとしたエレクトリック・ピアノのテーマを忙しなく呼応させ、スペイシーなアドリヴの応酬がテーマを巻き込んでいつしか混沌となってゆく。 中盤からは、サックスとエレピによる仲直りをするような第三テーマ、パーカッションを効かせたラテン・ロック風のエレピ・ソロ、へヴィ・サイケ風の演奏など、意外な方向に進んでゆく。 リズムやテンポもバンバン変化する。 アドリヴによるオムニバスといっていい内容だろう。 基本的に放り出すように性急な調子が続くが、素朴でリリカルなタッチも見え隠れする。

 「Christmas Execution」(7:21)オクターヴを奏でるギターとフルート、チェンバロによる 8 分の 6 拍子のクラシカルなアンサンブル。

 「Gismo」(11:50)素っ頓狂なスキャットによるテーマと全楽器のソロ。 16 分の 9 拍子のベース・パターンが支える。 ソロは、コルトレーンばりのフリーなサックス、シャフル・ビートに支えられたエレピ、4 ビートでトーキング・フルート、アラビアンで喧しいギター。 エンディングのピッチのズレ方がなんとも気持ち悪くておもしろい。 ガレージっぽさあふれるジャズである。
  
(VERTIGO 6360 052 / REP 4195-WP)


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