CIRKUS

  イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「CIRKUS」。70 年結成。作品は、EP や再結成を合わせて三枚。

 One
 
Dog guitars
Stu McDade drums, assorted percussion, backing vocals
Derek G.Miller organ, piano, mellotron
John Taylor bass
Paul Robinson lead vocals

  74 年発表のアルバム「One」。 内容は、ポップなメロディとリズミカルな曲調を主に、メロトロン、ストリングス・シンセサイザー、さらには管弦楽もフィーチュアしたシンフォニック・ロック。 甘ったるくメロディアスなヴォーカル・ハーモニーは完全にブリット・ポップの流れだが、思いのほか荒削りで音数の多い演奏がサイケデリック・ロックから初期 YES へと連なるプログレ山脈へと導いている。 オルガン、メロトロン、シンセサイザーらは、分厚い音のリード・ギターを支えてかなり気合の入った音でアンサンブルを守り立てている。 さらには、手数の多いドラムスとボンボン弾き捲くるベースのせいで、プログレ度合いがぐんと強くなっている。 ストリングスは ELO を垢抜けなくしたようなポップス・オーケストラ風の使い方であり、オブリガートだけではなくバッキングにもふんだんにあしらわれている。 73 年にしてはやや古臭いような気がするのは、武骨なリズムと 60 年代ポップス風のメロディやハーモニーのせいだろう。 アコースティックでパストラルな英国フォーク流の作品(メイン作曲家のドラマー、ステュ・マクデイトの作品はその傾向が強い)にしても、弦楽奏が重なることでイタリアン・ポップス風の甘美な味わいが湧き出ている。 ひょっとすると、元々田園フォーク・ロックをやっていたのがエレクトリック・キーボードに目覚めた結果こうなってしまった、またはベイ・シティ・ローラーズのようなアイドル・バンドを目指すもやはりエレクトリック・キーボードに凝ってしまった挙句にこうなってしまった、のかもしれない。 もしくは、すでにロックから実験色が減退して娯楽性が強調され始めた時代になってから YES を耳にしてしまったために、こういう道を歩くことになったのかもしれない。 ハードロック的な強面のアピール、AOR 的なジャズ・センス、グラム的なエキセントリックな開き直りといったものすべてから距離があり、唯一近しいのが 60 年代から続くビート路線である。(じつは YES にもそういうところがあった。しかしながら彼らはその路線を最初に高度に個性的に極めたために唯一性が際立ってしまった、すなわち後続のバンドは、同流というよりは「エピゴーネン」としての位置ばかりが目立ってしまった) 10CCELO らも同系統にあったが、彼らはより洗練され、先鋭的な音楽に向かって 70 年代の音を築き上げる立場にまで到達した。 こちらはそうならなかっただけである。 何にせよ、道を踏み外した感はあるが、逆に、適度にポップでスウィートなメロディのおかげでエピゴーネンから抜け出せているという見方もできるだろう。
  「深刻さのあまりない軽めプログレ」という感触がアメリカの発掘モノにも通じるが、おセンチでウェットなメロディ・ラインはやはり英国独特というべきだろう。 「You Are」や「Seasons」のような YES もどきの作品よりも、ストリングスを用いたフォーク・タッチの 8 曲目「Jenny」や軽快なボーナス・トラックのシングル作品の方が、このグループには自然であったのではないだろうか。 作曲の中心はドラマーのステュ・マクデイド。プロデュースはグループ。 自主制作のようなので、流通している CD や LP はほぼ海賊盤と思われる。
  ボーナス・トラックの 1、2 曲目、71 年の作品「Castles」、「The Heaviest Stone」は小曲ながらも完全に YES や初期の GENESIS のようなシンフォニック・プログレ。 メンバー交代を経た 76 年の作品では一転してモダン・ポップどころかニュー・ウェーヴにすら迫った音を聴かせる。

  「You Are」(3:21)
  「Seasons」(3:38)
  「April '73」(5:04)
  「Song For Tavish」(4:36)
  「A Prayer」(5:37)力作。
  「Brotherly Love」(3:50)
  「Those Were The Days」(3:56)
  「Jenny」(4:09)
  「Title Track」(7:33)重くけたたましいギターと弦楽奏、アコースティック・ギターの和音の響きが印象的なフォーク系シンフォニック・ロックの力作。
    「I. Breach
    「II. Ad Infinitum
  以下ボーナス・トラック。
  「Castles」(2:54)71 年録音。DRUID といい勝負の YESGENESIS 路線。
  「The Heaviest Stone」(4:56)71 年録音。キーボードをフルに生かしたファンタジックなバラード。ギター弾き語りに思い切りエレトリックな飾り付けを施すスタイルもプログレの源流のひとつである。SUPERTRAMPSTYX 的。
  「Amsterdam」(4:04)76 年のシングル盤。グラムっぽいがメロトロンも鳴る。 それにしても、ジャケがダッチワイフの写真という趣味の悪いユーモアはせっかくの音楽を誤解させることにしかならないと思います。
  「Mellissa」()76 年のシングル盤。YES 志向のままマイク・チャップマンにプロデュースしてもらったようなパワーポップ。
  「Pickupaphone」(3:27)76 年のシングル盤。さらにニューウェーヴっぽさが強まった。しかし悪くない。
  
(RCB 1 / Audio Archive 009)


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