GRAND BELL

  ブラジルのプログレッシヴ・ロック・グループ「GRAND BELL」。92 年結成。97 年解散。作品は一枚。

  The Sun And The Embryo
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Juliano Pereira bass
Filipe Lua drums, tabula
Dante Junior guitars
Roberto Reolon flute, keyboards
Henrique Kunz keyboards, programming
Renato Jardim vocals, twelve-string guitar

  95 年発表のアルバム「The Sun And The Embryo」。 内容は、みずみずしいハイトーンのリード・ヴォーカリストを中心にした清涼感あふれるフォーク系シンフォニック・ロック。 その作風は、やさしげなスピリチュアル志向のイメージが共通する点で間違いなくジョン・アンダーソンがメインの歌もの YES 系であり、キーボード・サウンドとフルートとキャッチーだが品のあるメロディという点で中期 GENESIS の影も見える。 たおやかで女性的ながらも声量のある歌唱のリードで、フルートやピアノ、12 弦ギターらのアコースティックな音の質感を生かしたアンサンブルが、蒼天を飛翔するようなイメージの、軽やかでさわやかな演奏を繰り広げる。 強めのアクセントをおいた劇的な演奏においても、ハードロック的な荒々しさとは無縁であり、しなやかさが強調されるのみである。 演奏の安定感、王道感は、主として、ストリングスの響きやメロディアスなテーマなどのクラシカルなタッチと、ミドル・テンポを揺らがせずにきっちりと決めているリズム・セクションからきている。 特に、ドラムスはロック・ビートと鼓笛隊的な調子を巧みに切り替えてシンフォニックな表現をサポートしている。 そこに、元来素朴なフォーク・ソングの備える躍動感や無邪気さを自然に重ねている。 また、80 年代初頭のアリーナ・ロック、産業ロック系の甘めのバラードものとダイレクトにつながるところも特徴である。 同じ涼感でもアルゼンチンものと違うのは、こちらが少年っぽさを引きずるのに対して、あちらの方が大人っぽく、官能性を内に秘めているところである。 これは単に特質であり、どちらがいいとかそういう問題ではない。(どうせいつかはみんな後者に傾くのさ) 器楽で注目すべきは、フルートのさえずりが愛らしい華やぎとなっているところだろう。
   ヴォーカリストの声質と表現力が最大の武器という意味では、RENAISSANCE と似た立ち位置にいる。 また、女性的なたおやかさとしなやかな器楽という意味では、スペインの GALADRIEL の作風にも通じる。 透明感あるヴォーカルとアコースティック・サウンドを前面に出したおかげで、隅々まで清潔感と健やかな若々しさが行き届いたシンフォニック・ロック作品になった。 その特徴だけを強調し続けていると曲の表情が単調になることを知ってか、中盤以降には GENESIS ばりのアレンジに凝った作品を用意している。
   プロデュースは、ヴォーカリストのレナート・ヨアディム。 ヴォーカルは英語。

  「We Are The Universe」(8:54)アルバムを象徴する清涼なるアコースティック・シンフォニック・チューン。 若い眼差しが真っ直ぐすぎて、世知にまみれた大人には正面から見返せません。
  「The Last Thunder」(4:26)
  「The Real Love's Revolution」(8:07)同国の RECORDANDO O VALE DAS MAÇÃS を洗練したようなクラシカルかつ素朴な佳作。
  「Phoenix's Springtime」(8:58)英国フォークの憂愁や諧謔を感じさせる作品。
  「Liberty」(6:22)80 年代アリーナ系のグループが得意としたストレートなバラード。
  「The Sun And The Embryo」(8:17)GENESIS 風の小粋で上品なポップ・センスを見せる力作。キャッチーにして変という正しいポイントを押さえている。
  「Victory In The Garden Bell」(6:37)インストゥルメンタルをフィーチュアした雄渾なるシンフォニック・ロック。
    「Part I Around The Garden」(1:38)
    「Part II Let Me In」(1:46)
    「Part III The Open Door」(3:13)
  「Spiral」(7:11)
  「Make Me Wonder」(8:54)ジャジーでちょいワルな異色作。ドラムス、ベースが強調されてスタイリッシュなイメージ。ほんのりチャイナなサビがおもしろい。そうか、ジョン・アンダーソンの世界紀行風なんだ。
  「Nascer Do Sol」(4:26)再び TOTT または WAW GENESIS なバラード作品。「Ripple」か?
  「Constant Flames (To My Brother Of Fire)」(8:07)
  
(PRW 022)


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