HOLDING PATTERN

  アメリカのプログレッシヴ・ロック・グループ「HOLDING PATTERN」。 81 年アルバム・デビュー。作品は三枚。2005 年来日。一風変わったグループ名は本来「空中待機」という航空用語らしい。

 Holding Pattern
 
Tony Spada electric & acoustic guitar
Mark Tannenbaum grand piano, Fender Rhodes, Mellotron, Mini moog, Hammond organ, ARP omni
Robert Hutchinson drums, percussion
Jerry Lalancette bass, taurus pedal

  81 年発表の第一作「Holding Pattern」。 内容は、ファンタジックで透明感のあるサウンドによる躍動感あふれるシンフォニック・ロック・インストゥルメンタル。 若々しく溌剌とした面とやさしげな風情がうまく手を結んだ作風である。 ジャジーなプレイも、フュージョン風のグルーヴ志向というよりは、あくまでスペイシーでファンタジックな表現にリラックスした要素を持ち込むことを目指している。 メロディアスなプレイでも攻撃的なプレイでも丹念に音をつづるタイプのギター、きらびやかさと哀愁が一つになったアナログ・キーボード、音域広く指板をかけめぐるアグレッシヴなベースのプレイなど、目を惹くプレイの積み重ねと豊富なリズム・パターンによって構成される典型的なテクニカル・プログレ・サウンドであり、とても不遇の 81 年の作品とは思えない。 ポリフォニックなアンサンブルによる二転三転する展開や、唸りを上げつつも緩やかにテーマを奏でるアナログ・キーボードらをきっかけに一気に黄金時代の夢が広がり、胸を熱くしてくれる。 肌理細やかに音を詰め込むアンサンブルと高揚感あるテーマは、YESGENESIS からの影響のようだ。 (フュージョン、ジャズロックを志向しつつも YES から離れないためにプログレに聴こえる、というグループは多いと思う) CAMEL のようにほのかなブルーズ・フィーリングを演出するところもある。(おもしろいことに CAMEL ほどには洗練されたジャズ・タッチがなく、むしろ 70 年代前半のシンフォニックなプログレッシヴ・ロックにダイレクトに連なる音である。CAMEL はポピュラーな音を巧みに取り込むという独特の節操のなさが売りだから当然といえば当然) ただし、メロディアスな展開にほんのりニューエイジ・ミュージックっぽさが現れて、癒しや「彼岸」ムードになるところは、70 年代終盤以降の音の傾向である。
   ギタリストでリーダーのトニー・スパダは、DIXIE DREGS のスティーヴ・モースと親交があり、プレイ・スタイルも影響を受けているようだ。 ただし、腕があるからといって無闇に弾き捲くるようなタイプのギタリストではなく、音楽全体の作りやストーリー展開にしっかりと意識が及ぶ優れたミュージシャンだと思う。 本作を聴けばそれがよく分かる。 全編インストゥルメンタル。 プロデュースはトニー・スパダ。 ジャケットはグループ名をユーモラスに表現したものでしょう。

  「Another Point Of View」(7:43)YES に近いニュアンスのファンタジック・ジャズロック。

  「Honor Before Glory」(7:39)暖かく甘酸っぱいギターのテーマが印象的な叙情曲。ミドルテンポで堂々とテーマを展開する。SEBASTIAN HARDIE と共通する芸風である。

  「Jigsaw Dream」(5:32)リラックスした開放感にスリリングなアクセントも交えた作品。せわしなく込み入ったアンサンブルやアナログ・シンセサイザーのサウンドがプログレど真ん中。ロック的なパンチもしっかり効いている。

  「Out Of The Tunnels」(7:43)アナログ・シンセサイザーのテーマに始まり、ギターのアルペジオ・パターン、変拍子リズム・セクションなど、緊張した空気に満ち、ミステリアスな表情を貫く作品。中盤から後半への怪しい変拍子による展開は近現代クラシックの影響を感じさせるすばらしいもの。

(Cleefo AVL 98117)

 Balance Of Power
 
Tony Spada guitars
Tony Castellano keyboards, bass pedal, bass
Kirk McKenna drums
Jeff Brewer lead vocals, percussion
Mark Tannenbaum synthesizer solo
Michael Beaulieu percussion
Deirdre O'Goman mellotron

  93 年発表の作品「Balance Of Power」。 トニー・スパダ氏のソロ・アルバム第一作。 内容は、メロディアスなギターがリードする悠然としたシンフォニック・ロック・インストゥルメンタル。 スパダ氏は全曲を作曲。 心弾ませるエレクトリック・ギターを主役にしたシンフォニックでスペイシーな作品を中心に、クラシック・ギター(エレアコ含む)・ソロやハードポップ風の作品、アメプロ・ハードなどが集められている。 一部、アメリカ人らしいタガの外れたハードロックに流れるところもあるが、それも堂に入っているので問題なし。 ギター・プレイは非常にオーソドックスで堅実であり、アラン・ホールズワース風のアウトスケールのレガートなフレージングもそつなく交えている。 アコースティック・ギターの演奏にはスティーヴ・ハケット風味もある。 メロディアスでエッジの効いたエレクトリック・ギターのプレイは 90 年代ネオ・プログレのグループに共通するスタイルであり、さりげない変拍子含め、JADISMARILLION を思い出させる。 ただし、陰影よりもおおらかさに力点があるところは、SEBASTIAN HARDIE の名手マリオ・ミーロ風というべきだろう。 ギター中心のアンサンブルながら、要所でメロトロンを入れ込んでくる辺りにプログレ・プロパーらしい気概を感じる。 最終曲のみヴォーカル入り。 ミドル・テンポでリズムが揺らぐという弱点はあるが、決して尖り過ぎない素朴な高揚感の演出にはこのおおらかなドラミングの寄与も大きいと思う。

  「Balance Of Power」(6:31)
  「Opposite Ways」(5:06)
  「Touch Sensitive」(7:10)
  「Royal Tradition」(1:48)
  「Heat Treat」(5:49)オクターヴァがぴったりのハード・チューン。
  「Matador」(6:16)変化に富む秀作。タイトル通りスパニッシュな響きも。GORDON GILTRAP GROUP 風でもある。
  「Sun Song」(6:30)メロディアスなギターが冴える叙情作。最も得意とする作風だろう。
  「Rhymes」(2:29)
  「The Final Act」(11:34)

(ASCD993-004)

 Breaking The Silence
 
Tony Spada guitar, bass, keyboards, percussion
Mark Tannenbaum keyboards
Rob "the Drummer" Gottfried drums
Tony Castellano bass, keyboards, Mellotron
Robert Hutchinson drums on 9

  2007 年発表の第三作「Breaking The Silence」。 内容は、ギターがリードするシンフォニック・ロック・インストゥルメンタル。 堅実なパターン反復の上で、オーヴァーダブも使ったしなやかなアンサンブルがメロディアスなテーマをレガートに奏でながら緊迫感も高めてゆき、やがて空高く舞い上がる。 歯切れよく爽快感にあふれる音楽である。 変拍子をごく自然な流れで効果的に入れ込んでピリッと演奏を引き締め、クラシカルなアクセントもさり気なく散りばめて典雅な空気を演出する。 ダークでミステリアスな表情もいいワンポイントになっている。 つまり、プログレのツボは外していないということだ。 そして、何よりも特徴的なのが伸び伸びと、溌剌としたギターのプレイである。 そのプレイにはオーヴァー・テクニックに陥らない余裕があり、何より、プレイをエンジョイしている雰囲気がしっかり伝わってくる。 現代の水準からするとかったるいプレイかもしれないが、メジャーのフレーズを潔いまでに真っ直ぐ歌い上げて、音楽全体としてバランスを取るセンスは卓越している。 そのギターと豊かな音のキーボードが追いつ追われつ、時に一つになってひた走る。 DIXIE DREGS をよりシンフォニックなプログレ寄りにしたという印象はかわらない。 無邪気でライトなロックンロール感覚が通底するためだろう。 審美性をロックなブルーズ・フィーリングで引き立てる巧みさは CAMEL に匹敵。 HM 色は皆無。 ジャケ画は、ポール・ホワイトヘッド先生。
   全編インストゥルメンタル。 プロデュースは、トニー・スパダ。

  「Flying Colors」(4:04)
  「Breaking The Silence」(7:06)何というか、典型的なのに耳が離せない佳品。メロトロンあり□。
  「Fishbulb」(4:04)
  「Once As One」(5:34)ギター爆発。
  「Out The Other」(5:12)心地よい疾走感のある名曲。
  「Back To The Tunnels」(6:36)スティーヴ・ハケットと同質の、ダークなプログレ心あふれる作品。
  「Blaster」(4:57)様式美系に接近したロマンティックなハードロック。
  「Like Waves」(7:23)
  「Honor Before Glory」(5:57)ライヴ・ボーナス・トラック。第一作の名品。

(SV 1130)


  close