ILUVATAR

  アメリカのネオ・プログレッシヴ・ロック・グループ「ILUVATAR」。 83 年結成。 2014 年現在作品は四枚。最新作は「From The Silence」。 グループ名は、「指輪物語」世界の唯一神の別呼称より。

 Iluvatar
 
Gary Chambers percussion, durms
Mick Trimble bass
Glenn McLaughlin vocals, percussion, bass pedals
Jim Rezek keyboards
Dennis Mullin guitar, bass pedals

  93 年発表の第一作「Iluvatar」。 内容は、70 年代のプログレのみならず、80 年代のハードポップやポンプ・ロックを吸収消化した、ずっしり手応えあるシンフォニック・ロック。 つやのある声と豊かな表情をそなえたヴォーカル(フィル・コリンズ似)と、バランスよくまとまった器楽による、完成度の高い演奏である。 どのプレイも、華麗であると同時に腰が座っている。 これは、ライヴで鍛えられた結果なのだろう。 ヘヴィなサウンドは、主にリズム・セクションの手数によるようだ。 しかし、ヘヴィ・メタルのクリシェではなく、あくまで曲の展開として要求されるハードさなので、自然に感じられる。 アルバムは、このハードなサウンドと機敏なプレイが生み出す迫力のアンサンブルと、ジョン・アンダーソン型のヴォーカルとアコースティックな音を大切にしたバラードを対比させた構成になっていて、その結果、ドラマチックなうねりが感じられる。 また、明瞭なテーマをストレートに歌い上げるところでは、アメリカン・ロックらしく、エモーショナルなのにカラッとした性格が出ている。 泣きのメロディやミステリアスなプレイにも、屈曲した雰囲気は少なく、あくまで直截的だ。 そして、このテーマを支えるのが、ギターを中心としたダイナミックな器楽。 適度に技巧的なプレイは、ただのクローンに終らないリアリティをサウンドに与えていると同時に、幅広い層にアクセスしやすい音になっている。 喩えるならば、PENDRAGON 風の演奏でキーボードをもっと活躍させ、ナチュラルなハードさを加味したサウンドといえばよいかもしれない。 もっとも、すでに何か風というレベルは越えた、オリジナルな音が現れつつある。
  センチメンタルなメロディ・ラインに、ポンプ・ロック臭さを感じるむきもあるかもしれない。 しかし、最近のグループだけあって、プレイのレベルが圧倒的に高い。 特に取り上げるなら 2 曲目「In The Eye」。 前半は RUSH にも通じるハードロック的なプレイを次々繰り出す、このグループらしい音だ。 ギター、リズムともに鋭角的であり、シンフォニックというよりはヘヴィ・メタルに近いだろう。 後半からはシンセサイザーの分厚い音でシンフォニックな曲調へと変化するが、ASIA90125YES のようなハードポップ色がよく出ている。 さらに 8 曲目「Marionette」。 歌い込むヴォーカルとハモンド・オルガンが印象的な、ぐいぐいと盛り上がる GENESIS 調シンフォニック・ロック。 また 9 曲目は、メロディアスなギターが歌い上げる YES 風の作品。 ともあれ、本作の強みは何より「聴きやすさ」であろう。

  「Iluvatar」(2:26)
  「In The Eye」(10:01)
  「Eagle」(6:38)
  「New Found Key」(4:13)
  「Exodus」(7:08)
  「Wait For The Call」(4:37)
  「Dream Visage」(7:00)
  「Marionette」(7:19)
  「Emperor's New Clothes」(7:05)

(KINESIS KDCD 1008)

 Children
 
Gary Chambers percussion, durms, backing vocals
Dean Morekas bass, backing vocals
Glenn McLaughlin vocals, percussion
Jim Rezek keyboards
Dennis Mullin guitar

  95 年発表の第二作「Children」。 内容は、弾力ある変拍子リズム・セクションと粘っこいオルガン、ギターが特徴的な、ファンタジックなネオ・プログレ。 ベーシストがメンバー交代するも、サウンドの大筋に変化はない。 ただし、ダイナミックな演奏から生まれるシンフォニックな重厚さ、および、ポンプなヴォーカルが熱気とともにジョン・アンダーソンのような透明感あるハイトーンへと表情を変化させるところが、新境地である。 ギターは、重みのある音ながらも HR/HM 調にならずに情熱的なフレーズを決めてゆき、アルペジオのバッキングもいい。 キーボードは、暖かくノスタルジックな響きでバッキングを支えるハモンド・オルガンがいい感じだ。

  「Haze」(6:43) いかにもファンタジー路線のシンセサイザーによるイントロから、ギターのアルペジオへと、ひたすらメロディアスな曲想が続いてゆく。 メローなヴォーカルと優美なピアノ。 PENDRAGON 風のロマンチシズムである。 しかし、ハモンド・オルガンとギターが、ごく自然な流れでハードなプレイを決めてゆくようになる。 優れた演出だ。 そして、ふと気がつけば、リズムも 8 分の 7 拍子。 ハモンド・オルガンとシンセサイザーは、音色にくっきりと対比をもたせてそれぞれの役割を果たし、ギターはアルペジオ中心のバッキングでヴォーカルを支え、シャープなリフとしなやかなオブリガートでアクセントをつける。 ツボをおさえた最小限のプレイで、軽快に走り、耳を惹きつける佳作である。 ポンプ風とはいえ、ロックらしいダイナミックさと硬軟のメリハリがある。

  「In Our Lives」(6:35) ギターがメロディアスに歌い、ハモンド・オルガンが厚みをつけるキャッチーなイントロダクション。 一転、メイン・ヴォーカル・パートは沈み気味のバラード調である。 ヴォーカルを支えるのは、感傷的なストリングスとギターのアルペジオ。 FISH がいたころの MARILLION を思わせる、メランコリックな曲調だ。 ハモンド・オルガンのオブリガート、子供のコーラスなど、小技は効いている。 間奏のギターは、スティーヴ・ロザリー直系ながらも、クラシックのヴァイオリン風のフレーズをきちっと決める。 サビの哀願調を経て、シンセサイザーのコード・ストロークをきっかけに、曲調が、目の前の幕が開くように、ポジティヴで明るくなってゆく。 饒舌なベース・ラインに導かれて、祈りのようなコーラス、そして、しなやかで優美な語り口でギターが走り出す。 高まる気持ちを音におきかえたような、歌心のあるすてきなソロだ。 陰鬱な懊悩から開放感ある歓喜へと心の扉が開いてゆくバラード。 終盤のギター・ソロが聴きもの。

  「Given Away」(6:39) 雄大な風景が眼前に広がるような、厳かで透明感のあるシンセサイザーの響き。 ギターの柔らかなアルペジオに導かれるリード・ヴォーカルも、透き通るように優美なメロディを歌い出す。 スロー・テンポの AOR タッチの展開であり、いわば、フィル・コリンズのバラードである。 映像美を喚起するストリングス系シンセサイザーとギターのバッキングのコンビネーションがすばらしい。 間奏部では、ギターが愛をささやくように秘めやかなプレイから、なめらかにエモーションを高めてゆく。 みごとなソロだ。 さりげない 7 拍子でしっとりと歌いこむアンサンブル。 ドラミングもうるさくない。 再びギターによる天翔るようなソロ、そして伸びやかな歌唱をストリングスが更なる高みへと舞い上げてゆく。 JADIS の最良部分に匹敵するギター・プレイをフィーチュアしたシンフォニックなバラード。 コンプレッサを効かせたギターのプレイに酔う。

  「Late Of Conscience」(8:58) 低音が渦を巻き、冷たい響きが満ち、ドラムが轟く、ダンテの「地獄篇」の暗黒の地下世界をイメージさせるシリアスなオープニング。 リズムレスで始まる冷ややかなヴォカリーズ(シンセサイザーだろうか)とピアノ(チェンバロ風のシンセサイザーか)の和音のストロークに導かれ、決然と力強い歌唱が始まる。 通り過ぎるギターの響き、そして陳述のようにきっぱりとしたヴォーカル。 ギターとともにリズムが加わるお約束の展開でやや凡庸になりかけるが、熱っぽさを増したヴォーカル表現とクールかつヘヴィな音の質感がさまざまに交錯し、次第にドラマチックになる。 冷ややかなヴォカリーズとシンセサイザーのリフレインは、いつまでも遠くに聴こえる。 オブリガートから間奏は、苦悩を体現したようなギター。 セカンド・ヴァースでは、力強さを増したヴォーカルとギターがせめぎあい、高めあう。 演奏全体に力がこもってくる感じだ。 ミュート・ギターとシンセサイザーの交歓、そして熱唱にオーヴァーラップしてギターが荒々しさを増すと、キメの連発から、アナログ・シンセサイザー・ソロへ。 そして、ギターが HR/HM 風のプレイでソロを引き継ぐ。
  オープニングの厳かな世界が甦り、木霊のようなヴォカリーズとピアノが繰返される。 リード・ヴォーカルを取り巻くのは、カモメの鳴き声のようなシンセサイザー・シーケンス。 パワフルな歌唱とともにリズムも堂々と復活し、エネルギッシュなアンサンブルが高まり、やがてヴォカリーズ、冷ややかなシンセサイザーのリフレインとともに消えてゆく。 そして、悩ましく響きわたるロングトーン・ギター。 すべては、潮騒のように消えてゆく。 冷ややかな静寂をヘヴィな熱気が貫いてゆく劇的な作品。 雰囲気作りや展開力は抜群であることが分かる。 アルバムのクライマックスといえるだろう。

  「Cracker」(5:59) 前曲の厳かさから一転、クランチなギター・リフでドライヴする開放感のあるネオ・プログレ作品。 ヴォーカルもストレートなネオ・プログレ調であり、オブリガートや間奏のギターもゲイリー・チャンドラーを思わせるメロディアスでハードなタッチである。 中盤のメローなパートが次第に昂揚するところや、変拍子リフなどは、さすがにプログレ出身らしい芸風。 ほかの作品がメロディアスな分、ハードロック調のリズミカルなリフが映える。 リズム・セクションの敏捷さにも注目。 アメリカン・ロックらしさのある作品だ。

  「Eye Next To Glass」(4:56) 余韻たっぷりのナチュラル・トーン・ギターが刻むテーマ。 表情を失いかけたヴォーカルに寄り添うギター、間奏では管弦風のキーボードが柔らかく幻想的に響き渡る。 悩ましげなギターのアルペジオ、そしてかすかによぎる哀切の響き。 シンセサイザーの押し上げるような響きのせいか、ヴォーカルの表情にあたかも子供の一人遊びのようなポツンとした寂しさがある。 純真さというべきだろうか。 つぶやき続ける SE は、取り巻く大人たちなのかもしれない。 最後は、すべてをかき消すようにオルガンの音が重なり合う。 幻想から胸を締めつけるような寂寥感が立ち昇るバラード。 全編ドラムレスであり、シンセサイザーとギターが幻想的に響き合う。 IQ の作風に通じる、切実な雰囲気の作品だ。

  前曲のエンディングから、そのまま演奏は、透明感あるシンセサイザーのリフレインが呼び覚ます「Your Darkest Hour」(5:07)へと流れ込む。 前曲に躍動するリズムを加えて、一気に現実へと立ち返ったような曲調である。 背景に満ちわたるストリングス、パーカッション系シンセサイザーのリズミカルなリフ、すべるようになめらかなギター、アクセントの強いリズムなど、まさに正統ポンプ・ロックの表現である。 クラシカルなアコースティック・ギターとハモンド・オルガンのデュオでは本格プログレ路線の矜持も見せる。 それにしても、これだけの泣きのメロディを躍動感たっぷりに跳ね回って歌うというミスマッチは誰が思いついたのか。 エンディングの 8 分の 7 拍子のドラム・パターンもカッコいい。 ウェットでメランコリックなテーマをアップ・テンポで奏でる英国ロックらしい作品。 これはもはや「ポスト FISH MARILLION」とでも呼ぶべき内容。

  「The Final Stroke」(12:30)。 初期 GENESIS、初期 MARILLION の演劇調ヴォーカルを美麗な器楽で取り巻くメロディアス・シンフォニック・ロックの力作。 波打つシンセサイザー、まろやかなギターなど、本歌取も大胆かつ細心、マーティン・オーフォードやスティーヴ・ロザリーばりに卒なく決めている。 透明感と可憐さ、荒削りではないハードネスなどが 70 年代との違いであり、ネオ・プログレらしさである。 要所で愛らしく歌うソロ・ピアノ、力強く俊敏なベース・ラインが印象的だが、それでも、誰かが突出するのではなく、物語のために、アンサンブル全体で調子をコントロールしているところがいい。 ヴォーカリストは、やり過ぎないところがいい。ただし、エンディング、もうちょっと盛り上げてもよかったのでは。


  ダイナミックさとメロディのよさががっちり手を組んだ平均楽々クリアのネオ・プログレッシヴ・ロック。 ポンプ調のヴォーカルは、あらゆるメロディにメランコリックな翳をもち、アメリカ特有のカラッとしたところが少ない。 声質にも表情にもクセがなく、聴きやすい。 エキサイトしたときのハイトーンが、地声に近いような気がする。 そして、ギターのみごとな存在感。 ヘヴィなプレイもリリカルなプレイも余裕で決める技巧派である。 JADIS 風の爽快なソロもいい。 厚みあるつややかな音色のシンセサイザーと熱いハモンド・オルガンを巧みに操るキーボーディストのセンスもすばらしい。 SPOCK'S BEARD に迫るポンプ・ロック、もしくはテクニカルな PENDRAGON といえばいいかもしれない。 また、ヘヴィだがメタルではない音も、アメリカの新進グループとしては得難い特徴だ。 楽曲で特にいいのは、ギターもヴォーカルも情感たっぷりに歌い上げる 3 曲目と、アイデアをすべてつぎ込んだ大傑作である最終曲。 特に最終曲は、ヴォーカルがさまざまなドラマを経て最後に帰還するというストーリーも感動的。 この曲一つでも元は取れる。 メロディック・ロックが好みの人には大推薦であり、ポンプ・ロック嫌いのための破格の処方箋でもある。

(KINESIS KDCD 1016)

 A Story Two Days Wide
 
Dennis Mullin guitars
Kezer Mij keyboards
Dean Morekas bass, backing vocals
Chris Mack drums, percussion
Glenn McLaughlin vocals

  99 年発表の第四作「A Story Two Days Wide」。 アーカイヴ・アルバムをはさんだ、スタジオ三作目。 ドラムスに新メンバーを迎えた(キーボーディストは、なぜかクレジットの名前の綴りがさかさまになっている)。 内容は、開放的で小気味よく、なおかつ適度な湿り気もある、いわば喉ごしのよいネオ・プログレッシヴ・ロック。 ヴォーカルとハモンド・オルガンを中心にした演奏には、SPOCK'S BEARD を思わせるキレもあり、暖かみとともにズッシリとした手応えを感じさせる。 シンセサイザー、ギターによる音色を工夫したメロディアスなソロはみごとという他ない。 この二人の役者がフロントにどっかと構えて、目立つプレイを連発し、互いに対話のある反応のよいアンサンブルを構成している。 広がりある音景色、そして複数の旋律が織り成す妙味のある、いわゆるシンフォニック・ロックの醍醐味あふれる内容である。 そして、メロディに力点を置くあまりにリズムが単調になる、というネオプロ系の弱点は、この作品では全くといっていいほど気にならない。 よく動くベースとシンプルながら工夫が感じられるドラミングによるリズム・セクションには、小気味よさがある。 このグループの強みだろう。 また、ヴォーカルは、アメリカのグループにありがちな能天気さから逃れるためにゲイブリエル/FISH 路線に倣ったと思われるが、ハイトーンの安定した声量とともに表現力もアップし、堂々たるパフォーマンスで演奏をリードしている。 攻め込む勢いはもちろん、ストーリーにみごとな起伏をつける「引き」のうまさもあり、熟練を感じさせる。 アコースティック・ギターの伴奏で静かにヴォーカルが始まるシーンなど、70 年代のブリティッシュ・ロック、もしくは往年のイタリアン・ロック並みに鮮やかに決まっているのだ。 厚みのあるレガートなメロディ・セクションと、ダイナミックかつ多彩なリズム・セクションのコンビネーションは、ロックの基本をしっかりおさえた、いわば理想型である。 おそらく、録音バランスのよさも奏功しているのだろう。 全体に、角のとれた音が、安定感を生んでいると思う。 反面、聴きやすさは抜群だが、現代の音に慣れているとややもの足りないかも知れず、年配リスナー向けかもしれない。
  メロディに頼り過ぎない引き締ったアンサンブルの推進力と、巧みなヴォーカルが編み出す表情の機微が生む新世代のネオ・プログレッシヴ・ロック。 アメリカンなポップ感覚も新鮮な好作品だ。 各曲も鑑賞予定。 JADISIQSPOCK'S BEARD など、ポンプ以降で、陰鬱さだけでなく陽性な表情作りにも長けたバンドのファンにはお薦め。

  「Sojourns」(9:04)突き抜け感ある開放的なシンフォニック・チューン。
  「Savant」(7:46)一転してメランコリックに迫るバラード。
  「Dreaming With The Lights On」(6:34)
  「Holidays And Miracles」(8:35)
  「Better Days」(7:02)
  「Even Angels Fall」(4:25)
  「Indian Rain」(15:41)

(KINESIS KDCD 1026)


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