INDIAN SUMMER

  イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「INDIAN SUMMER」。 69 年結成。 作品は一作のみ(二作目も録音はされた模様)。71 年解散。 リーダー格のジャクソンは後に BADFINGER に加入し現役。 NEON レーベル。

 Indian Summer
 
Bob Jackson keyboards, lead vocals
Colin Williams guitars, vocals
Paul Hooper drums, percussion, vocals
Malcolm Harker bass, vibes, vocals

  71 年発表のデビュー・アルバム「Indian Summer」。 内容は、ハモンド・オルガンがメいっぱい活躍するハードロック前夜のアートロック。 キーボードとギターを中心にしたラウドなビート・サウンドにジャジーかつクラシカルな味わいをアクセントとして加えた作風である。 まず耳を惹きつけるのは、イアン・ギランのように破天荒な声量でシャウトを放つヴォーカル・パフォーマンス、そしてオルガン中心に大きな展開を見せるインストゥルメンタルである。 そして、オルガン、ピアノのジャジーなプレイ、パワフルなヴォーカルによる R&B 調のノリ、ジャジーなギター、ドラムスらの技巧的で鋭角的なプレイといった互いに異なる質感の音が拮抗しながら、スケールの大きな、男臭いドラマを描いている。 「マンダム」な世界にアートなセンスを持ち込んで混沌とさせたような内容なのだ。 メロトロンのストリングスやアンサンブルにはクラシック然としたところもあって、全体としては、サイケデリック・ロック、R&B を混ぜ合わせたアートロックというべき内容である。 メロディ・ラインなど、西海岸サイケや昭和 40 年代歌謡曲を思わせるところもあり、ハードロックという呼称が似合わないのは、こういったあまりにジャジーにこなれた、イージー・リスニング然としたところである。
   ギターは、ジャズ・ギターをやっていた人がブルース・ロックにチャレンジしているような、ピッキング主体の音数の多いスタイル。 無表情なリフや音をつめ込むソロはスケールの割にはやや拙さもあるものの、ヘヴィなオルガンの向こうをはった派手なプレイを見せ、この作品の個性となっている。 ソウルフルなオルガンとのコンビネーションはなかなか新鮮であり、このギターを中心とした、長大なインストゥルメンタル・パートの独特のユルさが、全体の雰囲気を決めている。 ヴォーカルも、決めどころではハードロック調のファルセットのシャウトを用いるが、総じて鋭さよりも R&B 的なグルーヴが感じられる。 男性的な悪声だがソウルフルかつ安定した唱法だ。 そして、何よりキーボードのプレイだろう。 高い技巧とともにパッションもあるという理想的なオルガンのプレイに加えて、メロトロン、ピアノなどで演奏の軸となっている。 オルガンの音には、ノスタルジーを越えて何かを訴えかけてくる力がある。 ソウルフルなヴォーカルにオルガンとくれば、スティーヴ・ウィンウッドな分けですが、やや男臭いウィンウッドというイメージはさほど間違っていない。
  6 曲目のインストゥルメンタルを筆頭に、ソロを大きくフィーチュアした楽曲はどれもジャズロックにも近接するプログレッシヴなものである。 緊迫感を高める変拍子のプレイも、巧みに取り入れられている。 楽曲は、総じて長めであり、6 分程度のものがならんでいる。 全体に、ハードロックらしいスピード感とヘヴィネスにジャジーな音の丸みがうまく噛み合っていて、そこが個性になっている。 強いて欠点をいうならば、細かいドラミングを鮮やかに決める一方で大きなノリにやや難があるなどリズム・セクションの安定感が今一つであること、さらには、ギターの速弾きがやや手癖が強いことだろう。 つまり、すべてにおいて、オルガンのプレイとヴォーカルが、頭一つ飛びぬけている。 ドラマチックな完成度の高い楽曲が多いだけに、ソロで盛り上がりきれないのが残念。 もう少しで LED ZEPPELIN 並みの風格を新たなサウンドで立ち上げられたのではないだろうか。 プロデュースはロジャー・ベイン。 ネガポジ反転のジャケットはキーフ。文学的、詩的な曲名にも共感がもてる。

  「God Is The Dog」(6:38) 引きずるようにヘヴィな演奏をオルガンがなめらかに潤し、男性的なヴォーカルがじわじわと押し上げてゆく雄々しき作品。 ハードロックのルーズさはなく、ピアノ、オルガン、ギターがきっちりとしたアンサンブルを成している。 間奏もサウンドこそきわめてヘヴィながらも、クラシカルなアンサンブルになっている。 シャウトやオルガンのプレイこそ DEEP PURPLE 的なものの、無常感と品のある色調は LED ZEPPELIN に近い。

  「Emotion Of Men」(5:44) 中世風のギター・アンサンブルが導く、アドリヴたっぷりのリズミカルなビートロック。 木枯らしが吹きぬけるようなオルガンやアッパーなドラム・ビートなど 60 年代らしさたっぷりであり、どうしても DOORS に聴こえてしまう。 ピアノのリフレインがリズムを 8 分の 6 拍子に変化させるとアドリヴ・パートのスタート。 リード・ギターによるジャジーでヘタウマ調、しかし個性的なソロが延々と続く。 バッキングのオルガンは堅実。 ファルセットは呼気が大きい。

  「Glimpse」(6:44) オルガン、オクターヴ奏法ギターによるセンチメンタルなテーマを勇ましい演奏が支えるグループ・サウンズ風の傑作。 ノリの固いリズム、中間部にスペースをとる手癖の強いギター・ソロは今ひとつだが、オルガンによるキメのクールなカッコよさとオルガン、メロトロンによるオブリガートやソロの盛り上げが効いている。 特に、オルガンは表情を切り換えながら要所で演奏を引き締めている。 勇ましさと感傷の果ての幻想性の調和は、『B な「ヴァレンタイン組曲」』というイメージ。 劇的。

  「Half Changed Again」(6:26)幻想的な泣きのバラード。 呪術めいたムードの冒頭部を経て、中盤から一気に加熱、テンポ・アップし、ジャジーなオルガンが冴える快速インストゥルメンタルが繰り広げられる。 終盤は、湧き上がるメロトロンも加わって GS 歌謡を思わす泣きのオルガンを支えるバロック調のアレンジ。

  「Black Sunshine」(5:25)直線性と重さとラウドさを備え、堂々とハードロックと宣言できる作品。 ヴォーカリストはイアン・ギランばりにがんばる。 変拍子パターンの間奏部もうまく緊張感を演出できている。

  「From The Film Of The Same Name」(5:52)ジャジーでロマンティックなロック・インストゥルメンタル。 CAMEL あたりと感性は近いが、中途半端なハードロック色のせいかどうしてもイージー・リスニングになってしまう。 後半の唐突なギター・ソロの始まりにびっくり。 新しい展開が見えそうな作品だ。

  「Secrets Reflected」(6:49)古めかしく無常感にあふれるもどこか華やぎのあるバラード。 ブルーズ・ロックに寄ったせいで情感がしっかり伝わる。 終盤のギターのアルペジオからの展開でぐっと引き締めてダメ押し。タム回しもロールも威風堂々。

  「Another Tree Will Grow」(6:06)URIAH HEEP に迫るへヴィ・バラード。 エモーショナルなヴォーカル・パートと爆発的なギター、オルガンがリードするジャジーでサイケデリックな快速インストゥルメンタルが劇的なコントラストを成す。 さりげないヴァイヴもいい。

(NE 3 / REP 4357-WP)


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