KAIPA

  スウェーデンのプログレッシヴ・ロック・グループ「KAIPA」。 74 年結成。 82 年までに五枚の作品を発表し、解散。 フォーク・タッチの親しみやすいテーマとキーボードとギターによる暖かみある演奏が特徴のクラシカルなシンフォニック・ロック。 70 年代スウェーデンのシーンを代表するグループの一つであり、現在 THE FLOWER KINGS 率いるロイネ・ストルトの出身グループ。 2002 年再編。 最新作は 2022 年発表の「Urskog」。

 Children Of The Sun
 
Hans Lundin keyboards, vocals
Per Nilsson electric & acoustic guitars
Morgan Ågren drums
Jonas Reingold bass
Patrick Lundström vocals
Aleena Gibson vocals
guest:
Elin Rubinsztein violin on 3,4,5

  2017 年発表のアルバム「Children Of The Sun」。 内容は、透明感と躍動感あふれるメロディアスかつテクニカルなモダン・シンフォニック・ロック。 ジャジーなインストゥルメンタル・パートを大きく取った運動性の高い演奏が特徴である。 弾けるようなギター・プレイが印象的だ。 もちろん、キュートでハート・ウォーミング、とにかく愛くるしいスタイルは健在。 冒頭二曲でかなりオナカいっぱいになる。 THE FLOWER KINGS の不在を埋めるどころか、こちらがスタンダードになりそうな充実度合いである。 傑作。
   ヴォーカルは英語。 再編第八作目。プロデュースはハンス・ルンデン。

  「Children Of The Sounds」(11:31)ジャジーなアドリヴが楽しい大作。

  「On The Edge Of New Horizons」(17:10)即興調のエネルギッシュな演奏にドラマ性を加えた傑作。北欧らしいコミカルなタッチも自然に持ち込んでいる。

  「Like A Serpentine」(12:52)愛らしいクラシカル・タッチを奔放な演奏とうまくブレンドした KAIPA らしさ満載の好作品。 70 年代 KAIPA の特徴だった北欧らしい可愛らしくもどこかひなびた叙情性に、ケルティックで鮮烈なロマンチシズムが加わっている。 ここから 3 曲ヴァイオリンをフィーチュア。

  「The Shadowy Sunlight」(6:57)IQ ら英国ロックへと応ずるような重厚かつダークな面持ちのある作品。 現代的なシンフォニック・ロックである。

  「What's Behind The Fields」(9:31)冒頭、高揚するオルガンの和音で盛り上がる最高のエンディング・チューン。 意識的に往年のスタイルをなぞっているのかも知れないが、それもまたよし。

(INSIDEOUT 88985462252)

 Kaipa
 
Ingemar Bergman drums, percussion,vocals
Tomas Eriksson bass, vocals
Hans Lundin Hammond organ, Rhodes, grand piano, YAMAHA synthsizer
  harpsichord, Logan Stringmachine, glockenspiel, lead vocals
Roine Stolt electric & acoustic guitars, vocals

  75 年発表の第一作「Kaipa」。 内容は、トラッド・フォークからアンナ・マグダレーナ・バッハまでをイメージさせる素朴で親しみやすいテーマが印象深いシンフォニック・ロック。 情感たっぷりのギターとカラフルなキーボードが、角ばった響きながらもえもいわれぬ郷愁と独特の「色気」をもつリード・ヴォーカルを支えて、ゆったりとした包容力のある演奏を繰り広げる。 クラシカルで丹念なアンサンブルに、ほのかに R&B やポップ・テイストさらにはジャズロック風のプレイも交えた、いかにも 70 年代らしい音である。 ハート・ウォーミングなテーマを中心に、品のあるアンサンブルできっちりと奏でるスタイルは、CAMELFOCUS にも通じる。 親しみやすさ、高尚でヒューマンな暖かみ、官能的な美感、ユーモアまでも備えた、極上のポップスであり、若々しさがまぶしい作品である。

  1 曲目「Musiken Ar LjusetMusic Is Light)」(7:03) クラシカルなキーボードとメロディアスなギターをフィーチュアしたシンフォニック・ロック。 ゆるやかな旋律と暖かみある和声の響きがスケール大きく世界を作り上げ、緩急自在のダイナミックな展開があり、それでいてどこまでも繊細な幻想性がある。 リズムレスのパートを活かすために、適宜ドライヴ感をつけるリズム・セクションも効果的だ。 ゆったりとした基調に細かなパッセージをたたみかけてスリルを演出するなどメリハリがあり、メロディアスでも華美にはならず、ロックっぽい骨をしっかりもっている。 YES をより優しくした感じ、たとえば CAMEL の全盛期に近い。 その骨っぽさとエキゾチックなロマンを演出するヴォーカリストの声質、表現もいい。 今だから余計に感じられるほのかなソウル・テイスト、ラウンジ風味もいい感じだ。 クラシカルで愛らしいシンフォニック・ロックの名作。

  2 曲目「Saker Har Tva SidorThings Have Two Sides)」(4:31) エルトン・ジョン風のピアノが導く哀愁あるバラードとグルーヴィなジャズロックが交差するユニークな作品。 クラシカルなハーモニーが一転してジャジーな演奏に変化するおもしろさ。 R&B 的なグルーヴ、ソフト・ロック、フォークがこん然一体となっている。 中盤にハードなリフのブリッジをもうけてバラードとジャズ・タッチをブレンドしてゆく。 ヴォーカリストはここでも存在感抜群であり、スウェーデン語の特徴と思われるが、その歌唱の伝法な響きが妙にソウル・ミュージック調にフィットしている。 オルガンとギターのジャジーなやり取りは、やはり CAMEL を連想させる。 シンセサイザーのアクセントやクラシカルなオルガンのフレーズも耳を惹きつける。 やや未消化ながらも展開は大胆。

  3 曲目「AnkaretThe Anchor)」 (8:38) エレクトリック・ピアノとギター、それぞれの魅力的なテーマ(変奏に近い)をフィーチュアしたクラシカルな作品。 きっちりと整ったアンサンブルによるインストゥルメンタルが心地よい。 エレクトリック・ピアノによるアンナ・マグダレナ・バッハ風の愛らしい演奏とフュージョン・タッチのギターをごく自然につなげる、そのタイミングが絶妙。 ライトなブルーズ・テイストとジャズ、フォーク感覚を兼ね備えたギター・ソロがいい。(ヤン・アッカーマンと共通するセンスを感じる) たっぷりとした序奏の後のメイン・ヴォーカル、そして後半のアップテンポでスリリングなインストゥルメンタル・パートからのキュートなクラシカル・アンサンブルへの回帰などドラマの描き方も巧み。 どこまでも分かりやすく、親しみやすいところが、最大の魅力である。 テーマはバロック音楽風だが、ヴォーカルの表現やキーとなる旋律や和声には素朴すぎるほど素朴なトラッド色もある。 クラシカルなロックとしては、屈指の作品だろう。

  4 曲目「Skogspromenad」(3:39) 哀愁あるトラッドなテーマを軸にしたキーボード・インストゥルメンタル小品。 前曲までのインストゥルメンタル・パートに配置されても問題なさそう。 というか、もともと素材の一つの可能性もある。 いくつかのシンセサイザー(ピッチ・ベンド、ポルタメント、レゾナンス変化を使って細やかなニュアンスをつけている)、オルガンをフィーチュア。 ギターレス。

  5 曲目「Allting Har Sin Borjan」(3:09) 田園風ののどかなテーマをダイナミックなアンサンブルで奏でるインストゥルメンタル小品。 今度はキーボード以外がアンサンブルを支えている。 フォーク的なテーマをめぐり、あたかも生命力を象徴するようなドラム・ビート、ギター、ベースらによる骨のあるアグレッシヴな演奏が繰り広げられる。 キーボードは、シンセサイザーのワイルドにはっちゃけたアドリヴやクラシカルなチェンバロのアクセントで存在感を見せる。 ギターがブルージーなアドリヴを見せつつも要所でキーボードと呼吸を合わせるかのようにクラシカルなフレーズをアレンジしだすところがいい。 前曲と同様に素朴なテーマのインスト作品ながら、ギターとベースのロックっぽい支えによって一味違うドライヴ感あふれる作品になっている。

  6 曲目「Se Var Morgon GrySee The Dawn)」(8:54) スペイシーなストリングスが印象的なシンフォニック幻想曲。 リズムレスの神秘的な空間を用意してイマジネーションをどんどん膨らませてゆくような演出もある。 幻想美に画竜点睛するのは、ゴスペル風味もある官能的なヴォーカルである。 悩ましげなヴァースと空へと解き放たれるようなコーラス。 この対比はインストゥルメンタル・パートにも全編を通して現れ、本曲の基本的な構成になっている。 ベースのフレーズが要所で展開のきっかけになっているのにも注目。 全体を通してファンタジックなムードに満ちており、キーボード中心の美しいアンサンブルが続いてゆく。 ギターもヴァイオリン奏法を駆使してソフトなアタックで迫っている。 クラシカルなシンフォニック・ロックの名品。 1 曲目に通じる力作だ。

  7 曲目「Forlorad I Istanbul」(2:22) エキゾチックなテーマを奏でるギターとエレピをフィーチュアしたラテン・ジャズロック・インストゥルメンタル小品。 ギターが切れ味鋭くリフレインを決めれば、ドラムスも鮮やかに応える。 カリッとしたクリスプな歯切れよさが命の曲だと思うが、その中にこのグループらしい優しげな表情がある。 本アルバムにおいては異色作かもしれないが好作品だ。 タイトルとおり異国への思いをつづったものであり、それと同時に、RETURN TO FOREVER のようなフュージョンや SANTANA あたりのラテン・ロックからの影響は強かったのでしょう。

  8 曲目「Oceaner Foder LivOceans Give Birth To Life)」(9:29) Suppers Ready」を思わせるオムニバス、奇想曲のシンフォニック・ロック大作。 序盤は、ベースのリフ、ギターのバッキングに支えられて、キーボードがジャジーなフレイヴァーでリードするややジャズロック的な展開。 チェンバロやオルガンによるクラシカルなブリッジをはさみ、決然とした GENESIS 風のヴォーカル・パートを経て、クライマックスではシンフォニックに盛り上がる。 クラシカルなアンサンブルの整合感とロックらしいのダイナミズムのブレンドは、ここでもきわめて巧みである。 ただし本作では、一定の緊張感を保つことによる、引き締まった感じがいい。 クライマックスで破断し、演劇仕立てのフリー・フォームの世界を持ちこむところは、ジャズロック風のタイトな演奏を導くブリッジとして効果的。 いろいろな道具立てを盛り込んだ「飛び出す絵本」の様な作風は、20 年近く経って THE FLOWER KINGS で結実するロイネ・ストルトの作風の原点の一つだろう。 もちろん第二作へもつながる作風である。 ロイネ・ストルト作。


  クラシカルなアンサンブルとトラッド調の魅力的なメロディが組み合わさった、ほのぼのとしたシンフォニック・ロック。 ルンデンの得意技と思われるスタイル、すなわちクラシックで幕を開け、ジャズ・ロック風のアンサンブルを展開し、最後も再びクラシック風に締めくくるというスタイルは、この作品ですでに完成されている。 曲の展開は明解であり、録音も一つ一つの楽器の演奏がくっきりと分離されていて聴きやすい。 クリアな音色と分かりやすいアンサンブル、親しみの持てるメロディと、いいことずくめである。 ルンデンのヴォーカルには、粘り気のわりには女性のゴスペル・シンガーのような表情があり、原語の響きの味わいとともにきわめて独特の魅力を放っている。 また、キーボード・プレイは、クラシック風のフレージングを基本に、さまざまな音色を用いた主題のよさとギターとの呼吸のよい絡みで見せてゆくスタイルだ。 やはり GENESISCAMEL (どういう訳かあまり言及されない)の影響があるのだろう。 また当時まだ 10 代だったロイネ・ストルトによる、メロディを大事にした落ちついたギター・プレイが光る。 シンフォニック・ロックの傑作。

(MUSEA FGBG 4091.AR)

 Inget Nytt Under Solen
 
Ingemar Bergman drums, temple blocks, rattle, vocals
Tomas Eriksson bass, synth-bass, vocals
Hans Lundin grand piano, Rhodes, Hammond organ, Mellotron, YAMAHA & KORG synthsizers
  string ensemble, clavinet, vibes, marimba, prepared piano, lead vocals
Roine Stolt electric guitar, 6 & 12 string acoustic guitar, rattle
Lars Hoflund lead vocals on 7-10
Mats Lindberg bass on 11

  76 年発表の第二作「Inget Nytt Under SolenNothing New Under The Sun)」。 内容は、20 分あまりの組曲をトップに配し、よりシンフォニックな広がりのある作風を打ち出した作品だ。 サウンドは、前作と同じく優しく親しみやすいメロディが魅力のクラシカルなもの。 バロック音楽調のテーマ、丸みのある音色のキーボードを軸としたアンサンブル、そして暖かみのあるスウェーデン語のヴォーカルが特徴だ。 技巧を越えた音楽そのもの豊かさがしっかりと感じられる。 また、ストルトは進境著しく半数以上の作曲を手がけ、プレイでもメロディアスにしてソリッドなギターで存在をアピールしている。 特に、タイトル・ナンバー後半に現れる哀愁のテーマは名作。 それでも、やはり中心となるのはハンス・ルンデンの丹念なキーボード・ワークだろう。 インターナショナルなマーケットを意識し、一部を英語ヴォーカルにしたヴァージョンも用意された。 CD は 6 曲のボーナス・トラックを含む。 内訳は 4 曲が本作中のナンバーの英語ヴァージョン、1 曲目のライヴ・ヴァージョン、そして第一作のセッションでのナンバー 1 曲である。 プロデュースはグループとレイフ・メイセズ。

  1 曲目「Skenet Bedrar」(It's Not What It Seems)は 5 つのパートからなる組曲。 クラシカルなキーボードがリードする典型的なシンフォニック・ロック。 エレクトリックなサウンドにもかかわらずアコースティックな暖かみがあるところがユニークだ。 オルガン、メロトロン、シンセサイザーを丹念に重ねた演奏は音数はさほど多くないのだが素朴で優しさにあふれている。

  「Uppvaknandet」(Awakening)(2:43)飛行機の爆音を思わせるシンセサイザーのピンク・ノイズとオルガンのけたたましいアルペジオが交差するオープニング。 テーマは哀しげなムーグ・シンセサイザーである。 変調し狂おしく震えるシンセサイザーに重なるようにテーマを追いかけるギター。 オルガンのアルペジオも揺れながら続いてゆく。 オブリガートを経て繰り返しからは二つのギターがハーモニーを成しメランコリックに歌う。 着実なリズム。 ねじくれるシンセサイザーのノイズ。
  悠然かつ機敏な立ち上がりでドラマを予感させる序章である。 シンセサイザーの提示するテーマの存在感が圧倒的。 やはり分かりやすく胸に染み入る旋律は音楽のキーである。

  「Bitterheten」(The Bitterness)(3:10)チェンバロ伴奏で始まるはバロック風のメロディ・ラインをもつヴォーカル。 オブリガートのシンセサイザーはまるでバロック・トランペットのよう。 ヴォーカル、シンセサイザーの二声にさざ波のようなシンセサイザーが絡む。 間奏はトランペット風のシンセサイザーによる歌メロの再現、そしてギターがテーマをさらに雄大にふくらませエモーショナルに歌う。 ヴォーカル、シンセサイザーとテーマをゆったりと繰り返し哀しげなメロトロンが静かに加わったところからシンセサイザーがギターと同じくテーマをふくらませ始める。 次第に表情には明るさが生まれインストゥルメンタルの口火を切る。 シンセサイザーの提示するメロディに答えるようにマーチのリズムが始まりギターが次章を呼び出すようなリフレインを奏でる。
  
  「Hoppfullheten」(The Hopefulnes)(4:44)一転音が退いて静かな中エレピのキラキラ転がるようなメロディそしてユーモラスなパーカッションがエレピに絡む。 突如轟音とともにリズムが入って行進曲風のメロディをオルガンが奏でる。 ヴォリュームが一気に上がってアンサンブルが始まる。 高らかに歌うシンセサイザー。 そしてギターが力強くメロディを奏でる。 タイトなリズム。 シンセサイザーがヴァイオリン奏法のギターと絡む。 再び音が退いてシンセサイザーの静かなメロディとコーラスのような和音の響き。 さらにギターの旋律も静かに重なって響く。 シンバルの響きとともにコーラスが一声入ってオルガンが響く。 ギターの静かな旋律がドラムスの入りとともに音量を上げドラマチックなアンサンブルが動き出す。
  
  「Overheten」(The Authorities)(8:12)ピアノの和音の連打を伴奏に激しいヴォーカルが入って叫ぶように歌う。 ドラムスのオブリガート。 リズムが入ってギター、ベースの伴奏が始まる。 ピアノのバッキングでギターが静かに旋律を奏でる。 テンポが少し上がってドラムスがアクセントをつけるギターのメロディに続いてシンセサイザーのメロディ。 スリリングなインストが続く。 そして静けさの中再びヴォーカルが戻る。 悲痛な叫びをあげるヴォーカル。 伴奏のアンサンブルが戻ってヴォーカルを支えギターが高らかに歌い上げる。 ピアノの落ちついた伴奏。 叫ぶギターそしてきらめくシンセサイザーのメロディが続く。 スペイシーなシンセサイザーがギターと絡んでドラムスが連打するとギターの 3 連のフレーズに決めが連続して入る。 ギターのリフレインが続きスピーディなドラムスをバックにギターそしてシンセサイザーとエレピが交互にソロを取る。 ギターとシンセサイザーがユニゾンでリフレインする。
  
  「Vilseledd」(Lead Stray)(2:52)キラキラ響くパーカッションをバックに不気味な男の声。 シンセサイザーのリフレイン。 ガラスのぶつかるようなきらめく音が行き過ぎる。 ギターのリフレインからリズムが入ってアンサンブルが始まりギターがリードしてシンセサイザーと絡みドラムスの連打にシンセサイザーのフレーズが入って終わる。
  

  2 曲目「Omson sken」(How Might I Say Out Clearly)(3:17)。 おだやかなムーグのリフレインとうっすらと響き渡るストリングス。 リフレインは高く低く音程を変えつつフルートのように鳴り続け、やがて鮮やかなピアノを呼び覚ます。 そして始まるはあまりにロマンティックなメロディの歌だ。 伴奏は華麗なピアノ、そしてオブリガートはトランペットを思わせる柔らかなムーグの響き。 オブリガートのギターがゆったりと重なると間奏は愛らしい木琴によるテーマである。 シンセサイザーとギターが木琴のリフレインに静かに重なりやがてフェード・アウト。
  ドラムレスの優美なバラード小品。 短いながらもヴォーカルとマリンバのテーマは絶品。 ひたすら愛らしくどこかもの哀しい。

  3 曲目「Korgstag」(Crusade)(5:19) ギターのリードするクラシカルなアンサンブルで幕を開ける。 コラールにギターのメロディが絡み再びギターがアンサンブルをリードする。 続いてエレピが旋律をなぞるとギターとともにコラールが入る。 ギター、ベース、コーラスが次第にヴォリュームを上げ上昇すると頂点でエレピがメロディを奏でオルガンが響く。 そしてギターが決めると静かになってシンセサイザーのメロディそしてギターのソリッドなメロディ。 再び静かなシンセサイザーからソリッドなギター。 今度はシンセサイザーも重なってユニゾンで静かにメロディを奏でる。 クラシカルな重奏。 そしてギターのソロ。 音が退いてギターが強く弱くメロディを奏でる。 アンサンブルが戻るとギターは再び高らかに歌いリフレインしコラールとともに壮大に終わる。
  得意のトラッド風シンフォニック・インストゥルメンタル。 ヴィブラートの効いたギターが表情豊かに歌い演奏をリードする。 リッケンバッカー・ベースも力強くアンサンブルを支える。 コラールはメロトロンだろうか。 キーボードは主にオルガンで厚みをつけ、ピアノとシンセサイザーでギターに応じている。 全体にはクラシカルだが中盤ではややジャジーな演奏も見せる。 THE FLOWER KINGS の原型を見る思いだ。 個人的にはドラムスは 70 年代のグループによく見られたジャズ系のプレイが好みなのでうれしい。

  4 曲目「Stengrodornas Parad」(The Parade Of The Stone Frogs)(0:53)ギターがユーモラスなリズムとパーカッションの響きとともに繰り広げるひょうきんな小曲。

  5 曲目「Dagens Port」(The Gate Of Day)(2:35)エフェクトにたゆとうエレピ伴奏によるルンデンの朗唱は夢の中の一人ごとのようだ。 ワンパターンだがこの声に痺れるとぐっときてしまう。 湧き上がるメロトロン。 間奏はそのメロトロンとヴァイオリン奏法ギターだろうか。 ピアノとともにリズムが入るとシンセサイザー、ギターのユニゾンでトラッド調のメロディが朗々と歌われる。 続くヴォーカル・パートはクラシカルなピアノ伴奏。 ギターが静かに泣きドラムスはハイハットを軽く連打するアンディ・ウォード調。 ギターは一気に高まり力強く切なく歌う。 ヴァイオリン奏法へと移り消え入るような風情も見せる。 堅実なピアノそしてリズム。
  ピアノを主にしたドリーミーな歌もの小品。 テーマの旋律はやはりトラッド・フォーク風の素朴にしてペーソスのあるものだ。 ヴァイオリン奏法のギターが切ない。 エンディングがやや尻切れトンボ。

  6 曲目「Inget nytt under solen」(Nothing New Under The Sun)(6:10)4+3拍子によるギターの端正なアルペジオそしてヴォーカルはソウルフルに歌いだす。 熱く歌い続けるヴォーカル、ベースのきっかけからブリッジ風のアンサンブルを経てスピーディなインストゥルメンタルへ。 リッケンバッカー・ベースとオルガンが歯切れよいリズムを作ると二声のムーグの電子音が歌いだす。 YES を思わせる演奏だ。 たたみかけるベースとドラムス、テンポはゆったりと落ちメロディアスなヴォーカルが復活。 アジるヴォーカルとエレピの伴奏。 たゆとうようなギターの和音。 オルゴールのようなエレピは 70 年代後半のあの音だ。 両チャネルから聴こえるギターによる悠然たるテーマ演奏。 ギター、ピアノのデュオに移るとギターはややジャジーにブルージーに変化する。 そしてギターはゆっくりと歌いだす。 切ないメロディだ。 湧き上がるオルガン、オブリガートするベース。 再び逆のチャネルから湧き上がるギターのテーマそしてブルージーなソロ。 かわるがわる演奏を盛り上げてゆくギター、ベース、キーボード。 追いかけあううちにいつの間にかシンフォニックな広がりが生まれるてゆく。
  YESGENESIS をぐっと素朴にしたようなイメージのメロディアスなシンフォニック・ロックの好作品。 魅力はトラッド調ながらも唱法がソウル系のルンデンのヴォイスとクラシカルながらもラウンジ風、イージー・リスニング・テイストもあるアンサンブルの取り合わせの妙である。 この親しみやすさがエレクトリックなキーボードや荒々しいベースとマッチして英国プログレにはない情趣が生まれている。 そして後半はストルトのジャジーなギターがいい。 ブルーズ/HR的な重さとジャズ・ギターの軽やかさをブレンドした極上のソロである。

以降は CD でのボーナス・トラック。
  「Awakening/Bitterness」(6:08)1 曲目の組曲「Skenet Bedrar」より第一、第二曲。 の英語ヴォーカル版。
  「How Might I Say Out Cleary」(4:02)2 曲目「Omson Sken」の英語ヴォーカル版。
  「The Gate Of Day」(2:25)5 曲目「Dagens Port」の英語ヴォーカル版。
  「Blow hard All Tradewinds」(6:17)6 曲目「Inget nytt under solen」の英語ヴォーカル版。 独自の英詞がつけられておりタイトルもスウェーデン語からの直訳から変更されている。
  「Skenet Bedrar」(14:08)1 曲目の組曲「Skenet Bedrar」の 78 年ライヴ録音。
  「Fran Det Ena Till Det Andra」(2:47)デビュー・アルバム作成中のセッションより。 ややジャズ・テイストもあるスピーディなシンフォニック・インストゥルメンタル。


  メロディアスなシンフォニック・ロックの傑作。 親しみやすいテーマはそのままに、楽曲はさらに手の込んだものとなり、重厚な表情も現れている。 ハンス・ルンデンは、ピーター・バーデンスばりのポップ・センスとともに、クラシカルなアレンジのセンスも備えた逸材だ。 またロイネ・ストルトも、最後のタイトル・ナンバーにおいて安定したメロディアスなギター・プレイに加えて、複雑なアンサンブルを見事にまとめる手腕を発揮している。 エレクトリックな音を用いて、これだけ素朴な暖かみのあるサウンドは稀だろう。 親しみやすく気品もある、優等生的なロックである。

(MUSEA FGBG 4098.AR)

 Solo
 
Ingemar Bergman drums, percussion, vocals, laughing
Mats Lindberg bass, Moog Taurus pedal, percussion
Hans Lundin Hammond organ, Fender Rhodes, grand piano, Mellotron
  Mini & Poly-Moog, Korg strings, Hohner clavinet, vocals
Mats Lofgren lead vocals, percussion
Roine Stolt 6 & 12 string electric guitar, acoustic guitar, guitar synth, percussion, vocals

  78 年発表の第三作「Solo」。 ベーシストが新メンバーに交代し、専任ヴォーカリストも加入する。 ルンデンは一部でヴォーカルをとるものの、よりキーボードへと専心しているようだ。 クラシック色はやや後退したものの、郷愁溢れるメロディが散りばめられた、健やかなるシンフォニック・ロック路線は変化なし。 バンドとして理想的な技巧を誇りつつも、あくまで暖かく優しげ、そして理知的なユーモアのある音に徹しているところがすごい。 そして、あふれるアイデアをコンパクトなサイズの楽曲へとまとめあげる手腕も、抜群である。 プログレらしい挑戦的な変拍子トゥッティもまろやかなサウンドに包まれており、余韻はどこまでもハートウォーミング。 そしてあふれ出る自然なブルーズ・フィーリングは、ロックの王道であり芸術の本質の一つだろう。 個人的には、三作のうちで最も深い味わいのある作品と考えている。 ヴォーカルは、前作での国際戦略を反省してか再びスウェーデン語へ。 本作発表後、79 年春にストルトはグループを離れ、ソロ活動に専念する。 本作は、KAIPA 初期三作のなかで、最も直接的に THE FLOWER KINGS につながる作風だろう。 それは、本作にてストルトのプログレ的な作風が確立したことを示すのかもしれない。 CD では、3 曲のライヴ・テイクのボーナス・トラック付き。 また、1、4、6、7、9、10 は、本 CD 化に際しリミックスされた。
  オープニング・ナンバーは、変拍子でキーボードとギターがせめぎあう、小気味いい CAMEL もしくは THE FLOWER KINGS 風のインストゥルメンタル。 ユーモラスなテーマから、疾走感あるアンサンブルへの展開がすばらしい。 4 曲目は、アーシーでシンフォニックな広がりをもつ、まさにこの時代の音。懐かしいです。 5 曲目は、のどかで飄々としたテーマに思わず笑みがこぼれる、愛らしいインストゥルメンタル小品。 7 曲目は、キーボード中心のメランコリックにしてドリーミーなナンバー。 終盤にブルーズ・フィーリングあふれるギターが、ハッシと切り込む。 8 曲目は、THE FLOWER KINGS の原点を見るような、躍動感あふれるシンフォニック・ロックの好作品。 メロディアスにして力強いヴォーカルとギターを軸に、細やかな音使いのキーボードが脇を固める、充実した内容である。 ルンデン/ベルグマンの作品であることから、ストルトの作風にはルンデンの影響が大なのではと推測できる。 9 曲目は、ミドル・テンポの重厚なインストゥルメンタル。キーボードが冴え渡る。小品ながらも初期 KING CRIMSONYES をブレンドしたような快作である。そして 10 曲目は、ストルトのギターが大きくフィーチュアされたドライヴ感たっぷりの傑作。 こちらはまさしく THE FLOWER KINGS へ直結する、タイトで推進力のあるシンフォニック・チューンである。 最終曲も、哀愁と品のよさがあまりに KAIPA らしい名品であり、ディランを思わせるギターの弾き語りから、やがて第一曲を思わせるスリリングなギター、キーボードのインタープレイへと発展してゆく。

(MUSEA FGBG 4128.AR)

 Stockholm Symphonie
 
Hans Lundin keybords, vocals
Roine Stolt guitars, vocals
Tomas Eriksson bass, vocals
Ingemar Bergman drums, percussion, vocals

  93 年発表のアルバム「Stockholm Symphonie」。 1974 年および 1976 年にラジオ用音源として収録された、おそらくスタジオ・ライヴ形式の作品。 日本発の非正規盤と思われる。 楽曲は、第一作と第二作からであり、クラシカルなアレンジを活かしたタイトなロックにイージー・リスニング的な安定感を付与した独特のスタイルの演奏である。 録音はしっかりしており、各パートの音がバランスよく録られている。 オルガンとギターによるチャーミングで暖かみあるアンサンブルと、スリリングなソロ・パート(シンセサイザーはスタジオ盤とは異なる音もあり)がたっぷりと味わえる。 ベースの音もクリーンに捉えられている。 第一作のファンには絶対のお薦め。 ヴォーカルはスウェーデン語。

  「Allting Har En Början」(5:20) 第一作より。
  「Förlorad I Istanbul」(4:21)第一作より。
  「Saker Har Två Sidor」(7:24)第一作より。苦味のあるヴォーカルがいい。
  「Musiken Är Ljuset」(10:00)第一作より。
  「Korståg」(5:35) 第二作より。
  「Stengrodornas Parad ~ Inget Nytt Under Solen」(7:22)第二作より。
  「Hoppfullheten ~ Överheten ~ Vilseledd」(15:08)第二作より。

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 Notes From The Past
 
Hans Lundin keyboards, vocals
Roine Stolt guitar
guest:
Morgan Ågren drums
Patrick Lundström lead vocals
Jonas Reingold bass
Aleena vocals
Lennart Lind trombone
Lars Lindsjo sax
Tage Rolander trumpet

  2002 年発表のアルバム「Notes From The Past」。 遂に発表された待望の新作。 内容は、色彩のうねりのような THE FLOWER KINGS 流のサウンドをルンデンのクラシカルにして優しげなメロディ・センスがリードする、ハート・ウォーミングなシンフォニック・ロックである。 英語のヴォーカルがあまりにナイーヴな表情を見せるため、気恥ずかしさでドギマギさせられるのも事実だが、それ以上に、情緒的で暖かみのあるサウンドが魅力的だ。 この音は万人の胸にすなおに染みてゆくだろう。さすがに 70 年代と比べると、録音技術のおかげもあって、音の圧力は高まっている。それでもストルトのギター、ルンデンのキーボードの音色とプレイには、かつての姿がはっきりとうかがえる。 ギターとオルガンの呼吸のよさに、思わず頬が緩んでしまうのだ。一方、リズム・セクションの音・表現スタイルはきわめて現代的であり、70 年代ロックとの違いはここに凝縮されているといっていい。 全体にノスタルジックな音像だが、ノスタルジーだけではインストゥルメンタル大作「Morganism」のような作品をものにできるはずもない。 やはりしっかりと現在とつながった内容なのだ。 フィンランドの HAIKARA の新作のイメージとも通じる、北欧シンフォニック・ロックの快作である。 しかしながらトラッド/フォーク色の強い文脈でのメロトロンの効果が、英国ものと比べると今ひとつに感じられるのはなぜでしょう。 ヴォーカルは英語、プロデュースはハンス・ルンデン。

  「Notes From The Past - Part I」(3:09)
  「Night-bike-ride(On Lilac Street)」(3:28)インストゥルメンタル。
  「Mirrors Of Yesterday」(6:17)
  「Leaving The Horizon」(14:10)
  「In The Space Of A Twincle」(3:27)
  「Folke's Final Decision」(4:03)インストゥルメンタル。
  「The Name Belongs To You」(13:46)
  「Second Journey Inside The Green Glass」(5:55)インストゥルメンタル。
  「A Road In My Mind」(7:17)
  「Morganism」(10:33)インストゥルメンタル。
  「Notes From The Past - Part II」(6:58)

(INSIDE OUT 6 41982 4)

 Keyholder
 
Hans Lundin Hammond organ, synthesizers, mellotron, pianos, vocals
Roine Stolt guitars, percussion, vocals
Morgan Ågren drums
Jonas Reingold bass
Patrick Lundström lead & backing vocals
Aleena lead & backing vocals

  2003 年発表のアルバム「Keyholder」。 再編第二作目。 ギターとキーボードがせめぎあうような場面が増えており、アンサンブルの密度は高まっているイメージである。 オルガンやギターによるストレートなテーマを中心に、リズム・セクションに象徴されるテクニカルなアンサンブルが、手を変え品を変え迫ってくる。 さらに、これだけだと圧迫感が強まり過ぎると考えているのか、いかにも北欧ロックらしいユーモラスなメロディ・ラインで和らげてバランスをとっている。 その上、70 年代風のジャジーな音もさりげなく散りばめている。 初期の THE FLOWER KINGS そのもののような演奏は、おそらくストルト氏からしてみれば、THE FLOWER KINGSKAIPA 的だったところを本家の方へ戻したということなのでしょう。 残念なのは、場面によっては、テーマのメロディに寄りかかり過ぎているせいで、肝心のロック的な運動神経によるカッコよさが打ち消されていることだ。 美声の男性ヴォーカルの独特のこねくり回すような節回しが、シャキッとした演奏の邪魔をしているところが明らかにある。 また、インスト・パートの充実にほとんど文句は無いが、あえていうならば、カンタベリー風のジャムっぽいアドリヴ合戦が、発展するときはすごい勢いを感じさせる一方で、クライマックスを越えて収束に入ったときのまとまり方にやや冴えがないような気がする。 いったんそう感じてしまうと、音数の多さがかえって逆効果になっているようにも思えてくる(カンタベリー周辺のプレイヤーのセンスのすごさを再認識してしまう羽目になった)。 サイケなルーズさを意図しているのかもしれないが、このグループの作風だと、おそらくもう少し刈り込んでその分起承転結の場面をくっきりさせた方が、いいのではないだろうか。 現状では、ベッタリした歌メロと延々続くジャムという二極構造しかなく、それを音の種類と数でなんとかしようと奮闘しているというイメージである。 ヴォーカルは英語、プロデュースはハンス・ルンデンとロイネ・ストルト。

(INSIDE OUT 6 93723 65982 4)

 Mindrevolutions
 
Hans Lundin keyboards, vocals
Roine Stolt guitars, percussion, vocals
Morgan Ågren drums
Jonas Reingold bass
Patrick Lundström vocals
Aleena vocals

  2005 年発表のアルバム「Mindrevolutions」。 再編第三作目。 ダイナミックで骨っぽいロックらしさと R&B 調のキレのよさがはっきりと現れた快作。 冒頭から、ストリートっぽいやんちゃなビートで勢いよくブチかましてくれる。 メロディアスなシーンでもベタつかないところがいい。 4 曲目はノスタルジーとノリのよさで耳を惹きつける。 ヴォーカルはもっとスティーヴィ・ワンダーしてもいいし、ギターはもっとナイル・ロジャースしていい。 5 曲目タイトル大作は、往年の YES、いや現在の THE FLOWER KINGS に近いイメージ。ルーズなインプロが少し鼻につく。 また、ブルーズ・フィーリングがオペラ風の大仰さへと発展してしまう 10 曲目やディズニー映画のサントラみたいな 3 曲目なんかは、個人的には今ひとつ。 ヴォーカルは英語、プロデュースはハンス・ルンデンとロイネ・ストルト。

  「The Dodger」(8:09)
  「Electric Leaves」(4:15)
  「Shadows Of Time」(6:50)
  「A Pair Of Sunbeams」(5:19)
  「Mindrevolutions」(25:47)
  「Flowing Free」(3:53)
  「Last Free Indian」(7:27)
  「Our Deepest Inner Shore」(4:59)
  「Timebomb」(4:32)
  「Remains Of The Day」(8:02)

(INSIDE OUT SPV 085-48332 CD)

 Angling Feelings
 
Hans Lundin keyboards, vocals
Per Nilsson guitars
Morgan Ågren drums
Jonas Reingold bass
Patrick Lundström vocals
Aleena vocals
guest:
Fredrik Lindqvist recorders & whistles on 1,2,8,9,10

  2007 年発表のアルバム「Angling Feelings」。 ロイネ・ストルト、再び KAIPA と袂を分かつ。 しかし、アルバムは、テーマとなるキャッチーでハート・ウォーミングなメロディ・ラインを軸にまとまりを見せた秀作となった。 歌ものシンフォニック・ロックの傑作といっていいだろう。 ヴォーカルを中心に、ファンタジックでメローな表現から力強く真っ直ぐな表現、信じられないほどタイトでスリリングな表現まで、自然な流れにのって音楽は躍動する。 こういう変拍子が変拍子に感じられないほどに澱みないアンサンブルは久しぶりな気がする。 リズム・セクション、特にモルガン・アグレンの貢献大というべきだろう。 キーボードは、ヴォーカルとのからみ、オブリガートや全体演奏の随所で、キラリと光るプレイを放つ。 クラシカルでほんのりフォーク風のテーマの響きは、あたかも初期の作風が戻ってきたようだ。 一方、ギタリストはかなりの腕前だが、役割としてやや薄味になったロイネ・ストルトという感が否めない。(ワウ・ペダルを駆使するところもよく似ている) また、個人的な好みの問題ではあるが、ヴォーカリストの声質と歌唱はもう少し骨太な方がいいのでは。 ただし、2 曲目冒頭のようにバラードで見せる懊悩とメランコリーの表現はいい。 全体に、スピーディで密度もテンションも高いインスト・パートを緩やかなメロディに落とし込んだり、哀愁あるギターやキーボードのソロへと導くうまさが目立つ。 ポップで親しみやすくテクニカルなスリルもある、ぜいたくな作品だ。
  ヴォーカルは英語。 再編第四作目。プロデュースはハンス・ルンデン。

  「Angling Feelings」(6:43)
  「The Glorious Silence Within」(7:17)
  「The Fleeting Existence Of Time」(12:37)
  「Pulsation」(4:01)
  「Liquid Holes In The Sky」(4:42)
  「Solitary Pathway」(4:05)
  「Broken Chords」(6:26)
  「Path Of Humbleness」(9:29)
  「Where's The Captain?」(4:23)
  「This Ship Of Life」(4:40)

(INSIDE OUT SPV 085-48332 CD)

 In The Wake Of Evolution
 
Hans Lundin electric & acoustic keyboards, vocals
Per Nilsson guitars
Morgan Ågren drums
Jonas Reingold bass
Patrick Lundström vocals
Aleena Gibson vocals
guest:
Fredrik Lindqvist recorders on 2,3,4,5,8
Elin Rubinsztein violin on 1,4,5,7

  2010 年発表のアルバム「In The Wake Of Evolution」。 内容は、エネルギッシュでイノセントな開放感のあるシンフォニック・ロック。 みずみずしく純粋な感性を見せながらもプロらしい強靭な演奏力を生かした作品が主であり、テクニカルなキレは抜群だが、すべての曲にあるテーマとなるメロディの暖かみと、思い切りアコースティックなトラッド風の作品をちりばめることで、全体の流れにメリハリをつけている。 特に、トラッド調の作品の旋律には素朴にしてえもいわれぬ味わいがある。 インストゥルメンタル・パートの演奏は、サイケデリック・ロックとジャズロックの中間くらいのニュアンスのある奔放なスタイルが中心。 目もくらむような速弾きや込み入ったリズムを交差させながら、優しげで親しみやすいメロディへとまとめてゆくセンスは抜群だ。 ただし、こういうジャムが冗漫になり過ぎると、その挙句にテーマが埋まってしまう危険はある。 3 曲目の傑作にもその傾向が若干あるやも、と当初は危惧したが、サイケデリックな発散の一種ととらえれば、あまり拘泥する必要もないのではと後から思い直した。 何にせよ、いいたいのは、スリリングなプレイでたたみかけるパートと同じくらいの分量でオルガンやメロトロンの旋律の響きを主役にしたパートがあってもいいだろう、ということだ。 全体にリズム・セクションを筆頭にかなりテクニカルな演奏ではあるが、ユーモラスなフレーズから生まれる北欧ロック特有の長閑さのおかげで息苦しい演奏にはなっていない。 器楽の多彩な音とシャープなたたみ込み気味のプレイは、歌ものでヴォーカルがリードする展開のときの方がよりいっそう輝きを放つように感じる。(たとえば 5 曲目や 6 曲目) 一方、ゲストのヴァイオリンとリコーダーの音はかなり新鮮だった。 まろやかでキラキラした音が主なだけに木の香りがするような弦の響きが非常にいいアクセントになっている。 7 曲目は、男性ヴォーカリストの伝法な表情が役立っている。 8 曲目は、アメリカン・ロック的な乾いた、さわやかな開放感のある作品。
   ヴォーカルは英語。 再編第五作目。プロデュースはハンス・ルンデン。 細かいパッセージとドラム・ビートを重ねすぎるせいか、はたまたテンポの変化のレンジが速めのゾーンにしかないせいか、音が全体にキンキンしていて刺激が強い。 展開によってはもっともっと軽やかに、そして悠然として耳に優しくしてもいいのではないだろうか。

  「In The Wake Of Evolution」(10:57)一気呵成の表題曲。巻き込まれる。

  「In The Heart Of Her Own Magic Field」(5:12)アコースティック・ギターがさざめき、オルガンがゆるゆると響くフォーク系シンフォニック・ロック(つまり KAIPA の作風)の佳作。個人的には男性ヴォーカルがよかった。スィープも要らないかなあ。

  「Electric Power Water Notes」(17:51)オールド・ファン納得のテクニカル・シンフォニック・ロック大作。(オルガンとメロトロンのせいだけではない!)

  「Folkia's First Decision」(2:33)リコーダーとアコースティック・ギターの愛らしいデュオから幕を開けるフォーキーな、いかにも KAIPA らしいシンフォニック小品。

  「The Words Are Like Leaves」(5:36)コケットにして粘っこい(矢野顕子?谷山浩子?知ってる範囲が狭くてスミマセン)ヴォーカルが印象的な作品。「言葉は葉のよう」って日本語での表記を知ってる?、それとも語への感覚が共通するのかな。ストリングス伴奏が新鮮。

  「Arcs Of Sound」(8:22)ストレートでキャッチーなプログレ風ポップ。8 ビートに感じられないのはドラムスの変わったアクセントのせいか。後半のインストゥルメンタルは一転してジャズロック調。

  「Smoke From A Secret Source」(9:24)

  「The Seven Oceans Of Our Mind」(10:09)

(INSIDEOUT 050519)

 Sattyg
 
Hans Lundin keyboards, vocals
Per Nilsson electric & acoustic guitars
Morgan Ågren drums
Jonas Reingold bass
Patrick Lundström vocals
Aleena Gibson vocals
guest:
Fredrik Lindqvist recorders & whistle on 1,3,4,6
Elin Rubinsztein violin on 3,4,5

  2014 年発表のアルバム「Sattyg」。 内容は、ノスタルジックな雰囲気のあるシンフォニック・ロック。 フォーキーで親しみやすいスウェディッシュ・タッチのメロディを軸にするところは変わらず、中世風味も交えるアンサンブルはどこまでも溌剌として明快、まるでキラキラと光の尾を引いているようだ。 時にやや感傷に流れてもプレイは鋭くアンサンブルはあくまでテクニカルである。 サウンドのエッジの利きとアタックの強いリズムなど、現代的な音楽技巧による演奏が時として曲想と比して激しすぎると思うやもしれない。 しかし、それはあくまで時代の要請に過ぎず、底流を成す、生きる上で避け得ぬペーソスをたくましいユーモアで包むヒューマンな作風は基本的に変わっていない。 ペル・ニルソンのギター・プレイはかなり饒舌だが、無邪気で人懐こい感じがするので許せる。 男性ヴォーカリストはたとえ唸っても品があってオペラもいけそうな美声テノールなのに対して、女性ヴォーカリストはコケットで甘めの声質だがややヨゴレた感じもあってロック向き。 キレのいいトンがった演奏が YES を連想させることも多い。 タイトルは「いたずら」という意味らしい。 オールドスクール・ファンにはお薦めのアルバムだ。
   ヴォーカルは英語。 再編第七作目。プロデュースはハンス・ルンデン。

  「A Map Of Your Secret World」(15:02)
  「World Of The Void」(7:49)
  「Screwed-upness」(13:06)目まぐるしい変化をクラシカルなアンサンブルでまとめた傑作。
  「Sattyg」(3:13)愛らしいインストゥルメンタル。
  「A Sky Full Of Painters」(14:42)
  「Unique When We Fall」(5:17)
  「Without Time - Beyond Time」(9:49)

(INSIDEOUT 0506968)


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