KRAAN

  ドイツのジャズロック・グループ「KRAAN」。 71 年結成。 70 年代前半は、ギターのペーター・ウォルブランドを中心に、ベース、サックス、ドラムスの不動のカルテットでアルバムを発表、後半からはキーボードを用いたフュージョン・タッチも現れるが、スペイシーで饒舌、なおかつ脱力気味という個性的なノリは一貫す。 84 年いったん解散するも、幾度か復活。 イージー・ゴーイングにして切れのある演奏が身上のサイケ・ファンキー・ジャズロック。

 Kraan
 
Peter Wolfbrandt guitar, vocals, percussion
Hellmut Hattler bass
Johannes A. Pappert sax, percussion
Jan Fride drums, congas
guest:
Romi organ on 2,4

  72 年発表の第一作「Kraan」。 内容は、ギター、エレクトリック・サックス、脱力ヴォイスをフィーチュアしたサイケデリックなプログレッシヴ・ロック。 ガツンと脳天にくるベース・リフを軸にアドリヴ合戦を飄々と繰り広げるインストゥルメンタル志向である。 ギターを中心にけっこうハードロックっぽいが、サックスがエキゾティックな節回しでなめらかに歌いリズム・セクションが細やかなビートを刻むと、怪しい世界のとば口に立っていることに気づかされる。 ビートを細かく切り刻むのになめらかなグルーヴがあるのは、名物男ヘルムート・ハトラーの超絶ピッキング・ベースのせいである。 2 曲のみゲストのオルガンを加えていて、それがまた、この時代らしい荒っぽくもまろやかないい味つけになっている。 どんなに融通無碍に風呂敷を広げても、鋭敏な感覚できっちりと始末をつける感じがいい。 1 曲目の冒頭から GONG と見まごうばかりのユルユルなスペース感覚を示す。 バカっぽいくせに抜群の演奏力に物をいわせたしなやかなグルーヴもあるところも、GONG とよく似ている。 ちょっと品がない感じやアフロ・西アジア・エスニック風味が個性である。 また、以降の作品と比べると、若干だが、もっさり感がある。 セカンド・アルバムからは、ユーモアを維持したまま、このもっさり感がカミソリのようなキレに取って代わられる。 3 曲目「Kraan Arabia」はこのグループの作風を端的に示す傑作。   
ダラダラッとしていて凶暴で、でもフザケテいて、まともなことは何一つできないが、ウソやおためごかしを許さず、世間の風をまともに受けても難なく立っていられる、そういう人たちなんだと思います。 SONIC YOUTH と何ら変わらない。 スリーヴの写真によると、ハトラーのメガネはすでに本作品の時点で確立されている。 ヴォーカルはたぶんドイツ語。2000 年の EMI の CD には 4 曲のボーナス・トラック(デモ・ヴァージョン)付き。

  「Sarah's Riff Durch Den Schwarzwald」(6:23)
  「M.C. Escher」(6:13)
  「Kraan Arabia」(9:54)
  「Head」(18:34)
  「Sarah's Auf Der Gäsewies'」(2:01)

  「Sarah's Riff Durch Den Schwarzwald」(5:56)ボーナス・トラック。1971 年デモ・ヴァージョン。
  「M.C. Escher」(6:30)ボーナス・トラック。1971 年デモ・ヴァージョン。
  「Head」(13:56)ボーナス・トラック。1971 年デモ・ヴァージョン。
  「Sarah's Auf Der Gäsewies'」(2:12)ボーナス・トラック。1971 年デモ・ヴァージョン。

(EMI ELECTROLA 7243 8 22668 2 2)

 Wintrup
 
Peter Wolfbrandt guitar, vocals
Jan Fride drums, congas
Hellmut Hattler bass, vocals
Johannes A. Pappert alto sax, percussion

  73 年発表の第二作「Wintrup」。 内容は、英国プログレの叙情性、哀愁に憧れつつも、サイケデリック・ロックの感覚をグルーヴィなジャズへと解き放ったジャズロック。 ドイツのグループらしくというかサイケらしくというか、エキゾチックな芳香をふりまくことも多い。 演奏面の特徴は、コード・カッティングもアドリヴもむちゃくちゃカッコよくラフに決めるギター、キーボード風のプレイをするサックス、ユーモラスなヴォーカルなど。 ヘルムート・ハトラーのバネの効いたベースもカッコいい。 無造作なギター・リフやヴォーカル・スタイルなど独特のルーズさをアピールするが、ハードロックでは決してなく、抜群の運動性能を活かした演奏至上のフュージョンである。 その躍動感はハンパではない。 また、CREAMVANILLA FUDGE のような延々続くアドリヴの酩酊感にまろやかな叙情性を加味してなめらかにした音といってもよく、似たようなグループは見当たらない。 初期の KING CRIMSON のような深い哀愁を垣間見せることもある。 ただし、アコースティックなバラード調はこの後の作品ではあまり見られなくなる。 ちなみに Wintrup というのはメンバーが居住していたドイツ中部の街の名前だそうです。 ヴォーカルは英語。

  「Silver Wings」(4:11)
  「Mind Quake」(7:40)
  「Backs」(6:40)
  「Gut Und Richtig」(7:33)
  「Wintrup」(5:21)
  「Jack Steam」(5:52)
  「Fat Mr.Rich」(5:43)ボーナス・トラック。

(EMI ELECTROLA 7243 8 22669 2 1)

 Andy Nogger
 
Peter Wolfbrandt guitar, vocals
Hellmut Hattler bass, vocals
Jan Fride drums, percussion
Johannes A. Pappert alto sax

  74 年発表の第三作「Andy Nogger」。 初期の大傑作。 内容は、饒舌なベース、堅実なドラミング、しなやかなギターとメロディアスなサックスらによるイケイケ・ロック。 大脳古皮質からの導きのままにリフでドライヴする演奏は、若々しく熱っぽく、脱力系のユーモアも交じりあう。 ジャーマン・ヒッピーな紫色の音にインド/アラビア風味のスパイスを効かせた上に、ソウルな黒いファンクネスの配合も絶妙である。 デヴィッド・アレンがインドで GONG を結成していたらこうなっただろう、なぞと下らないことをいっている場合ではない。 まさしくどこにもない逸品なのだ。 タフな演奏力は、今でいえば間違いなくジャム・バンド。 100% ライヴ向けのバンドです。

  「Stars」(5:24)腰の据わったサックスが取り回すエスニック・サイケ・チューン。 クチャクチャなギター・カッティング、ヨレたヴォーカルでステップを踏みながら突っ走る。 アラビア風味もあり。 ギターがカッコいい。

  「Andy Nogger」(3:47)8 分の 7、10 拍子を巧みに交えたノリノリのライト・ファンク。 初期の AEROSMITH が限りなくスットボケた感じ。 ノイジーににじんだ効果音のような音はエレクトリック・サックスだろうか。 リズム・セクションそのものよりも、ギターのリフが全体のノリを制御していると思う。

  「Nam Nam」(5:48)ファンキーなリフとソロ回し、ギター/エレクトリック・サックス爆発の傑作。 パワフルです。 リズム・セクションのキレもいい。 終盤に向け、すごい勢いで演奏が集中してゆく。

  「Son Of The Sun」(5:02)けだるくユーモラスなロカビリー調のナンバー。 スライド・ギターをフィーチャー。 カッタるい歌とは対照的に、切れ味鋭いドラムスに注目。 なぜか、終盤突然宇宙へ飛んでゆく。

  「Holiday Am Marterhorn」(7:40)メロディアスなギター、サックスが冴えるジャズロック。 哀愁あるテーマを歌い上げながらも、全体としてはきわめてテクニカル。 後半へ向かうにしたがい、緊張感とハードなタッチが強まる。 IL VOLO なんかにも近いような気がする。

  「Home」(5:43)

  「Yellow Bamboo」(4:25)ストレートなビート感が、ハードロック的なニュアンスをもつ作品。 もっとも、そのビートが怪しく、中近東なサックスとともに次第に酩酊感を生んでゆく。

(EMI ELECTROLA 7243 8 22670 2 7)

 Live
 
Peter Wolfbrandt guitar, vocals
Hellmut Hattler bass
Jan Fride drums
Johannes A. Pappert alto sax

  75 年発表の「Live」。 初期作品から選曲によるライヴ盤。 74 年ベルリン録音。 スピード感、力強さ、暖かみ、軽やかさ、ユーモア。 すべてが傑出した圧巻の LP 二枚組。 メロディアスなサックス、クランチなギター、切れ味鋭いベースらによる演奏には、ファンキーにしてしなやか、そして心地よい酩酊感あり。 軽快でグルーヴィな演奏はロックのヘヴィネスの対極に位置しており、孤高というべきロックの究極である。 現代でも十分ウケそうな音です。 英国盤はジャケ違い。

  「Jerk Of Life」(5:09)
  「Nam Nam」(15:09)
  「Holiday Am Marterhorn Including Gipfelsturm」(12:59)
  「Sarah's Riff Durch Den Schwarzwald」(6:00)
  「Andy Nogger」(3:30)
  「Andy Nogger - Gutter King」(6:59)
  「Hallo Ja Ja, I Don't Know」(10:18)
  「Lonesome Liftboy」(5:12)
  「Kraan Arabia」(12:30)

(EMI ELECTROLA 7243 8 22671 2 6)

 Let It Out
 
Peter Wolfbrandt guitar, vocals
Hellmut Hattler bass
Jan Fride drums
Johannes Pappert alto sax
Ingo Bischof keyboards

  76 年発表の「Let It Out」。 キーボーディストが加入し、サウンドはさらになめらかなジャズロックへと進む。 クラヴィネットや饒舌なベースらによるリズミカルなリフに支えられ、ムーグとサックスが、エレクトリックにしてつややかなメロディを歌い上げる。 モダンなポップ・テイスト、そして抑えの効いたグルーヴィなプレイが生むロマンティックな味わい。 うっすらとしたペーソスすら漂っている。 オーソドックスななかに音色へのこだわりとアイデアを見せるフュージョン/ジャズロック、ブルージーでサイケデリックなハイテク・ロック、音響実験風の作品など、バラエティに富む内容を、ファンタジックにして流れるような筆致で描いた傑作である。 甘ったるいスムース・ジャズやファンキー馬鹿フュージョンとは、百万光年くらいはなれている。 ハイテクのキメだけがカッコいいわけではない。 ポップな口調で宇宙を語るような小粋なスタンスこそ、カッコいいのである。 おそらく、このエクスタシーの感覚は、プログレ・ファンにこそ伝わると思う。 ロック・ジャズの名品。

  「Bandits In The Woods」(4:19)小気味いいギター・カッティング、うねるベースライン、死んでるヴォーカルはそのままに、キーボードのスウィートな彩りが新鮮な作品。 彼等は間違いなく R&B の真髄を知る。

  「Luftpost」(5:17)ノリのいいロック・インストゥルメンタル。 プログレ色の強まり、というイメージがキーボードのおかげであることがよく分かる。 位相系エフェクトとシンセサイザーのブレンドだろうか、独特のエレクトリックな光沢が気持ちいい。 手数が多いのに落ちつきのあるドラムスもいい感じだ。

  「Degago」(4:57) シンセサイザーをフィーチュアしたジャジーなフュージョン・ポップ・チューン。 ブラジリアン・テイストもある、デリケートで若々しいサウンドです。 それにしても何語だ、これは?

  「Prima Klima」(4:42)サックスとキーボードが小気味いいユニゾン/ハーモニーで走るジャズロック。 前半はキーボード・ソロ、後半はサックス・ソロ。 音を歪ませたサックスがカッコいい。 インストゥルメンタル。

  「Let It Out」(6:14) ワウを用いたロック・ギターとジャジーなローズ・ピアノのインタープレイが快調なジャズロック。 ソロが大きくフィーチュアされる。 バカっぽさを除くと米東海岸っぽいイメージ。

  「Die Maschine」(4:43)音響実験風の作品。 ドイツらしくはあるが、KRAAN としては異色。

  「Heimweh Nach Ubersee」(3:10) 正統的なフュージョンに、謎めいたリフレインやアラビック・テイストを散りばめる小品。 佳作。 インストゥルメンタル。

  「Picnic International」(5:22) グルーヴィなフュージョン、ただし音はサイケデリック。 インストゥルメンタル。

(EMI ELECTROLA 7243 8 22672 2 5)

 Wiederhören
 
Peter Wolfbrandt guitar, vocals
Hellmut Hattler bass
Jan Fride drums
Ingo Bischof keyboards

  77 年発表の「Wiederhören」。 サキソフォニストが脱退し、四人編成へ。 エレクトリック・キーボードを活かしたリズミカルなサウンド作りが進み、より「フュージョン」タッチが強まる、というかフュージョンである、少し変な。 特に、キーボード主導によるファンタジックかつメローな表現が増えた。 そして、テクニカルなキレやズシンと響くヘヴィネスもしっかりと打ち出している。 こういうストレートな(マジメな?)アピールは、このグループらしくないが、やってしまうと確かにすごい。 いったん全開になれば、それはもう AREA か、はたまた中期 RETURN TO FOREVER かというほどの、すさまじいアンサンブルである。 というか、あえてそういう技巧偏重的なフュージョンのパロディを繰り広げてシーンに尻を向けてアッカンベーをしているのだと思う。 そして、技巧やエモーショナルな面をバカっぽさで一括りにして痛快に仕上げているのだ。
   キャッチーなテーマのボトムを支えるリズムの凝り方もすごい。全編音数を惜しまない上に、要所で放つ高速変拍子打撃がまたすごい。 そして、あまりに饒舌なベース・ラインとバッキングでもソロでも何でもこいの技巧派ギターはここでも健在。 ヘヴィなジャズロックやキーボード中心の演奏によるけだるくもしっとりと叙情的な世界に加えて、これまでの得意技であった軽やかにグラインドするインストもの、脱力系の歌ものもしっかりと披露している。 全体に、ヒネリがこれまでほどではない分やや普通っぽい感じになっているのは否めないが、「Goodbye」というタイトルが象徴するバンドの変革期にしては、みごとな内容といえるだろう。 ヴォーカルは英語。

  「Just One Way」(4:00)ポップなジャズロック。 変態っぽい歌と小気味よく跳ねる演奏による独特のユルさが気持ちいい。シンセサイザーはクリスマスの夜に降りしきる雪のようだ。
  「Vollgas Ahoi」(6:07)あまりに走るので拍が跳んでしまうような快速超絶テクニカル変拍子チューン。 共鳴の果て世界のすべてが振動し始める。インストゥルメンタル。
  「Silky Way」(3:58)
  「Rendezvous In Blue」(5:56)スイングする小粋なインストゥルメンタルぶったテクニカル・チューン。3連がカッコいい。 PFM のセンスに近いと思う。
  「Let's Take A Ride」(5:19)普通のジャズロックで終わらせないかったるいヴォーカルに拍手。
  「Rund Um Die Uhr」(3:45)「変さ」と「テクニカル」が勝負して僅差で前者が上回る快感。ギター全開。
  「Yaqui Yagua」(5:19)ジェットマシンで飛び捲くるプログレな傑作。「Yaqui Yagua」の連呼は焼き芋屋か豆腐屋といった街場の物売りのようだ。
  「Wiederhören」(7:13)力のぬけた人懐こいテーマがいい。やはり PFM と同質の技巧と素朴な音楽の魅力の絶妙の均衡がある。シンセサイザー・ソロのサウンドとキレが抜群。

(FUNFUNDVIERZIG 105)

 Tournee
 
Peter Wolfbrandt guitar, vocals
Ingo Bischof keyboards
Udo Dahmen drums
Hellmut Hattler bass

  80 年発表のライヴ盤「Tournee」。 サイケデリック・ロックの酩酊感、ハードロックの疾走感、プログレの宇宙志向、フュージョンのアダルトで都会的なロマンチシズム、そういった 70 年代ロックのすべてのブレンドが味わえる傑作である。 脱力系のユーモアを底辺に置きつつ、シャープにテクニカルに迫る。 味わうべきは、ヘルムート・ハトラーのバネのようなベースを中心に繰り出されるロックの提供可能な最上級のグルーヴである。 その全力を振り絞った感じから、70 年代に活躍した多くのミュージシャンがそうであったように、80 年代を迎えて、一度活動に区切りをつける、自らに決着をつけるために発表したライヴ盤という意味合いもあったのではないかと推察する。 徹底したバカっぷりを貫いた 70 年代をふと振り返り、我にかえったというか、大人になったというか。 あくまで変態っぽいジャケットながらも、そういったある種悲壮な心境もあったのかもしれない。 子どものままでいれば、将、金の亡者のビジネスマンと化していれば、アリーナ・ロックにも抵抗はなかったと思うが、そういうところでとどまれないほどに、弾けるし尖っていたのである。 そういうところが好きである。

  「Borgward 」(8:25)
  「Almrausch 」(6:09)
  「Peterchens Reise 」(7:03)
  「Vollgas Ahoi」(8:08)
  「Yaqui Yagua 」(8:08)
  「Silky Way 」(4:47)

(FÜNFUNDVIERZIG 107)

 Dancing In The Shade
 
Peter Wolfbrandt guitar, vocals
Joo Kraus trumpet, keyboards, EVI, sequence & drum-programming
Jan Fride drums
Hellmut Hattler bass

  90 年発表の「Dancing In The Shade」。 キーボーディストが脱退、新たに管楽器奏者兼鍵盤奏者を加入させる。 内容は、コンテンポラリーなポップスに秋波を送りつつもこのグループらしいサイケ/宇宙感覚も見せるグルーヴィなメインストリーム風ロック。 よく練られたキャッチーなテーマをタイトでダイナミックなアンサンブルで送り出す、なかなかぜいたくな音楽である。 特に冒頭 2 曲はシングル・ヒットを狙ったといわれても驚かないほどの高品位ポップ・ロック。 得意のエキゾチックなムードもこっちはサイケ時代からの筋金入りであり、ワールド・ミュージックばやりの世間がようやく追いついたのだ。 ニューウェーヴ風のチープシックなビートやグラマラスなタッチもあり。 タイトル曲はレゲエ。 10 曲目「Krann Mooloo」はスペイシーでロマンティックな佳作。突然真面目になってこんな風にささやけば、どんな娘でも堕ちるでしょう。 全体に、デヴィッド・ボウイがリラックスしたときの作風を思い出させる内容である。(歌がヘタだからか?)

(SPV 304392 CD)

 Live 2001
 
Peter Wolfbrandt guitar, vocals
Ingo Bischof keyboards
Jan Fride drums
Hellmut Hattler bass

  2001 年発表の「Live 2001」。 結成 30 周年記念ライヴから収録。 内容は、快速快調にしてスペイシーでイマジネーションあふれるテクニカル・クラウト・ロック。 フュージョンのようでフュージョンでない(「Dinner For Two」のようにわざとそれ風におちゃらけているところはあるが)、ブルージーでジャジーな夢見るファンキー・ロックである。 名曲「Borgward」、「Yaqui Yagua」が入っているのがうれしい。 歌ものも含め、極上のグルーヴにいささかの乱れもなし。 ヒップホップ・テイストも 30 年前に先取り済みだし、ヤン・ハマーやスティーヴィ・ワンダーばりのキーボード・プレイも冴える。 音楽的な洗練は「ケチ臭さ」につながりがちだが、ここにはそれはない。 「引き算の美学」なんて弾けない奴の戯言だし、「テクニック志向」なんて洒落の分からないバカモノの寝言である。 うまいんだからとにかく目一杯弾いていただきたいし、抜群のユーモア・センスがあるのだから目一杯おちゃらけてほしい。 70 年代末くらいから TOTO のように技巧を思い切りロックに持ち込んだグループが現れたが、どれもいま一つ音楽的に垢抜けなかったのは、誰もこのグループのような「洒落っ気」や「陽気なシニシズム」や「ダメダメな感じ」を持ち得なかったからだと思う。 不真面目でだらしないけどカッコいい、それこそがカッコいい。 シンセサイザーはいい音で唸りをあげているし、ドラムスもグルーヴの神に惜しげなくビートを捧げている。 もちろん、触ったら指が落ちそうなほどに弦を張り詰めたベースも全開。

  「Let It Out」(6:27)
  「Borgward」(8:31)
  「Let's Take A Ride」(5:17)このキレのよさにこのカッたるさ。名演。
  「Hallo Jaja - I Don't Know」(7:36)
  「Vollgas Ahoi」(6:02)-DISCIPLINE-KING CRIMSON 風のフュージョン。変拍子にして爽快に突き抜ける。
  「Dinner For Two」(1:34)カシオペア?いやジャコ・パストリアスの向こうを張る超絶一発芸。
  「Far West」(4:24)ギターとシンセサイザーがそれぞれによく歌うメロディアス・フュージョン。
  「Yaqui Yagua」(7:19)宇宙へ旅立った GONG と同質の精神を感じさせるファンキー・チューン。
  「Jerk Of Life」(4:18)
  「Nam Nam」(14:28)
  「Andy Nogger」(3:54)

(SPV 304402 CD)


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