LEB I SOL

  マケドニアのジャズロック・グループ「LEB I SOL」。 ユーゴ最強のジャズロック・グループであり、国民的な人気を誇ったそうだ。 70 年代後半から 80 年代にかけて活躍し十枚のアルバムを残す。 グループ名は「パンと塩」の意らしい。

 Leb I Sol
 
Vladimir Stefanoski guitar, vocals
Nikola Dimusěvski keyboards
Bordan Arsovski bass
Garabet Tavitijan drums

  77 年発表の第一作「Leb I Sol」。 内容は、メローでキャッチーなテーマをテクニカルなキーボードとギターで展開してゆく典型的なジャズロック。 官能を刺激するサウンドであり、ギターとキーボードによる激しいせめぎあいとメロディアスで優美なアンサンブルがシームレスにつながりドラマを構成する。 歌ものによるリリカルな彩りも申し分なし。
   キーボードは、ムーグ・シンセサイザー、ローズ、クラヴィネットが主で、アクセントにメロトロンを使用。 ギターは、フュージョン・スタイル一歩手前で、ゴツい切れ味がカッコいいバカテク型。 ストラト・キャスター特有の味のある音を駆使し、甘いフレーズを野暮ったくさせないセンスの持ち主である。 エレキのみならずアコースティック・ギターも用いている。 さらに注目すべきは、ジャジーにして猛然たる手数を誇るドラムス。 ジョン・マーシャルを細身にしたようなテクニシャンだ。
   これらのプレイを組み合わせ大胆な複合拍子/ポリリズムでドライヴしてゆく演奏は、パズルのような複雑さをもちながらも、非常にスリリングである。 一方、ヴォーカルとメロトロンによるエモーショナルで叙情的な演出も申し分なく、シンフォニックといってもいい悠然たる高まりもある。 このメリハリのおかげで、アルバムの印象が、ファンキーなフュージョンとはやや趣を異にする、プログレッシヴ・ロック的なドラマ性を感じさせるものになっている。 楽曲はコンパクトだが、そこへアイデアあふれるアレンジと密度の高いソロとインタープレイを詰め込んでおり、聴き応えは充分だ。 曲想もテクニックも 100 点であり、ジャズロックらしいテクニカルな忙しなさの中に優雅な歌心が感じられるところがすごい。 ジャズロック・ファンには無条件でお薦め。 ヴォーカルはおそらくマケドニア語。

  「Devetka」(4:30)官能的なギターのテーマを技巧的なアンサンブルで変奏する傑作。 8 分の 9 拍子のリフへ、ギターのテーマがカノン風に重なるポリリズミックな演奏に驚かされる。 中盤はムーグ、エレピによるジャジーなプレイが続く。 クラシカルな技法を取り入れたおもしろい作品である。

  「Pod Vodom」(4:58)エレピ伴奏のもと、ムーグとギターによる爆発的なソロ合戦。 細かくせわしないパッセージでユニゾン、ハーモニー、ソロ/バッキングを奔放に跳ね回る、スピード感ある演奏である。一気呵成。目が回ります。

  「Utrinska Tema」(3:20)アコースティック・ギター、ピアノの伴奏によるメローなバラード。 後半の歯切れいいギターがカッコいい。

  「Kokoska」(5:00)冒頭ドラム・ソロから 16 分の 7+9 拍子によるギター/エレピ・リフのドライヴする快調な演奏へ。 中盤は、跳ねるクラヴィネットの伴奏とサスティンを効かせて歌うギターの一種ユーモラスなコンビネーションから、快速ギター・ソロへ。 ギターはシーケンサーのようなスケール速弾きを見せる。

  「Nisam Tvoj」(3:20)AOR 調の悩ましげなバラード。エレピ、ギターが密やかなバッキングを見せ、サビではヴォーカル・ハーモニーをメロトロン・ストリングスの響きが支える。ギターとエレピのデュオも珍しく抑えが効いた大人なプレイを見せる。

  「U Senci」(3:41)緊迫感あるアンサンブルとファンキーなテーマがコントラストする BRAND XISOTOPE 系ジャズロック。 饒舌なギターが走り、エレピが受けに回る前半。 スペイシーな音響効果もはさんで、優しげな表情も現れる。

  「Cudo Za Tri Dana」(2:50)アコースティック・ギター弾き語り風のセンチメンタルなバラード。 素朴なフォーク・タッチのヴォーカル・ハーモニーを彩る枯れ果てたメロトロン・フルートがいい。 終盤はまるで ALICE ? のようなギター・ソロとたゆとうエレピ。 まさに 70 年代。 東欧圏のポップスについていつも思うことは、音楽的な洗練度合いでは英米の一流作品とそん色がないこと。 イタリアン・ロックよりも垢抜けている。

  「Pesma O Sonji H...」(5:09)ロマンティックで重厚なピアノ、フェイザーでにじむギターによる安らぎのメロディアス・フュージョン。 西海岸モノのような王道スタイルである。 前曲でもアクセントだったフルート風のメロトロンが後半では主役も張る。

  「Damar」(3:28)湧き立つリズムが心地よいキャッチーで洗練されたフュージョン。 ギター、キーボードによる軽めのロック調のテーマとそれを支える躍動感あるベース、ドラムス。 ギターは軽やかに爽やか系のフレーズを決め、アクセントはアナログ・シンセサイザーに任せている。 ベースもいい感じにフィーチュアされている。 メロトロン・ストリングスのさりげないオブリガートもあり。

(LP 5319)

 Leb I Sol 2
 
Vladimir Stefanoski guitar
Nikola Dimusěvski keyboards
Bordan Arsovski bass
Garabet Tavitijan drums

  78 年発表の第二作「Leb I Sol 2」。 迸るようなプレイを明確な曲想へと注ぎ込んで勝負した傑作。 快調にすっ飛ばす演奏を随所に見せつつ、全体としては、メランコリックな作風となっている。 そして、RETURN TO FOREVER 直系のサウンドながらも、引き締まった緊張感とともに豊かな音色と歌心=ポップ・テイストがある。 そこが特徴だ。 ギターやシンセサイザーは、王道的なテクニシャンにして饒舌で軽やかなノリがある。 ファンキーさよりは、無茶な突っ走りを全員で楽しむといった風情であり、マインドはハードロックに近いのかもしれない。 ギターは、圧倒的なテクニックを難なくブチかます凄腕。 また、ファンタジックな広がりを見せるストリングス・シンセサイザーやつややかなムーグはまさしくプログレ。 そして、他のプレイヤーがロック出身らしいのに対して、ドラムスだけはジャジーな豪腕すなわち「コブハム」路線である。 5 曲目はジェフ・ベックを思わせる猛烈な快速ハードロック・インストゥルメンタル。 7 曲目でさらに爆発する。 フォーク色の強い歌ものも魅力的。 AOR 風のアレンジにもかかわらず、土臭く哀しげなメロディ・ライン。 これを地中海・バルカン風味というのだろうか。 P.F.M の「Suonare Suonare」を思わせるところもあり。 番号は 2in1CD のもの。

  「Akupunktura」(4:08)ロマンティックでメローな曲想を爆発的なプレイで実現したジャズロック。 序奏のエレガンスと切なげな風情は、一気に風を巻いて飛ぶような表情へと発展する。 しなやかに疾走するギター、ファンタジックに迫るシンセサイザー。 アルバム・エンディングのような吹っ切れ方です。

  「Kako Ti Drago」(3:58)シンセサイザーをフィーチュアしたファンキーでミニマルな作品。

  「Aber Dojde Donke」(4:49)ストリングス・シンセサイザーがほとばしる哀愁チューン。 ハードロック風のギターとエキゾチズムを醸し出すエレピの濃い目の絡み、そして奥行きが微妙なストリングスの音が B 級プログレっぽいくていい。 リズムレスであり、ドラムスはひたすら乱打。

  「Talasna Duzina」(4:09)70 年代らしいジャジーな歌もの。 若々しい思いがつまっている。 ハードボイルドにして茶目っ気もあるのが最高にスタイリッシュだった時代の音だ。 ストリングス・シンセサイザーはメロトロンの代わりか。

  「Dikijeva Igra」(4:09)変拍子テクニカル・ハードロック・インストゥルメンタル。変な低音はナンだ?

  「Uzvodno Od Tuge」(4:10)キーボードをフィーチュアした優美でエレガントな作品。ギターはアコースティック。

  「Marija」(6:30)一曲目に似てファンタジックでメローな曲想をジャズロックらしいバカテクでラフに膨らませた傑作。 BRAND X 的沸騰。 アコースティック・ピアノのアドリヴもカッコいい。

  「Bonus」(1:34)アコースティック・ギターによる埋め草。

(LP 55-5335 / CD 2036)

 Ručni Rad
 
Vlatko Stefanoski guitars, vocals
Koki Dimusěvski piano, synthesizer, Mellotron
Bordan Arsovski bass, double bass
Garo Tavitijan drums
Milivoj Markovic alto & tenor sax

  79 年発表の第三作「Ručni Rad 」。 内容はロマンティックでファンタジック、しかし挑戦的な表情も印象的なジャズロック。 サックスが加わり、全体にややリラックスした曲調となる。 ヴォーカル曲もある。 変拍子を難なくこなすテクニックの冴えと奔放さは叙情性を深める方向で生かされていて、その結果、安定感が抜群、表現に余裕のある演奏になっている。 ポップになった、普通のフュージョンになった、といっても間違いではないが、本作の凄みは、耳にして素直に「いい」と思える作品が多いこと。 曲想と音色、プレイ、アンサンブルのすべてが(さながらジャケット・アートのように)うまく織り合わされて楽曲に実を結んでいるのだ。 これならば国民的な人気を博したのもうなずける。 フュージョンに大人向けの品よく洗練されたポップ・テイストを盛り込むという点で、WEATHER REPORT の成果を上回っていると思う。 最終曲のようなロマンティックで官能的な作品は多くのフュージョン・グループが手がけているが、そこにしっかりと若々しいファンタジーの趣き(CAMEL に近いといってもいい)が保たれているところが、このグループを際立たせている点である。 大人になったが少年の心も忘れていないというと紋切りセリフで陳腐だが、まさにそういうジャズロック、フュージョンである。 アルバム・タイトルは「手芸」の意味。 ジャケットにこめられたメッセージもほほえましい。

  「Lenja Pesma」(4:00)
  「Rebus」(5:20)きらめきながら迸る、キャッチーなジャズロック。鮮やか過ぎる。
  「Hogar」(4:30)
  「Ručni Rad」(5:03)
  
  「Kumova Slama」(5:30)
  「Put U Vedro」(5:20)
  「Verni Pas (Posvećeno Mojoj Mačkici)」(6:09)

(LP 55-5372)


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