MANFRED MANN CHAPTER THREE

  イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「MANFRED MANN CHAPTER THREE」。マンとマイク・ハグの双頭グループ。69 年デビュー。作品は二枚。ジャズロックを志向したマンフレッド・マンの第二号グループ。70 年に MANFRED MANN EARTH BAND に向けて発展的に解散。

 Manfred Mann Chapter Three(Volume One)
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Manfred Mann organ, whistle
Craig Collinge drums
Steve York bass, guitar, harp
Bernie Living flute
Mike Hugg piano, vocals
guest:
Harry Beckett trumpet on 6
Brian Hugg guitar on 4

  69 年発表のアルバム「Volume One」。 内容は、ブラス・セクションをフィーチュアしたブルージーなジャズロック。 倦怠した重苦しさが基調だが、要所をサスペンスフルなモダン・ジャズのセンスとクールな R&B テイストで締めるところが特徴。 ギターの存在感が希薄で(活躍していないわけではなく、ファズを効かせたアクセントやアルペジオのバッキングなどアドリヴにはみ出さず役割を守っている感じ)、管楽器とオルガン、ピアノがフロントで演奏をリードする演奏スタイルはこの時代のジャズ志向のグループによくあるものだ。 ブラスはパワフルに前面に押し出されるだけでなく、時にバッキングでアブストラクトで不気味な響きをたたえ、時に KING CRIMSON のようにダルなフリージャズ風のプレイで度肝を抜いてくる。 フルートも暴れ方はかなり大胆だ。 そして、ブラスのパンチを少し抑えると、弾き語り風のギターとともに一気に 60 年代以前のフォーキーなポップスやビートのスタイルとなる。 ブラスのみならず、ピアノやオルガンのオブリガートもピリッとしていてカッコいい。 また、フリーフォームに近い余白を取って、ソロやアンサンブルを発展させるところもいい。 まさに、これこそがプログレらしさである。(そういえばさりげない変拍子もある) とにかく、緩めのようでいて、全体のアレンジのきめが細かい。 従来のさまざまなポピュラー・スタイルを管楽器のサウンドと先鋭的なアレンジで新たにとらえ直した作品といえるだろう。 サイケデリック・エラを引きずる、けだるく少しラリっているようなヴォーカルを、ドラッグによる虚脱状態と見るか、ストイックなクールネスの体現と感じるかで、好みを分けそう。

  「Travelling Lady」(5:52)
  「Snakeskin Garter」(5:50)
  「Konekuf」(6:00)
  「Sometimes」(2:40)
  「Devil Woman」(5:28)
  「Time」(7:29)ハリー・ベケットのトランペットをフィーチュア。
  「One Way Glass」(3:35)キャッチーなブリティッシュ・ロックの名品。
  「Mister You're A Better Man Than I」(5:12)けだるく夢想的なバラード。ギター・ソロ、クラシカルなハープシコードのソロがみごと。 初期 KING CRIMSON の叙情作に通じる、雰囲気のある作品だ。(同じ時代のジャズロック志向ミュージシャンとしての共通感覚だろう)
  「Ain't It Sad」(2:00)
  「A Study In Inaccuracy」(4:08)
  「Where Am I Going」(2:55)
  
(847 902 VTY/ MANN 001)

 Volume Two
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Manfred Mann organMike Hugg vocals, piano, electric piano
Bernie Living alto saxSteve York electric & acoustic bass
Craig Collinge drumsDave Brooks tenor sax
Clive Stevens soprano sax, tenor saxSonny Corbett trumpet
David 'Dozy' Coxhill baritone saxBrian Hugg acoustic guitar, backing vocals
guest:
Harry Beckett trumpet on 3Jerry Field violin on 3
Andy McCulloch drums on 5Conrad Isadore drums on 6

  70 年発表のアルバム「Volume Two」。 内容は、管楽器をフィーチュアしたジャズロック。 ブルーズ・ロック、R&B を基調とし、管楽器セクションの拡充によって、より重厚な音に彩られた、ポップさとアヴァンギャルドが拮抗するロックへと進化した。 分厚くなめらかなブラスは、けだるくブルージーなヴォーカルに華やぎを与え、挑戦的なサックスのアドリヴに対してすら気高い包容力を見せる。 このブラスを徹底的に大胆にアレンジに応用する(どこにでも突っ込む、といってもいいかもしれない)ところが本作の特徴である。 マイク・ハグ作の楽曲は、けだるいのにどこか暴力的でアナーキーなタッチであり、相反する要素をぶつけてスケール感を生むのが得意である。 マイク・ハグは個性的なヴォイスに加えてピアノのアドリヴでも鋭いきらめきを見せる。 一方、キャッチーなスパイスを効かせるのがうまいマンの作曲は共作含め二曲にとどまる。 オルガンの見せ場が限定されてしまっているのが残念。 また、ハグの作風を大胆にフィーチュアする作戦は決して悪くないが、黒っぽい悪声ヴォーカルとリリカルなブラス・サウンドやコマーシャルな要素とが対比の効果を越えて乖離していると思う。 これが弱点として際立つようになってしまったのが敗因か。 ベース・アレンジにマイク・ギブスの名前が見える。

  「Lady Ace」(8:01)中盤に大きくブラスをフィーチュアしたキャッチーなブルーズ・ロック。サビが物憂いフォーク調なのがおもしろい。中盤はブラスによる痛快な展開。メイン・パートのけだるさを演出するトランペットもクールでカッコいい。
  「I Ain't Laughing」(2:37)アコースティック・ギターのアルペジオが意外に目立つフォーキーな小品。 この透き通った冬の空気のような触感は英国ものならでは。
  「Poor Sad Sue」(5:57)ハードでヘヴィな歌ものジャズロック。ファズの効いたリフは何の楽器だろう。 ヴァイオリンのオブリガートが美しい。ピアノもフィーチュア。中盤は大胆にも管楽器の即興スペースと化し、そのせいで破格な印象となる。
  「Jump Before You Think」(4:51)パーカッションの効いたエキゾティックな作品。ファズ・ベースも圧巻。 主役はエルトン・ディーンばりのシャープなサックス。インストゥルメンタル。アフロ・タッチの SOFT MACHINE だ。
  「It's Good To Be Alive」(3:33)謎めいた広がりのあるスロー・バラード。 ゲイリー・ピックフォード・ホプキンスを思わせる悠然たる歌唱、控えめながらも押し上げるブラス、ベース、ピアノ。 トランペット・ソロはモダン・ジャズのクールネス、そしてメロトロン・ストリングス風の音はオルガンか。 この雰囲気は英国ロックならでは。 ハグ、マン共作。
  「Happy Being Me」(15:56)野太くワイルドなビートでドライヴされるアドリヴ合戦を貫くドラマ。スチーブンスのソプラノ、テナーがフラジオも交えて暴れる。マンのパーカッシヴなオルガンもようやく現れる。 長調に転調したカレッジ・フォーク調のむやみにキャッチーなテーマも印象的。アメリカン・ロック風のエネルギッシュさなのに全体として無常感が強いところが英国流。 ヴァイオリンも参戦している。 ギターのカッティングが聴こえるが、誰?
  「Virginia」(4:52)マン作。フォーキーなビートポップと不協和音気味のブラスを衝突させる大胆な作品。オルガンは歪み切ったすごい音だが、オブリガートのセンスは抜群。

  以下 CD ボーナス・トラック。
  「I Ain't Laughing」(2:37)モノラル録音。
  「Happy Being Me」(4:04)シングル・ヴァージョン。モノラル録音。
  「Virginia」(3:35)オルタネート・ヴァージョン。ピアノおよびソプラノ・サックスのアドリヴがない。
  
(6360012 / MANN 002)


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