MAY BLITZ

  イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「MAY BLITZ」。 BAKERLOO のリズム・セクションを母体にして、69 年結成。71 年解散。 ギター・トリオによる妖しきプロト・ハードロック。

 May Blitz
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Tony Newman percussion, durms, vibes
Reid Hudson bass, vocals
James Black guitars, 12 string, vocals

  70 年発表のアルバム「May Blitz」。 内容は、虚脱感あふれるサイケデリックなハードロック。 ブルーズ・ロックらしい熱気がないわけではないが、基本的に冷ややかで翳がある。 エコーの中で燃えている炎が青白いのだ。 予想もつかない躁鬱の変化など、現代の基準ならばストーナー系と分類されそうな内容である。
   エレクトリック・ギターはほとんどクリーン・トーンであり、12 弦のアコースティック・ギターをかき鳴らすことも多い。 醒めたヴォーカル・ハーモニーとうつむきがちな表情などは弾き語りフォークから来たものだと思う。 とはいえ、アコースティック・ギターでも暴走気味のアドリヴを放つので単純にフォークの延長上にあるとはいえない。 フォークの素養はあるがそこから先に進むためによりへヴィで不安定なものを希求したのだろう。 一方、シンプルでクランチなリフとクリーン・トーンの相性は抜群にいい。 トレモロによる幻惑的な揺らぎも活きる。 また、シンプルなギター・フレーズをリフやオブリガートにまとめるのが非常にうまい。 ドラミングはパワフルながらもフロア・タムやシンバルを効果的におり交ぜる技巧的なスタイルであり、いわゆるハードロックの単純なビート提供にとどまらない。 ギターやヴォーカルに敏捷に反応して、手数多くなおかつ安定感抜群のプレイでストーリーテリングを支えている。 そして、アクセントとして使われるヴァイブも温度を下げるのに役立っている。 冷ややかさにはサイケデリック由来だけではなくジャズ由来のものもあるということにここで気づく。 ベーシストは、いかにもトリオ構成らしく、要所でハイトーンを駆使してギターに負けないプレイを放っている。 ベースからギターに持ち替えているところもあるようだ。
   扇情的でギラついた感じはジミ・ヘンドリクスと共通し、伸びやかなヴォーカルやワウ・ギターのプレイには CREAM と同じ若々しさがある。 しかし、それでも万事陰鬱であり、凶暴さは内に秘められている。 荒々しくも理知的なイメージがあるのは、本来生臭く油ぎったブルーズ・テイストをさまざまな工夫でクールなメランコリーへと変貌させているからだろう。 アコースティックな音の使い方のうまさ、オーヴァーダビングも駆使してさまざまな音楽性を個性としてまとめる手腕など、卓越したセンスというべきだろう。 サウンドは異なるが新しい音の追い求め方の熱さや深さはジェフ・ベックのグループに通じると思う。
  プロデュースはグループ。 傑作。

  「Smoking The Day Away」(8:20)60 年代テイストあふれるサイケデリックで暴力的なハードロックの傑作。 勢い一発勝負、シンプルなドラマを陰陽を際立たせた思い切ったタッチで描き切っている。 弾けるリフとうねるベース・ラインと潔いまでに雄々しく暴れまわるドラミング。 そして、アグレッシヴなのに茫洋とした表情を湛えるヴァースよりも、サビの方がさらに解脱の果ての空しさを漂わせて呆然としているという逆説的展開。 ヴァースのオブリガートや中盤の強烈なインスト・パートなど、アコースティック 12 弦ギターが巧みに重ねられている。

  「I Don't Know」(4:50)パワー・トリオらしいジャジーなへヴィ・ロック。 より 70 年代らしい独創性のあるハードロックである。 ベーシストもギターをプレイしているようだ。 シンバル・ワークからタム回しまでドラマーの丹念なプレイもよし。 CREAM 直系。

  「Dreaming」(6:43)無常感を漂わせつつもロマンチシズムを感じさせるバラードから狂乱のアドリヴへ、タイトル通り支離滅裂な展開を見せる。 中盤の爆発力を活かした演奏がすごい。 ドラムスはほぼ爆撃。

  「Squeet」(6:55)CREAMLED ZEPPELIN の間に位置する風格あるハードロック。 独特なリズム・アクセント。 ペンタトニック・スケールのアドリヴがジャズから来ていることがよく分かる。

  「Tomorrow May Come」(4:49)繊細な情感がにじむバラード。ヴァイブがみごとな効果を上げている。

  「Fire Queen」(3:27)本作ではキャッチーな部類に入る作品。アーサー・ブラウンのヒット曲をジミヘンのヒット曲風にやっている感じ? イントロ含め随所でドラムスが冴えたドラミングを披露する。

  「Virgin Waters」(5:22)プレイの生むカタルシスを超越して、ドラマを描くことに徹した名曲。 CRESSIDA などのオルガン・ロック・グループが得意としたドラマティックな曲をオルガンの代わりにギターで演出した作品といえばいいだろう。
  
(VERTIGO 6360007)

 The Second Of May
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Tony Newman percussion, durms, vibes
Reid Hudson bass, vocals
James Black guitars, vocals

  71 年発表のアルバム「The Second Of May」。 ハードロックとしての明快さを強めた作品である。 力点は、前作のようにアレンジやテーマといった楽曲の作りのみならず、スピード感やスリルといった個々のプレイの生むフィジカルなカタルシスにもおかれている。 BLACK SABBATHDEEP PURPLE 的な展開といえるだろう。 ドラムスを筆頭にリズム・セクションがテクニシャンなので、シンプルなビートによる疾走感はすばらしい。 一方、ハードロックに向かわなかった作品は、どれも一種異様なムードを醸し出している。 乱調美といっていいような錯乱気味の作品もあれば、別人のように明晰な志向性でビート・グループ風のバラードを奏でたり、R&B にたどりつかない微妙な線で澱むなど、楽曲の雰囲気のヴァリエーションは幅広くなっている。 英国ロックらしい病んだ感じもあり。 ドラミングもねじが外れたように突出して暴走している。 独特のクールネスは後半を中心に随所に顔を出すが、前作にあった妖しい魅力はすでにない。 サイケデリックの魔法が解けてしまってすべてがバラバラに飛び散ってしまった後、舞い上がる塵の中で空ろな歌が流れる、そんな感じである。 第一作のジャケットに現われた娼婦と思しき怪人物は、本作のジャケット(イラストは秀逸)にも向かって左端に立っております。
  プロデュースはジョン・アンソニー。

  「For Mad Men Only」(4:16)攻撃的なギター・リフがリードするストレートな快速ハードロック。尖ってはいるが、まあ普通の出来である。

  「Snakes And Ladders」(4:42)重苦しいのに薄笑いを浮かべるような悪夢テイストのヘヴィ・チューン。 曲名は英米でポピュラーな「すごろく」ゲーム。

  「The 25th Of December 1969」(3:12)なんとも形容し難い奇妙なクリスマス・ソング。

  「"In Part"」(6:10)テクニカルなドラミングをフィーチュア。ソウルフルな元祖ドラムンベースである。前半にフルートが現われる。

  「8 Mad Grim Nits」(4:33)凶悪なアドリヴが迸るインストゥルメンタル。ドラムス全開。

  「High Beech」(5:02)アコースティック・ギターをトレモロで揺るがしたリリカルなフォークソング。前作の名残がある。 ドラムが打ち込みのように無表情なのが残念。

  「Honey Coloured Time」(4:13)未整理なままの、アヴァンギャルドなムードの横溢する英国ロックらしい作品。 どろどろとしたサイケ調のテーマ部を経て、間奏部ではランニングベースとヴァイブも現われてジャズのアドリヴとなる。

  「Just Thinking」(5:10)この哀愁と虚脱感を基調にしてほしかった。
  
(VERTIGO 6360037)


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