アメリカのプログレッシヴ・ロック・グループ「MIRTHRANDIR」。 73 年ニュージャージーにて結成。 作品は 76 年の一枚のみ。 2005 年再結成とか。 グループ名は、指輪物語の白の魔術師ガンダルフの別名より。
Robert Arace | drums |
James Miller | bass, flute |
Simon Gannett | keyboards |
John Vislocky III | vocals, trumpet |
Richard Excellente | guitar |
Alexander Romanelli | guitar |
76 年発表のアルバム「For You The Old Women」。
CD は 91 年にリミックスされている。
内容は、バンド編成にて管弦楽と同等のサウンドを作り出そうというメンバーの意図を反映した、テクニカルでトリッキーなシンフォニック・ロック。
ツイン・ギターのユニゾン、トランペットとフルートのリードに、Farfisa オルガンがストリングス風にハーモニーと伴奏をつけ、小刻みなリズム・チェンジを繰り広げる。
誰かが飛び出すと追いすがるように他の楽器が競争を始め、もつれるようなアンサンブルのまま、空高く舞い上がってゆく。
演奏は決定的にアンサンブル志向であり、メロディそのものを歌わせるよりも、器楽の連携と構成で目まぐるしくフレーズを紡ぎ、同時に和声やリズムの面白さも追求している。
時おり見せるハードロック調のリフを主体とした組み立ても凝ったアレンジの一部と見るべきである。
また、数多ある YES クローンの一つとして埋没してしまわなかったのは、管楽器の存在だ。
フルートはともかく、パワフルなトランペットは、こういうタイプにはかなり珍しいような気がする。
そのトランペットは、特に後半で、リリカルなアクセントとして用いられている。
技巧的という意味では確かに技巧的であり、音数も半端ではないが、突っ込み気味でひた走るために起承転結がややなおざりとなり、語り口が単調になっている。
込み入った演奏でも、メロディに引っかかりがあるとそこを軸に聴き込んでゆけるが、残念ながらそれがない。
伸びやかに歌い上げるヴォーカルのメロディさえもあまり印象に残らない。
そこが弱点だ。
ギターは、メロディアスなプレイからザクっとした和音、アルペジオによるバッキングまで多彩なプレイであり、ヴォリューム奏法で音に硬軟の変化を付けるのも巧みだ。
そして、YES と同じく、ベースがギター並みにメロディ部を大きくリードしている。
また、ドラムスは集中豪雨のような猛然たる手数勝負を見せるパワー型であり、細かく刻むプレイに加えて個性的なパターンを叩きまくる。
ヴォーカルは、ハードロックの似合いそうなやや没個性のハイトーンであり、音程は不安定だが力いっぱい歌い込むパワーはある。
全体に、それなりにハードなアタックはあるにもかかわらず、いわゆるロックらしいブルージーなタメがほとんどなく、さまざまな楽器のフレーズがうず高く積み上がった、イン・テンポの演奏になっている。
まさに、シンフォニックなプログレならではの内容といえるだろう。
そして、音量の変化がないまま次々と場面展開するためにガチャガチャした印象があるが、これだけ込み入った演奏をこなすのだから相当な技巧派といえるだろう。
超絶ソロこそ見当たらないが、丹念に音を積み上げたアンサンブルにはしっかりした表情がある。
そして、尖った緊張感と押し切るような荒々しいパワーがバランスしており、この手のテクニカルな演奏にありがちな「線の細さ」がない。
おそらく、もう少し整理されると、YES の「Close To The Edge」や「Relayer」に近い世界になっていただろう。
北米勢にありがちな能天気なアメリカン・タッチは思いのほかない。
また、スタジオ・ライヴ録音に若干のオーヴァーダビングを施しただけなので全体に音の感触はラフである。
佳作。
LP のジャケットは、白い紙に不気味な婆さんの絵でした。
「For You The Old Woman」(8:13)冒頭いきなりトリッキーなアンサンブルが炸裂。
「Relayer」YES ばりの爆発力をもつ演奏にパワフルな管楽器のアクセントがいい。
中盤、ゆったりとメランコリックなパートを設けて物語に幅をつけている。
聴きおわったときには、聴き始めとは大分違う印象をもつことでしょう。
「Conversation With Personality Giver」(5:36)上ずり気味の内容だが、アコースティック・ピアノ、トランペットのアクセントが新鮮。
「Light Of The Candle」(4:22)ハードロック調のリフ、純シンフォニック調、ジャジーでリラックスした雰囲気が不思議なブレンドを見せる。
「Number Six」(5:04)管楽器風の音をリードに郷愁を誘う前半から曲折したまま強引に突き進む怪作。
他の曲と同様に引っかかりの多い展開だが、クラシカルな余韻がある。
「For Four」(14:45)フルートや生ピアノの音が新鮮なシンフォニック・サウンド。
ヘヴィにたたみかける演奏やアルペジオに乗せて悠々と歌う演奏もカッコいい。
(SYNCD 6)