ODISSEA

  イタリアのプログレッシヴ・ロック・グループ「ODISSEA」。 北イタリア、ビエッラ(Biella)出身の五人組。 73 年フェスティバルで注目され同年アルバム発表。 その後どこへいったのやら。 今でも彼等のオデッセイアは続いているんだろうか。 Rifi レーベル。

 Odissea
 
Roberto Zola 12 string guitar, acoustic guitar, vocals
Luigi "Jimmy" Ferrari electric & acoustic guitar, 12 string guitar
Ennio Cinguino piano, organ, mellotron
Alfredo Garone bass, 12 string guitar
Paolo Cerlati drums
"little" Simona voice

  73 年発表のアルバム「Odissea」。 内容は、しゃがれ声の個性的なカンタゥトーレをフィーチュアした素朴なフォークロックに、不釣合いなほどに多彩なキーボードでシンフォニックな味つけをしたもの。 荒々しくも繊細な表現力を持つヴォーカリストをアコースティック・ギターの和音、アルペジオが支え、荒々しくひずんだエレキギターとメロトロン、オルガンがシンフォニックな奥行きと広がりをつけるという、70 年代イタリアン・プログレッシヴ・ロックの典型の一つである。 特に傑出したところのある演奏ではないが、イタリアン・ポップス直系の哀愁あるメロディとハードかつクラシカルなアンサンブルが一体となって、忘れていた記憶を思い起こさせるようにリスナーの心をゆすぶる。 何気ないテーマの旋律に暖かく懐かしい響きがある。 個性の強い声質の弾き語りではあるが、曲の表情の微妙な変化のおかげで単調にはならない。 また、エレキギターのソロ以外はブルーズ色よりもポップなフォーク色が強いところに、英国ロックの歩みとは異なるイタリアン・ロック独自の世界が感じられる。 ハードロック系では主にベル・カント型のヴォーカルが活躍する一方、カンタゥトーレには味わいあるしゃがれ声のヴォーカリストも多い。 このグループのヴォーカリストは、完全に後者。 声質にはリカルド・コッチャンテを思わせるところがあるが、彼の作品のような洗練されたアレンジに取り巻かれてはおらず、もっと垢抜けないイメージが強い。 まさに、イタリアン・ロック全盛期の路傍に咲いた一輪の花である。 しかしながら、キーボードを軸としたインストゥルメンタル・パートの工夫はかなりのものではないだろうか。 ややうがちすぎかもしれないが、12 弦ギターやオルガンのリフレイン、さらには 8 分の 7 拍子の挿入やキーボードのオスティナート、テンポの変化など随所に GENESIS の影もちらつく。(GENESIS のイタリア・ツアーのサポートをしたという話もある) 無理は承知の上で、ヴォーカルよりも器楽に気を配り、12 弦ギターの響きを味わい、ドラムスをもっと明確な音と置き換えてみてほしい。
  さて、アルバムは、一曲のインストゥルメンタル・ナンバーを除き、すべてアコースティック・ギター弾き語りにキーボードが伴奏するスタイルの楽曲で構成されている。 クレジットにはないが、エレピやシンセサイザーも用いられているようだ。 荒っぽい音にもかかわらず、独特のファンタジックな空気があり、そこが魅力である。 力仕事をしている父親の手のような暖かみのある音です。 邦題は「詩情」。

  「Unione」(6:05)電気処理をし、シンフォニックな盛り上がりを見せるアコースティック・ギター弾き語り。 フォーク・タッチのメロディを、かみつきそうな表情で歌うヴォーカルを支えて、間奏とサビではオルガン、ストリングス・シンセサイザー、ピアノらが加わり力強く盛り上げる。 後半では、激しいギターのコード・ストロークをきっかけに、ストリングス・シンセサイザーが高鳴りオルガンが轟くハード・シンフォニック風の間奏もある。 激しい高まりの後、木枯らし吹きすさぶようなヴォーカルに魅せられずにいられない。 ヘヴィなブルーズを彩るシンセサイザーのクラシカルなオスティナートが印象的。 歌ものではあるが、強烈なオブリガートや過剰な切り返し、テンポ/調子の変化といった「凝りに凝った」アレンジはまさしくプログレである。

  「Giochi nuovi - Carte nuove」(4:56) アコースティック・ギターのアルペジオとトニー・バンクス風に波打つオルガンが伴奏する、繊細ながらも男臭いフォーク・ソング。 まとわりつくようなオルガンのオスティナートが耳に残る。 歌メロは荒々しく、そしてロマンティックである。 リズム・チェンジを経た間奏部は、ストリングス・シンセサイザーの高まりをワイルドなギターが貫いてむせび泣く。 やがて曲調は緩やかになり、木管風のシンセサイザーのオブリガートとストリングスに支えられて、メランコリックなヴォーカルを導く。 続く間奏は、クールなリズムとともにメロトロン風のストリングス、ピアノによる耽美な演奏が続く。 最後は、メイン・パートのテーマへ回帰。 本曲でも、ブルージーなヴォーカル、ギターとクラシカルなキーボードの対比、そして、メイン・パートのキーボードによるクラシカルなオスティナートと大胆な間奏部の発展が特徴的である。

  「Crisalide」(4:44) 勇ましいキーボードと丹念なギター・プレイをフィーチュアしたクラシカルなインストゥルメンタル。 野暮ったくもクラシカルな演奏が、BEGGARS OPERA を思い出させる。 ストリングスをバックに歌われるのは、素朴なギターのテーマである。 ギターのヴィブラートの表現は、セゴヴィアの SP 盤風。 展開部ではギター、オルガン、ベースによるバロック風のアンサンブル。 ドラムスは終始バタバタしており音色もものすごいが、それがかえってピュアで切ないイメージを強めている。 ギターのテーマ再現からトゥッティによるテーマ演奏を経て、最後は木管風のすさまじい音色のシンセサイザーが迸る。 クラシカル・ロックの力作。

  「Cuor di rubino」(2:48) 1 曲目と似た暖かみある弾き語り。 ギターによる竪琴のようなアルペジオが伴奏するメイン・パートは、強烈なヴォーカルにもかかわらず、イメージは可憐。 間奏は、FRUUPP にも似た荒っぽいスライド・ギター。 2 コーラス目では、伴奏にストリングスが加わって、悠然とした広がりを見せる。 このストリングスは、メロトロンだろうか。 ドラムレス。

  「Domanda」(5:32) オルゴールを思わせるエレピとピアノ、ギターのハーモニクスによるアンサンブル。 グリッサンドするスライド・ギターのリフレインは、愛らしくも、どこかもの悲しい。 舌足らずな発声が愛らしい子どもの語りかけに応じて、むくつけきダミ声ヴォーカルが歌う。 中盤では、スライド・ギターとともに、あたかも夢が広がるようにストリングスが高鳴ってゆき、こだまが幾重にも響き渡る。 ファンタジックなイメージの作品だ。 子守唄なのかもしれない。 ドラムレス。

  「Il risveglio di un mattino」(4:16) 苦悩を刻む泣きのバラード。 バロック調のオルガンがせわしなく湧き上がり、シンバル、ドラムスがパワフルに打ち鳴らされるスリリング、かつやや大仰なオープニング。 あまり似つかわしくないな、と思うないなや、再びアコースティック・ギターがアルペジオを刻んで牧歌調に一転、ヴォーカルが加わるとメランコリックなフォーク・ソングである。 当然バッキングは透き通るようなストリングス・シンセサイザー。 サビでの、クラシカルなオルガンに支えられた泣きの展開は、PROCOL HARUM にイタリアン・ポップス調の華やぎを加味した感じ、または URIAH HEEP である。 サビ前半における長調に転調したハーモニーが印象的だ。 堂々たる表現です。

  「Voci」(4:04) すべてが揺らぎ続ける、不安定さが特徴の歌ものシンフォニック・ロック。 12 弦アコースティック・ギターによる謎めいたアルペジオがかき鳴らされ、毒々しいキーボードとシンセサイザーが憂鬱に歌うオープニング。 メイン・ヴォーカルとベースのデュオがシンプルながら哀しげなテーマを繰り返す。 憂鬱を越えた、怪しげですらある展開である。 間奏では、シンセサイザーがテーマを突如高らかに迸らせる。 ドラムスとともに、やや明るくジャジーにゆったりと漂うハーモニーになったり、7 拍子で素早く走ったり、さまざまに変化を見せる。 メイン・パート再現後も、シンセサイザーのオブリガートが転調の果てに朗々と歌うなど、やや唐突な曲調の変化がおもしろい。 内省的でものさびしいポエジーにクラシカルなキーボードを大胆に放り込んで雰囲気に予断許さぬ変化をつけた、本アルバムの典型的なスタイルである。

  「Conti e numeri」(4:34) 序盤は、またも優しげな弾き語り調。 透明感ある 12 弦アコースティック・ギターのアルペジオ、コード・ストロークが支える歌を、エレキギターが甘めのトーンでオブリガートし、ストリングス・シンセサイザーが、うっすらとベールをかぶせる。 ややブルージーなサビから、間奏では、マイク・ラザフォードを思わせるベースのリードで荒々しい疾走が始まり、けたたましいキーボードとギターがユニゾンで叫ぶ。 この、やや突拍子のない高揚を経て、再びフォーク・タッチのメイン・パートへ。 美しい 12 弦ギターのデュオが穏かな聴きごこちを残してゆく。 感情の起伏をそのまま音に移し変えたような、牧歌的フォーク・ソングと攻撃的なアンサンブルの奇妙な合体である。


  武骨にしてピュアなロマンチシズムが、クラシカルなアレンジとともにきらめく佳作である。 ダミ声ヴォーカルによる切ない弾き語りと、多彩なキーボードによるシンフォニー、激しいリズムとともにたたみかけるハードロック、これらすべてが混じり合う。 歌のもつ力強くも懐かしい暖かみ、率直な感動を呼ぶ雄大さ、意外性のスリル、これらすべてが備わった逸品である。 しゃがれ声の魅力に加えて、荒削りながらなかなか凝ったアンサンブルも楽しめる。 子供の一生懸命なモノローグもとても愛らしい。 大いなる一発屋たちの一人なのでしょうが、抱きしめたくなるような切ない音楽です。

(VM016)


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