SITHONIA

  イタリアのプログレッシヴ・ロック・グループ「SITHONIA」。 86 年ボローニャにて結成。作品はライヴ盤を含め六枚。 喜怒哀楽をユーモアで包むような、素朴な味わいが特徴。 演奏よりも、丹念な展開をもつ楽曲そのものの魅力が大きい、近年珍しいタイプのグループである。 98 年の「Hotel Brun」から 13 年を経て、2011 年新作「La Soluzione Semplice」を発表。別働ユニットとして、MESEGLISESINTESI DEL VIAGGIO DI ES なども活動中。

 La Soluzione Semplice
 
Orio Cenacchi drums
Oriano Dasasso piano, synthsizers
Marco Giovannini lead vocals, chorus
Roberto Magni guitar, mandolin, synthesizer programming
Paolo Nannetti organ, mellotron, synthesizer programming, chorus
Valerio Roda electric & acoustic bass

  2011 年発表の第六作「La Soluzione Semplice」。 長らく待ち望んでいた新作がようやく現れた。 BANCO と同じツイン・キーボードをフル回転させて、音色を活かしたシンプルなフレーズを丹念にアンサンブルに織り込む誠実な作風とそこから醸し出される素朴な叙情性は、まったくかわらない。 むしろ、個性をしっかり発揮できているという意味では、進化している。 喩えてみれば、初期 GENESIS にイタリア風の脂っこさを加えて思い切り武骨にした感じである。 オープニングのピアノとサウンド・コラージュ、エンディングの弦楽奏からのエピローグといった構成に卓越したセンスの良さがにじみ出ていると思う。
   おだやかなギターのアルペジオ、熱っぽくも訥々とした歌、その歌をなぞるうち沈んだメロトロン、間奏では古い原動機の軋みのようなシンセサイザーと年取ったハードロッカーのようなリード・ギターがゆったりと旋律を分け合う。 ハモンド・オルガンは、荒々しい音でざわめくもどこかためらいがちだ。 堅実過ぎるドラム・ビートがすべての楽器を乗せてのっそりと立ち上がると、アルバムに貼られた古い写真か昔 TV で見た白黒映画のような懐かしい情景が広がり始める。 ドン臭いといえばこれだけドン臭い演奏もないと思うが、これだけ誠実に思いを伝えようとする演奏もまた類を見ない。 ミドル・テンポの垢抜けない演奏がこんなにカラフルな物語を紡ぎ出していけるのは驚異である。 呼吸、というか係り結びの自然さと音の重ね合わせ、サウンドの選択のセンスがずば抜けているということなのだと思う。
   往年のユーロロックのイメージをそのまま復活させたような佳作。 何気なく流しておいてもいつしか耳を奪われていることに気づくタイプの作品だ。 なぜかインナーには 20 年くらい前の写真が使われている。 つまり、この人たちは流行やスタイルにはあまり関係がなく自らの道をずっとたどっているということだ。 なかなかできないことだと思う。

  「Treni Di Passaggio」(8:02)
  「Tornando」(2:49)
  「Cronaca Persa」(22:20)いつまでも聴いていたいと思わせるしみじみとしたシンフォニック・チューン。傑作。14 分過ぎあたりの上品な乱痴気騒ぎは圧巻。
  「Il Tram Del Topo」(1:09)
  「La Soluzione Semplice」(6:03)
  「Passeggiata」(1:31)
  「Il Vento Di Nauders」(11:38)GENESIS 風味がいやます終曲。そして、古色蒼然たるエピローグ。
  
(LOV 004)

 Spettacolo Annullato
 
Orio Cenacchi drums, assorted percussion
Oriano Dasasso Korg K-1 synth, Elka MK44 string synth, Mini-moog, chorus
Marco Giovannini lead vocals, chorus
Roberto Magni Charvel electric guitar, Eko acoustic guitar, Yamaha CS5 synth
Paolo Nannetti Roland JX3P synth, Rhodes 660 electric piano, Mini-moog, chorus, lead vocals
Valerio Roda Squire electric bass

  92 年発表の第二作「Spettacolo Annullato」。 巧みな語り口と緻密なアレンジに音楽的なインテリジェンスを感じさせながらも、あくまで素朴な響きをもつ傑作アルバム。 多彩な音色によるメロディを次々と繰り出して場面を綴ってゆくスタイル、優しく暖かい旋律を用いたクラシカルなポリフォニー、ドラマを演出するテンポ・リズムのナチュラルな変化など、アンサンブルのみごとさは、とても語り尽くせない。 それでいて、キツキツの技巧派や感情移入過多の「泣き」派ではなく、田舎風ののんびり感や垢抜けないユーモアのセンスもあるのだから、始末におえない。 また、70 年代的な音へのこだわりはあるが、同時にモダンな面もあり、結果としてあまり時代を感じさせない音になっている。 一つ一つのフレーズよりも、音色と調子のよさとハーモニーに工夫を凝らすことによって、楽曲総体で効果をあげてゆく作風である。 往年のイタリアン・ロックと同じく、目まぐるしく展開しているにもかかわらず流れが自然であり、長閑さが全体に漂うおかげで、追いかけてゆきやすい。 はっきりいって頭抜けたメロディや目の醒めるようなプレイがあるわけではなく、演奏は、肉体的なカタルシスとは縁遠い。 その代わりに、良書をじっくり読むような知的な楽しみがある。 これだけ豊かに編みこまれた音のタペストリーは、めったにないだろう。 いわば、超絶技巧のない超絶アンサンブルなのだ。 全体に、多彩なアナログ・シンセサイザーの活躍が大きい。 また豊かな音色を誇りながらも、極端なダイナミクスの変化がないのも、この独特なのんびり感の理由だろう。 一曲目の大作は、映画のサウンド・トラックかミュージカルを思わせる、多様な音楽性を誇る作品。 「Supper's Ready」に通じるものがある。 アルバムのエンディングはそのままこの一曲目の冒頭につながり、テーマへと変化する。
  現代シンフォニック・ロックの代表作の一つ。ヴォーカルはイタリア語。ところで「SITHONIA」という名前の都市がギリシャにありますが、関係あるのでしょうか。

  「La Recita Del Silenzio」(22:33)
  「Pannolino」(3:25)
  「Spettacolo Annullato Pt.2」(4:28)
  「Il Canto Notturno Della Stella」(6:35)
  「Giorno Per Giorno (Ripresa) 」(0:42)
  「Il Racconto Di Una Sosta Imprevista」(4:42)
  「La Danza Del Gatto Sul Tetto」(8:36)序盤の、ストリングス・シンセサイザーによると思われるメロトロン・ストリングスの音が印象的。

(MMP 115)

 Folla Di Passaggio
 
Orio Cenacchi drums, assorted percussion
Oriano Dasasso Korg K-1 synth, Elka MK44 string synth, Mini-moog, chorus
Marco Giovannini lead vocals, chorus
Roberto Magni Charvel electric guitar, Eko acoustic guitar, Yamaha CS5 synth
Paolo Nannetti Roland JX3P synth, Rhodes 660 electric piano, Mini-moog, chorus, lead vocals
Valerio Roda Squire electric bass

  94 年発表の第三作「Folla Di Passaggio」。 まばらながらも暖かい拍手で幕を開けるライヴ・アルバム。 緩やかなキーボード、情熱的ながらも朴訥なヴォーカル・ハーモニーなど、ほのぼのしたイメージを主にし、丹念に物語を綴るスタイルはそのままに、ライヴな勢いもある好作品である。 無闇な大作はなく、最長でも 7 分あまりの曲があるのみ。 すべての曲に、ギターを中心とした不協和音を用いる緊張感あるパートと、アコースティックにメロディアスに朗々と歌うパートの配置の妙がある。 音楽的には、使い古された陳腐な係り結びが多すぎると感じるかもしれないが、ここでこういう風に音があればと誰もが思う音が間違いなくあるのは、すごいことだ。 それでいて不思議とうんざりせずに、最後まで音についてゆく気にもさせるのである。 おそらく彼らは、芸術家であると同時に、サービス精神というものをしっかり理解している、大人のエンターテイナー集団なのである。 アコーディオンを思わせるキーボード、クラシカルなピアノ、そして大袈裟にならない程度にお芝居風のパフォーマンスを見せるヴォーカルもいい。 歌ものシンフォニック・ロックの佳作である。ヴォーカルはイタリア語。

  「Il Sogno Di Scindigher」(3:34)
  「La Cella」(3:36)
  「Merce」(6:20)
  「Il Foglio Bianco」(5:04)
  「...Un Altro Momento...」(3:59)
  「Achill Island」(4:37)
  「Non Cercarli」(3:36)
  「Millenovecentottanta」(5:02)
  「Dansa Del Gatto Sul Tetto」(4:43)
  「Basnja」(6:28)
  「Il Racconto Di Una Sosta Imprevista」(5:02)
  「Confusi In Mezzo Ai Simboli」(7:08)
  「Folla Di Passaggio」(2:22)

(MMP 228)

 Confine
 
Orio Cenacchi drums
Oriano Dasasso keyboards
Marco Giovannini vocals
Roberto Magni guitars
Paolo Nannetti keyboards
Valerio Roda bass
guest:
Francesco De Martino tenor sax on 9 Silvia Lipparini backing vocals on 7,9
Gian Luca Gadda sample timpani on 1 Tobia Henson conductor of The Scindigher Synth Orchestra

  95 年発表の第四作「Confine」。 内容は、ツイン・キーボードをフィーチュアした歌ものシンフォニック・ロック。 キーボードを軸としたクラシカルなアンサンブル志向の下、時にイタリアン・ロック王道の牧歌調、ジャジーな AOR やハードロックに振れつつ、管弦楽(クレジットには指揮者のいるシンセサイザー・オーケストラとある)、アコーディオン、サックスから効果音までもをぜいたくに配して、丹念に物語を綴ってゆくスタイルである。 ヴィンテージ・キーボードを強調しているわけではないが、タイミングよくムーグ・シンセサイザーそのものな音が切り込んでくるなどサービスは怠らない。 ギターもフレーズの独特の語り方が不思議と耳になじむ。(パワー・コードをぶちかますのは「洒落」であってほしいが) もともと演奏よりも楽曲そのもののよさが売りだったが、本作では、インストゥルメンタル・パートを拡充し、曲の展開に機敏な変化を持ち込んでいる。 ただし、物語性やスリルは拡充したものの、若干未整理で冗漫な印象を与えている箇所がある。 逆に、リリカルでスローなパートの表現のよさが際立ってくる。 9 曲目のような作品は非常におもしろいし、こういった新境地を拓くことは大歓迎だが、それを完成品にすることの難しさも痛感した。 それでも、アルバムを通した起伏や楽曲の流れ、アンサンブルを含めた語り口にはやはり卓越したものがある。 前半は歌唱を中心にピアノやチェンバロでファンタジーの世界への導入を巧みに果たし、ギターやシンセサイザーとともにメロディアスだったりパワフルだったりするテーマを強く印象づけている。 大道芸風やスネークマンショー風のユーモアも忘れていない。 そして後半では、ハードな音による急展開でたたみかけながら、アコースティックな音でリカバリーも怠りなく、最終曲への道筋を作っている。 また、11 曲目では 9 曲目で消化し切れなかった面をなかなかおもしろく、あたかも小話で落とすように、まとめているし、最終のタイトル曲でもヘヴィな音も使った大胆な展開を得意のおおらかなセンスでざっくりと形作って、最終的にはクラシカルでフォーキーな説得力で締めている。 この繊細さとおおらかさをユーモアで束ねているところが、このグループのいいところだと思う。
   ヘヴィな音は増えたが、基本的な作風はキープされた作品です。

  「Albi Di Spagna」(3:40)
  「Sinergie Interattive」(6:07)
  「Piccolo Vele」(3:29))
  「Pentole Sullo Scaffale」(4:53)
  「Porto D'inghilterra」(7:58)
  「...un Altro Momento...」(5:18)
  「Piancaldoli」(4:43)
  「La Cella」(3:29)
  「Ultimo A Stare In Porta」(5:10)
  「Il Segnale」(1:49)
  「Alla Corte Del Gran Khan」(1:38)
  「Confine」(6:10)

(MMP 271)

 Hotel Brun
 
Orio Cenacchi drums, assorted percussion
Oriano Dasasso Korg K-1 synth, Elka MK44 string synth, Mini-moog, chorus
Marco Giovannini lead vocals, chorus
Roberto Magni Charvel electric guitar, Eko acoustic guitar, Yamaha CS5 synth
Paolo Nannetti Roland JX3P synth, Rhodes 660 electric piano, Mini-moog, chorus, lead vocals
Valerio Roda Squire electric bass

  98 年発表の第五作「Hotel Brun」。 1943 年連合軍の爆撃で倒壊した名門ホテルを巡る物語を、歌を中心にした素朴で安定感ある演奏で綴る佳品。 アコースティック・ピアノとつややかなミニ・ムーグを同時に鳴り響かせるための二人のキーボーディストを活かした 70 年代プログレ憧憬型の典型である。 もっとも、プログレ然としてはいるものの、素朴で暖かいサウンドによる品のいいポップスという見方も十分できる。 しかし、メロディアスなようで不意を突くような切り返しがあったり、優美なリフレインがじつは変拍子であったり、序破急に大胆な表現を入れ込むなど、やはりその血統は明らかだ。 二つのキーボードを配備した編成と演奏から考えて、思い切って 90 年代の BANCO といってしまってもいいかもしれない。 垢抜けない荒っぽい音も音楽としてトータルに自然なので、何も問題にならない。 リード・ヴォーカリストはカツゼツが明瞭で情熱的だが歌はうまくないという味のある存在である。 ドラムスの刻むリズムに独特の揺れがあるが、それでも手数を惜しまないところはうれしい。 聴きものは、やはり 20 分余りのタイトル作だろう。 さまざまな音楽的場面を次々と打ち出して、熱っぽく気負いすぎに近い大胆さでドラマを繰り広げるが、不思議なことにそれらがすべて自然な流れにのっている。 究極のヘタウマ・シンフォニック・ロックである。 これが最終作としたら、あまりに残念。
  
  「Con Altri Occhi」(4:49)エコーのないガットギターの調べが象徴する、朴訥で真面目なシンフォニック・ロック。 歪んだギターとメロトロン、チープなシンセサイザーが太鼓とともに軋むように突き進む。 アコーディオン風の音やピアノなどのアコースティックなアクセントがいい。

  「Festa In Collina」(3:43)変拍子ながら垢抜けないギター・リフにシンセサイザーがからみつくテーマ。 ヴォーカルは懸命なラヴ・ソング調である。 サビでの歌い上げはみごと。 哀願調とヘヴィで武骨なディストーション・サウンドが一つになって独特の世界ができている。

  「Comprate Le Stelle」(5:07)チープすぎるシンセサイザーによるワルツを崩したような愛らしい変拍子テーマ。 メイン・パートはピアノ弾き語り風。 やはりサビでの朗々とした歌唱が冴える。 中盤で突如ギター・ソロに導かれてハードロック風になるが、ロマンティックなメロディ・ラインは一貫している。 全体にキーボードを活かした作品だ。 時おり和音を外れた音を放り込んで不思議な表情を作っている。 構成があり、ドラマも感じられる。

  「Ombra Nella Nebbia」(4:00)レスピーギ風の弦楽奏を模した悲劇的なアンサンブルから始まる泣きのバラード。 オルガンもギターも古臭いリフでたたみかけ、渋いオブリガートで切り返す。 終始独特のもたつきがある。「音痴なアンサンブル」といえばいいのだろうか。

  「Ruscelli」(2:45)メロトロン・ストリングスが鳴り続ける歌もの。歌唱には決意のような力強さがある。ジャジーなギター。 不協和音、アウトスケール好き。

  「Hotel Brun」(23:35)初期の GENESIS を思わせる力作。 パーツはシンプルながらも組み合わせの妙と勢いのいい展開で聴かせる。 歌と交互に現れてバックアップするジャジーなオルガン、ピアノがいい。

  「Risvegli」(2:56)
  
(MMP 351)


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