セルビアのプログレッシヴ・ロック・グループ「SMAK」。 71 年結成。80 年代初頭まで活動した人気グループ。 70 年代ロック・シーンの変遷をそのまま辿ったミーハーで明快な作風。突然変異的なプログレ・チューンで知られる。 ユーゴの LED ZEPPELIN という銘はその雑多な音楽性故か。 81 年最終作も佳品。
Zoran Milanovic | bass |
Slobodan Stojanovic - Kepa | drums |
Raomir Mihajlovic - Tocak | guitar, vocals |
Lazar Ristovski | hammond organ, wurlizer electric piano, synthesizer, elka mellotron |
Boris Arandelovic | vocals |
75 年発表の第一作「Smak」。
内容は、A 面がグルーヴィなファンク/ハードロック。
軽快でジャジーなファンクからブギー、オルガンたなびく哀愁のハードロックまで、武骨な泣きのギターと雄々しいシャウトがぴったりハマる、懐かしい音です。
クラヴィネットやエレピを使ったファンク・テイストが特徴か。
リズム・セクションは、抑え目ながらも小気味よくキレもある。
4 曲目は、完成されたハードロック・インストゥルメンタル。
確かに ZEPPELIN の片鱗が。
一方 B 面は、クラシカルなプログレッシヴ大作 1 曲のみ。
アコースティック・ギターとエレクトリック・ピアノによるクラシカルなアンサンブル、民族調の鮮やかなアコースティック・ギター・ソロを経て、大胆なリズム・チェンジも交え、キーボードをフィーチュアしたシンフォニックかつスペイシーなテクニカル・ロックへと進む。
フュージョン・タッチのグルーヴィな演奏やら、クラシカルなブリッジやら、ファンキーなノリも活かして、わりとラフに、勢い任せでぐんぐん進む痛快な作品だ。
キーボーディストの才とリズム・セクションのキレのよさを再認識。
プログレど真ん中なのは、この B 面でしょう。
「Perle」(4:04)
「Mracni Mol」(3:23)
「Blues U Parku」(7:34)
「Biska 2」(4:29)
「Put Od Balona - Biska 20」(19:05)
この第一作の内容は、現行 CD である「Smak - The Best of」(ONE 157)ですべて聴くことができる。
このベスト盤には、アルバム第一作、EP 三枚の内容が収録されている。
(RTV LP 1079)
Raomir Mihajlovic Tocak | guitar |
Boris Arandelovic | vocals |
Zoran Milanovic | bass |
Slobodan Stojanovic Kepa | drums |
Miodrag Miki Petkovski | keyboards |
77 年発表の第二作「Crna Dama」。
冒頭、哀愁を帯びながらもキャッチーなハードロックで始まりびっくりさせられるが、2 曲目以降はキーボード、ギターが冴えわたるジャジーなサウンドが中心となる。
テクニカルなキーボード、ソウルフルにして透明感もあるヴォーカル、メローなギターらによる、ファンキーでハードな音も交えた、ヨーロッパらしい陰影に富んだロックである。
中心となるのは、歌心あるギターと、エレピ、ピアノ、シンセサイザーなど多彩な音色で軽やかな技巧を見せるキーボードだろう。
この二つのプレイは、文句なくすばらしい。
シンセサイザーのソロは本作の見せ場である。
また、ヴォーカルはストレートな声質と伸びやかな歌唱の魅力とともに、セルビア語の漂わせるエキゾチックなムードが味わい深い。
手数の多いドラムスは、全般にストレートな表現ながらも、プレイに切れがある。
総じて、キーボードを中心にしたアンサンブルはスリリングかつ安定感もある。
おそらくは、ハードロックがベースなのだろうが、ジャズ、クラシック、ポップス風の味つけをきっちり効かせており、ジャジーなテイストのロックとしては、かなりの完成度である。
ジャケットのメンバー写真こそいかにも汚くむさいが、さすがにポピュラリティのあるグループだけのことはある。
まとめると、本作の内容は、濃厚な情感をストレートにぶつけるハードロックとテクニカルかつファンキーなジャズロックのハイブリッド。
クラシックからアジアン・エキゾチズム、さらにはブルージーなプレイまで、幅広い音楽的な背景の感じられるアルバムである。
70 年代後半には混沌と幻想性というロックの魅力がすでに失われつつあったが、それを独特のエキゾチズムで補うことで結果としてプログレッシヴに聴こえるという辺境ならではの味わいである。
イタリアン・ロック・ファンには親しみやすい世界ではないだろうか。
なお、78 年には英語盤「Black Lady」としても発表された。(モーリス・パートが参加)
「Crna Dama」(3:22)メロディこそ哀愁を帯びているが明確なリズムとキャッチーなメロディから成るハードロック。
「Stvar Ljubavi」(5:14)ジャジーなエレピがフィーチュアされたバラード風のナンバー。
全体には AOR 調だが、エレピによるジャズ・テイストと伸びやかなヴォーカル、シンフォニックなシンセサイザー、さらにはエモーショナルなギター・ソロによるプログレ・テイストの微妙なバランスがいい。
「Domaci Zadatak」(7:40)
テクニカルなキーボードをフィーチュアしたリズミカルなジャズロック大作。
ピアノ、オルガン、シンセサイザー、それぞれがシャープなソロを披露する。
中間に手数で見せるドラム・ソロあり。
シンセサイザー主導のファンキー・チューンというのは、WEATHER REPORTの影響なのか、それとも東欧のミュージシャンに共通するテイストなのか。
「Alo」(4:01)細かく前にのめるリズムとともにクラヴィネットとギターが走る快速ハードロック/ジャズロック。
スキャットとハードロック・ギターの強烈なかけあいあり。
ジェフ・ベックが加入した DEEP PURPLE はこんな感じだろうか。
「Tegoba」(6:54)
鮮やかなピアノのイントロダクションによるドラマティックなジャズロック。
RETURN TO FOREVER を思わせる哀愁のテーマで泣かせ、不調和寸前のアブストラクトなムーグ・ソロで唸らせる。
刑事ドラマの OP のようですが、傑作。
「Daire」(3:39)
ジプシー・ダンスを思わせるエキゾチックでスピーディな歌もの。
エレピとクラヴィネット、うねるギター・リフによる弾力あるリズム。
ドラムスはハードロックなタッチであり、パワフルかつ細かく刻みに刻む。
パーカッションも効いている。
そして、イタリアン・ロックに共通する伸びやかな歌唱。
モーダルなシンセサイザー・ソロが面白い。
TRIANA 辺りにも迫る、いかにもなヨーロッパ辺境ロックである。
「Plava Pesma」(4:29)
泣きのギターと哀愁のヴォーカルによる鮮烈なバラード。
弦楽アンサンブルを加えて、情熱的でシンフォニックな世界をトラジックな重みで描く。
きわめてイタリアン・ロック的な、濃密な世界だが、違いはドラムスの鋭さが圧倒的なこと。
(PGP-RTS 411243)