ST. ELMO'S FIRE

  アメリカのプログレッシヴ・ロック・グループ「ST. ELMO'S FIRE」。79 年結成。81 年解散。作品はライヴ EP、復刻 CD、再結成作の三枚。KING CRIMSON 系。

 Splitting Ions In The Ether
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Erich Feldman guitar synthesizer, effects
Mark Helm drums, percussion
Paul M. Kollar bass, 6&12 string guitar, bass pedal, keyboards, tape loops, prepared tapes
Stephen John Stavnicky keyboards, percussion, gongs, flute, vox
Elliot Weintraub guitar, percussion, effects, vox

  98 年発表のアルバム「Splitting Ions In The Ether」。 80 年発表のライヴ EP に 5 曲のライヴ録音を追加した CD 作品。 内容は、弦楽器の特性を十分生かしたエレキギターのプレイとメロトロンを大きくフィーチュアし、爆発力あるリズム・セクションが支える、ヒステリックで暴力的なへヴィ・ロック。 要は 70 年代の後期 KING CRIMSON を忠実になぞった作風である。 ほぼ全曲インストゥルメンタルであり、ユーロロックらしいパラノイアックな突き詰め感が充満した緊張感と不気味な抽象性が特徴である。 おそらく印象として最も近いのは、フランスの SHYLOCK。 また、アメリカのほとんどの KING CRIMSON 信者がスタイルとしてきっちり依拠してもふっとメリケンな「ヌケ」を見せてしまうことが多い中で、この作品にはそういうスキはない。 このかなり例外的なスタンスは、メロディアスな様式化に進む前のハードロックやガレージ・サイケの攻撃性を保ち続けたまま KING CRIMSON に向きあったせいではないかと想像している。
   アナログ・シンセサイザーが渦を巻くスペイシーな序曲「Searching For Food」に続く作品群は、6 分を越える大作がほとんどである。 ギターのプレイは高速跳躍アルペジオや増減音程を軸としたリフ、半音進行、不協和音などロバート・フリップのスタイルを巧みに取り入れている。 ブルフォードとフィル・コリンズをきっちりコピーするセンスも手数もあるドラマーの存在感もすごい。 パーカッションの的確な使い方もまたみごとである。 GENESIS のスタイルを模倣したメロディアスにしてスピーディ、タイトなアンサンブルもある。 また、5 曲目「Aspen Flambe」だけは奇妙に頭悪いヘビメタ/パンク・チューンとなっているが、メンバーのコメントによると、これはライヴのブッキングに際し「プログレでは客が入らん」とブーたれるエージェントとホール所有者の目をくらます方策として投じられた作品であるとのこと。 往時(80 年頃)のプログレを志向したミュージシャンの労苦が偲ばれる。 7 曲目は、ライヴのエンディングを飾るヴォーカル・チューンであり、「The Night Watch」と「Knife Edge」と「The Lamb Lies Down On Broadway」を接合したような(ある意味 HAPPY THE MAN に近い)重厚かつ豊かな叙情性を見せる。 90 年代初頭に ANEKDOTENKING CRIMSON フォロワーが花開いたおかげで、この作品も日の目を見る機会が巡ってきたのだろう。 「太陽と戦慄」、「暗黒の世界」のファンにはお薦め。 バスドラがもうちょっと強く録れているとさらによかったでしょう。
  
  「Searching For Food」(5:43)異世界への誘いにはピッタリのシンセサイザー独奏。EP 曲の前日のライヴで収録。
  「Gone To Ground In The Khyber Pass」(7:37)EP 曲と同日収録。メロトロン轟々。8 分の 6 拍子を変拍子に聴こえさせるアクセント使いや圧迫感の強いトゥッティ。ハードロックと後期 KING CRIMSON のアプローチの違いを考えさせられる。 8 ビートになるとパンクっぽさも現れる。
  「The Balrog」(6:31)バルログは「指輪物語」に出てくる地下深くに潜む邪悪な化け物。ガンダルフの自爆作戦で退治された。EP 収録曲。
  「Parasites And Bureaucrats」(5:46)EP 収録曲。
  「Aspen Flambe」(4:15)問題作。ヴォーカル入り。EP 収録曲。
  「The Reluctant Bride」(11:18)EP 曲と同日収録。中盤のお涙頂戴のメロトロン・ストリングスとギター・アルペジオのデュオがいい。 やけに煽るスネア、シンバル連打もツボです。傑作。
  「Fantasy Come Reality」(9:34)ヴォーカル入り。EP 収録曲。最後の挨拶。ドラムスは体力の限界。
  「The Abduction」(6:58)「Fracture」など本家のインプロに近い独特の逸脱感ある力作。 80 年 2 月のライヴ録音。
  「The Nuremberg Waltz」(8:47)サックス風の音はギター・シンセサイザーだろうか。確かにこの作風にサックスが入れば完璧だったろう。80 年 2 月のライヴ録音。終盤のセレナーデ調のアンサンブルはバッハの BWV997 からの引用か。
  
(SPL-9801)


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