Terje Rypdal

  ノルウェイのギタリスト「Terje Rypdal」。 ジャズや現代音楽の勉強はしたが、根はサイケでロック好きというすてきな人だ。 正に文字通りのフュージョン・ギター・プレイヤーであり、作曲家としても活躍。 スペイシーなサウンドを基調にした荘厳で情感豊かなギター・ミュージックが魅力。 サックス、キーボードもこなす。

 Crime Scene
 
Terje Rypdal guitar
Palle Mikkelborg trumpet
Ståle Storløkkøn Hammond B-3 organ
Paolo Vinaccia drums, sampling
Bergen Big Band 
Olav Dale director

  2010 年発表の作品「Crime Scene」。 ビッグバンドと共演した作品。 タイトル通り、映画のワンシーンから切り取ったらしきダイアローグが挿入され、ストーリーを追うように音楽が展開する。 その音楽は、ビッグ・バンド・ジャズであり、ハードロックであり、ベルグやウェーベルンのような現代音楽であり、フリージャズである。 何はともあれ、まずはドラムスの入りとともに急転直下へヴィ・ロックと化して吃驚。 そして、ビッグ・バンドの管楽器群が爆発的な即興を迸らせるかと思えば、リプダルの無茶なギターが ECM とは思えぬ豪力プレイで押し返し、瞬時に薄暗い空間が広がって何もかもを吸い込もうとする。 いわゆるクラブ・ミュージック、フューチャー・ジャズといった括りに入りそうでいて、微妙にそうでないのは、こういうミクスチャー感覚がリプダルの作風としてごく普通だからである。 ジャンルの前に人がある。 ニルス・ペッター・モルヴェル、ブッケ・ヴェッセルトフトあたりは、リプダルが去る前に、リミックスや換骨奪胎を越えた地平を目指す必要がある。 2009 年ベルゲン・ジャズ・フェスティバルにおけるコンサート録音。 エンタテインメントとして抜群の作品だと思う。

(ECM 2041 2733215)

 Whenever I Seem To Be Far Away
 
Terje Rypdal guitar
Sveinung Hovensjø 6 & 4 string bass
Pete Knutsen mellotron, electric piano
Odd Ulleberg french horn
Jon Christensen percussion
Südfunk Symphony Orchestra 

  74 年発表のアルバム「Whenever I Seem To Be Far Away」。 内容は、メロトロンとストリングス・ベースがざわめきホーンが空ろに響く舞台にヘヴィなギターが轟く、極めてプログレ的なジャズロック。 ジャック・デジョネットを思わせるドラムスとホーン、エレクトリック・ピアノのジャズ色が強い分、クロスオーヴァー的な音となっているが、ギターは、完全にロック寄りの個性的な音。 そして、古い映画音楽を思わせるメロトロンの存在が、さらにミステリアスな雰囲気を強めている。 したがって、ジャズ的なビートが冷たく湿気を帯びた重苦しいものとなり、ギターは、あたかもその重みをかき乱して熱気を吹き込み、吹き飛ばそうともがいているような印象を与える。 垂れ込めた灰色の空気の中で、冷ややかな幻想美と炎のような躍動感が交錯する、独自の作風だ。 緊迫感とたゆとうような幻想性のバランスもいい。 3 曲目のみ管弦楽との共演。

  「Silver Bird Is Heading For The Sun」(13:57)
  「The Hunt」(5:17)ホーンのテーマが、場違いながらハーブ・アルバートの作品を思わせる。
  「Whenever I Seem To Be Far Away」(17:39)副題は「Image For Electric Guitar, Strings, Oboe And Clarinet」。 冒頭のヴァイオリン・ソロがあまりに哀しく印象深い。

(ECM 1045 843 166-2)

 Odyssey
 
Terje Rypdal guitar, string ensemble, soprano sax
Torbjørn Sunde trombone
Brynjulf Blix organ
Sveinung Hovensjø 6 & 4 string Fender bass
Svein Christiansen drums

  75 年発表のアルバム「Odyssey」。 冷気を帯びたサイケデリック幻想を湛えるジャズロック作品である。 トロンボーンの響きはマイルス・デイヴィス的フリー・サウンドを思わせるが、湿度/温度ともにぐっと低い。 そして、オーロラの歌のように冴え冴えとした余韻を残すギターは、アンビエントな響きをもちつつも、自由奔放なロック・ギター調のプレイである。 一人多重録音による環境音楽系の構築性とは一線画す生々しい音の質感が、厳格で理知的な音楽に躍動感をもたらしているようだ。 ギター・プレイは、泣き叫ぶように激情を露にするが、前面に飛び出すことはなく、不思議なことにゆっくりと浮かび漂うような印象を与える。
  2 曲目「Midnite」、3 曲目「Adagio」、6 曲目「Fare Well」の大曲は、それぞれに特徴を持つが陶酔感溢れるスペース・サウンドという共通点を持つ。 ストリング・アンサンブル、オルガン、トロンボーン、ギターが、それぞれに立体感を創出し、空間の無限の広がりを意識させる。 狂おしいまでにギターを弾き捲くるが、不思議とうるさくない。 リズム・セクションの入った 5 曲目「Over Birkerot」では、オルガンとのスリリングなインタープレイ含めプログレッシヴ・ロック的な迫力の演奏を見せる。 どの曲においても、ナチュラル・サスティンの効いたギター・プレイがすばらしい。 アナログ二枚組。 CD 録音時間の関係で LP 収録の「Rolling Stone」が割愛されている。(2015 年現在、同曲とライヴ・テイクを収録した完全盤が復刻されている) SOFT MACHINE のファンにはお薦め。

  「Darkness Falls」(3:28)ドラムス、ベース入りの神秘的な演奏。 冒頭のギター・ソロがアルバム全体を象徴する。 環境音楽とロック・ギターの邂逅。

  「Midnite」(16:39)無機的で執拗なベース・リフ、トロンボーンのプレイが電化マイルスを思わせる。 本作の中ではジャズを明確に意識した演奏か。 冷ややかな感触のストリングス・アンサンブルを背景に順繰りにソロが続く。 リピダルは前半ソプラノ・サックス(フレージングがギターとよく似ている)、後半ギターで活躍。

  「Adagio」(13:10)ストリングス、オルガン、ギター、トロンボーンによる深宇宙幻想。 ひたすら美しい。 トロンボーンがアクセントになっている。 次第にエモーションを押し出し加熱するギター。

  「Better Off Without You」(7:30)フェイズ・シフタを使ったギターのアルペジオとディストーション・ギター・ソロの多重録音。 ドラムスはシンバル中心。

  「Over Birkerot」(4:42)リズム・セクションを加えたスリリングでハードな演奏。 後半、オルガンとギターが激しく絡み合う。 ギターはほぼジョン・マクラフリン状態。 この二人は年齢も近く、影響された音楽も似ているのかもしれない。 ライド・シンバルはブルフォード風。

  「Fare Well」(11:22)再び静謐な空間美。 雄大な背景音。 ギター、トロンボーン、ソプラノ・サックスのソロが、オルガン、ストリング・アンサンブルを背景に次々と浮かび上がる。 ソプラノ・サックスとギターの多重録音デュオもあり。 オルガンは教会風。

  「Ballade」(5:55)リズム・セクション入りのミドル・テンポのバラード。 トロンボーンがフィーチュアされる。

(ECM POCJ-2809)

 The Hapless Child
 
Terje Rypdal guitar
Robert Wyatt vocals
Carla Bley piano, clavinet, string synthesizer
Steve Swallow bass
Jack Dejohnette drums, percussion
Alfrede Benge speaker
Albert Caulder, Nick Mason additional speakers

  76 年発表のアルバム「The Hapless Child」。 マイケル・マントラー編、リプダル客演の怪作。 内容は、エドワード・ゴーリィによる怪奇な詞をロバート・ワイアットが読経の如く歌い上げ、挑戦的な変拍子ジャズロック・アンサンブルがそれを取り巻くもの。 リプダルは、カーラ・ブレイの操るシンセサイザーをバックに衝撃的な音を放って、緊張感をいやがうえにも高める。 ジャケットからも不気味なイメージが漂うが、演奏そのものはミステリアスというよりもアグレッシヴでスリリングである。 一般には、ワイアットの歌唱によって高い評価を得ている作品だが、リプダルのプレイなしにはここまで不気味なパワーを感じさせる作品にはならなかったろう。 ギターとリズム・セクションは、後期の KING CRIMSON すら連想させる硬質なヘヴィネスをもち、凶暴。 ちなみに興味深いことだが、デジョネットのドラムスはジャズしか聴かない人には「これこそロック!」と聴こえるそうである。 同じようなフォーマットの「The Movies」よりも遥かにいい理由は、ワイアットの存在、本人のプレイがないこと、そしてギタリストの差。

  「The Sinking Spell」(5:10)
  「The Object Lesson」(5:00)
  「The Insect God」(4:58)
  「The Doubtful Guest」(4:47)
  「The Remembered Visit」(6:27)
  「The Hapless Child」(7:02)

(WATT/4 831 828-2)

 Three Day Moon
 
Barre Phillips bass
Terje Rypdal guitar, guitar synthesizer, organ
Dieter Feichtner synthesizer
Trilok Gurtu tabla, percussion

  78 年発表のアルバム「Three Day Moon」。 アメリカ人ベーシスト、バール・フィリップスによる、深い霧がたれこめたように冷ややかでミステリアスなリーダー作。 フェイトナーのシンセサイザーとリプダルのギターによる怪しげなサウンド・スケープのなかで、フィリップスのウッド・ベースが蠢く。 フリー・ジャズ出身の名インプロヴァイザーであるフィリップスだが、ここでは抑制された(というか謎めいた)プレイに徹底しており、パーカッションやキーボードの脈動に取り巻かれながら、タルコフスキーの映画のような陰鬱で湿り気のある世界を描いている。 内へ内へと向かってゆくようなプレイであり、緊張感あるボウイングが非常にカッコいい。 ノイジーでアブストラクトな現代音楽のようでいて、素朴な叙情味があるところも興味深い。 ギタリスト、リプダルは粘りつく極寒トーンでスリリングなプレイも放って存在感を示そうとするが、今回は、そのアグレッシヴな姿勢のまま背景にとけこまされている。 基本的にはインプロヴィゼーションだろうし、そう考えると、即興ながらも基本はロックな KING CRIMSON の「Moon Child」に近い世界のようにも思う。 これだけソリッドで角のある音ながらも、ポップなタッチが感じられるからだ。
   1 曲目は信号のようなリフが耳に残るミニマル・ミュージック。 3 曲目は雅楽のような響きとスペイシーで衝撃的な展開が胸を打つ傑作。序盤のソロ・ベースがいい。 4 曲目はギターが激しいアドリヴを繰り広げてジャズロック的。ただし後半はそのエネルギーが異次元に流出する。 6 曲目はほんとうにカントリー。

  「A-i-a」(9:39)
  「Ms.P.」(4:59)
  「La Folle」(5:17)
  「Brd」(8:38)
  「Ingul-Buz」(3:54)
  「S.C.&W.」(9:25)

(ECM 1123 847 326-2)

 Rypdal/Vitous/Dejohnette
 
Terje Rypdal guitar, guitar synthesizer, organ
Jack Dejohnette drums
Miroslav Vitous double bass, electric piano

  79 年発表のアルバム「Rypdal/Vitous/Dejohnette」。 冷気迸るエレクトリック・サウンドが美しく高貴な世界を描く傑作。 ダブル・ベースのボウイングやギターの徹底したサスティンと管楽器を思わせる緩やかな残響、そして端正なビートが、切り裂くような緊張感と無限の包容力を同時に生み出す、すばらしい内容である。 これは、ジャズにしては珍しく、プレイそのものよりも音で景色を描き出すことに重点がおかれているためではないだろうか。 後年ニューエイジ・ミュージックと呼ばれるものや、プログレッシヴ・ロックからの影響もあったに違いない。 初期 WEATHER REPORTを支えたヴィトウスの宇宙観/美意識が伝わってくる。 デジョネットのトニー・ウィリアムズを思わせる柔らかなシンバル・ワークもみごと。 WEATHER REPORT でも演奏されたヴィトウスによる 3 曲目「Will」の高まりに息を呑む。 ECM のレーベル・カラーを代表する作品の一つです。

  「Sunrise」(8:26)叙景的な傑作。
  「Den Forste Sne」(6:35)ギター・シンセサイザーのあいまいな音色が活かされた幻想作品。ヴィトウスのベースが歌う。終盤のギターが優しい。

  「Will」(8:01)WEATHER REPORT の「Sweetnighter」にも収録されたヴィトウスの名作。 この人の前衛ジャズ志向なら SOFT MACHINE に入っても面白かっただろう、と勝手に思っています。 エレクトリック・ピアノはヴィトウス。

  「Believer」(6:23)即興風の幻想曲。ギター・シンセサイザーによるエレクトリックなエフェクト音もあり、ややジャーマン系か。主役は、サスティンを効かせアタックを殺し朗々と歌うギターとアグレッシヴに吼えるベース。 電気処理されたライドシンバルの連打がビル・ブルフォードに聞こえる。

  「Flight」(5:25)
  「Seasons」(7:22)

(ECM 1125 825 470-2)

 Descendre
 
Terje Rypdal guitar, keyboards, flute
Palle Mikkelborg trumpet, flugelhorn, keyboards
Jon Christensen drums, percussion

  80 年発表のアルバム「Descendre」。 即興演奏を中心としたサイケデリックだが緩やかな印象の作品。 現代音楽とも取れる表現にもかかわらず厳しさや鋭さはなく、アトモスフェリックなニューエイジ・ミュージックをさらに薄めたようなタッチである。 後半、管楽器に導かれるようにギターも動き出すが、気がつけば再び緩やかにたゆとう世界に戻っている。 何かもう少し核となるものがあれば、または吹っ切れてしまえば、もっとインパクトがあっただろうが、そういう姿勢をあえて拒否しているようにも思う。 キーボードによる深みのある音響は、きわめてプログレ的。 最終曲まできて、ようやく物語が語られるような気配が出てくるが、すでに手遅れ。 パレ・ミケルボルグはデンマークの名トランペッター。

  「Avskjed」(5:42)
  「Circled」(11:13)
  「Descendre」(3:10)
  「Innseiling」(7:57)
  「Men Of Mystery」(8:23)
  「Spell」(8:23)

(UCCE 3024)

 Chaser
 
Terje Rypdal guitar
Audun Kleive drums, percussion
Bjørn Kjellemyr acoustic & electric bass

  85 年発表のアルバム「Chaser」。 パワートリオ編成によるアグレッシヴにして冷気迸るヘヴィ・ジャズロック・アルバム。 凶暴なハードロックからストレートなジャズ、スタンダードそして得意の冷ややかなアンビエント・ジャズロックまで内容は多彩である。 もちろん全体をまとめるのは、リプダルの特徴である凶暴でスペイシーなギター・サウンドだ。 即興風ながらも、あたかも自ら発した音をじっくり味わうようなスタイルは変わらない。 音も、奏者からすぐには大きく離れず、しばらくゆったりと宙にとどまる。 また、リズム・セクションはジャズの人らしく、荒々しい場面でも高い精度に基づく安定性がにじみ出ている。 ギターを際立たせるには最適だ。 ベーシストは、ストイックで美しいプレイを見せる。 1 曲目は、即興的にしてヘヴィなハードロック。 ギターは HR/HM といって間違いない豪快なプレイ。 それでいて「あの」サウンドなのだから、どうしたって一種不思議な感じになる。 タイトル・ナンバーである 6 曲目も痛快なるハードロック。 全編インストゥルメンタル。
  最初は、冒頭からのあまりにアグレッシヴな演奏に驚くが、進むに連れ、苦悩の果ての安らぎのような、いわば天界からの誘いのような、神秘的な音響の魅力に取り付かれる。

  「Ambiguity」(8:41)
  「Once Upon A Time」(6:12)
  「Geysir」(5:58)
  「A Closer Look」(4:55)
  「Ømen」(6:18)
  「Chaser」(5:49)
  「Transition」(1:33)
  「Imagi(Theme)」(4:59)

(ECM 1303 78118-21303-2)

 If Mountains Could Sing
 
Terje Rypdal guitar
Bjørn Kjellemyr basses
Audun Kleive drums, percussion

  95 年発表のアルバム「If Mountains Could Sing」。 「Chaser」から 10 年、同じメンバーによるひさびさの作品である。 内容は、弦楽トリオと共演した密やかで冷ややか、かつ官能的なジャズロック。 険しく厳かな弦楽と躍動するバンド演奏による、幻想的な世界だ。 タイトル曲も荘厳で暗鬱、しかし慈愛の響きを持つ現代音楽。 弦楽による現代音楽を作曲できるリプダルの力量に驚かされるのは確かだが、全体にアンビエントな作風が主であり、もう少し爆発してくれるとさらにうれしかった。 個人的に、ウッドベースが現れると、どうしてもミロスラフ・ヴィトウスを思い出してしまいます。


(ECM 1554 78118-21554-2)

 Vossabrygg
 
Terje Rypdal guitar
Palle Mikkelborg trumpet, synthesizer
Bugge Wesseltoft electric piano, synthesizer
Ståle Storløkkøn Hammond organ, electric piano, synthesizer
Marius Rypdal electronics, samples, turntables
Bjørn Kjellemyr basses
Jon Christensen drums
Paolo Vinaccia drums, percussion

  2006 年発表のアルバム「Vossabrygg」。 2003 年ノルウェー、Vossa Jazz Festival でのライヴ録音。 マイルス・ディヴィスの「Bitches Brew」にインスパイアされた作品だそうだ。 インスパイアというよりは、オマージュなのではないか。 トランペットを中心に、確かに音は似ている。 ただし、元祖よりは油気が少ない。 そして、ギタリストのスタイルは本家とはずいぶん違う。 キーボードをフィーチュアしたサウンドは、エレクトリック・ジャズからプログレへと容易に迫る。 特に、ハモンド・オルガン、カッコよし。 旧友とともに、時代の寵児、ブッゲ・ヴェッセルトフトも参加。


(ECM 1984)


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