TRIBAL TECH

  アメリカのプログレッシヴ・ロック・グループ「TRIBAL TECH」。 84 年結成。名ギタリスト、スコット・ヘンダーソンを擁するハイパー・テクニカル・フュージョンの代表格。作品は編集盤を含め十一枚。 最新作は 2012 年の「X」。

 Spears
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Scott Henderson guitars
Gary Wills bass
Steve Houghton drums
Pat Coil keyboards
Brad Dutz percussion
Bob Sheppard sax, flute

  85 年発表のアルバム「Spears」。 スコット・ヘンダーソンとグループの共同名義による TRIBAL TECH のデビュー作。 内容は、メカニカルなイメージを強調し、エキゾティックなアクセントをつけたハード・フュージョン。 ELEKTRIC BAND に通じる(というか本作品を聴いてコリアに抜擢された?)、お洒落なようでいて、ごりごりのテクニカルな作風である。 打楽器系と得意とするデジタル・シンセサイザー・サウンドやパーカッションを生かした 80 年代らしい第三世界志向、ニューエイジ・テイストも色濃い。 全体によるテーマ部はキメこそキツキツながら比較的メロディアスだが、展開部やアドリヴでは、変則リズムや複雑な和声、アブストラクトなフレーズ反復なども含むかなり攻めたプレイが繰り広げられる。 キュートなシンセサイザーのテーマのバックでギターが後期 KING CRIMSON ばりの変拍子シーケンスを刻みまくっていたりするからおもしろい。 ギターは心地よいディストーション・サウンドによる抽象的ながらもグルーヴィなプレイが主。 暴発はせず制御のいきとどいた、それでいて技巧的なアドリヴを放っている。 現在のようなブルージーなペンタトニック系のプレイではなくよりジャズらしいプレイではないだろうか。 一方、スムースでリラックスした雰囲気は、ピアノやフルート、サックスの音質から生み出されることが多い。 打楽器系の自己主張が充実しているのも特徴か。
   プロデュースはヘンダーソン。

  「Carribean」(8:13)スチール・ドラムスなどサウンドにカリビアンなムードあふれる作品。 ギターやキーボード、サックスのフレーズそのものは抑揚とアクセントがかなり変わっており、リズムのブレイクも大胆かつ複雑。 ギター・ソロはいわば「全部ピッキングするホールズワース」。

  「Punkin Head」(6:10)饒舌なベースのプレイをフィーチュア。ピアノのせいで普通のフュージョン感強し。

  「Ivy Towers」(4:49)HAPPY THE MANDIXIE DREGS を思わせるプログレな佳作。

  「Tribal」(2:12)

  「Spears」(7:10)4 ビート・ジャズの箍が外れてゆくアヴァンギャルドな作品。ジャズ・オルガンのアクセントがいい。ギター・プレイからは、ハードロックのマインドがにじみ出る。

  「Island City Shuttle」(7:28)後半に打楽器の衝撃的なアドリヴあり。トリッキーなリズムながらもひた走る感じがカッコいい。

  「Big Fun」(7:58)奔放なプレイを詰め込むも、基本は開放感あふれる 80 年代フュージョン。
  
(PJ 88010)

 Dr. Hee
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Scott Henderson guitars, guitar synthesizer
Gary Wills bass, synthesizer
Steve Houghton drums
Pat Coil keyboards
Brad Dutz keyboards, percussion
Will Boulware keyboards on 4,7
Bob Sheppard sax, flute

  87 年発表のアルバム「Dr. Hee」。 内容は、デジタル・シンセサイザーのパーカッシヴな音色が懐かしいテクニカル・スムース・フュージョン。 多彩な曲想とアイデア、聴きやすさなど、テクニカル・フュージョンの傑作アルバムである。 シンセサイザー以外にも鍵盤打楽器やアコースティック・ピアノなど、キーボード系の音が多め。 独特の和声を巧みに操るギターを軸に展開するが、どちらかといえば、ギターのプレイの痛快さで溜飲を下げさすだけではなく、アンサンブルの連携でエキゾティックでロマンティックなイメージを描くことに主眼があるようだ。 そして、和声だけでなくリズムやアクセントに工夫を凝らして、メロディアスでダンサブルなのにどこか奇妙なひっかかりがあってそのせいでさらにいい感じになる、という目論見も巧みに果たしている。 ノリノリでグルーヴィなのにいびつで傾いだ感じが、粋さや洒脱さやかぶいたカッコよさに直結するわけである。 管楽器にフロントを明け渡す場面も多く、キャッチー路線をとりつつも前衛的な方向も維持するというバランスの難しさを感じさせる。 開放感を主としつつテクニカルなスパイスを効かすという、いろいろな意味で余裕のある健康的な音楽ではあるが、ここから先にはあまり進むところがなかったのかもしれない。 だから、よりソリッドで「ロック」な路線を取るというのが打開策になったのだろう。
   プロデュースはウィルスとヘンダーソン。

  「Dr. Hee」(6:52) パーカッシヴなエレクトリック・キーボード、ギター・シンセサイザー、サックスをフィーチュアしたしなやかでグルーヴィなフュージョン。 軽やかにして多重的なリズムが特徴的。 ハードなタッチのギターもいい。

  「Outskirts」(5:47)カリビアンな風味芳しき作品。 スティール・ドラム風のキーボードとなめらかなサックスが南の海の夕暮れのイメージをかきたてる。 アコースティック・ピアノによる劇的でロマンあふれるソロもよし。

  「Mango Prom」(6:45) ヒップホップ風のリズムによるアーバン・フュージョン。 さまざまなシーンでのソロ・ギターを大きくフィーチュア。

  「Solem」(2:55)ゴージャスな小品。

  「Salsa Lastra」(5:36)パーカッションをフィーチュアし、再びキューバン・ラテン音楽風味の強い作品。 細かく割られたビートが特徴的。 小粋なピアノ、息急き切るサックスとウィンド・シンセサイザー、安定のギター。 傑作。

  「Twilight In Northridge」(5:19)ビートにしばられないフリーなイメージの作品。 アコースティック・ギター、フルートをフィーチュア。さりげない不協和音、スケールアウトの音がおもしろい。 ほかの曲でもそうだが、この途中から始まるような感じの演奏は何か固有の器楽スタイルなのだろうか。

  「Seek And Find」(4:52) ピアノ、サックスのリードする、独特のアクセントをもつリズミカルなトゥッティが特徴的なテクニカル・チューン。 奔放なソロが率いるポリリズミックなアンサンブルである。 スコアの上で即興を活かしているようで、演奏が難しそうだ。

  「The Rain」(1:46)スティール・ドラム、パーカッションらが主役のスペイシーな即興風の小品。雨のしずくのイメージでしょうか。

  「Ominous」(5:06)KING CRIMSON 風の緊張感のあるジャズロック。 攻撃的でミステリアスな表情は、本アルバムでは異色。ギターが計画的暴走。
  
(PJ 88030)

 Nomad
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Gary Wills bass
Steve Houghton drums
Scott Henderson guitars
David Goldblatt keyboards
Brad Dutz keyboards, percussion

  88 年発表のアルバム「Nomad」。 内容は、キャッチーにしてテクニカルなジャズロック。 抜群のリズム感に基づく一体感あるアンサンブルがすばらしい。 特に強烈なのは、アラン・ホールズワースをさらにグレード・アップしたようなギター・プレイ。 ひとたびギアを上げると、甘めのフレーズすらもがスケール外の音を巻き込んで聴いたことのない奇天烈なフレーズへと変貌する。 そのスリルと痛快さ。 一方、デジタル・シンセサイザーらしいパーカッシヴで華やいだサウンドを駆使したプレイは、テーマでもソロでもとにかく人懐こい表情を見せる。 レガートで弾力あるギターのプレイとの相性も抜群だ。 Nomad というのは「遊牧民」のことらしい。 たしかに、それ風のエキゾチズムのスパイスを効かせている。
   プロデュースはウィルスとヘンダーソン。なんというかたいへん懐かしい音のフュージョンです。

  「Renagade」(5:44)ハードなタッチのジャズロック。はやギター全開。

  「Nomad」(7:14)時代を象徴するようなデジタル・シンセサイザーによるホィッスル風のエキゾティックなテーマが印象的な作品。BRUFORD と共通するタッチの傑作。

  「Robot Immigrants」(5:02)鍵盤打楽器とパーカッションによる小刻みなビートが導くエスニック・フュージョン。デジタル・シンセサイザーのパーカッション・サウンドは一世を風靡しました。ギターは控えめ。

  「Tunnel Vision」(4:36)シンセサイザーによるリズミカルでアッパーなテーマ、しなやかなギター・プレイ、エフェクトされたベースの積極的なプレイなど、時代のスタイルを極めたフュージョン。

  「Elegy For Shoe」(4:07)リヴァーヴを効かせた CP80 風のエレクトリック・ピアノとホーン風のシンセサイザーが描く幻想曲。CD のみの収録作品。

  「Bofat」(8:30)ファンキーなスムース・フュージョンをテクニカルにデフォルメしたような作品。 ライトなグルーヴと強引すぎる歪みが共存する、奇妙な味わい。臨界点を超えて弾け飛びそうなスリル、カッコよさ。

  「No No No」(5:46)リラックスした R&B 系フュージョン。エレクトリック・キーボードの音がどうしてもスチール・ドラムに聴こえてしまうので、ニューエイジっぽさが印象付けられる。

  「Self Defense」(4:58)ベース、ドラムスの見せ場あり。昔から思うがこういうアドリヴにベースという楽器は不向きではないだろうか。やたらと指が動くことだけの証明にすぎない。ギターやキーボードのブレイクを活かしたコード・プレイがカッコいい。飛翔のイメージ。

  「Rituals」(5:41)スペイシーで悠然としたシンフォニック・チューン。THE ENID ばりのスケール感あり。
  
(88561-1028-2)

 Tribal Tech
 no image
Scott Henderson guitars
Gary Wills bass
David Goldblatt keyboards
Joey Heredia drums
Brad Dutz percussion

  91 年発表のアルバム「Tribal Tech」。 内容は、爆発的なギター・プレイがリードするテクニカル・フュージョン。 角を落としていない WEATHER REPORT というか、サウンドこそクリアー(この時代らしい独特のデジタルなタッチあり)だが、演奏はひたすらゴリゴリ押し捲る硬派なスタイルである。 この一本槍な感じは、アメリカのハードロックやヘヴィ・メタルのセンスに近いと思う。 音を機関銃の銃弾のように打ち出して、その刺激が生むフィジカルで直接的なインパクトをリスナーの音楽体験の入り口として提示しているからだ。 いわゆるプログレが志向するような叙情的、叙景的な要素はほとんどなく、したがって想像力や知性をはたらかす余地はあまりないが、それゆえに純音楽的な志向ともいえる。 ダンス・ミュージックに極めて近いが、この音でダンスをすることも期待はされていない(あるいは、できない)はずだから、ダンス・ミュージックではない。 強いていえば、R&B やジャズ、ブルーズといった音楽スタイルに依拠して、それらを技巧面で極端にデフォルメした音楽である。 (これらだけではなく、すでにジャンルとして確立、成熟した HR/HM を技巧面でデフォルメした手法も 80 年代辺りから現われている) ダンサブルなグルーヴにそれとは矛盾するような抽象性を感じ、不条理を感じられれば、このタイプの音楽がこれまでになかった地平を開拓したプログレッシヴなものであることが納得できるだろう。 そして、その特徴的な姿勢を象徴するのが、ブルーズを抽象化したようなフレーズをあくまでメロディアスに紡ぐギターである。
   ベーシスト、ゲイリー・ウィルスとヘンダーソンが並んでクレジットされたジャケットからしても、双頭ユニットを確立した作品なのだろう。 デジタル・シンセサイザーの音色が今聴くと懐かしくも奇妙な味わいではある。 プロデュースはヘンダーソンとウィリス、ゴールドブラット。

  「Signal Path」(6:29)
  「Big Girl Blues 」(6:15)
  「Dense Dance」(4:51)
  「Got Tuh B」(6:43)キーボード、ベースをフィーチュア。
  「Peru」(7:23)
  「Elvis At The Hop」(4:34)ファンキーにしてアブストラクトな、聴きようによっては不気味な名曲。こういう和声のセンスって何なんだろう。
  「The Necessary Blonde」(6:52)
  「Fight The Giant」(4:05)
  「Sub Aqua」(5:30)たいへんに「らしい」フュージョン・チューン。
  「Formula One」(4:44)
  「Wasteland」(8:03)WEATHER REPORTU.K. と後期 SOFT MACHINE をイメージさせる幻想的な作品。
  
(RELATIVITY 88561-1049-2)

 Illicit
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Scott Henderson guitars
Gary Wills bass
Scott Kinsey keyboards
Kirk Covington drums

  92 年発表のアルバム「Illicit」。 世はグランジ・ブームもスムース・ジャズも一段落、オールド・ファッションのリバイバルもあって経世の斜陽とともに誰もがさまざまに迷走し始めた頃であった。 本作では 80 年代風のチープさは霧消し、代わってシャープでクリアーなイメージが強まり、さらに、ハードで骨太なロック・マインドにほのかな憂いと若干の闇を一まとめに押し込めた作風になっている。 小気味よすぎるリズム・セクションと自由すぎるギターとリズムも彩りもなんでもござれのキーボードが一つになった安定感あるパフォーマンスであり、屈折感と開放感がともにワイドなレンジで襲いかかってくる硬派な内容である。 主としてキーボードに因る透明感あるサウンドに惑わされてメローなフュージョンと勘違いしそうだが、演奏はエッジの効いた奔放でテクニカルなジャズロックの王道である。 オシャレなファンク調のグルーヴもナチュラル・ディストーションのギターがぐわっとリードを奪うと一気に腰がすわり、スリリングな強面に変貌する。 そして攻め込んだ後の賢者タイムというべき茫漠感もまた独特である。 なんだか分からないがもやもやと鬱屈したエモーションをそのまま音にして出せるというのも才能だろう。
   ゲイリー・ウィルスとの双頭体制を確固として、不動の 4 人体制が整ったグループとしては第一作ということになるようだ。 楽曲は 10 曲中 4 曲がヘンダーソン、4 曲がウィルス、2 曲がバンド名義である。 全体としてみるとバランスがいい分ぶっ飛び感が減った気もするが、アメリカン・ロックのフレイヴァーをたっぷり含んだフュージョンとして見ると完成度は高い。 ブルーアイドソウルというか R&B は不可欠な要素だが、強すぎるとダンサブルなファンクやいわゆる「スムース」になりがちである。 しかし、カントリーやブルーズ、ハードロックが強い根っこを張っていれば、こういうパワフルかつスカッと抜けた音になるということのようだ。 テクニカル・フュージョンの名刺代わりとなる一枚。 プロデュースはヘンダーソンとウィリス。

  「The Big Wave」(6:27)冒頭、フュージョンじゃないよーん、という表明。ギターはすでに全開。ベースは大人になった。顔面を殴打されているような強烈なドラミング。まずは自己紹介。ウィリス作。

  「Stoopid」(5:43)デジタルなダンス・ファンク。キーボードをフィーチュア。ギターは抜群のリズム・パートから、後半では奔放なソロへ。強靭なるしなやかさ。ウィリス作。

  「Black Cherry」(6:39)バラード。「限定された宇宙」というべきキーボード・サウンドの冷徹なアンビエンス。後半、ナイト・ミュージック調ながらもブルージーに歌うギターが魅力的。電化したジャズの到達点の一つである。ヘンダーソン作。

  「Torque」(5:53)これはカッコいい。ゴージャスなハード・フュージョン。ヘヴィなリフとテンション・コードが世界のつなぎ目を揺るがす。ヘンダーソン作。

  「Slidin' Into Charlisa」(7:28)西海岸風の R&B タッチが冴える名曲。饒舌なるブルーズ・ギター。コンプレッサの効きもよし。 バジー・フェイトンのようです。ヘンダーソン作。

  「Root Food」(8:12)快調ブギー・フュージョン。シンプルなビートを超絶的な弾力でうねらせるベースとドラムスがすごい。思わず笑い出しそうになる。自由奔放なギター。キーボードはアイデア不足か相方が元気すぎて当惑気味か。代わりにベースががんばる。 ヘンダーソン作。

  「Riot」(6:57)即興セッションから発展したらしきミステリアス・チューン。アメリカンな BRAND X。グループ作。

  「Paha-Sapa」(3:19)音響メインの小品。ウィリス作。

  「Babylon」(5:27)WEATHER REPORT を思わせるスーパー・デジタル・ファンク・フュージョン。苦手な人はこういう曲の区別がつかない。ウィリス作。

  「Aftermath」(7:03)セッションからの流れのようなスペイシーな音響作品だが、自然発生的なドラマもあり。グループ作。
  
(BLUEMOON WPCR-28242)

 Face First
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Scott Henderson guitars
Gary Wills bass
Scott Kinsey keyboards
Kirk Covington drums

  93 年発表のアルバム「Face First」。 内容は、中後期 WEATHER REPORT の展開系ともいえるテクニカル・ジャズロック。 ダイナミックで変化に富むリズムを基盤に、モーダルなスケールと和声による技巧的なソロをフロントに配して、反応性のいいアンサンブルを網の目のように張り巡らせた複雑な作風である。 そして、そういったアカデミックにして野心的、アヴァンギャルドなアプローチを陽性ファンク、ブルーズ・ロック、あるいはブルーズ・フィーリングあふれるモダン・ジャズ・タッチ、ルーツ・ミュージック・タッチの音楽にまとめるところが特徴。 抽象的で寒色とも暖色ともいえない色調が、目まぐるしい運動を繰り広げるうちに不思議とエモーショナルな響きのパターンを構成してゆく。 パワフルにしてスリリング、さらにはほのかなユーモアも漂わせる、痛快な娯楽性たっぷりの懐の深い演奏だ。
   ギターは心地よいナチュラル・ディストーションを活かしたブルージーなプレイを得意とし、左手主体のプレイでも常にハードなエッジが立っている。 音にコシのある骨太なテクニシャンである。 キーボーディストは細やかに音色を選択してワサビの効いたプレイを放つ。 4 曲目の牧歌調のアコースティック・アンサンブルは、ジャズからの離脱と再訪を経たようなおもしろいパフォーマンス。 9 曲目は急逝したスティーヴィー・レイ・ヴォーンとアルバート・キングへの献辞のあるハードなブルーズ・ロック。ギターももちろんいいが、鋭いバッキングがいい。
   ジャム・バンド・ブーム先取りか、とも思わせるグルーヴのちりばめられた作品である。 プロデュースはヘンダーソンとウィリス。

  「Face First」(7:03)弾力あるファンク・チューン。ウィリス作。
  「Canine」(6:20)スタントン・ムーアばりのやんちゃなドラミングが冴える。ギターはジャジーに洒落のめしつつ、ホールズワース真っ青のプレイを放つ。ウィリス作。
  「After Hours」(7:21)キャッチーながらも抑制された妖しさもある佳作。中間部のフリーフォームのパートがおもしろい。キンゼイ作。
  「Revenge Stew」(6:03)ヘンダーソン作。
  「Salt Lick」(9:44)目が回りそうなやりたい放題系ハイテク・チューン。緊張と弛緩の変化が急激過ぎて耳キーンとなる。演っている方もややラリ気味か。ヘンダーソン作。
  「Uh ... Yeah OK」(6:41)セッション風のファンク・チューン。グループ作。
  「The Crawling Horror」(7:45)ちょっと変わった 4 ビート・ジャズ。 ヘンダーソン作。
  「Boiler Room」(1:34)ドラムス・ソロ。コグニトン作。
  「Boat Gig」(5:57)ヘンダーソン作。
  「The Precipice」(6:13)ウィリス作。
  「Wounded」(5:39)ウィリス作。
  
(BLUEMOON WPCR-28243)

 Primal Tracks
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Scott Henderson guitars
Gary Wills bass
David Goldblatt keyboards on 1-7,9,13
Pat Coil keyboards on 8,10-12
Joey Heredia drums on 1-3,5,7,13
Steve Houghton drums on 4,6,8-12
Bob Sheppard sax on 8,10-12
Brad Dutz mallets, percussion

  94 年発表のアルバム「Primal Tracks」。初期三作(スコット・ヘンダーソン主導のプロジェクト時代)からの編集ベスト盤。 内容は、痛快にして独特のヒネクレ感満載のテクニカル・フュージョン。 一番の魅力は、ヘンダーソンのナチュラル・ディストーションでの自由すぎる、少し変わったプレイ。 アウトな音もばんばん交えてダーっと弾き切り、惜しげもなく終わってしまうところもいい。 そのプレイがリードする陽性のファンキーネスやジャズらしいアーバンなメロー・タッチが尖ったリズムとテンションコードの嵐とともに次第に捩じれていき、ついには奇天烈な抽象画のような印象を与えるようになる。 甘みも渋みも NATIONAL HEALTH に接近しそうになるが、やはりストレートなロックンロールに振れてしまうところがアメリカ、カリフォルニアの人達である。 そこがおもしろい。 バンドのアンサンブルはわりと軽めだが、ベースが姿勢を正した上でリズム・セクションが集中力を発揮すると、俄然タイトでパワフルになる。 特にスティーヴ・ホートンのドラミングはなかなか破天荒で、ギターとの相性もいい。 90 年代初頭らしい「ワールドミュージック」風味(パット・メセニー風味か?)も嫌味にならない程度に若干あり。 キーボードはエレクトリックが主。 モダン・ジャズ風のグルーヴも素材としてコンテンポラリーな加工を施すと新しい顔を見せる。 個人的な趣味ではあるが、この演奏のままマイク・スターンが得意とするような「変な曲」が多いともっとよかった。 やはりグループとしての第一作「Tribal Tech」からの楽曲が一番力が入っている。

  「Elvis At The Hop」(4:34)「Tribal Tech」より。
  「Got Tuh B」(6:43)「Tribal Tech」より。
  「Sub Aqua」(5:30)「Tribal Tech」より。
  「Nomad」(7:14)「Nomad」より。有名ないくつかのフレーズがモチーフを構成しているような。
  「The Necessary Blonde」(6:52)「Tribal Tech」より。
  「Bofat」(8:30)「Nomad」より。
  「Wasteland」(8:03)「Tribal Tech」より。これはプログレ。U.K. か?
  「Mango Prom」(6:45)「Dr. Hee」より。
  「Self Defense」(4:58)「Nomad」より。
  「The Rain」(1:39)「Dr. Hee」より。カンタベリーの血が通うプログレ小品。
  「Ominous」(5:03)「Dr. Hee」より。
  「Twilight In Northridge」(5:19)「Dr. Hee」より。
  「Dense Dance」(4:51)「Tribal Tech」より。
  
(BLUEMOON 82 79196)


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