TUNNELS

  アメリカのプログレッシヴ・ロック・グループ「TUNNELS」。 BRAND X のパーシー・ジョーンズによるソロ・プロジェクトがレギュラー・バンド化。 2006 年現在アルバム五枚。 2004 年来日。 2010 年ジョーンズはスコット・マッギルらとの新プロジェクトでアルバム発表。

 Percy Jones Scott McGill Ritchie Decarlo
 
Percy Jones fretless bass
Scott McGill iguitar, MIDI moog voyager, fretless guitar
Ritchie Decarlo drums, percussion, modular moog voyager, BFD & battery 3
guest:
Markus Reuter touch guitar soundscape on 2, 7

  2010 年発表のアルバム「Percy Jones Scott McGill Ritchie Decarlo」。 TUNNELS がどうなったのか定かでないが、2007 年以降、再び活発に動き出したパーシー・ジョーンズ氏。 2007 年、スコット・マッギルの作品へのゲスト参加を経て、本ユニットは結成された模様。 2008 年には DL 販売でデビューを飾っており、本作は二作目であろう。
   内容は、アグレッシヴなへヴィ・ジャズロック、かなりハードロック寄り。 シンセサイザーを多用したソリッドなサウンドを引っさげて、ごり押しで迫る。 冷ややかでスペイシーなサウンドスケープと牙を剥いたアタックのようなフレージング、そしてシンフォニックな高まりなど、仮想敵は KING CRIMSON としか思えない。 強固で苛烈なインプロもそうだが、何よりそういうところから立ち昇ってくる胸に迫る叙情性が KING CRIMSON と同質なのだ。 また、本作では、マッギルのプレイに過激ながらもアコースティックな音としてのインパクトがある。 テクニシャンがテクニックを超えたところでギターを操っているといえばいいのだろうか。 轟歪音ノイズ発生器のような使い方がみごとに決まっているし、デメオラばりの超絶アコースティック・ギター・アンサンブルもカッコいい。 ホールズワース路線に飽き足らないのか、なかなか研究熱心である。
  プログレッシヴなハード・ジャズロックの逸品。地味なジャケットのため、見逃さないように。 プロデュースはリッチ・デカーロ。 ギターやベースのサウンドなど製作の仕方次第でもっと迫力が出たのでは。(スタジオ一発録りか?) ただし、このラフなサウンドがキナ臭さを漂わせていていいのかもしれない。
  
  1 曲目「Menagerie Animato」ハードな中にリリシズムがにじむ佳作。メロトロンのように重厚なバックグラウンドの中でマッギルのギターが爆発する。ラフな感じがいい。誤解を招くかもしれないが、ANEKDOTEN と同質の後期 CRIMSON への憧憬がある。
  2 曲目「Rumsfeld's Spleen」ギターは、意識して BRAND X のジョン・グッドソールを真似ているとしか思えない。即興度高し。
  3 曲目「F-Hole's Worth」フザケタ曲名。フルアコ(セミアコか?)の良さを訴えているだけかもしれない。息苦しい変拍子でグネグネと低廻する。
  4 曲目「Polonium 210 Filter
  5 曲目「TWO By TWO
  6 曲目「43 Letsby Ave.
  7 曲目「The Ghost Of 47 Letsby Ave.」厳かな即興曲。ギターは痙攣。
  8 曲目「Rising」甘美な即興曲。
  9 曲目「Börgåsmord
  10 曲目「Definition Defied」名曲。
  最終曲「Days Fogged In」まさかと思うけれども、WEATHER REPORTRETURN TO FOREVER が未来を描いた日々への鎮魂歌?
  
(2010 Uniblab recordings)

 Tunnels With Percy Jones
 
Percy Jones fretless bass
Van Manakas guitars
Frank Katz drums
Marc Wagnon midi vibes

  93 年発表のアルバム「Tunnels With Percy Jones」。 タイトル通り、内容は、パーシー・ジョーンズのベースをフィーチュアしたヤクザなジャズロック。 BRAND X よりもモダン・ジャズ、ポップス的な「こなれ」があり、そこへヘヴィな音も持ち込んでいるので結果としてハードロックに近い音になっている。 フュージョンというにはあまりに荒々しく凶暴であり、メタリックな光沢とオルタナティヴ / グランジに通じるざらついたストリートっぽさが特徴的。 そして、BRAND X 直系の神秘性もある。 こういう音楽は、テーマがあまりにキャッチーだとバカっぽくなって興ざめだが、本作はミステリアスなテーマとソロがいいために妖気に満ちており、胸を張ってプログレといえる。 そして、ヴァイブもさることながら、MIDI によるキーボードの音がいいアクセントで空間的な広がりをもたせており、弾き捲り、押し捲りが基本の曲調に変化をつけている。 また、おそらくギタリスト、ドラマーは、ジャズメンとしても超一流なのでしょう。 安定感の上に殺気立った切れ味もあるモダンなプレイを一貫してキープし、要所でがっちりと決めのプレイを放っている。 特にドラムスは、手数のわりに緩さとタメがあり、非常にカッコいいグルーヴを生んでいる。 そしてもちろん、パーシー・ジョーンズのベースは、変えようにも変えられないあの音。 ハーモニクス、ヴィブラート、ベンディングなど、どうやっているのかにわかには思いつかないプレイばかりです。 作曲にも腕をふるっている。 BRAND X はもちろん、中後期 SOFT MACHINE のファンにもお勧め。
  ここの CD ジャケットは、99 年ワグノンのレーベルからの再発盤。 オリジナルは、味のあるヘタウマ調の奇妙なイラストでした。 それにしてもワグノンさん、レーベル名といいバンド名といいジャケといい 4 曲目の曲名といい、物理化学畑の方でしょうか。 全曲インストゥルメンタル。

  「inseminator」(6:09)ジョーンズ作。うねるリフ、すさまじいドラムスとサイケデリックなシンセサイザーが交錯するモダン BRAND X。パンクっぽく、なおかつスペイシーで神秘的。

  「prisoner of the knitting factory hallway」(6:37)ワグノン作。リラックスしたギター・プレイとドラムスが冴える比較的オーソドックスなライト・ファンク系ジャズロック。コーラスのシンフォニックな響きがプログレ。

  「tunnels」(6:56)ジョーンズ作。強烈なベース・ソロ。

  「maxwell's demon」(7:17)ジョーンズ作。メロトロンに似たシンセサイザーの入ったヘヴィ・シンフォ風の作品。

  「bad american」(15:29)共作。中近東調のミステリアスな雰囲気の中で、ドラム・ソロ、ヴァイブ・ソロ、ベース・ソロが続いてゆく即興超大作。

  「free bander」(3:49)ジョーンズ作。

  「area」(7:51)ワグノン作。角張ったリフの上で、ヴァイブとギターが無機的な演奏を繰り広げ、やがて白熱するジャズロック。

  「barrio」(9:07)ジョーンズ作。ギターとベースと MIDI ヴァイブが即興風に渡りあうアグレッシヴなジャズロック。 ギターに代表されるブルーズ・テイストと MIDI ヴァイブによるアブストラクトでマシーナリーな未来感覚が交差する。 ハードロック、ジャズ、フュージョンが組み合わさった、本作を総括するような内容だ。 終盤の盛り上がりがすごい。

  「slick」(5:39)ジョーンズ作。冒頭と終盤の感傷的な表情を見せる「演歌調」のベースがいい。 ライヴ録音。

  「improvisation」(4:35)ジョーンズ・ワグノン・カッツ作。 ライヴ録音。
  
(Bucky Ball Records / BR002)

 Painted Rock
 
Percy Jones fretless bass
Van Manakas guitars
Frank Katz drums
Marc Wagnon midi vibes
guest:
Sarah Pillow voice

  98 年発表のアルバム「Painted Rock」。 パーシー・ジョーンズの作品が主であった前作と比べると、ギター、ヴァイブが正統的にジャジーなプレイを見せる場面が多く、一見相対的にプログレ度合いは後退したようだ。 ジョーンズはプレイヤーに徹し(特殊奏法も駆使)、作曲は共作の一曲のみ。 しかし、ヴァイブに代表される硬質で暗い透明感のある音色と、精密にしてアヴァンギャルドなアンサンブルには、ジャズにとどまらない味わいがある。 マイルドでも安易なメロディには降りてこないストイックなプレイと独特な和声によるミステリアスな雰囲気が横溢しており、やはりプログレの傍流にいることに気づく。 穏やかなようでいて反復が次第にエネルギーを蓄積し、ふと気づけば風を切るようなドライヴ感もある。 全体に、硬派という表現の似合いそうなパフォーマンスだ。 80 年代の BRUFORD を、もっとずっとハードにしたような作風といってもいいだろう。 ヴァイブ入りドラムンベースやフューチャー・ジャズとして、クラブ・ミュージックとして十分機能する。 タイトルが示す通り、エキゾティックなモチーフを巡る叙景的な表現も多い。
  ワグノンは、前作よりもフレーズ、抑揚ともにヴァイブで自分のスタイルをしっかりと出している。 そして、センスある MIDI キーボードは、まさにプログレらしさの重要なファクターである。 ギターは、オーソドックスなジャズ・ギターを軸にさまざまな方向へずらしてゆく多彩なプレイが冴えている。 テクニカル・フュージョンというと、すぐにメタル系の速弾きへ突っ込む傾向にある今日この頃、こういうスタイルはなかなか新鮮だ。 スキャット以外、全曲インストゥルメンタル。
  タイトルは、カリフォルニアの砂漠にある、古代先住民族の残した自然芸術作品のことらしい。 たしかに、アメリカ西南部地帯は、浮世の馬鹿騒ぎとは完全無縁の太古の面影を伝える風景がいくらでもあり、そこにいくと、その場所が人間界と物理的につながっていることが、にわかには信じられなくなってくる。 そんな気持が生み出した音なのかもしれない。

  「painted rock」(5:25)ワグノン作。オーソドックスなジャズロック。

  「land of the hazmats」(5:23)ワグノン作。1 曲目とは微妙に異なる現代音楽的なヒネリのある作品。

  「house of marc」(7:38)ワグノン作。MIDI によるストリングスやシンセサイザー風の音および女性コーラスによる神秘的な雰囲気と、激しい演奏が重なりあうプログレらしいリリカルな名作。
  「quai des brumes」(4:45)ワグノン作。BRAND X を思わせる澱むような幻想作品。
  「neuro-transmitter」(6:50)ワグノン・カッツ作。ワイルドかつサイケな音響が冴える、野心的エレキ・ジャズの傑作。
  「boyz in the ud」(5:46)ジョーンズ・ワグノン・マナカス作。ややベタだが、西アジアン・エキゾチズムへ挑戦した作品。
  「black light」(6:56)マナカス作。
  「bad american dream 2001」(10:39)ジョーンズ・ワグノン・マナカス・カッツ作。
  「lilly's dolphin」(4:58)ワグノン作。
  「unity gain」(5:40)カッツ作。ドラム・ソロ。 ドラム・ソロで幕を閉じるアルバムも珍しい。
  
(BR005)

 Progressivity
 
Percy Jones fretless bass
Frank Katz drums
Marc Wagnon midi vibes
guest:
John Goodsall guitar on 2,6,8
Mark Feldman violin on 2,3,5,7
Sarah Pillow prepared voice on 4,9

  2002 年発表のアルバム「Progressivity」。 ギタリストは脱退し、ゲストとして旧友ジョン・グッドソールとヴァイオリンのマーク・フェルドマンを迎える。 内容は、ややジャズ寄りになった前作と比べると格段にハードでエキゾチックそしてミステリアスなジャズロック。 パワフルな即興とデリケートな音響と大胆かつきめ細かいリズム・チェンジを盛り込んだチャレンジングな楽曲が眼を引く。 そして、70 年代前半のジャズロックへの思い入れが明確に現れている。 まさしく甦る BRAND XMAHAVISHNU ORCHESTRABRUFORD。 さらには、後期 SOFT MACHINE やジャズロック期の GONG もある。 この内容であれば、コンテンポラリーな音楽としての凄みはさておいても、寝ぼけ眼のシーンへ活を入れるには十分だろう。 ジョーンズのフレットレス・ベースは全開、古代の異世界をイメージさせるエキゾチズムとクラシカルなテイストを兼ね備える MIDI ヴァイブのプレイとともに楽曲を積極的にリードしている。 また、カッツのドラミングにストリート感覚が生かされた現代のロックとしての高い音楽性を感じるので、ついついここにさらにモーリス・パートがいたら刺激し合ってもおもしろかろうなどという妄想を抱いてしまう。 ゲストでは、アヴァンギャルド・ヴァイオリンの雄マーク・フェルドマンのプレイが、思いのほかメロディアスで歌心もあり印象的。 1 曲目、5 曲目は傑作。 即興的なところは好みが分かれるとは思いますが、個人的には大丈夫でした。 間違いなくプログレ・ファン向きの内容です。 今の CRIMSON に真っ向勝負できるのはこのグループだけでしょう。 傑作。

  「Syzygy Incident」(7:32)ワグノン作。ねじれたテーマと浮かび上がりそうですぐに沈んでいくところやキメは BRAND X そのもの。「惑星直列」。MIDI ヴァイヴはデジタル・ピアノ風のテクスチャのサウンド。終盤の歪んだ音はマイク・ラトリッジ風。

  「Wall To Wall Sunshine」(4:28)グループ作。ロカビリー調のリズムでギターとヴァイオリンがやんちゃでロックなアドリヴを繰り広げる。ブルージーなストリート感覚あり。

  「Frank's Beard」(9:26)マグノン/カッツ作。奇妙なリズム・パターンが追い立てる集団即興。MIDI ヴァイヴはローズ風のエレクトリック・ピアノ。ヴァイオリンも参加。英国ジャズロックの血統という感じ。

  「Diabollocks」(6:00)グループ作。ノイジーなドラムンベース。衝撃的。

  「Progressivity」(6:35)ワグノン作。スペイシーでシネマティックなジャズロック。キュートで幻想的なキーボードのサウンド、プレイはいかにもプログレ。ヴァイオリンが入るとユーロロック色が濃くなる。むやみなキメに走らずふわふわとクラシカルなフレーズを紡いでいる。

  「7,584,333,440 Miles Away」(20:28)グループ作。即興演奏。前半は 4 ビートっぽく迫るところも多いのでコンテンポラリー・ジャズというべきか。後半からはハイ・テンションのハードなジャズロックへ。14 分あたりのアンサンブルがカッコいい。 7,584,333,440 マイルは 120 億 km で太陽系の直径程度。

  「Some Things Must Last」(5:02)ワグノン作。ヴァイオリン、オルガン風のキーボードをフィーチュアしたメロディアスでムーディな作品。

  「Fusionauts」(4:45)ワグノン作。ヘヴィ・ディストーション・ギターが唸るハード・チューン。テクニカルなギター・フュージョンの典型的なスタイル。

  「Orfeo's Demon」(5:17)ジョーンズ作。ワールド・ミュージック(アフリカンか?)風の歌ものドラムンベース。怪しげでコミカルでキュート。ミュージシャンとしての感覚が若い。

  「High Tea At 49th And 10th」(4:03)グループ作。クールなエレクトリック 4 ビート・ジャズ。宇宙とストリートを一っ飛び。
  
(BR009)

 Natural Selection
 
Percy Jones fretless bass
John O'Reilly Jr drums
Marc Wagnon midi vibes

  2006 年発表のアルバム「Natural Selection」。 ミステリアスにしてストリート感覚あふれる傑作。 フュージョン、ジャズロックといったときの、ややもすれば自己満足風のカッタるさとは完全に無縁である。 ストイックなコワモテで、なおかつ、妖しくしなやかである。 新ドラマーは、緩めのスネアやライド・シンバルによるヤクザな表現がハマる逸材。 そして、今回もまた、ワグノンによるシンセサイザーのプレイやサンプリングが、曲のトーンを決め、ステージを作り上げている。 ソロが、往年のプログレのムーグ・ソロのように聴こえるからおもしろい。 ワグノンのプレイがトリオ特有の音の数と種類の制約という問題をみごとに解決している。 そして、ジョーンズのフレットレス・ベース・プレイが、とにかくみごと。 アコースティック・ベースを思わせるデリケートなニュアンスと、エレクトリック・ベース特有のビート感を矛盾なく表現した上に、爆発的なパワーもある。 まさしく、永遠、珠玉のワン・パターンである。 全体の印象は、トリオによるスリムな音にもかかわらず、不敵であり傲岸不遜。 このワルっぽさは、おそらくジャズの原点であり、ロックの魂である。 ワグノン氏の作曲センスはかなり多彩。 傑作。

  「Devil's Staircase」(8:32)ジョーンズ作。ノイジーなエレクトリック・サウンドと中近東風のエキゾチズムをまとって、ジョーンズ全開でひた走る。圧迫感とドスの利き。 ワグノンによる三味線風のソロもいい。 BRAND X 入ってます。

  「Run By Time」(6:03)ワグノン作。ドラムス、カッコよし。ただし、ユニゾンのキメはなんとなくスコット・ヘンダーソン系で、「普通」っぽい。ローズ・ピアノを意識したようなヴァイブがおもしろい。

  「Soliton」(7:24)ワグノン作。初っ端からびっくりするほど軽い今風ノリだが、なぜか KING CRIMSON のような緊張感も浮かび上がってくる。 ドラムス、いいです。 中盤のまるでギターのような速弾きリードは、MIDI Vibe? それともエフェクトしたベース? タイトルは相変わらずの「物理好き」か。目立つ作品だ。

  「The Hidden Dimension」(6:02)ワグノン作。ステップごとにカクンカクンと踏み外すような奇妙なリズムとともに、マリンバ、ヴァイブが沸き立つ叙情的な幻想曲。

  「The 11th Floor」(6:28)ジョーンズ作。「普通の」超絶ヴァイブが新鮮。

  「Light Gathering」(6:08)ワグノン作。緊迫感あるジャズロック。管楽器風の MIDI Vibe をフィーチュア。 終盤、タガが外れたようにワイルドな演奏で突進する。

  「Enigma」(7:33)ジョーンズ作。シンフォニックなドラムンベース。エキゾティックな響きも。

  「Green Eyes」(5:20)ワグノン作。ヴァイブの独壇場。8 ビート・モダン・ジャズ。

  「Io's Dream」(6:47)ワグノン作。
  
(BR018)


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