TURNING POINT

  イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「TURNING POINT」。 ISOTOPE から分裂したジェフ・クライン、ブライアン・ミラーによるグループ。 作品は二枚。 ライヴではニール・アードレイやアラン・ホールズワースも客演したようです。英国ジャズロック最後のきらめきの一つ。 GULL レーベル。

 Creatures Of The Night
 
Jeff Clyne bass
Pepe Lemer vocals
Brian Miller acoustic & electric piano, synthsizer
Dave Tidball tenor & soprano sax
Paul Robinson drums, percussion

  77 年発表の第一作「Creatures Of The Night」。 内容は、技巧では米国メイン・ストリームと遜色なく、神秘性と繊細な叙情性で頭一つ突き抜けたフュージョン、ただしややニューエイジ寄り。 ギターレス、女声スキャット付のキーボードと管楽器の双頭体制とそのサウンドから、どうしても初期 RETURN TO FOREVER や 初期 WEATHER REPORT とイメージが重なる。 ただ、こちらは、ソプラノ・サックスやエレクトリック・ピアノのタッチの柔らかみや、アコースティック・ピアノの音の深みなど、清澄でデリケートな審美意識がすみずみに行き渡った作風であり、メロディアスであってもハイブラウで下世話な感じがない。 そこがアメリカものと違う。 サックスにしてもキーボードにしても、いわゆるジャズにおけるパワフルな即興という感じのプレイではなく、抑制された微妙な陰影を丹念に施したプレイに終始している。 ものすごく変ないい方だが、厳しい禁欲から色気がにじみでている。 キャッチーなメロディには堕ちず、コテコテの自己主張ソロにも耽らず、ソプラノ・サックスに代表されるように淡い叙情をややしかつめらしい表情ながらもデリケートなタッチで綴るのである。 ファンキーなリフですら汗臭いグルーヴを振り回すことなく、そのステップは慎ましく控えめである。 一方、ドラムスがジョン・マーシャル的なロック系のプレイを主としており、その厳つさがフロントのドリーミーなサウンドといいコントラストを成している。 ジェフ・クラインのベースが、表現こそソフト・タッチだが、アピールが強いところもおもしろい。 ダブルベースではできなかった主張がエレクトリック・ベースでできるようになってうれしいのかもしれない。 かように、ドラムンベース張りのなかなか勢いのあるリズム・セクションに支えられて、上ものはうつむきながらも優雅に品よくヒラヒラと舞うのである。
   暖かな雨音のようににじむエレクトリック・ピアノの響きにソプラノ・サックスとスキャットのユニゾンが重なったときの、メローにして謎めいた感じは、WR の第一作のようなコズミックな神秘性とはやや異なり、もっと現世的で官能に直接訴えるものがある。 それでいて、ジョン・エサリッジ、リック・サンダースによる SECOND VISION の達観気味のニューエイジ・テイストとも通じている。 こういった味わいの底にあるのは、すべてに翳りをもたらす英国の音楽独特のメランコリーなのだろう。 後半の作品で見せるユニークなシンセサイザー・サウンドもプログレ調といっていいだろう。 さて、フュージョン、ジャズロックと一口に言っても、その中にはロック寄り、ジャズ寄り、ラテン系、ハイテク系、ソフトアンドメロー系と実にいろいろある。 本作品は、神秘アンドブルー系だろう。
  
  「My Lady C」(5:26)
  「The Journey」(4:29)ソロ・ピアノがリードするアンサンブルが秀逸。
  「Vanishing Dream」(1:13)
  「Creatures Of The Night」(6:01)オーソドックスなスタイルながらも達者なエレクトリック・ピアノ・ソロがカッコいい。 ふわふわしたサックスも独特。テクニカルにして躍動的、ロマンティックな傑作。タイトルはバットマン?!、ホラー小説?、シェークスピア(マクベスの台詞)?
  「Princess Aura」(8:26)リズムを中心に実験精神旺盛な作品。カンタベリー的。後半のエレクトリック・ピアノ主導のアンサンブルは痛快。
  「Rain Dance」(7:27)ブルーでややひねくれたファンキー・チューン。後半のシンセサイザーが強烈。終盤のヒップホップ調もいい。
  「Better Days」(7:23)BRAND XSOFT MACHINENUCLEUS のいいところ取りのような作品。フェード・アウトせずケリをつけたところにも好感がもてる。
  
(GULP 1022)

 Silent Promise
 
Jeff Clyne bass
Pepe Lemer vocals
Brian Miller acoustic & electric piano, synthsizer
Dave Tidball tenor & soprano sax
Paul Robinson drums, percussion

  78 年発表の第二作「Silent Promise」。 内容は、ソプラノ・サックス、女性スキャット、キーボードを中心とした薄墨のように神秘的なクロスオーヴァー/フュージョン。 フリー系の影響の強そうなサックスを先導役に、明快なプレイによる堅実なアンサンブルと爆発力のあるソロを兼ね備えつつも、全体を謎めいた静けさが包み、女性的なまろやかさでまとめている。 ISOTOPE が、ギターとキーボードをフィーチュアした中期 RETURN TO FOREVER への憧憬を示しているとすれば、こちらは、管楽器とそれをなぞってゆく神秘的なスキャットが存在するため、初期の RETURN TO FOREVER を連想させる。 違いは、初期 RETURN TO FOREVER の官能的な「癒し」とは異なる、抽象性の高いニューエイジ風の「癒し」の風味があること、よりロック的なグルーヴが気軽に示されているところ、控えめながらも自然なファンキーさがあるところなど。 サウンド面、人脈的には、カンタベリー系といっていいと思う。 後発グループだけに、フリー・ジャズや現代音楽に迫るサイケデリックでアヴァンギャルドな面は、SOFT MACHINE らが確立した音楽からの直接的な影響なのだろう。 4 曲目のように、親しみやすいポップス調のスキャットとともに快調に走りながらもベースやサックスが暴れまわる、「明るい MAGMA」のような作品もある。 全体として、70 年代後半らしい音である。
   キーボードは、主としてエレクトリック・ピアノ、そしてシンセサイザーを使用する。 ARP 系と思われるシンセサイザーは、独特のソフトなトーンによる軽やかなソロに加えて、低音のノイズやクラヴィネット風の音遣いが面白い。 B 面では、可憐なアコースティック・ピアノも披露している。 ベースもエフェクトを使用して、かなり目立つプレイをしている。 ハービー・ハンコックを思わせるヘヴィ・ファンキーなグルーヴやメローな部分もあるが、どちらかといえば、性急さのある力の入ったパフォーマンスであり、その固さが、NUCLEUS というよりは ISOTOPE 流を思わせる所以である。 たとえまろやかなスキャットが入っても、リフとビートには頑固なストイシズムが感じられ、緩むことなくタイトに突き進んでゆくイメージがある。 そして、憂鬱で感傷的な表情が決してなくならないところは、英国ジャズロックの伝統だろう。 個人的には、サックスとピアノの静かな対話が美しい最終曲が好み。
   LP は録音がかなりいい。 プロデュースは、マーティン・レヴァン。
  
  「Silent Promise」(6:33)メローにして抑え目のグルーヴの効いた、神秘的な陰影に富む作品。ほぼ全パートの特徴的なプレイをフィーチュアするイントロダクション。
  「Awakening」(1:31)
  「May Day Morn」(5:42)
  「Beginning Again」(7:20)アッパーな快速チューン。薄暗く湿度が高そうなのに初期 RTF 流の官能美と爽やかさを演出するところがユニークだ。(テーマはかなりそのまま)そしてシンセサイザーのスペイシーな音響で一気にプログレ化。
  「Queen Of The White E」(8:51)コントラルトのスキャットが導くゆったりとロマンティックなテーマが印象的な作品。 チック・コリアばりのアコースティック・ピアノ・ソロが新鮮。 エレクトリック・ベースのエフェクトも目立つ。 終盤に向けて雰囲気が活気にあふれたものに変化する。
  「Mirror」(1:43)
  「Mirror, Mirror」(6:40)スティーヴィ・ワンダーばりのファンキー・チューン。弾みのあるリズム・セクション、シンセサイザーのフューチャリスティックなソロがカッコいい。
  「Green Tranquility」(3:23)ニューエイジ・ミュージック風のサックス、ピアノ・デュオ。初期の WINDHAM HILL ですね。
  
(GULP 1027)


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