WISHBONE ASH

  イギリスのハードロック・グループ「WISHBONE ASH」。66 年結成。 ツイン・リード・ギターで一世を風靡した美麗系ブリティッシュ・ロック最右翼。

 Wishbone Ash
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Andy Powel guitar, vocals
Ted Turner guitar, vocals
Martin Turner bass, vocals
Steve Upton drums

  70 年発表の第一作「Wishbone Ash」。 内容は、トラッド・フォークやロカビリー、ヴォーカル・グループからの影響をうまく残したまま 60 年代後半からのブルーズ・ロック・ブームに乗ったブリティッシュ・ロック。 ギター・プレイについてもカントリーやフォークの影響が強そうだ。 ギターのよく歌うフレージングと二つのギターが綾なすメロディアスでキレのいいアンサンブルによるインストゥルメンタル・パートが最大の特徴である。 もう一つの特徴は、3 人のヴォーカリストによる透明感あるハーモニーだ。 旧 B 面はギター・アドリヴによって曲を膨らませるというライヴ・テイクのような作風だが、演奏が端正で切れがいいため違和感はない。 同じように豊富な音楽的素養を持った LED ZEPPELIN がブルーズ・ロックからラウドなハードロックに進んだのとは対照的にトラッド・ミュージックの美しさを追い求めてこういう音楽になったのだろう。

  「Blind Eye」(3:42)
  「Lady Whiskey」(6:11)
  「Errors Of My Way」(6:56)
  「Queen Of Torture」(3:21)
  「Handy」(11:36)
  「Phoenix」(10:27)
  
(MCAD-10661)

 Pilgrimage
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Andy Powel guitar, vocals
Ted Turner guitar, vocals
Martin Turner bass, vocals
Steve Upton drums

  71 年発表の第二作「Pilgrimage」。 第一作で見せた鮮やかなツイン・ギター・ワークはそのままだが、プレイ・スタイルからブルーズ色がやや退き、よりジャジーで緻密になった。 アドリヴを活かした曲展開がラフではなく計算された大胆さに感じられるところがこのグループの特徴だ。 それが顕著なのが、オープニング 2 曲。 スピーディーな 8 分の 6 拍子がドライヴする目まぐるしくテクニカルな演奏とルーズなようで意外性に富んだ展開、一転して点描のように悠然としたアンサンブルからタイトなジャズロック風の展開など、とにかくスケールが大きい。 軽快なスキャットと飛翔するようなアンサンブルにハードロックという表現は似合わない。 切れ味よくギターを支えるベース・ライン、手数を惜しまずジャスト・ビートでたたみかけるドラムスもカッコいい。 この序盤のおかげで 3 曲目、7 曲目のような様式的なブルーズ・ロックは一層際立つことになった。 また、中盤の小品ではリリカルなギターに込められた端正かつ切ない歌心も披露する。 7 曲目はトラッド色豊かなヴォーカル・ナンバーでありこのグループの音楽的なバックグラウンドの広さが分かる。 間奏のアルペジオと淡々としたソロのコンビネーションもすばらしい。
  ホワイト・ブルーズを出発点とした CREAM 以降のハードロック全盛の中で異彩を放ち際立った端正なギター・ロック。 音楽的ヴァラエティを見せつけ、次作に劣らぬ傑作。

  「Vas Dis」(4:41)
  「The Pilgrimage」(8:30)大胆な展開を見せる名曲。
  「Jail Bait」(4:41)
  「Alone」(2:20)
  「Lullaby」(2:59)
  「Valediction」(6:17)
  「Where Were You Tomorrow」(10:23)
  「Jail Bait」(4:54)ボーナス・トラック。ライヴ・テイク。
  
(MCAD-10233)

 Argus
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Steve Upton drums, percussion
Martin Turner bass, vocals
Andy Powel lead guitar on 1,2,3,5,6,7, rhythm & acoustic guitar, vocals
Ted Turner lead guitar on 2,3,4,6, rhythm & acoustic guitar, vocals
guest:
John Tout organ

  72 年発表の第三作「Argus」。 百目の巨人アーガスの伝説をモチーフにしたコンセプト・アルバム。 ツイン・リード・ギターがもたらす独特のうねりも魅力的だが、本作はなんといってもトラッド色の濃いメロディとリフが素晴らしい。 いかにも英国風に起伏と叙情味のあるサウンドは全体をくすんだ色合いに染め上げモチーフである神話世界を巧みに描いている。 マーティン・ターナーのヴォーカルに絡むハーモニーも実に渋く決まっている。プロデュースはデレク・ローレンス。
  
  「Time Was」(9:43) 目の覚めるようなアコースティック・ギターの調べからフォーク・ソング風のヴォーカル・ハーモニーが始まるオープニング・ナンバー。エレキギターのアタック音を消した響きをキーボードのように背景で使っている。一転アップテンポのロックンロールが始まるところはお約束だが痺れるようなカッコよさだ。ギターのクリスプなカッティング・リフやオブリガートそしてアルペジオが冴え渡る。ソロはアンディ・パウエル。ブルーズ・ベースだが何より軽やかさが印象的なソロだ。ドラムスも鋭く切り込んでくる。高音でユニゾンを決めるツイン・リードはこのグループならではの魅力である。軽快な8ビートとしっとり落ち着いたリズムの使い分けも効果的。エンディングに向けてパウエルのリードで走り出すアンサンブルのドライヴ感は最高。再び軽快なリフのロックンロールへと戻ってヴォーカルからギター・ソロへと引き継いでフェードアウト。ロックンロールなんだがフォーク・タッチのイントロやメロディで見せる悩ましさそして品の良い軽やかさがブリティッシュ・ロックらしい作品。名作でしょう。
  「Sometime World」(6:56) アコースティック・ギターとエレキギターのコンビネーションで聴かせる叙情的なヴォーカル・パートから圧巻のインストゥルメンタルへとなだれ込むナンバー。メランコリックなメロディを美しく奏でるリードはテッド・ターナー。しかしテンポ・アップしてからのベースのシャープなランニングとギターのカッティングそしてスキャット/ヴォーカルの絡みはライヴを聴いているような熱気にあふれている。テッド・ターナーのスピーディなギター・ソロが炸裂してもベースは負けずに突っ走り火花が散るような緊張感あふれるインタープレイが続く。ASH流ハードロックの名品。
  「Blowin' Free」(5:18) ツイン・ギターがカッティングする華麗なリフから始まるグルーヴィなナンバー。乗りはR&Bっぽいがギターのクリアーな音色、精細かつシンフォニックななヴォーカル・ハーモニーのおかげでどことなく気品が漂う。オブリガートのギターもきれいだ。美しいコーラスに続き、静けさの中で鮮やかに響いてゆくソロはテッド・ターナー。続いて強烈なリズムに乗って跳ねるブルージーなソロはアンディ・パウエル。そしてツイン・リードのハーモニーからテッド・ターナーのスライド・ギターが入る。一貫してうねるようなR&B調だがコーラスの美しさと引きのパートの優美さがセンスを感じさせる。もちろんスライド・ギターもすばらしい。
  「The King Will Come」(7:06) マーチング・スネアと共にテッド・ターナーのワウ・ギターが踊るイントロはすっかりトラッド風である。お囃子調なのだ。しかしシャープなギター・リフが一気にハードロックの世界へと誘う。そして美しいコーラスが始まる。歯切れよいリフと素朴ながらもメロディアスなヴォーカル・コーラスが印象的だ。サビのバッキングのコード・ストロークの響きも美しい。 そしてヘヴィなリフに乗ってワウ・ギター・ソロが始まる。スピーカ左右に振れる音。ワウ・ギターの見本のような鮮やかなソロだ。リズムが退いてから始まるアルペジオによるアンサンブルは再びトラッド風である。再びリフからヴォーカル・パートへ戻って終る。リフを強調するエンディングも洒落ている。歯切れよいツイン・ギター・リフを中心に繊細なヴォーカル、ワウ・ギターやフィーチュアし動と静を際立たせたドラマチックなナンバー。トラッド風のメロディがよくオリジナリティを感じさせるサウンドである。
  「Leaf And Stream」(3:55) アコースティック・ギター・アンサンブルから始まるトラッド・フォーク。絡み合うアルペジオの響きとたおやかなヴォーカルが中世の神話世界へと誘う。ギター・ソロはアンディ・パウエル。哀愁に満ちた歌心を表現するメロディとたおやかな音色がすばらしい。実に幅広い音楽性を備えたグループだと実感させられる作品だ。
  「Warrior」(5:54) 一転シャープなギター・ソロから始まるナンバー。メロディ・ラインはやはり哀感が強い。イントロに続くリヴァーブの効いた受けのギターでも明らかだ。ギターからメロディを渡されたヴォーカルもエモーションをなみなみ注ぎ込みさらにメランコリックな曲に仕立て上げてゆく。ギター・ソロから始まるサビでは力強いヴォーカル・リフレインが入るが再び古楽・トラッド風味を漂わせている。鮮やかなオブリガートを響かせるギターも泣きが強い。古楽風のヴォーカル・リフレインとヘヴィなギターの取合わせがみごとなナンバー。もはやハードロックというよりもエレクトリックなトラッドである。
  「Throw Down The Sword」(5:55) メランコリックなフォーク・タッチのメロディ・ラインが哀愁を湛えるエンディング・ナンバー。フェード・インするトラッド風のオープニング・リフからドラムスが入るまでの落ち着きとその後の抑えた躍動感、さらには英国ロック正統伝承者としての面目躍如のようなヴォーカル・メロディに漂うリリシズム。すばらしい完成度だ。ヴォーカル・パートに続くツイン・リードの壮大なソロもいかにもこのグループらしく「泣き」ながらも気品を失わない。バッキングのオルガンの響きも感動的なシンフォニック・ロックの傑作。
  「No Easy Road'」(3:39) ボーナス・トラックで「Blowin' Free」のシングルB面。シンプルな乗り乗りロックンロール。ピアノはマーティン・ターナーだろうか。適度にテキサス風のワイルドさを薫らせながらもツイン・ギターを贅沢に使って丁寧にまとめている。 ブルーズやR&Bをベースにしながらも全編を貫くトラッド・テイストが英国情緒を強め、繊細で翳のあるサウンドになっている。さらにコーラスの美しさやナチュラルなギターの音色そしてアンサンブル志向の抑制を効かせたプレイもこの独特なサウンドの構成要素である。とりわけ後半で感じられるトラッド・フォーク調がアルバムの明確なイメージをつくりあげている。ルーズさは微塵もなく、それでいてガチガチのテクニック志向でもないユニークな演奏は何より重要なものがしっかりした歌心であることをはっきりと伝えている。もちろん二人のギタリストが見せるソロでもバッキングでも何でもござれのセンスのよいプレイはそれだけでも充分魅力的だ。ツイン・ギターのコンビネーションのよさはもはや言うまでもない。テクニカルでありながら控えめで渋さを感じさせるプレイ・スタイルはこのグループの特徴であると同時に70年代ブリティッシュ・ロック自体の魅力の一つである。どの曲もハードでエネルギッシュかつトラディショナルでリリカルと多面的な魅力にあふれており、70年代のロックの音楽的な間口の広さを堪能させてくれると言ってもよいだろう。爆発的なエネルギーや天変地異的オリジナリティの発揮ではなく凛と折り目正しく整えることに優れた名盤。

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(MVCM-37)


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