WHITE WILLOW

  ノルウェーのプログレッシヴ・ロック・グループ「WHITE WILLOW」。 93 年サイケデリック・フォーク・グループ「The Orchid Garden」として結成。 フォークからシンフォニック・ロックへと到達したユニークな作風。 耽美なアコースティック・アンサンブルによる暗く荒れ果てたシンフォニーには 70 年代の音への憧憬が色濃い。(リーダーは日本好きらしい) 2017 年第七作「Future Hopes」発表。

 Terminal Twilight
 
Sylvia Skjellestad vocals Jacob c.holm-lupo guitars, e-bow, keyboards
Lars Fredrik Frøislie keyboardsKetil Einarsen woodwinds
Ellen Andrea Wang bassMattias Olssen drums, percussion, keyboards
guest:
Tim Bowness vocals
David Lundberg keyboards
Michael S. Judge guitars

  2011 年発表の第六作「Terminal Twilight」。 前々作までの女性ヴォーカリストが復帰(姓が変わっているが同一人物らしい)し、元 ANGLAGARD のマティアス・オルセンがドラマーとして加入している。 内容は、魔性のコントラルトと目くるめくアンサンブルによる素朴かつ耽美な味わいを基調に、太古の神々の荒ぶる魂と深く澱んだ哀愁をロックのスリルやパワーとじっくりとつき混ぜた妖美魔術系シンフォニック・ロック。 YESKING CRIMSON といったプログレへのオマージュも明快に示した、全体の色調、雰囲気に統一感のある傑作である。 メロトロンとギターのアルペジオと女性ヴォーカル(ケルティック・フォークあたりに多そうなスタイルである)という、すでに復古調のクリシェとして使い尽くされたファクターを使って、これだけ雰囲気もまとまりもある作品を提示できるのだからすごい。 英米のアーティストと比べると、オマージュの示し方がたいへん真摯でなおかつ音楽的にもこなれている。 場面展開や切り返しの仕方が ANGLAGARD に似ているのは、オルセンの参加の影響だろうか。 アコースティックな音のタッチを主としながらもエレクトリックな音も適宜アクセントとして生かして、音響に広がりをもたせている。 艶冶なるアシッド・フォークという特質を生かしつつも、正調シンフォニック・ロックとしての存在感をも示した傑作だ。
   ヴォーカルは英語。米国 LASERS EDGE 版は一曲ボーナス・トラックがつく。 ジャケット裏には、STEELY DAN のウォルター・ベッカーの曲(「Bob Is Not Your Uncle Anymore」)の詞が一くさり書かれている。意図は分からない。

  「Hawks Circle The Mountain」(7:09)ポスト・ロック、ネオ・サイケ的な味もある歌ものシンフォニック・チューン。 ヘヴィな迫り方、空隙の取り方などは ANGLAGARD からのものだろう。 ムーグ・シンセのレゾナンスやホィッスル風の音は格好のアクセント。 後半提示されるテーマへギター、ピアノ、シンセサイザーらが寄り添い、悠然たるアンサンブルをなす。。

  「Snowswept」(4:12)コケットなヴォイスとディレイの揺らぎを活かした愛らしくも物寂しさあるポップ・チューン。 オルセンの「ナントカ族の太鼓」風ドラミングが強烈。

  「Kansas Regrets」(4:40)繊細な男声ヴォーカルによる内省的なギター弾き語り風の作品。アメリカのオルタナ・バンドのバラードにありそうな味わいである。終盤は JADE WARRIOR ばりのニューエイジ・テイスト。

  「Red Leaves」(8:40)プログレど真ん中な作品。IQMAGENTA のヴォーカリストを雇ったらこんな感じだろうか。 随所に YES 入ってます。 傑作。

  「Floor 67」(9:55)ANGLAGARD から KING CRIMSON へ。

  「Natasha Of The Burning Woods」(6:29)粛々たるメロトロンの調べと地鳴り太鼓で幕を開ける夜明けを称える精霊の舞のごときシンフォニック・チューン。 悠然たるテーマ、サイケデリックで瞑想的な音像。 荒ぶる土地神のようなドラム・ビートがいい。

  「Searise」(13:11)アコースティック・ギター伴奏による女性ヴォーカル・フォーク・ロック。 冴え冴えとしたフルートをフィーチュア。 後半はギターやオルガンとともに交響楽風に力強く盛り上がる。「Epitaph」。

  「A Rumour Of Twilight」(2:38)エピローグ。

(TERMOCD009)

 Ignis Fatuus


 
Tirill Mohn violins, classical guitar Audun Kjus flutes, whistles, small pipes, bodhran, vocals
Sara Trondal vocals Eldrid Johansen vocals
The Drummer drums, percussion Jacob C.Holm-Lupo 6 & 12 string guitars, bass
Alexander Engebretsen 5 string bass Jan Tariq Rahman keyboards, recorders, crumhorn, kantale, sitar, bass pedal, bass, vocals, devices
guest:
Carl Michael Eide drums, percussion Steinar Haugerud double bass Eivind Opsvik fretless bass
Tov Ramstad cello Erlend M.Saeverud acoustic 12 string guitar Henning Eidem drums, percussion
Susanna Calvert acoustic guitar
Choir
Trond Haakensen bassTor Tveite tenor  
Terje Krognes counter tenorKjell Viig counter tenor  

  95 年発表の第一作「Ignis Fatuus」。 92 年から 94 年にかけて録音された曲をまとめたアルバムであり、録音メンバーもかなり変動があるようだ。 邦題は「鬼火」。 なんともおどろおどろしいが、意外なことに、中盤までは男女ヴォーカルを中心としたメランコリックなフォーク・ソングが主である。 はっきりとしたリズム楽器があまり入らない上に、メロトロンを除けば、エレクトリック楽器も時おりベースとギターが聴こえる程度。 ヴァイオリンやフルート、ハープシコードなど、アコースティック楽器の音の方が印象的なのだ。 ふと力をゆるめると音がばらばらと散り落ちてしまいそうな、頼りなげな風情である。 トラッドにある力強い素朴さとユーモアよりも、私小説なナイーヴさやディレッタント風の音作りであり、そこがやや鼻につくのだが、ユニークな音であるのは間違いない。

  2 曲目「Lord Of Night」や 5 曲目の「The Withering Of The Boughs」は、アコースティックな音とエレクトリックな音、それぞれが現れ音が薄いながらもプログレらしき展開を見せてゆく。 中盤でヒステリックなオルガンが高鳴るも、結末は民族楽器のパイプでまとめており、やはり「生」指向なのかなと思わせる。 3 曲目「Song」は聖歌風の合唱。 リコーダーの伴奏が雅にして哀しい。 4 曲目「Ingenfing」は男性ヴォーカルによるフォークソング。 メロトロンによるフルートとベースの演奏が耳に残る。 プログレ寄り。 5 曲目のメイン・ヴォーカルを聴くとメインストリームのロックとの接点も感じる。 ノスタルジーではなく、やはり今を生きるグループなのだ。 6 曲目「Lines On An Autumnal Evening」は郷愁を誘うドラムレスのアンサンブル。 リコーダー、チェロ、ヴォカリーズがフィーチュアされる。 トラッド、ファンタジー、ルネッサンスとさまざまな雰囲気。 7 曲目「Noo In These Fairy Lands」は前曲にやや通じる作品。 今度はメロディアスな女性ヴォーカルをフィーチュアし、クラシカルなチェンバロ伴奏によるしみじみとした演奏から、次第にテンポ・アップ、ダンサブルなフォーク・ソングへと変化する。 近年のスウェディッシュ・ポップスやケルト・ブームをとらえたような曲調だ。 オルガン、シンセサイザーのプレイが鮮やか。 ポップにして中身の濃い佳作。 8 曲目「Pilefreet」は再びひそやかなアコースティック・ナンバー。 透明な女性のヴォカリーズとメロトロン・フルートによる、幻のようにはかない演奏。 9 曲目「Till He Arrives」は、アナログ・シンセサイザーとアコースティック・ギター伴奏によるたおやかなポップス。 コケットな女性ヴォーカル。 M/m7th のせいでややお洒落である。 メロトロンを用いたノスタルジックな曲調は、昨今のポスト・ロック系やクラブ・ミュージックによく見られるパターン。

  最新作である 10 曲目「Cryptomenysis」で初めて強烈にエレクトリックかつシンフォニックな作風を見せる。 ドラムスの音も、今まで少なかった分、一層にドラマチックに感じられる。 無調風のオルガンのフレーズから幕を開け、キーボードの音が絡み合う。 不安をかきたてるようなギター・リフにドラム・ベースが重なると、今までのフォーク調にはない、暗く挑戦的なムードが漂う。 続くヴァイオリンとピアノのデュオも不安気な空気をもち、エレキギターが前面に出てくると、リズムも激しくなって、予感通り重く攻撃的な演奏になる。 とはいえテンポはさほど速くないし、ダイナミック・レンジもさほど大きくはない。 ハモンド・オルガンまで登場すると、古めのイタリア・プログレみたいである。 最後のヴォカリーズは、まるでこの昂揚の熱を冷ますようだ。 落ちつきどころのなかったトラッド路線をぐっとプログレへと方向転換したことが、まざまざと分かる作品だ。 美しくグロテスクともいえる。 あえていうなら、真性ファンにはやや重みが足りないかもしれない。

  11 曲目「Signs」は 70 年代初頭のフォーク・ロック風小曲。 アコースティックな音にもかかわらず R&B 風のねばっこさがある。 個人的には好きな音。 そして 12 曲目「John Dee's Lament」も、場面展開のある物語風の作品。 シンフォニックなパートとトラッド風のパートが交互に現れ、テーマである暗く憂鬱な旋律を展開してゆく。 ヴァイオリンとファズ・ベースの絡みをはじめ、生楽器と電気楽器の重奏が面白い効果を出している。


  ゴシックな暗さのなかに純朴なロマンティシズムをたたえたフォーク作品。 日々の暮らしを穏やかに慰める音が、積み重なるうちに、ミステリアスな非現実感をもつに至ったようなイメージである。 元来トラッド/フォーク指向のグループが、エレクトリックな音とリズムに目覚め、よりシンフォニックな形態に移行したとのことである。 もっとも、こういうハイブリッドな音作りは、情報蓄積を経た現代ポップ・シーンにおけるミュージシャンにとっては大したことではないのだろう。 ただし、リアルなヘヴィさよりもスタイリッシュなものを強く感じさせてしまうところが、フレッシュであると同時に弱点である。
(LE 1021)

 Ex Tnebris
 
Jacob c.holm-lupo guitars, organJan tarig rahman piano, mellotron, synthesizer, theremin, vocals
Sylvia erichsen vocalsFrode lia bass
Mattias c. olsson drums, percussion
guest:
Teresa k.aslanian spoken words
Asa eklund vocals
Audun kjus flute

  前作より約三年を経て 98 年に発表された第二作「Ex Tenebris」。 前作が約二年をかけ、多くのゲストを迎えて作られたのに対して、今回はグループとして形が整い、ゲストは若干名のみで録音されている。 特筆すべきは、元 ANGLAGARD のドラマーがメンバーとして参加していること。 これはプログレ路線で突き進む決意の表れか。
  女性ヴォーカルをフィーチュアしたテーマはフォーク色が強いのだが、メロトロンやギターを用いたシンフォニックなインストゥルメンタルと混在/対比することによって、全体的には、情感豊かにしてダイナミックな音楽となっている。 サウンドの要はギターであり、シンフォニックなアンサンブルを組み立てるプレイに徹している。 しっかりと計算されたスタイルは、スティーヴ・ハケットとよく似ている。 また、硬く武骨な独特のドラミングが全体を引き締めていることや、キーボードも多彩な音色で要所を締める。 トラッドから普通のロックをスキップしてシンフォニック・ロックへと到達するという特異な経歴のせいだろうか、いわゆるロック的なドライブ感は希薄であり、ひたすら幻想と神秘に満ちている。 初期 GENESIS またはスティーヴ・ハケットのソロ作にも通じる作風だ。 ヴォーカルは全曲英語。

  1 曲目「Teaving The House Of Thanatos」(タナトスの家を離れて) 静かなアコースティック・ギター伴奏とともに、ストリングスに似たシンセサイザーが奏でられるイントロダクション。 ヴォーカルは渇き、メロトロンが高鳴ると一気に暗いシンフォニックな曲調へと変化する。 しかし意外なことにサビの部分では長調へと転調し、女性ヴォーカルのコーラスを得てフォーク・ソング調の明るさが漂い始める。 そして再び、オルガンによって静かに幕を開かれたインストゥルメンタルが、次第に暗さと攻撃性を強めてゆく。 アコースティック・ギター、チェロの響きの中、ムーグらしいシンセサイザーの電子音メロディがすべってゆく。 ストリングスの響きとともにギターが悩ましいロングトーンで歌うと、そこはもう完全に懐かしの 70 年代ブリティッシュ・ロックの世界だ。 ハモンド・オルガンが静かに流れ、エンディングは再び乾いたヴォーカルが呪文の様に歌い続ける。 ムーグ。 メロトロン。 アルペジオ。 仄かな明りが見える。 感傷といいようもない寂寥感、切ない 70 年代への思いが詰まった幻想大作。

  2 曲目「The Book Of Love」(愛の本) 一転して、アコースティック・ギターと混声ハーモニー、そしてフルートがおだやかに語るブリティッシュ・フォークの世界である。 ロマンティックというには寂しげな風情を、メロトロンがセピア色に染め上げ、寂しさと高揚が同時にやってくる。 ややレイドバックした感触は、今ならばポスト・ロック的といってもいいだろう。

  3 曲目「Soteriology」(救済論) 枯れ果てたピアノのアルペジオを背景にアコースティック・ギターがささやくオープニング。 やがて遠くオルガンが歌い始め、つぶやくようなピアノとともに、次第にシンフォニックな広がりが生まれてくる。 うっすらと霧がかかったような曲調だ。 ハーモニウムを思わせる幻想的なオルガンの響きに支えられて、たおやかな女性ヴォーカルが歌うは古楽の調べ。 メロトロン・ストリングスが静かに寄り添い、空気は雅にしてもの哀しい色合いを帯びてゆく。 オルガンとピアノによるさびしげな二声のアンサンブル、そして、ゆっくりと風が吹き込むように、メロトロンが渦巻き始める。 教会音楽、古楽のニュアンスのあるクラシカルな・エレジー。 美しいナンバーだ。

  4 曲目「Helen & Simon Magus」(ヘレンそしてサイモン・メーガス) フォーク・タッチのメロディアスな女声ヴォーカルが美しい序章。 練習曲風、点描風のピアノはややもの寂しい。 ドラムス、パーカッション、オルガンと加わって、やがて管楽器を思わせるシンセサイザーのなめらかなテーマへと渡ってゆく。 シンセサイザーをそのまま受けて、美しいロングトーンのギターがケルティックなフレーズでリードしてゆく。 マイク・オールドフィールドをぐっと落ちつかせ、ハケット風の幻想味を加えた感じ。 誠実なシンフォニック・ロックである。 訥々たるピアノとドラムスによるブリッジ風のアンサンブルを経て、一転して、ヘヴィに歪んだギターが迫る。 ハモンド・オルガンも凶暴に沸き立つ。 険しい表情をもつ変拍子アンサンブルにたじたじだ。 ただし、テンポはスロー・ミドルのまま変わらないため、圧迫感もさほどではない。 ピアノ、シンセサイザーらによるテーマ変奏を経て、可憐なパイプをきっかけに空気はフォーク・タッチへと復帰。 そして、空ろな女声ヴォーカルによる、あまりにも英国フォーク風のハーモニーからモノローグへ。 密やかな語りと簡にして存在感のあるピアノのリフレイン。 やや甘めのロマンティシズムも漂い始めるも 奇想曲風のきまぐれな展開がおもしろい幻想大作。 メロディアスなテーマや明暗のコントラストは確かにあるのだが、浮遊感がありどこへ辿りつくのか分からない。 RENAISSANCE の音を少なくしたようなイメージだろうか。 フォーク畑には詳しくないのだが 70 年代初期のアシッド・フォーク、サイケ・フォークの作品にありそうな作風だ。

  5 曲目「Thirteen Days」(十三日間) 再びアコースティック・ギターのアルペジオがさざめくフォーク・ソング。 しかし、今度の女声ヴォーカルはきわめてコケティッシュである。 エレキ・ギターのテーマは、北欧の作品によく見られるように、なぜか昭和歌謡曲風。 鼻にかかった媚声が幻想性にやや俗っぽい色合いをもたらすのだが、メロトロン・フルートの素朴な調べが浮ついた雰囲気に陰鬱なベールをかぶせ、毅然たる一線を引いている。 なめらかに進むアイドル歌謡風弾き語り。ギターのフレーズがいい。

  6 曲目「A strange procession」(奇妙な行列) ティンパニが轟き、陰鬱なオルガンと低音管楽器調シンセサイザーが響く、ダークな葬送行進曲である。 荘厳なコラールと低く唸りをあげるオルガンは、棺を神秘のベールで厚く覆い、行列はどこまでも暗く重苦しく続いてゆく。 地獄の門まで死者を送り届けるような陰鬱なレクイエムだ。 ANGLAGARD 的な作風。 次曲の序章的な役割を果たす。

  掉尾を飾る 7 曲目「A Dance Of Shadows」 6 曲目の葬送曲も見据えた歌詞をもつ、本アルバムを代表する大作である。 フォーク調の美しく夢見るようなヴォーカル・メロディと、重く暗いギターやシンセサイザーの作るシンフォニーと対比し独特の効果を挙げる。 ギターはロバートフリップばりのダークなフレーズを生み出し、シンセサイザー、メロトロン、ドラマチックなドラミングとともにシンフォニックな世界を広げる。 シンセサイザー、ギター、ベースはユニゾンから始まる重厚なフレーズでヘヴィなシンフォニーを強調し、さらに、メロトロンが暗鬱な空間を作る。 その空間を埋めるのはギターである。 エンディングのヴォーカルは、最初の夢見るような調子から、フルートの伴奏を得るに連れ、やや陰りを帯びてゆき消えてゆく。 ヴォーカル・アンサンブルを前後に配し、中間部には重厚でシンフォニックなインストを据えた曲構成。 展開それ自体はさほど複雑なものではないし、やや気まぐれ、冗長、不自然に感じられるところもある。 不自然の極みを自然に描く、プログレ系アーティストに与えられた試練の道である。 KING CRIMSON とフォークをごった煮にした大作。


  フォーク調、古楽調のヴォーカル・アンサンブルとダークなシンフォニーが渾然となった繊細で幻想的な音楽。 優しくアクセスしやすいメロディで奏でるかと思えば、悲哀は底知れず深く、メロトロンとギターが黄泉の国へ誘うように暗く力強く響き渡る。 小品からダイナミックな大作まで、全体を包むのは厳かにして漂うような音である。 メロトロンやピアノ、ギターの印象的なテーマがシンプルなアコースティック・アンサンブルを貫き、もの悲しい幻想物語に確たる方向をつけている。 また邪悪さや耽美な演出も成されており、唐突に始まるヘヴィなプレイがいいアクセントになっている。 特筆すべきは、レガートにして全体のムードをしっかりとリードできるフレーズをもつエレキ・ギターと漠々たるメロトロンだろう。 全体にフォーク・ソングに初期 KING CRIMSONGENESIS と同系列の情感を蓄えた優れた内容である。 CRIMSON の叙情面への憧れ方がハケットと共通する、といってもいいかもしれない。 一つ間違えると平凡なニューエイジ・サウンドになってしまいそうなところもあるのだが、70 年代風の丹念な音使いが功を奏し、シンフォニック・ロックとフォーク、古楽などの上にきわどくバランスした内容になっている。 モダンで洗練されたサウンドの奥底には、ブリティッシュ・フォークへの強烈な想いが埋火のように切なく燃えていると思う。
(LE 0129)

 Sacrament
 
Jacob c.holm-lupo electric & acoustic & classical guitars, vocals, additional keyboards, bass
Brynjar Dambo keyboards, glockenspiel
Aage Motke Schou drums, percussion, glockenspiel
Sylvia erichsen vocals
Johannes Sæbøe bass
Ketil Vestrum Einarsen flutes, recorders, melodica, additional keyboards

  2000 年発表のアルバム「Sacrament」。 リーダーと思われるヤコブ・ホルム-ルポとヴォーカルのシルヴィア・エリクセン以外メンバーを刷新し、新たなサウンドを目指した第三作。 ブリティッシュ・トラッド的なアコースティック・アンサンブルによる繊細にしてパストラルな空気と、神秘的かつ峻厳なゴシック・サウンドのコントラストが生み出す、圧倒的なドラマをもつ作品だ。 フルートやリコーダー、グロッケンシュピールらによるアコースティック・アンサンブルは、心を突き通すようにデリケートな音色で物語を彩り、サイケデリックな色合いを帯びたロングトーン・ギターとシンセサイザーが、ヘヴィなシーンを演出する。 リード・ヴォーカルの女性は、声量こそ今一つだが、舌足らずな媚声から斯界を統べる冥女王の咆哮までを巧みな表情で演じて楽曲をリードする。 いわば、ピースフルで自然回帰志向のフォーク・ソングへ初期 KING CRIMSON 風のダークでヘヴィなロックの神秘性と風格、パワーを注ぎ込んだ、ユニークなシンフォニック・ロックである。 その出自ゆえ音圧は高くないが、線の細さを逆手に取った狂暴さも持っている。 重苦しく音が澱む空間にふと湧き上がるメロディの優しさが印象的。 個人的には初期 KING CRIMSON、特にイアン・マクドナルドのセンスに近いものを感じる。 ミドル・テンポで淡々と進む曲調はきわめて地味ですが、正統的なフォーク、トラッドとは異なる微妙な軋みと歪みがありここにハマる方も多いと思います。ヴォーカルは英語。

  1 曲目「AnamnesisANGLAGARD をまろやかにしたようなフォーク調シンフォニー。 たおやかな美しさと切り裂くようなヒステリックなクライマックスがあるのだが、ふっと消えてしまうエンディング含めややドラマ性に欠けるか。 ヴォーカルは女性。

  2 曲目「Paper Moon」コケットな女性ヴォーカルをフィーチュアした幻想的なナンバー。 ポップで媚びるようなサビ。 イコライジングされたヴォーカル、意外なほど伸びやかに歌うギター。

  3 曲目「The Crucible」哀愁漂うフォーク、クラシック調から一気に加速するインストゥルメンタル。 イントロのギターと管楽器によるアンサンブルがすばらしい。 中盤でテンポ・アップし、フォーク・ダンスをジャジーにアレンジしたような演奏やネオ・サイケ風のシンセサイザー・ソロがある。

  4 曲目「The Last Rose of Summer」アコースティック・ギターと男性ヴォーカルによるブリティッシュ・フォーク風の小品。 女性ヴォーカルとのコーラス。 霧の深い森で静かに暮す二人。 絶品。

  5 曲目「Gnostalgia」凛とした女性ヴォーカルを前面にフィーチュアしたシンフォニック調フォーク。 仄かにメロトロン・ストリングス風の響きは聴こえるが、ケルト系というか珍しく正統的なトラッド・タッチである。 絶え間ないギターのアルペジオ。 終盤の 7 拍子はなくてもよかったのでは。

  6 曲目「The Reach」激情、郷愁、狂気、哀感の坩堝の如きヘヴィ・シンフォニック大作。 シャーマニックなヴォーカルと激しくたたみかける演奏が呼応し歪な世界をつくってゆく。 ゴシック的でありながらたおやかな質感を失わないところが特徴だろう。 フルート、フリップ風ギター、ハモンド・オルガン、変拍子アンサンブルなど 70 年代プログレ、フォークの要素に STEREOLAB 風のコーラスやサイケなエコーも盛り込んで、全体にはなかなかコンテンポラリーな雰囲気もある。 本アルバムのクライマックスでしょう。

(LE 1034)

 Storm Season
 
Jacob c.holm-lupo electric & acoustic & classical guitars, keyboards
Sylvia Erichsen vocals
Johannes Sæbøe electric guitars, electric baryton guitars
Lars Fredrik Frøislie piano, Mellotron M400, Hammond B3, mini-moog, synthesizer, Fender Rhodes, Wurlitzer, glockenspiel
Marthe Berger Walthinsen 4 & 5 strings bass, tambourine
Aage Motke Schou drums, percussion, glockenspiel
Ketil Vestrum Einarsen flutes, microsynth, tambourine
Sigrun Eng cello
Fin Coren vocals on 4
Teresa K. Aslanian ghost voice on 2

  2004 年発表の第四作「Storm Season」。 ほぼ前作と同じメンバーで製作されており、作風は、アコースティックなフォークとヘヴィなシンフォニック調が薄暗い世界で手を取り合ってワルツを踊るような、従来通りのものである。 ただし、コケティッシュなヴォーカルを生かしながらも、前作よりもやや落ちついた、くすんだ印象を与える内容になっている。 極端なゴシック調、はたまたエキセントリックなタッチはさほど感じられず、むしろ、アコースティック・ギターのアルペジオからじんわりと染み出す内省的なイメージがある。 メタリックなギターがたたみかける場面もあるのだが、たいていはやや遅れてメロトロンが轟々と鳴り始め、やがて、KING CRIMSON 的な展開へと進むお約束があるようだ。 新加入のキーボーディストによるメロトロン、ハモンド・オルガンのプレイは、いわゆるプログレらしい音使いとしてしっかりとハマっている。 得意の Em-D-B による宙ぶらりんなメロディ・ラインもあり。 タイトル曲は、アルビノーニの「Adajo 」の翻案か。 最終曲は、ヘヴィでスペイシーなギターとヴォーカルの絶唱、オルガンのソロがカッコいい躍動感あふれる力作。 ヴォーカルは英語。Bjork を意識か?

  「Chemical Sunset」(7:58)
  「Sally Left」(6:33)
  「Endless Science」(3:36)
  「Soulburn」(9:21)
  「Insomnia」(5:49)
  「Storm Season」(4:21)
  「Nightside Of Eden」(9:44)

(LE 1038)

 Signal To Noise
 
Trude Eidtang vocals
Lars Fredrik Frøislie keyboards
Jacob c.holm-lupo guitars, additional keyboards
Marthe Berger Walthinsen basses
Aage Motke Schou drums, percussion, glockenspiel
Ketil Einarsen woodwinds

  2006 年発表の第五作「Signal To Noise」。 女性ヴォーカリストは新メンバーに交代。 コケットな本格派ヴォーカルとともにさらにメイン・ストリーム(というのも曖昧ではあるが)へと接近した感ある作品だ。 フォークというよりは、さまざまな要素を混ぜ合わせたポップスであり、おもしろいことに、ポンプ・ロック風のナイーヴな感触もある。 一方、初期から変わらないのは妙な粘り気と感傷のあるギター・プレイ、そして、エレクトリック・キーボード・サウンドへのこだわり。 ANGLAGARD のように神秘的、攻撃的なところもある。 メンバーは他のプロジェクトで新たな挑戦をしているらしいので、おそらく、本グループではオールド・プログレ的な面を強調しているのだろう。 ポンプ・ロック風に聴こえるのは、80 年代中盤と同じく、コンテンポラリーなメロディ・ラインとオールド・プログレをそのまま繋ぎ合わせているせいかもしれない。 現代の主流の音が昔の音の巧みなリミックスになっていることを考え合わせると、「ポンプ・ロック風」というニッチなエリアに落としどころを見出しているところがすごい。 堂々たるマイノリティ宣言である。 全体に、印象は前作よりは前々作に近い。 5 曲目「The Lingering」は力作。また、この作品のような「評価の定まった」叙情性に頼り切ることなく、アドリヴや新しい音にも目は向いていると思う。

  「Night Surf」(4:12)
  「Splinters」(8:36)
  「Ghosts」(5:48)
  「Joyride」(4:18)
  「The Lingering」(9:25)
  「The Dark Road」(4:17)
  「Chrome Dawn」(7:12)
  「Dusk City」(6:05)
  「Ararat (For Teresa)」(1:35)

(LE 1046)


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