イタリアのプログレッシヴ・ロック・グループ「ALPHATAURUS」。 70 年結成。 第一作と同年に録音された第二作は長年オクラ入りだったが、93 年発掘、CD 化 された。 MAGMA レーベル。 2012 年再編、未発の第二作の楽曲も含めた新作発表。
Pietro Pellegrini | piano, organ, moog, vibraphone, cembalo |
Guido Wasserman | guitar |
Giorgio Santandrea | drums, timpani |
Alfonso Oliva | bass |
Michele Bavaro | vocals |
73 年発表の第一作「Alphataurus」。
スケールの大きい叙情的なハードロックに、前衛的なキーボード・サウンドを大胆に取り入れた力作。
特徴は、アグレッシヴな演奏とアコースティックな歌ものを駆け巡る、めまぐるしさ。
おそらく、ハードロック・グループが多彩な音楽素養をもつキーボードを得て、一気にシンフォニックなプログレ路線になってしまったのだろう。
ジャケットは、平和の導き手である鳩が胸から爆弾を投下して街を焼き払っているイラストであり、寓話的、象徴的だ。
おそらくは主題をもつトータルな作品と思われる。
1 曲目「Peccato D'Orgoglio(傲慢の罪)」(12:20)
みるみる膨れ上がる轟音、そして激しいドラム・ロールも湧きあがる、ミステリアスなイントロダクション。
そのまま不気味なギターのアルペジオにかぶさるように、ベースとドラムスが KING CRIMSON や IL BALLETTO DI BRONZO を思わせる邪悪な 8 分の 6 拍子のリフでたたみかける。
一瞬のブレイクから、飛行機の爆音の様なトーン・ジェネレータが湧きあがる。
クロス・フェードで立ち上がるのは、静かなアコースティック・ギターの調べ。
憂鬱ながらも色気のあるヴォーカルが歌いだす。
サビを導くように、アコースティック・ギターは力強いコード・ストロークへと変化し、エキサイトするヴォーカルにコーラスがしたがう。
フォーク・タッチの歌にある熱っぽさが、いかにもイタリアン・ロックである。
2 コーラス目では、ベースとギトギトのエレピが伴奏に加わる。
高まるヴォーカル・ハーモニーにオルガンも重なる。
ドラムスが消えると、ファズ・ベースとアコースティック・ギターの演奏が続き、オルガンがうっすらたなびく。
そして、うねるように流れる遠吠えのようなムーグ・シンセサイザーの調べ。
フェード・インするのは、ミドルテンポながらもたたみかけるようなベース・パターンとねじくれるムーグ・シンセサイザー。
不気味な行進曲のような曲調である。
オルガン、ギター、ベース、ドラムスによる追いかけっことアンサンブルが、目まぐるしく繰り広げられる。
上昇と下降を繰り返し、いったん静かになるも、オルガンによる細い高音とノイジーな低音が蠢き、狂おしげなドラムスが暴れる。
何かに衝かれたように演奏は走り出す。
オルガンとギターのリードで、ハードロック調の熱っぽく性急な演奏が始まる。
ヴォーカルはワイルドなシャウトを決め、ギターがオブリガートから間奏のソロへと突き進んでゆく。
オルガンとギターのユニゾンによる攻め立てるような演奏、そして、ムーグ・シンセサイザーが華やかな下降音形を決める。
再びギター、オルガンによるハードロックで走る。
ふとリズムがやむと、今度はオルガンが朗々と流れ始め、再び不気味な低音が蠢き始める。
次の展開も、オルガンとギターによる攻撃的なリフによるハードロック調のものだ。
追いかけっこも再現。
しかし再びリズムは消え、たなびくオルガンをバックに、ムーグ・シンセサイザーのか細い調べが宙を舞い踊る。
ドラムスのピック・アップ、そして酸味の利いたエレピとアコースティック・ギターの伴奏で、メイン・ヴォーカルが復活。
熱き 70 年代の音である。
ヴォーカル・ハーモニーからエレピへと余韻が渡り終り。
エレクトリックなノイズや極端な曲調/テンポの変化を盛り込んだ、ヴァイオレントな変拍子ハードロック大作。
キーボードによるエレクトリックな酩酊効果を駆使し、無理やりな展開で押し捲る。
特にインストゥルメンタル・パートは、ひたすらせわしなく攻撃一辺倒。
もっとも、そういう演奏なだけに、フォーク・タッチのヴォーカルの存在が映える。
次第にヴォーカルも加熱し、中盤ではオルガンを主に暴れまわる。
このキーボードを主とした狂的な展開には、IL BALLETTO DI BRONZO に近いニュアンスがある。
3 連のフレーズやおぼれそうなエコーなど、今となってはカッコいいのか悪いのか、俄かに判断しかねるようなプレイが満載である。
シンセサイザーのようなノイズに聴こえるところは、トーン/倍音調整をしたオルガンなのかもしれない。
2 曲目「Dopo L'Uragano(嵐の後)」(5:05)
雷鳴が轟く。
スパニッシュなメランコリーを湛えるアコースティック・ギターの調べとともに歌いだすヴォーカル。
憂鬱とそれに対する苛立ちを抱えたような、苦悩のある歌である。
ピアノが静かに支えるも、轟々たるギター、ドラムスの間奏がヘヴィに轟いてすべてをぬぐい去る。
サビではオルガン、ギターも高まり、ヴォーカルも狂おしげに叫ぶのだ。
ドラム・フィルも力強い。
余韻に重なるファルセット。
そして一瞬過ぎ去るノイズ、鋭いドラム・ロールが呼び覚ますのは、意外やイージーなブギー調の演奏である。
しかしピアノ、ギターらによる凶暴なユニゾン・リフが巻き起こり、一気にヘヴィで妖しげな世界となる。
重く引きずるようなギター・リフ、そしてクリアーに響くピアノの和音。
したたるピアノの音とともに潮がひくように静かになるも、ピアノ、アコースティック・ギター伴奏のもと、ヴォーカル対ブルーズ・ギターのバトルが始まる。
再びヘヴィなトゥッティとヴォーカル・シャウト、そして泣き叫ぶギター。
最後はアコースティック・ギターが、熱を冷ますように静かにささやきそして去ってゆく。
ソウルフルなヴォーカル、ヘヴィなギターがリードするブリティッシュ風ハードロック。
クラシカルなアコースティック・ギターを用いた「静」のパートや、ギターとシャウトが絡み合うメイン・パートの配置などは、イタリア版 LED ZEPPELIN といった趣である。(ZEP の第一作の雰囲気である)
3 分辺りの唐突な変化の連続が、いかにもプログレ風味。
キーボードはピアノが主。
3 曲目「Croma(休符)」(3:16)
トリルを多用するやや調子っぱずれなチェンバロとギター、ベースによるクラシカルなアンサンブルによる珍妙なイントロダクション。
電気処理されているようで、なんとなくオモチャじみた音であり、ユーモアも感じる。
ギター、ベースと 3 連チェンバロによる気のないアンサンブル、そして突如降りかかるのは、荘重なるストリングスである。
あたかも天井が落ちてきたようだ。
ストリングスを断ち切るように再び 3 連チェンバロ・アンサンブル、しかし、雷鳴の如きティンパニとともに、ストリングスの大津波が湧き起こる。
豊かな旋律を朗々と響かせ歌い上げる管絃楽奏、そしてきしむような金属音で変化をつけるのはハーモニウムか管楽器か。
父性的な力強さと暖かさを持った演奏が続き、ゆったりと終焉を迎える。
小曲ながらもみごとな盛り上がりを見せるシンフォニック・チューン。
オーケストラを用いるタイプのシンフォニック・ロックである。
ストリングスに厳しさよりも優美なたおやかさがあるところは、NEW TROLLS 以来の伊太利亜ロックの伝統だろう。
おそらく、オーケストラの音にさらにキーボードを多重録音していると思われる。
本作をプログレ作品として扱うのは、この小品と次曲のせいだろう。
インストゥルメンタル。
4 曲目「La Mente Vola(精神の飛翔)」(9:20)
チェンバロのリフレインにファズ・ベース、ドラムスが次々と重なり、穏やかだがエネルギーを秘めたアンサンブルをつくってゆく。
フルートを思わせるムーグ・シンセサイザーは、きらめくように華やかなオブリガートを放つ。
いくつものムーグ・シンセサイザーの電子音が、重なり合い、響き合う。
密やかにして躍動感ある演奏だ。
ムーグ・シンセサイザーのテーマが一つ鮮やかに浮き上がる。
決然と、しかし美しいまま音が流れる。
一転リズムが変化、チェンバロからエレピのコード・プレイを経て、ヴォーカルへ。
メランコリックだが馴染みやすい歌メロとピアノ伴奏である。
ヴォーカル・コーラスには、ハードなバラード風の取っつきのよさがある。
ギターのオブリガートからクラシカルなピアノ・ソロへ。
再び、ヴォーカル。
エモーショナルなサビの後ろから、ムーグ・シンセサイザーが次第に湧き上がってくる。
やや頼りないギターに続いて、今度はヴィブラフォン・ソロ。
伴奏のピアノもがんばっている。
再び、頼りないギターからコーラスがサビを歌い上げる。
エンディングは、そのままムーグ・シンセサイザーのソロへと引継がれてゆく。
波乱含みながらも抑制されたアンサンブルから、一転してクラシカルな歌ものへと変化する、二つの曲をくっつけたような作品。
前半の重層的なムーグ・シンセサイザーとチェンバロによるアンサンブルは、静かだが確実な前進を示すようにエネルギーを蓄えてゆく。
調和した穏やかさをもつにもかかわらず、どこかスリリングなのだ。
天界にしきつめられた黄金色に輝くグリッドが鼓動とともに波打つ、なんて奇妙なイメージが思い浮かぶ。
反復を生かしたジャーマン系の作品ではこういうオプティミズムは珍しいだろうし、同様なクラシカル・スタイルを翻案した EL&P の「奈落のボレロ」よりも、歌心は豊かな気がする。
どこか届かないところを目がけて、若さにまかせて精一杯手を伸ばしているようなイメージがある。
一方、後半のヴォーカル・パートは、いかにもイタリア風の情熱=ロマンを孕むもの。
熱く切ない。
この落差がいい。
終盤のムーグ・シンセサイザーが絡むインスト・パートへの展開は、EL&P の「Lucky Man」だろうか。
ヴィブラフォンも意外に効果的。
5 曲目「Ombra Muta(変化の影)」(9:43)
ギターの和音が電子処理で遠く引き伸ばされる眩惑的なイントロダクション。
爆音、堅実なリズムとともに始まるギターは、深いエコーを帯びる。
オルガンのテーマは、渦巻き Vertitgo 直系のジャジーでセンチメンタルでキャッチーな逸品だ。
ギターのアルペジオ伴奏とともに入ってくるヴォーカルは、セクシーな声質を活かした、メランコリックだが力強い歌である。
突如ドラムスがテンポを上げ、トゥッティが激しく性急に高まる。
ムーグ・シンセサイザーとギターがリード。
再びテンポは落ち、ギターのベンディングが高鳴り、PROCOL HARUM 調のオルガンによるジャジーなソロ。
穏やかな伴奏から際立つヴォーカルは、1 コーラス目よりもエキサイトしている。
ギターをきっかけに再びテンポ・アップ、いきりたつような演奏がスタート。
ハモンド・オルガンとワウ・ギターがリフで挑発しあい、バトルが始まる。
まずは、ワウ・ギターのバッキングでスピーディなオルガン・ソロ。
ややジョン・ロード。
続いて、ドラムスとかけあうワウ・ギター・ソロ。
今度はオルガンのリフとともに走り出す。
銅鑼の音が轟くと、ノイジーなムーグ・シンセサイザー・ソロだ。
ベースのリフが支えるスピーディな展開だ。
ヘヴィなオルガンもかぶさって、荒々しいトゥッティへ。
直線的で重々しいハードロックである。
ドラマチックなユニゾンが決まると、粘りつくようなテンポへと落ち込み、ギターがブルージーに高鳴る。
突然のブレイク。
スネアの打撃と時計の音が交互に現れる。
アヴャンギャルドな展開だ。
再び、ミドルテンポのアンサンブルが戻り、深くエコーするギターのベンディングがオープニングのジャジーなオルガンのテーマを呼び覚ます。
ヴォーカルは、苦悩するような表情をみせつつも熱唱。
激しいリズムととも、テンポ・アップ、轟音高まり、嵐のようなエンディング。
と思いきやベース、ギター、ムーグ・シンセサイザーの順で、何やら怪しいリフが刻まれる。
煮えたぎるような電子音。
意表を突くエピローグである。
オルガン、ギターによる荒れ狂うインストゥルメンタルを泣きのバラードではさんだハードロック大作。
比較的まともなバラード調のメイン・パートに対して、間奏は倍速のソロ合戦で暴れるすさまじいもの。
荒れ狂うソロとともに、深いエコーや時計とドラムスのかけあいなどユニークなしかけもあり。
性急で思いつきをどんどん取り入れたようなアレンジが、存在感抜群のヴォーカルを中心とした正統的なハードロックを変容させ、結局は、乱調美の世界へと突入する。
しかし、このヤケクソ気味の味付けこそが、英国ロックとイタリアン・ロックを分かち、別種の芸術として花咲かせたファクターでもある。
メイン・パートのオルガンのテーマは出色。
ハモンド・オルガン、ムーグ・シンセサイザー・シンセサイザー、チェンバロなどのキーボードをサウンドの中心にしたハードロック。
攻撃的なトゥッティとビジーなフレーズ、変拍子アンサンブルが、息つく暇もなく次々と繰り出される、鋭角的な演奏である。
激しいプレイの応酬の果てに急転直下の変化を繰り返す演奏は、この時代のイタリアン・ロック特有のものだ。
リード・ヴォーカルは、ハードロック向きの力強く伸びのある美声型。
濃厚な情感をふんぷんと漂わせつつ歌い上げるが、バラード調の場面では渋く抑えた表情も見せている。
なかなかの遣い手だ。
また、チェンバロを用いたアンサンブルなど、クラシカルな演出もあり。
しかし、一番の特徴は、アヴァンギャルドで急激に変化する曲展開にもかかわらず、かなりキャッチーなテーマ/歌メロがあることだろう。
リスナーの予想を裏切る展開を繰り返し、挙げ句の果てにとんでもない方へと飛び去ってゆくにもかかわらず、驚くべきことに聴きやすさもあるのだ。
2 曲目から想像して、おそらくギター中心のハードロック・グループとしての素地がしっかりあるのだろう。
そこへキーボードを放り込み、過激なアレンジを駆使したというのが、本作のミソなのだろう。
ややせわしないだけに体調のよいときを選んで大音量で聴くとよさが伝わりやすいと思う。
4 曲目は傑作。
(MAGL 18001 / V.M.051)
Alfonso Oliva | bass |
Pietro Pellegrini | keyboards |
Giorgio Santandrea | drums, vocals |
Guido Wasserman | guitar |
92 年発表の第二作「Dietro L'Uragano(嵐の後)」。
録音は第一作と同じ 73 年に行われたがオクラ入りし、92 年にデジタル・リマスターされて MELLOW RECORD から発表された。
内容は、キーボードをフィーチュアしたハードロック調のプログレッシヴ・ロック。
メンバーは、第一作のヴォーカリストを除いた四人。
収録時間は 30 分強で短めだが、EL&P 風のプレイが縦横無尽に駆け巡る痛快な作品だ。
特に、ムーグ・シンセサイザー、ストリングスが大幅にフィーチュアされている。
製作は未完のようで音質はスタジオ・ライヴ風。
「Ripensando e」(6:29)
「Valigie di terra」(10:28)EL&P フォロワーとして出色。
「Idea incompiuta」(1:52)ジャズ・ギター、オルガンをフィーチュアしたソウル・ジャズ小品。
「Claudette」(13:58)懐の深い傑作。
(MMP 132)