イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「ARCADIUM」。 69 年、シングルとアルバムをそれぞれ一枚発表。 MIDDLE EARTH レーベル。
Graham Best | bass, vocals |
Allan Ellwood | organ, vocals |
John Albert Parker | drums |
Robert Ellwood | lead guitar, vocals |
Miguel Sergides | 12-string guitar, lead vocals |
69 年発表のアルバム「Breathe AWhile」。
内容は、VANILLA FUDGE や第一期 DEEP PURPLE に通じる、ハードロック前夜の荒々しいサイケデリック・ロック。
大仰でドラマティック、物狂しい曲想を構成するのは、けたたましいギターとクラシカルでまろやかなオルガン、そして、すがりつくように訴えかけるヴォーカルである。
オルガンが神秘的なイメージをかきたて、ギターとヴォーカルが混沌ともつれる演奏には、エキセントリックな迫力がある。
腹に応えるヘヴィなインストゥルメンタル・パートとセンチメンタルなヴォーカル・パートの間には、目もくらむようなコントラストがあるが、演奏はいともた易くその間を行き交う。
演奏をリードするのは、ギターとオルガンである。
ギターは前面で派手に暴れる役であり、オルガンは脇固めを主にしつつ、ここぞというときに味のあるフレーズをぶつけてくる。
シンプルなリフやコードを連ねてアンサンブルの一体感で迫るスタイルなだけに、さほど凄いことはしていないソロが引き立っている。
いわゆるオルガン・ロックよりは、ヴォーカル含め他の楽器の音にも存在感がある。
弱点もある。ヴォーカルはやや頼りないし、ギターにしても、リッチー・ブラックモアやミック・ボックスがいかに桁外れであったかを再認識させられるようなプレイである。
どのリフもどこかで聴いたことがある気がする。
そして、深く熱っぽいヴォーカル・エコーや冷気のしたたるコーラスは、いまだビートポップ風であり、ブンブンいうベースとフィルが細かくならないドラムスのリズム・セクションも、健闘はしているものの、古臭さは否めない。
しかし、熱にうなされたかの如く強烈に思いを叩きつけてくる曲調にひとたび捉まってしまうと、細かな文句を並べる気は失せてくる。
むしろ、大時代で不器用なハードさの中に切ないフィーリングが浮かび上がってくるのが感じられて、すっかり感傷的な気持ちになってしまう。
けたたましいが、DEEP PURPLE ほどエゴがちらつくうるささはない。
そして、「中つ国」レーベルらしく、素朴なファンタジーの趣は確かにある。
聴きものは、インストゥルメンタル主体の二つの大作だろう。
1 曲目は、呪術的なギターを中心にゆったりと音が重なり合い、渦を巻きはじめる眩惑的なサイケデリック作品。
終盤、ぐっと抑えた曲調から一気に破裂する。
7 曲目は、ギターとオルガンがせめぎあう疾走感とドラマチックな展開がうれしい。
また、5 曲目のような歌謡曲調バラードのノスタルジーにも拒絶し難い魅力がある。
さらにボーナス・トラック A 面の 8 曲目は、このグループの魅力をコンパクトにまとめたリリカルな傑作。
どこかで聴いたような音だが、好きな人はたまらないタイプの音だろう。
ともあれ、本作は、オルガンの音に魅せられた方にはお薦めの作品だ。
ポップ史上のエポック「Sgt.Pepper's」の興奮の余韻冷めやらぬ 69 年、プログレの産声の一つといっていいでしょう。
「I'm On My Way」(11:51)じわじわと広がる誇大妄想的なオープニングが強烈なサイケデリック幻想大作。
長いフェード・インの果てに堰を切るように錯乱する思いをぶつけてくる、その勢いに思わずたじろいでしまう。
やや東洋趣味もあり。
終盤ようやく現れるオルガン・ソロが熱い。
「Poor Lady」(3:59)
URIAH HEEP の「Gypsy」を思わせる GS 歌謡調の作品。
熱気をほとばしらせる器楽と対照的な冷気漂うスキャットがこだまする。
「Walk On The Bad Side」(7:35)
クラシカルなオルガンが支える甘目のバラードが、ラウドでシャープなハードロックへと姿を変えてゆく。
落ちないテンションと後半から終盤にかけてギアを上げてゆくオルガン、ギターが聴きもの。
どっしりとした安定感はドラムスによるのだろう。
「Woman Of A Thousand Years」(3:39)
毛羽立つようにイコライジングされたヴォーカルが粘っこく迫る、エキセントリックなハードロック。
リフのみのいたってシンプルな作品にリズムとムードをしつこく切り換えて起伏をつけている。
ギター・ソロも健闘。
前曲よりもハードロックとしての様式化は進んでいる。
「Change Me」(4:47)泣きのシンフォニック・バラード。
ベース下降によるクラシカルなテーマが切ない。
クラシカルにしてサイケなオルガンの魅力もいっぱい。
R&B 調のヴォーカル・パートは VANILLA FUDGE、また、コーラスは URIAH HEEP 風。
名曲。
こういう音が私の原点です。
「It Takes A Woman」(3:53)初期 DEEP PURPLE 風快速サイケ・チューン。
ソロで突き進むギターの切れ味よし。
狂乱するメイン・パートに対して、エンディングのオルガンとアコースティック・ギターによるリリカルなプレイが胸に迫る。
ドラマティックな展開はイタリアン・ロックにありそう。
「Birth, Life And Death」(10:19)
サイレンとアコースティック・ギターのアルペジオが激しい演奏を呼び覚ましギター、オルガンが横一線で突っ走る。
ギターは、ペンタトニックばりばりのソロよりも、サイケなアルペジオがよし。
中盤のヴォーカル・パートは、射精後の如き虚脱感あり。
終盤へかけてのコーラスを用いたシンフォニックな広がりに、明日が見える。
「Sing My Song」(4:18)ボーナス・トラック。
ミドル・テンポのメランコリックなナンバー。
オルガンのテーマがよし。
名曲。
「Riding Alone」(2:48)ボーナス・トラック。
ミドル・テンポのナンバー。
トラッド風の歌メロとギター。
(MDLS 302 / REP 4855)