イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「ASGAERD」。 BULLDOG BREED、STONEHOUSE のメンバーらによって結成。 72 年 THE MOODY BLUES の THRESHOLD レーベルよりアルバム・デビュー。 作品は一枚のみ。
Rodney Harrisson | guitar, vocals |
Dave Cook | bass |
Ian Snow | drums |
James Smith | vocals |
Ted Barlett | vocals |
Peter Orgill | violin |
72 年発表のアルバム「In The Realm Of Asgaerd」。
ヴァイオリンと三声のヴォーカル・ハーモニーを用いた叙情的な作品である。
さほど特徴のないフォーク風味の歌ものロックを、さまざまな工夫を凝らして、ファンタジックな味わいをもつソフトでシンフォニックな音楽に仕上げている。
その工夫とは、例をあげれば、ヴァイオリンのオーヴァー・ダビングによるストリングス的な効果、メロディアスで分厚いヴォーカル・ハーモニー、アコースティック・ギターのコード・ストロークとファズ・ギターによるヘヴィなリード・プレイのコンビネーションなど。
特に注目すべきは、トラッド色あるメロディ・ラインをビート・スタイルのハイトーン・ヴォーカルが歌うことによって独特のポップな味わいを醸し出していることと、ヴァイオリンが丹念に音の間を埋めてキーボードの代役を巧みに果たしていることである。
ヴァイオリンは、もう少しソロで見せ場があってもいいかなと思うくらい、アンサンブル的な用い方である。
オブリガートやバッキングでちらっと耳をかすめる響きの小粋な効果は抜群である。
じつにセンスのいい使い方だ。
また、かなりラウドなリズム・セクション(ドラムスは音数が多く、ベースも芯のある音と巧みなフレージングで要所で前面に出る)も、メロディアスに流れがちな曲調をぐっとタイトに引き締めている。
ハーモニカなど小道具も的確だ。
そしてなにより、甘過ぎず渋過ぎず、ある意味理想的なふくよかさと歌心をもったヴォーカル・ハーモニーがいい。
すべては、このヴォーカル・ハーモニーをしっかりと彩るためである、といってもいいくらいだ。
リード・ヴォーカリストのやや鼻声気味の甘い声質もいい感じだ。
個人的には、シンフォニックな広がりのなかに悲愴感漂う 1 曲目や 4 曲目よりも、3 曲目のようなビートポップ風のナンバーが一番似合っていると思う。
6 曲目もドライヴ感にあふれながら、コーラスの美しい劇的な作品。
7 曲目は、R&B 調のテーマと CSN&Y 風のアコースティックなサビが対比するコーラスの美しい作品。
8 曲目は、何か分からないが、電気的な効果音を用いたミドル・テンポのロッカ・バラード。
ヘヴィなギターと伸びやかなヴォーカルがいいコントラストだ。
プロデュースはトニー・クラークとジェリー・ホフ。
作曲はロドニー・ハリソンによる。
そういえば WISHBONE ASH の名作「Argus」に通じる雰囲気もあります。
「In The Realm Of Asgaerd」(4:25)
哀愁あるテーマをコーラスとともに力強く歌い上げるドラマティックなシンフォニック・ロック。
マイナーのテーマと悩ましげなヴォーカル・ハーモニーが悲愴な物語の雰囲気を盛り上げる。
オーヴァーダビングされたヴァイオリンが、ハーモニーを押し上げて音に厚みをつけている。
ギター・ソロもなかなかもの。
似たところのある BARCLAY JAMES HARVEST のサウンドと比べると、ぐっとシリアスな響きがある。
「Friends」(4:39)ギターをフィーチュアし、小気味よく突き進むハードロック。
ヘヴィなリフ、パワー・コードと繊細でなめらかなコーラスがいい対比だ。
ハードといっても、流れるようになめらかなメロディ・ラインとメイン・ヴォーカルに寄り添うコーラスのおかげで甘さがある。
ソロではヴァイオリン、ギターそれぞれにかなりがんばっており、コンビネーションが WOLF を思わせるところもある。
終盤ハーモニカが現れ、一層ロックンロール色が強くなる。
「Town Crier」(3:59)
リバーヴ、ワウを深く効かせたギターとヴァイオリンが伴奏するクラシカルでセンチメンタルなバラード。
「Eleanor Rigby」を思わせる弦楽とファルセットのヴォカリーズが 60 年代してます。
感傷を冷たい風に晒したようなメロディがいい。
タイトでクリアーなリズムのプレイが冴える。
「Austin Osmanspare」(4:15)
サイケデリック時代の THE BEATLES がハードロックを試みたようなユニークなプログレッシヴ・ロック。(ゆっくりしたヴィブラートが「A Day In The Life」に聴こえるだけかもしれないが)
カントリーやフォークが透けて見えるが、どこにも行き着かない感も強く、そこがいい。
ヴァイオリンが全体に漂う非現実性、ファンタジーの雰囲気をうまく演出している。
シンプルな繰り返しにもかかわらず、歌メロの絶妙の展開とひねりがいい感じであり、ブルージーなギター・ソロも冴えている。
佳曲。
ロドニー・ハリソンが参加していた BULLDOG BREEDのレパートリー。
「Children Of A New Born Age」(3:13)
トラッド調のギター・リフ、クラシカルな弦楽と R&B 的でキャッチーなヴォーカル・ハーモニーを結びつけたスリリングな作品。
技巧的でシャープなドラムスがカッコいい。
WISHBONE ASH によく似ている。
「Time」(5:11)スピーディなヴァイオリンとギター・リフがドライヴする疾走感あるハードロック。
今回はヴォーカル・ハーモニーの表情に甘さではなく緊張感とハードさがある。
中盤では、オーヴァーダビングされたブルージーなギター・ソロが急転直下カントリー・フィドル風のヴァイオリン・ソロへと切りかわってギターもそこに乗っかるという大仕かけもあり。
このカントリー風味のミスマッチは強烈。
終盤のジャムもかなりの迫力だ。
「Lorraine」(4:45)
ソウルフルなヴォーカル・ハーモニーにウエスト・コースト風味が交差する、多面的な雰囲気を一つにまとめた力作。
ハーモニーの巧みさ、よさをフルに活かした作品である。
リズム・セクションのうねりがいかにも R&B。
サビのハーモニーはまさに CSN&Y。
ギターはワウ。
押し引きの呼吸が絶妙。
「Starquest」(5:17)
シンプルなノリで力強いヴォーカル・ハーモニーが突き進むビートロック。
リズミカルなメイン・テーマとメロディアスな第二テーマで変化をつけている。
ファズ・ギターが大きくフィーチュアされている。
飛び交う電気的な効果音はシンセサイザーだろうか。
終盤のラウドな盛り上がりが LED ZEPPELIN を思わせる。
(THRESHOLD 6 / PHCR-4238)