カナダのプログレッシヴ・ロック・グループ「BRÉGENT」。ヴォーカリストのジャックとキーボーディスト、作曲家のミシェル・ジョルジュのブレジャン兄弟を中心とするユニット。 作品は二枚。 超弩級強迫的仏語ヴォーカルとエレクトリック・キーボードをフィーチュアしたエキセントリックな歌ものプログレ。 ミシェル・ジョルジュは解散後も活躍するが 93 年に逝去。
Jacques Brégent | vocals | |
Michel-Georges Brégent | keyboards | |
Jean-Guy Monpetit | guitar | |
Claude Chapleau | bass, cello | |
Sylvian Coutu | drums, vibe | |
Vincent Dionne | percussion | |
Jacques Laurin | bass | |
Jean Sauvageau | snare drum | |
Choirs of L'Universite De Montreal | choirs |
79 年発表の第二作「Partir Pour Ailleurs」。
内容は、クラシカルなシンフォニーとジャズロックに幻想的なポエトリー・リーディングも盛り込まれたアヴァンギャルドなプログレ。
力強く存在感抜群のヴォーカリストを軸にした演奏は剛毅にしてテクニカル、そして神秘的な雰囲気も濃密である。
精緻でスリリングなジャズロック、オペラ調のハーモニーを活かしたクラシカル・チューン、モダン・ジャズあるいはフォーク・タッチの幻想的なモノローグといったきわめて多彩な音楽性を一つにまとめているのは、間違いなくこの個性的なヴォーカリストのパフォーマンスである。
この時代らしい「70 年代フォーク」調や「ニューミュージック」風のいわば普通の演奏もあるのだが、ヴォーカルのプレゼンスが通常のセンチメンタリズムをぶっ飛ばしている。
普通のメロディ・ラインをたどっても、なんだか大年増のお茶挽きにとっつかまったような空恐ろしさがある。
また、全体に器楽演奏がきわめて充実している。
ヴォーカルもアンサンブルを構成する器楽の一つとして取り扱われているし、打楽系の音の配置も巧みだ。
この辺りに、クラシック畑のバックグラウンドが見える。
サウンドやスタイルはあきらかに 70 年代後半のものだが、音楽のアカデミックな振れ幅の大きさが 70 年代初期のイタリアン・ロックと共通している。
個性的なヴォーカルと技巧的な演奏が一つになるシーンの重みと凄みはただごとではない。
野性と理知が交じり合ったパフォーマンスは、たしかに AREA に通じている。
ヴォーカルのほかにも、ギタリストはジョン・マクラフリンばりのテクニシャンであり、キーボーディストのプレイも多彩かつ破格だ。
リズム・セクションも相当な強者である。
ギタリストの暴発気味の速弾きは随所で薬味になっているし、ヴァイブやエレクトリック・ピアノの音がリリカルなアクセントとしてさりげなくも際立っている。
また、女性ヴォーカルが現れるなど MAGMA やカンタベリーの片鱗を見ることもできる。
影響は間違いのないところだろう。
白眉は、憂鬱なモノローグが続く 2 曲目「Mes L'ongs Voyages」。
ボーナス・トラックにも入っているので、ライヴの核となった曲ではと想像している。
また、冒頭のプレスリーばりのロカビリー・チューンは、「こんなに重く変容するのです」と最初にことわっているようでおもしろい。
もっとも、こういうアジテーションのようなポエトリー・リーディングというのが、フランス圏でのカウンター・カルチャーとして存在していたのかもしれない。
(ほとんど知らないですが、ジャック・ブレルやゲンズブールってこういうのもやってたとか?)
ヨーロッパはすでに世界の中で役割を終えて隠居に入っている感があるが、詩人を大切にするという姿勢だけは他の新興勢力も見習うべきである。(脱線)
鼻息がかかってきそうなモノローグに抵抗無ければ、中毒症状を起こす可能性のある怪しい魅力のある作品です。
PROGQUEBEC の CD には 77 年のライヴで収録した 5 曲のボーナス・トラックがつく。
ヴォーカリストは、ライヴでも変わらぬ(だからこそというべきか)異形のパワーを放っている。
(MPM 20)
Michel-Georges Brégent | keyboards, organ, effects, synthesizer, electric piano, synthesizer bass |
Vincent Dionne | percussion, vibraphone, xylophone, glockenspiel, bells, drums, tam-tam |
congas, cymbal, gong, performer, bells, mellophone, wind chimes | |
Jacques Lareau, Judith Richard | choirs |
Madeleine Jalbert, Mary-Lou Gauthier | choirs |
Nicolas Desjardins, Yves Lapierre | choirs |
Pauline Vaillancourt | choirs-soloist |
Michel-Georges Brégent と Vincent Dionne によるユニットの 76 年発表の第一作「...Et Le Troisième Jour」。
内容は、キーボードとパーカッションによるシンフォニックでミニマルな現代音楽。
徹底してクラシカルであり、厳粛さと静けさ、神秘性など中世音楽、グレゴリオ聖歌や受難曲のような教会音楽の延長上にある作風だと思う。
パーカッションにしても「鐘」の音が印象的。
ただし、渦巻く電子のノイズをトムトムが切り裂き、アラビア風のモードでシンセサイザーが唸りを上げる原始的な民族音楽調もある。
アグレッシヴになったときのオルガンやシンセサイザーの迸るような轟音はきわめてプログレ的。
いってみれば、マイク・オールドフィールドとジャンミシェル・ジャールの合わせ技。
いや、コラールの入った PINK FLOYD の「シジファス組曲」というべきか。
(ST 70044 / XXI-CD 2 1548)