アルゼンチンのプログレッシヴ・ロック・グループ「CONTRALUZ」。 68 年結成。74 年活動停止。 99 年再結成し新作発表。 グループ名は「逆光」の意。
Carlos Barrios | guitars |
Nestor Barrios | drums |
Gerry Barchielli | vocals |
Alejandro Barsi | flute, vocals |
Diego Prochnik | bass |
73 年発表のアルバム「Ameircanos」。
内容は、フォーク・タッチのたおやかなヴォーカルとハードなインストゥルメンタルを組み合わせた情熱的なロックである。
全編を通してフルートが大きくフィーチュアされ、エネルギッシュなトーキング・スタイルからクラシカルで可憐なソロまで幅広いプレイを見せる。
このフルートがあるときは主人公になり、あるときは狂言廻しになって存在感を示す。
ギター、ベース、オルガンによる演奏は、かなりワイルドなハードロック寄りのもの。
荒々しく攻め立てるギターと手数多く叩きまくるドラムスが強烈だ。
しかし、フォーキーにして優美なメロディと伸びやかな声質のヴォーカルが、メタリックな音になめらかさとみずみずしさを加えている。
急激な調子、曲調の変化はいかにもプログレ的、というか、英国ロックに通じる多彩なセンスが感じられる。
モノローグやジャズ・タッチ、トラッドのサンプリングなど細かい演出も効いており、4 分弱の作品ですら、かなりの充実度で迫ってくる。
全体としては叙情的なサウンドだが、細かく変化する展開のおかげで、より一層しっとりとした繊細な情感が活きている。
フォーク・タッチの歌のよさとハードな演奏、そしてフルートとくれば、もう JETHRO TULL を想定せざるを得ない。
実際アルゼンチンの TULL といっていいほど演奏も楽曲もいい。
ただし、ヴォーカリストはアンダーソンのようにギラギラと屈折した怨歌師タイプではなく、どちらかといえば声量ある正統オペラ歌唱タイプであり、シンフォニックな盛り上がりをストレートに演出している。
ジャジーな演奏に漂うモンド、ラウンジ風味も、今やかえって新鮮に感じられる。
イタリアン・ロックのファンにもお薦め。
CD は盤起しのようだ。
ジャケット写真は、その CD のもの。
「Indios Sin Prision」(3:31)ラウンジ・ミュージック風のフルートと素朴なフォークロックの合体。ヴォーカルの繊細ながらも熱っぽい表現がいい。
「Sin Trabajo」(6:43)エキゾティックで重厚なシンフォニック・バラード。演歌っぽい感じもするが、オペラ的な歌唱なのでイタリアの歌手に近い。
「No Sea Que Caigas Mendigando」(3:57)演奏は初期 TULL そっくりのフルート・ハードロック。
しかしヴォーカルだけはここでもカンタウトーレ風。
「Clave De Sol」(3:40)フルート、ギターが反応しあうハードなインストゥルメンタル。
マカロニ・ウェスタンのサントラのイメージ。
ここまで、イントロが全部「Bourre」になっている気がする。
「La Sarna Del Viento」(3:09)リミッターはずれ気味のへヴィ・サイケデリック・ロック。凶悪。
「El Charco」(6:02)可愛らしく、天然な感じのフォーク・ロック。イタリアン・ロックと同種の味わい。終盤は邪悪な盛り上がりもある。
「Abrir El Dia」(3:35)イージー・リスニング風のフルートをフィーチュアし、シンフォニックなアレンジを施したインストゥルメンタル。
朴訥な演奏にもかかわらず不思議な余韻を残す。
「Seamos」(3:09)70 年代の音。
(EMI 64041 / MRD-2005)
Carlos Barrios | guitars, flute |
Nestor Barrios | drums |
Jaime Fernandez Madero | keyboards, vocals |
Freddy Prochnik | bass |
99 年発表のアルバム「El Pasaje」。
再結成後の新作。
冒頭いきなり「トッカータとフーガ」が高鳴るなど、驚くほどその音楽性は変わっていない。
つまり、70 年代のクラシカルなハードロックのスタイルはそのままである。
シンセサイザー、オルガン、ギターも 70 年代のままである。
それだけなら単なるノスタルジーだが、硬軟のメリハリやメロディアスなパートの説得力など、音楽的にもちゃんとグレード・アップしているからすごい。
ハードロックといっても英国ものと決定的に異なるのは、中心にあまりにたおやかなフォーク・タッチのヴォーカル/ハーモニーがあることである。
オルガンが轟きファズ・ギターが雄たけびを上げても、素朴で優美なハーモニーがふわりと受け止めて流れを導いてゆく。
逆にいえばそれが鮮やかなコントラストになっている。
プライベート・プロダクションであることさえ除けば、90 年代シンフォニック・ロックの逸品の一つといえるでしょう。
1 曲目の大作は、神秘的な中間部を経て後半に入り、ピアノやアコーディオンのような音がし始めてからがみごと。
個人的には、イタリアの SITHONIA というグループと同じセンスを感じる。
演奏力と音楽的効果に必ずしもリニアな相関はないのである。
「El Pasaje」(19:02)
「Claridad」(3:46)
「Amigo」(6:16)
「La Cima」(6:10)
「El Gigante」(5:02)
「Hay Una Voz」(5:30)
「Exilio En El Espacio」(18:24)
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Carlos Barrios | guitars, charango, flute |
Jaime Fernandez Madero | keyboards, acoustic guitar |
Nestor Barrios | drums, percussion |
Freddy Prochnik | bass, acoustic bass |
2003 年発表のアルバム「Ramos Generales」。
再結成二作目。
フォーク・タッチとクラシカルな風味がブレンドしたアルゼンチン・ロックらしい作品。
たおやかなヴォーカル/ハーモニーを丁寧なアンサンブルが支えてストーリーを描く。
メロディよりもデリケートな歌唱表現の方が強く印象に残るので、流れにメリハリをつけるには器楽のテーマが肝要になるが、それらがじつにいい。
バッキングや間奏のギターやシンセサイザーのフレーズは、さりげなくも親しみやすく愛らしい。
(ソロよりもずっといい)
どちらかといえばロックな攻めの演奏よりもなだらかでパストラルな雰囲気の演奏の方が安定感がある。
JETHRO TULL 風のフルートは要所で武骨な民俗色(ブルーズも含む)のアクセントとして投入される。
また、サウンドそのものは現代風だが、かき鳴らされるアコースティック・ギターの響き、フルートのオブリガート、ほとばしるオルガンとナチュラル・ディストーションでうねるギターらが綾なす緩急自在の演奏は、基本的に 70 年代風のシンフォニックなロックのものである。
時に雄大に、時に可憐に、クラシック・テイストを演出するのはキーボード。
そのサウンドが若干チープなことだけが残念。
ゲストによるサックス、チャランゴやバンドネオンの音も聴こえる。
シンフォニックな広がりはあるが熱気はさほどでなく、どちらかといえば地味で穏やか。
それなのに、涼風とともに世界や人生の本質をとらえるようなきらめきがあるところが不思議である。
南米の神秘を垣間見るようだ。
知られぬシンフォニック・フォークロックの佳品。
7 曲目はネオ・プログレ的なモダニズムも感じさせる、変化に富んだ展開のある力作。
9 曲目は終曲らしい重厚さと意表をつく変化に富むシンフォニック・ロックの佳作。
ただし、70 分オーバーの録音時間はちょっと長すぎるような気もする。
「Surge」(8:16)
「El Regreso Del Hijo Prodigo」(7:01)
「Vuela Viento」(7:28)
「Llevo... A Mi Padre」(11:03)
「Toribio El Pintor」(5:36)
「El Abismo」(7:45)
「Vida En El Desierto」(13:01)
「Aconcagua」(6:00)
「El Despertar De La Bestia」(7:39)
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Carlos Barrios | guitars, flute |
Nestor Barrios | drums, percussion |
Jaime Fernandez Madero | keyboards |
Freddy Prochnik | bass |
2011 年発表のアルバム「Novus Orbis」。
再結成三作目。
内容は、フォルクローレ調の叙情的な歌ものシンフォニック・ロック。
あくまでものどかな牧歌調とオルガンやギターによるクラシカルで攻撃的な演奏を自然につなぎ合わせて「歌」にできる作風である。
アルゼンチン・ロックらしいソフトなリード・ヴォーカルとそれに寄り添う柔和なハーモニーが最大の魅力。
ハードに迫るところでもどこか緩やかな一方、アコースティックで繊細な表現には素朴さを生かした説得力がある。
つまり、力みかえるときではなくうつむいてささやくときに真の力強さが感じられれる。
垢抜けなさはそのまま誠実さにつながり、音楽の豊かな響きとなっている。
野趣あふれるフルートも要所でフィーチュア。
ドラマーは、普通のロックビートは苦手そうだが、テインパニ風のプレイや大きなノリ、ジャジーな小技を操るのはうまい。
バンドネオンの音もさりげなく活かされている。
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