スペインのプログレッシヴ・ロック・グループ「COTÓ EN PÈL」。 ヴァレンシアのグループ。 知られる作品は一枚のみ。
Pep Llopis | keyboards, vocals |
Carles Pico | guitar |
Vicent Cortina | drums |
Paco Cintero | bass, cornet, vocals |
78 年発表のアルバム「Holocaust」。
内容は、反復と緩やかなクレシェンド、エレクトリックなアドリヴをアクセントにして静謐にして凶暴なシンフォニック・ロック。
やはり、作風は KING CRIMSON 直系というのが正しい表現だろう。
ロングトーンが特徴的なギターとギター以上にリードを取るベース、ノイジーなシンセサイザーといったエレクトリック・サウンドのみならず、コルネットやギターなど、アコースティックな音も用いている。
細かなロールと丁寧なシンバルワークによる丹念なドラミングはマイケル・ジャイルズ風であり、クロマティックなフレーズを高い精度で繰り出し、ヒステリックなサスティンで叫ぶギターのスタイルは明らかにロバート・フリップ風である。
さらに、印象的なのは、電子ノイズといった方がいいような初期シンセサイザーとメロトロンが悠然と響き渡るところ。
激しい衝突や爆発はないが、全編を緊張とミステリアスなムードが貫く。
クライマックス直前のようなムードが延々続き、噴火前で消え去ってしまうところが残念だが、はかなくも強靭な世界の一部は見える。
KING CRIMSON 的というイメージを強めるのは、個々のプレイもさることながら、インプロヴィゼーションも交えた演奏が、たとえ静かなシーンであっても、ゆるぎない自信と傲岸不遜さにあふれているからだろう。
B 面は、「Devil's Triangle」から「Starless And Bible Black」、さらには Fripp & Eno にも通じそうだ。
A 面は、コルネットの響きが「Islands」など初期の CRIMSON を思わせて効果的。
か細くロマンティックなヴォーカルは、カタロニア語と思われる。
これだけは本家を凌ぐかもしれない。
LP 番号は 87 年の再発盤。
「Aura De Sons」(13:30)雷鳴で幕を開け、奔放に展開するカプリース的なシンフォニック・チューン。
エレクトリック・サウンドのフレーズの断片を立体的に交差させた序盤から、緩やかなギターのリードする展開部を経て、一気にけたたましいジャズロック風のアンサンブルへと発展する。
サイケデリックなシンセサイザーのノイズも吹き荒れる。ヴォーカルは後半現われて、悠然たる終盤への堅実な導き手となる。
全体にベースの活躍が目立つ。叙景的、というか初期のサウンド・スケープ的アプローチが印象的。
「Lamentacions」(4:40)アコースティック・ギターとコルネットの即興風デュオが導く弾き語り。
ロマンティックなフォーク・ソングに神話的な高尚さが満ちる。
黄昏感満載のコルネット・ソロ。
「Holocaust part I」(10:35)ギターのアルペジオ、位相系エフェクトでねじれるベース、シンセサイザーらが時を刻むように長いクレシェンドを登り詰めると、ミステリアスなスキャットとともにドラム・ビートが焚きつける妖しき神々の饗宴が始まる。
シンコペーションするシンセサイザーのテーマにかろうじて分かりやすい主張とカタルシスが現われるが、その後も、空間に穴をうがつようなベースと凶暴なギターのストロークが踏みしめような、異様な歩みを続ける。メロトロンもうっすらとたなびくが、神経質なギター・アドリヴによって、あたかも巨人の手にひねりつぶされるような恐れと圧迫感が強まる。
スペイシーな即興に近い雰囲気ものであることは否めないが、キリキリとネジを巻くような緊張感とヒステリックな苛立ちをそのまま音にしたような作品である。
「Holocaust part II」(8:08)ベースとギター、ドラムスの密やかなアドリヴを伴奏にした歌もの。
無調に近い平板な調子で進む。
中盤で一気にシンフォニックかつクラシカルに盛り上がるが、諦念なのか祈りなのか、熱することのないヴォーカルは坦々と歌をつづる。
しかし、終盤に向けて、再び力を取り戻したかのように、歌唱も演奏も高みを目指して上ってゆく。力をつけてゆくヴォーカルにベース、ドラムス、ギターが次々と寄り添ってゆくさまは感動的だ。
ほとばしるシンセサイザーの電子音でクライマックスを迎え、ギターが嗚咽のようなプレイで狂乱する。
「The Night Watch」のような後期 KING CRIMSON の即興叙情作や上質のイタリアン・シンフォニック・ロックを思わせる。
(Dial Discos 54.9361)