ドイツのフォーク・ロック・グループ「EMTIDI」。 PILZ レーベルからの作品二枚を残す。
Maik Hirschhfeldt | accoustic & electric guitars, bass, synthesizer, leslie-guitar, flute, vibraphone, maultrommeln, vocals |
Dolly Holmes | organ, Hammond organ, erectric piano, Mellotron, Spinett, piano, vocals |
guest: | |
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Dieter Dierks | bass, percussion |
72 年発表の第二作「Saat」。
内容は、ハイトーンの女性ヴォーカルと伸びやかな男性ヴォーカルをフィーチュアしたドリーミーなサイケデリック・フォーク。
英国トラッド風のアコースティックなフォーク・ソングを基本に、エレクトリック・ギターやキーボードを大幅に取り入れて神秘幻想の彩と紫煙のマジックをあしらった独特の作風である。
ドイツにどのようなトラッド・ソングがあるのかは不案内だが、本作の小品で聴くことのできる音は、枯れた味わいの中に透明なきらめきのあるものだ。
みずみずしいようでやるせなく、霞のように希薄なのに肉感的な重みもあり、手を伸ばせそうなのに明け方の夢のように消えてゆく。
一方、二つの大曲は、スペイシーかつジャジーなキーボードが駆け巡る幻想絵巻であり、エレクトリックな混沌も出現する。
その世界は、いわば、幻想的な歌とハーモニー、せせらぎのようなギターとともに宇宙旅行へ旅立つような不思議なものであり、POPOL VUH ほどの宗教臭さはないが、やはり現世的なものが少ない彼岸のファンタジーである。
フランスの WAPASSOU とも共通する音のセンスを感じる。
もちろん昔の日本のフォーク・デュオを思い出すところも多い。
最終曲以外はヴォーカルは英語。
プロデュースはロルフ・ウルリッヒ・カイザー。
ここの写真よりも遥かに美しいうす紫のジャケット。
内ジャケもお花が咲き乱れていますが....多くは語りません。
「Walking In The Park」(6:38)
フェイズ・シフタを効かせたギターとオルガン、エレピの伴奏で男女コーラスが歌う美しいフォーク調の前半から、ドラム入りで突っ走るサイケデリックな後半へとなだれ込むファンタジックな作品。
前半の歌メロは、トラッドではなくポップス調。
後半のギター・ソロはジャーマン・サイケよりも 60 年代 NY、VELVETS のような音。
ベースとドラムスはディーター・ディルクスによると思われる。
「Traume」(3:25)
メロトロンかエフェクトされたオルガンか、ゆったりとした響きとともに、柔らかな女性のヴォカリーズがゆったりと流れる。
うねりながら干渉し波打たせるのは、レスリーを通したギターなのだろう。
オルゴールのようなエレピのシングル・ノート。
ひたすら甘くドリーミーな世界である。
「Touch The Sun」(12:04)
メロトロン、オルガンによる不分明の旋律が潮騒のように押しては返し、柔らかに脈動し、消えてはまたよみがえる。
人気のない電気の懐に抱擁の暖かさが生まれる。
スピネットがメロディをつぶやき始め、脈動するオルガンとともに秩序を生み出してゆく。
エフェクトで揺れるギター。
オーロラをイメージさせるコラールはソプラノかメロトロンか。
幽明分かたざる不定形の世界をゆっくりとかき回すような音響である。
アコースティック・ギターのアルペジオがついに秩序をもたらし、男女二声のハーモニーが始まる。
切なく純な、やや宗教がかったフォーク・ソングである。
神秘的なコーラスで高まり、切り返しは静かにメロトロン・ストリングスが守り立てる。
訥々としたエレクトリック・ピアノの調べが刻まれ、次第に加速し緊張感を高めてゆく。
かき鳴らされるギターとたたきつけられる和音、一瞬で弾け飛んでばらばらに散ってゆく。
再びギターのアコースティック・アルペジオが世界を作り直して、センチメンタルで優しい表情を取り戻してゆく。
高まるオルガン、そして男女によるコーラスの再現、ささやくソプラノと渦を巻くメロトロン・ストリングス。
ドラマを切り裂くように強引にすべてをおおいつくすオルガンの響き、湧き上がるストリングス、ノイズに近い電子音が幕を引き、海鳥が鳴く。
ドリーミーなフォークソングにキーボード・アレンジを施して、ファタジックにして若干悪夢テイストも盛り込んだ大作。
変調系のエフェクトどっぷりだが、不思議なことにしつこくなく、自然に聴こえる。
これはセンスのなせる業であり、常人にはなかなか真似できない。
シンフォニックな余韻を残す。
「Love Time Rain」(2:54)
ディープな英国トラッド調の作品。
リズミカルなピアノ、アコースティック・ギターが高低の動きの少ない民謡調のメロディをはきはきと歌う女性ヴォーカルを支える。
アコースティック・ギターのソロにはブルージーな響きもあり。
PENTANGLE ですね。
「Saat」(4:16)
アコースティック 12 弦ギターのみの伴奏による幻想的なフォーク・ソング。
12 弦ギターのハーモニクスのはかない響き、そして余韻の深い、ドリーミーなアルペジオ。
ファンタジーから一転して、トラッド調の力あるプレイへと変化する。
男女ヴォーカルによる相聞歌のような密やかなかけあい。
「Die Reise」(10:16)
「夢見る夢」のような多重構造を示唆するようでいて、特にそういうことも気にしていないかもしれないと思わせる、融通無碍なる気まぐれ風不可逆進行のサイケデリック・フォークロック。
本曲のみヴォーカルはドイツ語で、かなりプロテスト・ソング調である。
疾走する男声と舞い踊る女声、轟々と唸るベース、妙にジャジーなオブリガートを放つエレクトリック・ピアノ。
70 年代半ばの吉祥寺を思い出す。
間奏は、アグレッシヴなチャーチ・オルガン。電子効果によって音はねじれ、渦巻き、カシオの安キーボードのようになっている。
カオスから厳かなオルガンの響きが復活し、ベースの鼓動とともに荒っぽいフルートの調べを導く。
オルガン、ベース、トーキング・フルートによるけん制しあうような、悪乗りしあうようなトリオ。
クラシカルなエレクトリック・ピアノのリフレインが遠慮会釈なく飛び込んで強引に世界をひっくり返し、アコースティック・ギターの力強いストロークが無理矢理幕を引く。
抗うようなオルガンの響き。
つっけんどんな、奇妙な終わり方だ。
(GALAXIS CD 9019)