スペインのプログレッシヴ・ロック・グループ「GRANADA」。70 年結成。 作品は三枚。 リーダーは、フルート、キーボード担当のカルロス・カルカモ。
Carlos Carcamo | flute, violin, electric & acoustic piano, mellotron, clavichord |
Michael Vortreflich | guitar |
Antonio Garcia Oteyza | bass |
Juan Bona | drums, percussion, vocals |
guest: | |
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Javier Huidobro | vocals, spanish guitar on 2 |
Carlos Tena | vocals on 3 |
Manolo Sanlucar | spanish guitar on 3 |
Jose Luis Barcelo | mandolin on 4 (TILBURI) |
Antonio Renteria | acoustic guitar on 4 (TILBURI) |
75 年発表のアルバム「Hablo De Una Tierra(I Speak Of The Earth)」。
山盛りザクロを前にポーズを決める、カルロス・カルカモの才気煥発ぶりを発揮した作品である。
エレクトリックなジャズロック風のインストゥルメンタルからアコースティックな歌ものまで、多彩な楽曲において、メロトロン、エレクトリック・ピアノ、ヴァイオリン、トーキング・フルートなど八面六臂の活躍を見せている。
作風は、ジャズをベースに、フラメンコ・ギターや哀愁のメロディによるスパニッシュ・テイストをふんだんに盛り込み、キーボードでシンフォニックな広がりを与えるスタイル。
ハードロックからジャズ、ポップス風の作品をごちゃごちゃにして、メロトロン中心のキーボードで無理矢理まとめたもの、といってもいいだろう。
フルートは、軽快かつ品のないアクセントとして機能している。
演奏は決してうまいとはいえないのだが(音が整理されていない録音のせいもある)、イタリアン・ロックと同質の素朴さと逞しさ、そして、メロトロンが鳴り響くとブリティッシュ・ロックに通じるセンチメンタリズムと凄みも漂ってくる。
ごちゃごちゃとした感じが、欠点というよりは「個性的」に思えるのは、英国ロックと共通するアイデアの懐の深さがあるせいだろう。
実際、フリー・フォームの即興や不協和音を用いた実験的な演奏においても、過激さが痛みというよりは愛嬌に感じられる。
JETHRO TULL 的なバタバタ感と、ジャジーななめらかさが共存しているといってもいい。
牧歌的な空気と情熱のままにエキセントリックな方向へ突っ走る演奏が入り乱れた面白さは三作通じて一番だろう。
「奇想天外」という言葉がよく似合う。
3 曲目は、フルートとメロトロン、スパニッシュ・ギターとメロトロンによる二つの哀愁のデュオを経て、クラシカルなピアノ、さらにはジャジーなリズム・セクションも走り出す強烈なインストゥルメンタル・ナンバー。
轟々たるメロトロンと情熱的なギターのプレイに、古いヨーロッパ映画を見たような気持ちになります。
4 曲目は、うってかわってイージー・リスニング風のオープニングからメロトロンが高鳴り、ギターのストロークが波打つ牧歌的なコーラスへと変化。すてきなポップスです。
ゲストにフォーク・グループ TILBURI のメンバーも迎えている。ジャケット写真は再発 CD のもの。作曲はすべてカルロス・カルカモ。
「Granada」(6:25)
メランコリーが貫くドラマチックなジャズロック・インストゥルメンタル。
ねじくれるシンセサイザー、薄暗いエレクトリック・ピアノ、真夜中のメロトロン・ストリングス、手数の多いドラミングらによる憂鬱なバラード。
調子っぱずれのバロック・チェンバロがいい薬味になっている。
音は田舎臭いが、田園の憂愁ではなく、都会的なアンニュイを描いているイメージだ。
中盤からはピアノとギターによるジャズロック調のアップテンポの演奏に変化するも、まとめは再びけだるいバラードである。
静と動をくっきりと使い分けてドラマを生んでいる。
「Rompiendo La Oscuridad」(5:31)
素朴で侘しいフォークソング+ハードロックのブリッジ。
アコースティック・ギター、フィドル、メロトロン・ストリングスらによるアコースティック・アンサンブル。
ヴォーカル・ハーモニーのスペイン語の響きには荒地の寒村に響く鐘の音のように侘しく現実に打ちひしがれたような物悲しさがある。
と同時に、田舎臭さだけではない、英国フォークに通じる幻想神秘の風情もある。
フィドルは多重録音か。
中盤でメロディはそのままにフルートが金切り声を上げエレキギターが轟く TULL 風のハードロックに変貌するも、終盤は再びフルートを加えた弾き語りに戻る。
ハードロックもフォーク、俗謡に根ざしたところから生まれてきたことを再認識できる。
「Hablo De Una Tierra」(6:35)
スパニッシュ・テイストを効かせたメロディアスかつ変化に富むバラード。
メロトロン・ストリングスは主役であり、その響きは重厚かつ幻想的。な力作。
ここでは、珍しくフルートの調べがたおやかでファンタジックである。
アコースティック・ギターのプレイなどサラセン/スパニッシュな演出も分かりやすく施されている。
バックにはギターかシンセサイザーか、ノイズが渦巻くが、ミドル・テンポで誠実に歩むシンフォニックな調子は維持される。
中盤への展開とその流れは、懐かしき 70 年代テイスト満載。
ラウンジ/イージーリスニング調もある。
終盤、無調気味ギター・プレイと主旋律の短調がいっしょになった、独特のミスマッチが奇妙な味わいだ。
「Nada Es Real」(5:01)
パストラルで爽やかなラテン・フォーク/ポップス風歌もの。
イントロダクションは、密やかなスキャット、ジャジーなピアノ、さえずるようなフルートがリードするボサノヴァ。
メイン・パートは、伸びやかなヴォーカルをアコースティック・ギターの穏やかなストロークとイタリアン・ロック調のストリングスが伴奏し、フルートがオブリガートする。
跳ねるようなマンドリンもいいアクセントだ。
「Es El Momento De Oir Un Buen Rock」(6:38)
即興から発展するアヴァンギャルドでハードなジャズロック。
素っ頓狂で乱調気味の即興風の序章から、エレクトリック・ピアノが和音を刻むグルーヴィなジャズロックへと収束してゆく。
我慢してついてゆくと幸せが待っている。
メロトロン・ストリングス、トーキング・フルートあり。
ギターを前面に出したジャズロック・パートは、やはり 70 年代の日本映画や TV で流れていた音と共通する。
序盤の展開は異色だが、全体としてはかなりカッコいい作品だと想う。
「Algo Bueno」(6:07)
ピアノがカッコいい FACES のように小粋な酔いどれロック。
位相系エフェクトを効かせたギターのカッティング、不良っぽくもロマンチックな英語のヴォーカル、重量感あるピアノ。
スパニッシュなサイケ・ギターがうるさいアクセントになっている。
後半はやらずもがなの TULL 風のヒネリを効かせている。
(FONOMUSIC CD 1068)
Carlos Carcamo | electric & acoustic piano, mellotron, synthesizer, clavichord, flute, violin, mandolins |
Javier Monforte | electric & spanish guitars |
Antonio Garcia Oteyza | bass |
Juan Bona | drums |
guest: | |
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Jorge Pardo | soprano sax |
76 年発表のアルバム「Espana Año 75」。
内容は、キーボードを中心としたジャジーなシンフォニック・ロック・インストゥルメンタル。
ギタリストがメンバー交代している。
演奏では、カルカモのキーボード(メロトロンよりもシンセサイザーとエレクトリック・ピアノが主)、フルートらが主役であるところは変わらないが、ゲストのプレイも含めスタイルがよりジャジーな方向にシフトしている。
強引なプレイも健在。
A 面を占める大作では、この新ギタリストが濃いプレイでカルカモの荒々しいヴァイオリン、フルート、キーボードと渡り合っている。
アンサンブルの作りやアレンジにはイタリアン・ロック風の荒っぽさもあり、サウンドは悪趣味なまでにゴテゴテと多彩。
ただしイタリアン・ロックと比べると、ドラムスの音がしっかりと録音されている。
したがって、危なっかしいながらもリズム・セクションが強調されて、垢抜けきらない全体のグレードを少し引き上げている印象である。
全曲インストゥルメンタル。作曲は、すべてカルロス・カルカモ。
プロデュースは、ゴンサロ・ガルシアペレイオ。
「El Calor Que Pasamos Este Verano」(17:17)「そんなに要るか?」といぶかってしまうほど多彩な音色を用いてメロディアスに、豪快に、気まぐれに迫る大作。作曲、演奏ともにラフ。
「a) Por Donde Andamos」(3:54)
冒頭から、シンセサイザーによるやや丸みを帯びたサウンドとスパニッシュな旋律や和声がぶつかりあう。
ヴァイオリンとギターであおりたてる。
「b) Todo Hubiera Sido Tan Bueno」(3:35)
フルート、ギターのデュオがメロディアスなユニゾンでリードするミドル・テンポの作品。
垢抜けない。71 年くらいのイタリアン・ロックにはまだこういうのもあった。
「c) La Autentica Cancion Del Verano」(5:38)
前曲で落としたスピードを取り戻し、すさまじくノイジーなシンセサイザーがリードする前半。
後半でサックスが加わった R&B テイストのジャズロックに変化し、終盤はフルートがリードする。
ややドラムスが危ういが、リズミカルで鋭い演奏になっている。メイン・ストリーム風の音。
田舎臭さは若干後退する。
「d) No Me Digas Bueno, Vale」(4:10)
叩きつけるピアノのビートとともにオーバーダブされたギターが駆け巡る終章。
エレクトリック・ピアノによるサラセン風のソロ、得意のファンキーなクラヴィネット伴奏で再びギターがレガートに歌う。
「Septiembre」(8:00)エキゾティックで神秘的なシンフォニック・ロック・インストゥルメンタル。
主役はキーボード。
ファンタジックながらも、この時代らしくジャジーなプレイ、音を交えたスタイルである。
RETURN TO FOREVER と CAMEL の両方が好きなコピー・バンドのようだ。
終盤迸るメロトロンが強烈。
最後は JETHRO TULL 風のフルート・アドリヴがオプティミスティックな演奏を率いる。
「Noviembre Florido」(7:02)
5 拍子によるクラシカルな舞曲風のアンサンブル、バロック音楽風の展開部 1、ピアノをフィーチュアした THE BEATLES 風の展開部 2 を経て、泣きのスパニッシュ・ギターによるクライマックスへとなだれ込む。
場面展開に流れが感じられ、なかなかドラマチックに迫る。
好作品。
「Ahora vamos a ver que pasa(Vamonos para el Mediterraneo)」(7:24)
マンドリン、ギターをフィーチュアした、ややけたたましい作品。
変拍子とブレイクを多用したギクシャクしたテーマ、マンドリンのトレモロが強烈。
キーボード、ヴァイオリンもすごい音だ。
カルカモ氏の独演状態である。
メロディはリリカルなのに、音質のせいでかなり毒々しい印象を残す。
後半は快調にすっ飛ばす。
(GONG 17.0824/4)
Carlos Basso | acoustic & electric guitar |
Julio Blasco | bass |
Antonio Rodriguez | drums, percussion |
Joaquin Blanco | gaitas(spanish bagpipe), bassoon |
Carlos Carcamo | keyboards, flute |
78 年発表のアルバム「Valle Del Pas」。
カルカモ以外のメンバーを一新した。
内容は、チープなシンセサイザーと管楽器を多用し、サラセン・アラビア風のアクセントをふんだんに散りばめたジャジーなインストゥルメンタル。
音色の豊富さのわりには、あまり垢抜けないシンフォニックなジャズロックである。
これは一つには、ジャジーなリズム・セクションやピアノに対して、ギターがあまりにハードで歪んだイタリアン・ロック風の音であるためだ。
そして、シンセサイザーの電子音もかなり荒っぽくケバだっており、あくまでノイジーである。
さらに、メロディアスなテーマをもつにも関わらず、リズム/テンポの変化がきわめて頻繁なために、全体にせわしない印象を与えている。
いくつかのモチーフを無理やり一つにまとめてしまうような、プログレ特有の過激な作風のせいもある。
さて、今回も演奏面では、ピッチ変化が不気味なシンセサイザーやスパニッシュなフルートなど、カルカモ氏が主導権(というか起爆剤か)を握っているようだ。
ギターの勢いでストレートなハードロックに傾いてしまうところを、生オーケストラを放り込んで均衡を取り戻したり、ロックンロールから突如ジャズに急旋回する、などのユニークなアレンジは、やはり彼のセンスに負うのだろう。
他にもスパニッシュ・バグパイプなどの民族楽器を取り上げるなど、アイデアの数々が盛り込まれている。
荒っぽいのは確かだが、多彩な音色とリズミカルな調子のよさで楽しめる作品である。
全編インストゥルメンタル。作曲はカルカモを中心にメンバーで分け合う。
プロデュースは、ゴンサロ・ガルシアペレイオ。
ジャケット写真は再発 CD のもの。一作目に続いてザクロですが、グラナダの名産品なのでしょうか。(ザクロの学名は granatum といい、グラナダの地名は「ザクロの木が多く植わっていた街」から来ているらしい)
「No Se Si Debo」(5:03)
ストリングスも動員した往年のイタリアン・プログレを思わせるシンフォニック・ジャズロック大作。スペイン風の異国情趣もある。
カルカモ作。
「Breve Silueta De Color Carmin」(4:22)
CAMEL を思わせるシンセサイザーとギターによる、おだやかでほのかな哀愁のあるメロディアス・ジャズロック。
アコースティック・ギターにスパニッシュな響きあり。
フルートは、しっかり主旋律をリードし、なおかつジャジーなアドリヴも決めている。
バグパイプもアクセントとして活躍。
なだらかな展開を飽きさせないための音色の工夫を感じる。
ギタリストのカルロス・バッソ、ドラマーのアントニオ・ロドリゲスの作品。
「Noches Oscuras, Ocas Contentas」(5:48)
過剰なエレクトリック・サウンド、エフェクトを駆使した、楽天的で調子のいいロックンロール・インストゥルメンタル。
どこか不安げなシンセサイザーとサイケで不気味なファズ・ギターをフィーチュアしつつも、テーマはなかなかキャッチーで演奏はグルーヴィである。
ピアノのアドリヴだけなぜか近代クラシック調。
一時代前のようなサイケデリックで幻想的なよどみ(ベースの連打やドラムスなど PINK FLOYD 風味あり)のブリッジから、一気に弾けてハードポップ調のノリノリの演奏となってオシマイ。
ベーシストのジュリオ・ブラスコの作品。
「El Himno Del Sapo」(4:00)再びバグパイプ登場のトラッド・ロック。
変拍子によるバグパイプのテーマや開き直ったように無駄にポップ(音色はけっこう過激)な感じなど、JETHRO TULL や GENTLE GIANT に通じるところはある。
場面展開を強引なリズムの変化で導く。
これがすごい。
最後は銅鑼の一撃。
バッソ、カルカモ共作。
「Valle Del Pas」(7:47)牧歌的な面が強調された可憐なファンタジー・ロック。
冒頭含め CAMEL の「Moonmadness」を思わせるタッチである。
シンセサイザーがゆったりとテーマを歌う。
このテーマは、リズム変化を伴うとラベルの名曲への連想もできる。
フルート、管楽器風のシンセサイザーの登場とともに愛らしいフォークソングにも変化するが、基本は夢想的で淡い色彩のジャズロックである。
ギターのうねりもいい感じだ。
5 分過ぎあたりで一気にファンタジーは深まり、ドビュッシーかテレマンかといったたおやかで優美な世界が現われる。
フルートに救われた終盤、ピアノも含めパーカッション的な音による愛らしくリズミカルな演奏が繰り広げられる。
どこに進むのか分からないまま演奏している感じもするが、これだけまとまらなくても不思議な魅力あり。
カルカモ作。
「Calle Betis (Atardeciendo)」(6:47)
マリンバやバスーンを使ったバルトークかディズニーかという管弦楽演奏から、メロディアスかつタイトなバンド演奏へと突っ込むユニークな作品。
前後半ともスパニッシュなメロディがしっかりと織り込まれている。
前半のオーケストラ演奏はきわめて本格的。
後半のバンド演奏は緊張感があり、RETURN TO FOREVER 風のカッコよさ。
カルカモ作。みごとな作曲です。
「Ya Llueve」(4:43)
スパニッシュ・バグパイプが主役となるオムニバス風のインストゥルメンタル。
バグパイプの三連テーマによる行進曲風のリズミカルな序章から、メロディアスでメローなジャズロック、フォーキーだがグルーヴのあるジャズロックへとなめらかに移ってゆく。
イタリアの IL VOLO を思い出しました。
終盤は、やはり CAMEL 風の夏の夕暮れをイメージさせる演奏で一瞬眼を潤ませるも、再び冒頭の行進曲へ。
カルカモ、管楽器奏者のホアキン・ブランコ共作。
(FONOMUSIC CD 1025)