GODSPEED YOU BLACK EMPEROR!

  カナダのプログレッシヴ・ロック・グループ「GODSPEED YOU BLACK EMPEROR!」。93 年結成。98 年大ブレイク。2003 年活動休止。2010 年再結成を経て現在活動中。大編成によるきわめて個性的なポスト・ロック。 最新作は 2015 年発表の「Asunder, Sweet & Other Distres」。 エビ中はこれのパクリか?!

 Allelijar! Don't Bend! Ascend!
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Mauro Pezzente bass
Aidan Girt drums
Bruce Cawdron drums, vibraphone, marimba, glockenspiel
Thierry Amar bass, contrabass, cello
Michael Moya guitars
David Bryant guitar, dulcimer, keyboards, kemenche
Efrim Manuel Menuck guitar, hurdy gurdy
Sophie Trudeau violin, keyboards

  2012 年発表のアルバム「Allelijar! Don't Bend! Ascend!」。 内容は、エレクトリックかつ弦楽奏的な擦過音を重層的に積み上げたノイジーでヘヴィなインストゥルメンタル。 中低音域の音が主である。 そのため、ヴァイオリンの高音が目立つ。 飛行機の編隊の爆音のような音質は変わらないが、二つの大曲ではエレクトリック・ギターやパーカッションの存在が露になり以前の作品よりもビート感が強まっていて、ロック・バンド寄りのサウンドになっている。 そのバンド的な音にメロトロン・ストリングスに近い弦楽や鍵盤打楽器が加わることで、KING CRIMSONANEKDOTEN と共通する暗い叙情性が湧き上がっている。 音に込められたのはアジテーションなのかもしれないが、攻撃性は外に向かわず内に沈んでゆく傾向があり、絶望的でトラジックな印象は変わらない。 2 曲目と 4 曲目は連続音が積み重なった、いわゆるところの「ドローン」。インドな感じが強まるとサイケデリックなイメージも。ハーディガーディが活躍していそうだ。

  「Mladic」(19:59)
  「Their Helicopters' Sing」(6:30)
  「We Drift Like Worried Fire」(20:07)一押し。
  「Strung Like Lights At Thee Printemps Erable」(6:31)
  
(PCD-17587)

 f#a#∞
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a lot of musicians 

  98 年発表のアルバム「f#a#∞」。 カセットオンリーの少数リリースであった第一作に続く二作目。 グループ編成は、複数のギターとドラムスなど通常のロック・バンドを、チェロやヴァイオリンなどの弦楽器やグロッケンシュピールなどの打楽器、管楽器、テープループで拡充した特殊なものである。 作風も変わっている。 あたかも大きく広く取った薄暗いスペースに音を一つづつ並べてゆき、それらをなすがままに放置したような感じである。 消えるものは消え、残るものは残る。 灰色の空間に音がぽつぽつと浮かび、長い長いクレシェンドとともに音とビートが増え、渦を巻き、吹き荒れ、目が覚めるとすべてが消えて薄暗い空間に戻っている。 おそらくこれは、すべてを俯瞰するヴィジョンとパーソナルな懊悩を矛盾なくおりあわせた、一種の鎮魂歌なのだ。 または、ループによる効果音をコラージュしたドローンと反復をふんだんに使ったドイツ・サイケ/クラウト・ロック風の演奏といってもいいし、カオスをかき回す真っ黒で巨大なオルゴールといってもいい。 凶暴な攻撃性、サイケデリックな効果、交響楽的な高揚、宗教音楽的な救済、トラッド風のペーソス、無垢なロマンチシズムもあるが、そういう場面が訪れるというよりは、静かな底知れぬ流れに時おり浮かび上がってくる、という趣である。 感覚的にいって、この音はロックというよりも映画音楽に近い。 (もっとも、映像を飲み込みやすくするために付属した音楽が映画音楽なら、こちらにも、音を飲み込みやすくするために映像を付けてもらいたい。おそらくライヴでは映像が流れるのだろう) 個人的には、ドイツのミュージシャンや PINK FLOYD 辺りとの接点を見るが、幼稚ながらもオプティミズムの極みだったコミューンから生れた音と異なるのは、こちらの音の基調には、現実に対する「絶望感」や精神の「虚無的な歪み」、その挙句の「超越感」が感じられることだ。 パンクの果てに、ニヒリズムや凶暴さを通り過ぎて、誰も知らない魂の辺土にたどりついたのだろうか。 天国だが地獄だか分からないそこで口ずさむのがこの歌なのだろうか。 なんとか抱きしめてあげられないかと考えるのは、決して恥ずかしいことではないだろう。 生真面目なモンキー・ビジネスの果て、地球が吹き飛んだ後に、この音が微かな余韻として宇宙に散らばって消えてゆく、そんなイメージも湧く。
  
  「The Dead Flag Blues」(16:16)
  「East Hastings」(17:49)
  「Providence」(29:02)無音状態を経てエピローグ風の終末へと辿りつく。
  
(PCD - 23058)

 Lift Yr Skinny Fists Like Antennas To Heaven!
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a lot of musicians 

  2000 年発表のアルバム「Lift Yr Skinny Fists Like Antennas To Heaven!」。CD 二枚組 4 曲構成の大作。 各曲は複数のパートから構成される。 サンプリングを散りばめた、緩やかなクレシェンドとともにノイズが渦巻いてゆく交響楽的へヴィ・インストゥルメンタルだが、前作よりも轟音ロック、インダストリアルなノイズ・ミュージック、ミニマル・ミュージックとしての性格が明らかになり、同時にドラマとしてのグレードが上がったと思う。 積み重なり共鳴する音はやがてすべてを奪い去る巨大な嵐と化す。 ギターは限りなく絶叫し、ドラムスは大地を波打たせ、何もかもが大渦巻きに呑みこまれてゆく。 そしてその嵐が凄まじければ凄まじいだけ、浄化も徹底的である。 ソロ・アコースティック・ピアノによるヘヴンリーで厳粛な表現や、サンプリング・ヴォイスによる痛切な訴えかけ、乾いた弦楽の調べは、刻印のようにはっきりと浮かび上がってくる。 ケイオティックなノイズが時をおいては吹き荒れるが、前作のような虚無の深淵に放り込まれる感じはせず、もっとエモーショナルなものが噴出しているように感じる。 弦楽の響きはアブストラクトながらも痛みを伴い、アンサンブルには荒涼たる冥府の闇を切り裂く天界の進軍ラッパのような荘厳な力もある。 ギターのささやきは弦楽の調べと地鳴りのようなドラム・ビートに追いすがられ、やがて運命的な悲劇を彩るような「歌」となってゆく。 精神の閉ざされた坩堝から解放され、虚無感と超越感を抱えたまま、現世の肉体を取り戻したのだろうか。 それはそれで別の辛さもあるとは思うが、救いの道もまた広がるような気がする。 無限の高揚感をかきたてるクライマックスには、どれだけ打ちのめされても立ち上がり、決して歩みを止めない魂の強さを感じる。 最終曲の中盤には、一番よかった頃の NEW ORDER のようなカッコいい演奏もある。
   SIGUR ROS のファンやシンフォニックなプログレ・ファンには絶対お薦め。
  
  「Storm」(22:32)
  「Static」(22:36)
  「Sleep」(23:18)
  「Antennas to Heaven」(18:58)
  
(krank 043)

 Yanqui U.X.O.
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a lot of musicians 

  2002 年発表のアルバム「Yanqui U.X.O.」。 独特の無機的な作風にエモーショナルなニュアンスが加わり、さらにドラマティックに、トラジックになる。 そのニュアンスは初期の英国プログレや北欧プログレにつながるものであり、あえていえば、メロトロン・ストリングスやメロトロン・クワイヤ(ここではどうやらキーボードではなく実際の弦楽器や管楽器のようだが)が地鳴りのようなドラム・ビートとシンクロし、暗黒の魂をたずさえたまま天へと翔けあがってゆくときに生まれ出るようなものである。 死の瞬間に差し込む希望の光のようにアイロニカルな音でありながら、ベースには底知れない慈愛の響きがある。 すべてを諦念のかなたへと押しやるとこういう柔和な表情になるのかもしれない。 優しすぎる眼差しとパンクな反逆精神に満ち、アンビエントな音響感覚に富むオーケストラであり、新時代の THE ENID があるとすれば、それはこれだ。 ドイツの映画に合いそうな音でもある。
   タイトルやジャケットアート(メディア・コングロマリットが「不発弾」をばらまくことに貢献しているという図式に見える)などから、政治的なメッセージ性の強い作品と推察される。 爆弾であちこちを焼き払うことを嫌がる人が北米にもいると思うと少し安心する。

  「09-15-00 part 1」(16:27)
  「09-15-00 part 2」(6:16)胸を締めつけるような哀感と忘れていた暖かみ。傑作。
  「rockets fall on Rocket Falls」(20:42)序盤は PINK FLOYD 的な緊張感のある寄り身。 中盤、ティンパニと木管風の音が入るところで改めて管弦楽的であると気づく。 そこからの PINK FLOYD がオーケストラになったような展開もカッコいい。
  「motherfucker=redeemer」(21:22)前半の疾走感はこれまでにはなかったような気がする。
  「motherfucker=redeemer」(10:10)ロックな終曲。後期 KING CRIMSON と共通する切迫感と叙情性。
  
(PCD-5680)


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