イタリアのプログレッシヴ・ロック・グループ「IL PAESE DEI BALOCCHI」。 71 年結成。72 年、唯一作を発表。 74 年解散。79 年再編し、シングルを発表。
Fabio Fabiani | guitar |
Marcello Martorelli | bass |
Sandro Laudadio | drums, vocals |
Armando Paone | keyboards, vocals |
72 年発表の唯一の作品「Il Paese Dei Balocchi」。
内容は、オルガンと管弦楽をフィーチュアした白昼夢的なシンフォニック・ロック。
アグレッシヴな表現やヘヴィな音ももちろんあるが、それ以上に印象的なのは、たなびくような幻想性が全編を包んでいること。
イタリアン・ロックらしいフォーキーな牧歌調が、穏やかさを越えて、一種不気味な静けさを放つのである。
これは、即興風のドラムレスのパートを大きめに取っているせいでもあるろう。
当初はヘヴィだったり華美だったりさまざまに揺れ動いてた世界が、後半へゆくにしたがって、ぼんやりと輝くような白昼夢的なものへと変化してゆく。
演奏の中心になっているのは、リード・ヴォーカルも取り作曲も行う鍵盤奏者だろう。
ファルセットのヴォカリーズには英国ハードロックの影響が感じられる。
また、JADE WARRIOR などと同じく、ニューエイジ・ミュージックのハシリといったニュアンスもあるが、これこそこのリーダーの才覚によるものだろう。
インストゥルメンタル中心の作品である。
4 曲目は静かなる挑戦を思わせる佳作。
邦題は「子供達の国」。元の意味は、ピノキオに出てくる「おもちゃの国」。(遊んでいるうちにロバになってしまうコワいところ)
1 曲目「Il Trionfo Dell 'Egoismo(夢の国へ)」(2:35)。
アグレッシヴなオルガンのプレイはいかにも 70 年代プログレシッヴ・ロック。
ギターこそ入っているが、曲調は見事に EL&P である。
突如ヘヴィに轟くオルガンを断ち切り圧倒する重厚なストリングス。
思わず息を呑む。
この落差はドラマチックだ。
後半はストリングスによるバロック音楽調の演奏である。
エンディングは非常に優美。
インストゥルメンタル。
2 曲目「Impotenza Dell 'Umilta 'E Della Rassegnazione(あきらめ)」(4:10)。
冒頭ギターがささやく演奏から耐え切れなくなったかのようにラウドなギターが飛び込む。
ギター、オルガンがヘヴィなリフを刻んで動いてゆくシーンと澄み渡るように静かなコラール、チャーチ・オルガンのざわめきがコントラストをなしつつ、次第にとけあってゆく。
後半はオルガンが湧き上がり、幾重にも重なり合い、ギターとともにヘヴィな演奏を繰り広げる。
バスドラを打ち鳴らすタイミングが不気味である。
ハードでミステリアスなハードロック。
インストゥルメンタル。
3 曲目「Canzone Della Speranza(希望の歌)」(3:56)。
前曲のヘヴィで熱い空気をアコースティック・ギターの生々しいアルペジオがクール・ダウンする。
緩やかなコラールそしてオルガンの響き。
哀愁のオープニング。
陰鬱なストリングスに導かれて繊細なヴォーカルが歌い出す。
こういうメロディでのイタリア語の響きは絶品。
哀愁の短調と希望の長調をゆきかうヴォーカル。
そしてエコーが重なり合う。
長調のメロディにオルガンが静かに重なる。
最後も陰うつなストリングスが消え入るようなか細さで鳴り響く。
「Concerto Grosso」を思わせる格調あるストリングスが伴奏する、内省的ではかなげなバラード。
1、2 曲目までのヘヴィな曲想を一気にくつがえす。
4 曲目「Evasione(逃亡)」(7:44)再び前曲から続くようなギターの静かなリフレイン。
泡が浮かんでゆくようなエフェクトの効いた音だ。
さまざまなノイズがギターを取り巻く。
静かに流れはじめるオルガンそして変調されたシンバルの響き。
左右のチャネルからオルガンが響きエレクトリックな効果音が飛び交う。
再び現れたギターのリフレインはオルガンを呼び覚ましベースのリフとともに静かにアンサンブルが動き出す。
ベースに反応するギターの静かなリフレイン。
ハイハットが刻まれオルガンのポルタメントは波打つように広まってゆく。
穏やかなビート。
ギターのリフレイン。
湧き上がるオルガン。
風のように吹きすさぶノイズ。
雄大な演奏だ。
うねりを繰り返す海のような広大な曲想。
ビートは消え、ストリングスの豊かな残響の中ギターとオルガンが静かに響く。
ストリングスの余韻が消えてゆく。
代わりに現われるのはオルガン。
そしてギターのメロディへ。
ドラムスが入ってギターが静かに歌い出す。
シンバルの連打。
響き渡るコラールとギターのおだやかな歌。
ほのかな緊張。
ギターのリフイレンがフェード・アウト。
早すぎたニューエイジ・ミュージックのような幻想的なインストゥルメンタル。
散りばめられた音が次第に集まり、ストリングスの調べとともに悠然たる流れを作る。
ここまでは、長い斜面を登ってゆくようなゆったりとした趣がある。
終盤一旦ストリングスが消え、ギターがゆったりと歌い出すところでその流れが少し曲折する。
不思議なアレンジだ。
5 曲目「Risveglio E Visione Del Paese Dei Balocchi(子供達の国)」(4:42)。
クラリネットの寂しげなソロ。
ストリングスが低音から湧き上がり、静かに響き始める。
追いかけるように、次々と立ち上がるストリングス。
次第に厚みを増し、優美なメロディが流れ出す。
幻想的な美しさ。
どこからともなくオルガンとベースが現れ、軽妙なリフレインを繰り返す。
呼応するように舞い踊るフルート。
しかしアンサンブルは、吸い込まれるように消えてゆく。
代わってオルゴールのようなエレピが、ポツポツと音を散りばめてゆく。
しかしすぐにチャーチ・オルガンの重厚な響きに、かき消される。
再びオルゴールのようなエレピが湧き上がる。
気まぐれな曲想だ。
またも静かにチャーチ・オルガンが立ち上がる。
オルガンは軽やかな音を見せると、すぐに重厚な響きへと変化し、渦を巻くように流れる。
うつろう夢のように幻想的なインストゥルメンタル。
静けさを強調するクラリネット・ソロや軽妙なフルートのアンサンブルそして重厚なストリングス、オルガンが切り貼りされたアヴァンギャルドな展開をもつ。
各々の部分はクラシカルな流れをもつが全体で見るとじつに不思議な曲だ。
子供の貼り絵もしくは夢の中のできごとのような気まぐれを意図したのだろうか。
ここから小品が続く。
6 曲目「Ingresso E Incontro Con I Balocanti(子供達との出会い)」(2:00)。
オルガンとクラリネットによる行進曲風のリフレイン。
テンポが落ち、ギターとオルガンが、ひきずるように重く奇妙なリフレインを繰り返す。
演奏がフェード・アウトすると、ざわめきの中、悠然とアカペラが始まる。
教会を思わせる深い残響。
チャーチ・オルガンの静かな響き。
コラージュ風の小品。
関連のなさそうな 3 パートから成る。
最後のヴォーカル・パートには有無をいわせぬ説得力がある。
7 曲目「Canzone Della Carita'(愛の調べ)」(00:45)。
一気に始まるヴィヴァルディのような弦楽奏。
鮮烈だ。
ロマンチックな響きを残し一瞬で消えてゆく。
オーケストラによるバロック音楽。
一瞬だが、目の醒めるような演奏である。
8 曲目「Narcisismo Della Perfezione(自己陶酔)」。
(1:02)エレキギターの 3 連アルペジオ伴奏でアコースティック・ギターの悲しげなデュオが始まる。
ヴォーカルは、中世風のメロディ・ライン。
伴奏のギターは、やや気まぐれ。
空白の多いうつろな曲調だ。
ギターとヴォーカルのみによる即興風のトラッド小曲。
9 曲目「Vanita' Dell' Intuizione Fantastica(虚栄)」(7:02)。
訥々と歩むベース、たちこめる霧のようなオルガンによる重苦しいイントロダクション。
足をひきずりながら憂鬱な道のりを歩むような曲調だ。
ベースの歩調が早まり、なめらかに動き出す。
ギター、オルガンが遠くで応じる。
深いエコーに沈む音。
ベースが新たなパターンを提示し、トライバルなドラム・ビートが打ち鳴らされる。
ギターも低音でフレーズを刻み、不気味な歩みが始まる。
一瞬のブレイク。
そして決めとともに、ワウ・ギターとエフェクトなしの二つのギターが、ミドルテンポでリフを刻みだす。
ユニゾンでせわしなく動くギター。
再び激しい決めから、今度は狂おしいオルガンがリードに加わる。
左右チャネルから二つのオルガンが飛び出す。
オルガンもユニゾンし、激しく音を叩きつける。
ブレイク。
音量が一気に落ち、再び謎めいたオルガン、ギターらによるメランコリックなリフレイン。
シンバルがざわめき、記憶に刻み込むように反復が続く。
ゆっくりと湧き上がるオルガン、そして太く力強いビート。
不気味なリフレインが、次第に力を強めてゆく。
執拗な反復。
頂点を越えたかのように、今度はゆっくりと遠ざかる。
静けさの中、邪悪なものが深い闇の底から立ち上がるような、ミステリアス極まるインストゥルメンタル曲。
忙しないリズムとリフを強調し、原始的な舞踏を思わせる肉感的なうねりを生み出す。
曲の描くイメージは融通無碍であり麻酔効果、トランス性も感じられる。
太鼓のビートも民族音楽調であり、これは往年のサイケデリック・ロックと同じ味わいだ。
生気の少ない感じがよけいに不気味である。
10 曲目「Ritorno Alla Condizione Umana(夢から覚めて)」(4:23)。
高音に低音が重なる重厚なチャーチ・オルガン。
弦楽が同じメロディを刻み、オルガンと重なり合い分厚い層をなす。
チャーチ・オルガンによる狂乱のスケルツォ。
ワーグナーのようにドラマチックな動きを見せる。
オルガンは、昂ぶりながらも豊かな演奏へと流れ込んでゆく。
右手のオスティナートに左手の重厚な和音が重なる。
高音のシングル・ノートにペダルの低音が次々と重なってゆき、轟々たる演奏となる。
勇壮なテーマから、鮮やかな速弾き、火を噴くような和音を轟かせて終わる。
オルガンのカデンツァによる終曲。
ストリングスも少し入っているようだがほぼチャーチ・オルガン独奏である。
オルガンの厳格かつ悲壮感ある音色は圧巻。
やや現代的な解釈も備えた演奏になっており、プログレでは VDGG のヒュー・バントンのイメージに近い。
アルバム・エンディングに相応しい劇的な作品だ。
目の醒めるようなストリングスとオルガンをフィーチュアした、幻想的なサウンド。
ルネサンス・バロック調の品格と味わいのある演奏から、EL&P 風、果てはサイケ風とじつに多彩である。
唐突な曲調の変化も特徴的だ。
大胆な試みだが、芸術性というにはあまりに急激であり、まとまりを欠いている。
基本的にソロよりもアンサンブルの動きに重きをおいた作風であり、作曲は優れているといっていいだろう。
音量や音質の変化も巧みに用いている。
そして不思議なことにかなりヘヴィな演奏があるにもかかわらず、全体を通すと奇妙な静けさが感じられる。
やはり、曲の組み立てと配置が巧みなのだろう。
魅力的なプレイは多い。
最大の魅力は、大仰でドラマチックな作品と幻想的で浮遊感のある作品が奇妙に仲良く同居する面白さだろう。
お薦め。
MELLOW からの再発盤には、79 年発表のシングルが追加されている。
(FGL 5115 / K32Y 2177)