イタリアの暗黒クラシカル・ロック・グループ「JACURA」。 奇人アンソニー・バルトチェティを中心に 70 年代前半に結成。 二枚のアルバムを残し、実質二年の活動のみで解散。 音楽的なリーダーシップはバルトチェティが取っていたようだが、サウンドから考えて、実際はキーボード・プレイヤーの力量に負うところが大きかったと思われる。 2001 年発掘音源発表。
Anthony Bartoccetti | guitars, bass, vocals |
Charles Tiring | organ, harpsichord, Moog |
Fiamma Dello Spirito | lead vocals, violin, flute |
Franz Parthenzy | medium |
75 年発表の第一作「Tardo Pede In Magiam Versus」。
チャーチ・オルガンを大きくフィーチュアし、荘厳にして鬼気迫るサウンドを作り上げた作品。
邦題はなんと「サバトの宴」。
そして、ジャケットは死肉を食らう悪鬼の凄まじい姿。
邪神/邪教をイメージさせたいのは分かりやす過ぎるほどに分かるが、ちょっとやり過ぎな気もする。
サウンドは、チャーチ・オルガン、チェンバロらバロック/教会音楽風の本格的な音に、シンセサイザーの効果音による「ホーンテッド・マンション」的なコケオドシを交えた真っ暗なもの。
女性ヴォーカルは長い髪振り乱して呪文を叫ぶイタコ(最近だとサダコか)のイメージである。
パイプ・オルガンをメイン楽器として取り入れるというのは、かつてない斬新な試みではある。
ライヴは当然教会でやることになるのだろうが、このイメージでは到底やらせてもらえそうもない。
バンド形態のようだが打楽器を用いていないのも特徴的。
1 曲目「U.F.D.E.M.」
チャーチ・オルガンの奏でる荘重にしてサスペンスフルな調べで始まる、ゴシック・ホラー調の作品。
オルガンはチェンバロへと引き継がれ、ベースの響きとともに女性ヴォーカルがややヒステリックな表情で歌い始める。
伴奏はバロック調だが、旋律はイタリアンなエモーションが満ちている。
再び、チャーチ・オルガンが重厚な旋律を響かせ、吹き荒れる風のような効果音(シンセサイザー?)が流れ出て、オルガンの響きが揺らぎ出す。
しかし、それでもオルガンは次第に興奮気味に高まってゆく。
ベースに導かれてヴォーカルへ。
またもエキサイトする、オルガンと嵐のような轟音。
ドラムスはなく、代わりにオルガンが独特なノリを生み出している。
三度ベースとともにヴォーカル。
やや単調な展開である。
オルガンとノイズが反応しあい、エンディングが近いことを匂わせる。
オルガンの旋律は、重厚さを取り戻して、厳かに終わる。
伴奏はバロック、旋律はフォーク、歌唱はホラー風味というきわめてエキセントリックで不気味な作品。チャーチ・オルガンをエレキ・ギター並に弾きまわすという試みがすごい。
2 曲目「Praesentia Domini」
暗くメランコリックなオルガンの音色は、1 曲目と比べると丸みを帯びており管楽器、特にフルートに近いニュアンスがある。
つややかな高音の旋律とふいごのように響く低音。
厳粛にして美しい響きが高まり、旋律が伴奏と交錯する。
ドラマチックな和音の轟き。
ざわめく和音の海から光がさすように、シングル・ノートが響く。
金属的な輝きを持つ高音と地の底から湧き上がるような低音のコントラストが凄まじい。
オルガンが静かなざわめきへと変化すると、女性ヴォーカルによる深刻なモノローグが始まる。
感極まった興奮気味の独演は、あたかも魔神へ捧げる呪文のようである。
男の声が重なり、呪文が高まるとともに電子音のようなノイズが駆け巡り始める。
そして再び、天の声、もしくは魔神の降臨のように轟き渡るオルガンの和音。
1 曲目よりもはるかに正統的なムードをもつバロック音楽。
もっとも、モノローグが入ると、途端に安っぽいホラーものになってしまうのではあるが。
混声で唱えつづける呪文にはかなりの迫力が。
そして、エンディングのチャーチ・オルガンでとどめをさされる。
どんなにインチキ臭くとも真剣に訴え続けると妙な説得力を生み出すというあたかも新興宗教のような作品だ。
3 曲目「Jacula Valzer」
スキャットとフルートによるジャジーで歪曲した美しさをもつ作品。
イメージとしては、ボーッと光りながら漂うヒトダマやガイコツのチークダンスなどの古典的なアニメーションである。
ギター伴奏による女声スキャットから始まり、フルートとピアノのジャジーな演奏が続く。
フルートのアンサンブルは、ノイズに包まれて吹き消されそうになるが、あたかも荒果てた古城の空にかかる月が再び雲間から現れるようによみがえり、スキャットとともにゆらゆらと響きつづける。
俗っぽいくせに雰囲気だけは彼岸的な奇妙な作品。
ジャジーなアンサンブルと現代音楽的なピアノ、シンセサイザーの演奏がずれてしまったトレースのように微妙に重なりあい不思議な効果を出している。
もっといい表現がありました、エクトプラズム、幽体離脱といったイメージです。
4 曲目「Long Black Magic Night」
チェンバロ伴奏による美しいフルートの調べに酔う間もなく、突如左のスピーカから現れる呪文に震え上がる。
右のスピーカからはヴォーカル・エコーとヴァイオリンの甘美な旋律が流れている。
モノローグは巻き舌の英語。
声のプレゼンスがかなりリアルなので耳元で呟いているようにも聴こえる。
フルートとヴァイオリンが重なると声は止み、再びチェンバロ、フルートのアンサンブルが始まる。
吹きすさぶ風のようなシンセサイザーのノイズ。
再びモノローグ。
美しくクラシカルな演奏とともに語られる哀しい物語。
フルート、ヴァイオリンの沈痛な旋律が耳に残る。
「Long Black Magic Night has Begun....」。
5 曲目「In Old Castle」
再び、こもった響きをもつオルガンの旋律、そして一気にスピーディなフレーズが駆け巡り、重厚な和音へと突っ込んでゆく。
オルガンが、軽やかなステップを踏むような演奏から、立体的な音響で迫り、即興風に暴れまわる。
演奏は再び落ちつき、哀しげな旋律が、巧みに長調の和音も織り交ぜながらドラマチックに響き渡る。
幾重にも重なる和音と旋律、音量の高まりがすべてを圧して進んでゆく。
静々と朗々と。
即興性の高いオルガン・ソロ。
さすがに、長年にわたって民衆の心を惹きつけるために使われた楽器は、どんなに胡散臭い演奏でもそれなりの説得力をもつようだ。
チャーチ・オルガンやフルートを核にしたクラシカルなアンサンブルはかなり本格的であり、聴き応えがある。
しかしながら、コケオドシ的な面も強く、モノローグやヴォーカルはきわめて低級なホラー映画の雰囲気である。
決して低級なホラー映画がダメだといっているわけではない(個人的にはむしろ好きである)。
残念なことに、低級なホラー映画とクラシカルな音楽を結びつけるという発想のユニークさに、肝心のロックとしてのカッコよさと面白さが追いついていないのだ。
録音もあまりよくないため、音響から雰囲気にひたりきるという楽しみ方もさほどはできない。
とすると、一体何をポイントに味わうべきか。
やはり、クラシックを涜するダーク・シンフォニーというややチープなコンセプトをサディスティック(マゾヒスティックか)に楽しむことだろうか。
結論、名作というよりは迷作であり、怪作。
(MMP 136)