イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「MARK-ALMOND」。 69 年結成。作品は六枚。早くから弾き語りフォークとジャズの融合を志向し、AOR 系フュージョンを導いた。
Jon Mark | classical guitar, guitar, bass, percussion, lead vocals |
Johnnie Almond | baritone & tenor & alto & soprano sax, vibraphone, harmony vocals, congas, concert alto flute, bass flute |
Tommy Eyre | concert grand piano, electric piano, harmony vocals, organ, flute, percussion, guitar |
Roger Sutton | bass, percussion, harmony vocals, vocals on 5 |
71 年発表のアルバム「Mark-Almond」。
内容は、幻想的なジャズ風の弾き語り、あるいはフォーキーなジャズ。
非常に繊細なサウンドとつぶやき風の語り口が特長。
気だるく、なおかつ高貴なイメージのジョン・マークの歌唱は都会的な憂愁を表現するにまさにうっけつけである。
叙景的な作風であり、R&B やゴスペル、クラシカルなアレンジも場面に合わせて積極的に取り込んでいる。
また、ジャジーな作風ではあるが、プレイヤーの主張たる丁々発止のソロの応酬はない。
そういう意味で、やはり、ジャズ風のサウンドを応用した、ジャズ風のアレンジを施した弾き語り、なのである。
類似した編成、音楽性の TRAFFIC との大きな違いは、ソウル・ミュージックではなくジャズに力点があるところ。
一方、同じようにジャズ、フォークへの接近を試みたイアン・マクドナルド在籍時の KING CRIMSON と同質のセンチメンタリズムやリリシズム、アヴァンギャルドな逸脱感あり。
そして、組曲を練り上げる作曲力、演出力、ストーリーテリングの妙も考え合わせれば、この音楽をプログレッシヴと呼ぶにいささかの抵抗もなくなる。
演奏面で特筆すべきは、ドラムレスの編成にもかかわらず、躍動感のあるアンサンブルもみごとに演じ切っていること。
名手トミー・アイアによる非常にきめ細かいキーボード・サウンドはもちろん、猛者ロジャー・サットンによるアイデアあふれるベースのプレイはグルーヴを完全に取り仕切って光る。
A 面冒頭の二作は本グループを代表する傑作。そして B 面の大作「Love」も野心的でプログレッシヴな作品である。
プロデュースは、ヒュー・マーフィ。
「The Ghetto」(6:16)情熱を秘めたノンシャラン、片時も心を去らぬ憂愁、若き日の胸痛む思い出を綴るようなブルージーなジャズ・フォーク。ゴスペル・タッチと英国ロックのメランコリーのブレンド。アイアのピアノ、アーモンドのサックス、サットンのベース、すべてが絶妙の配置にある。代表作。
「The City」(10:22)高級車が静かに疾走するようなイメージのクールなソウル・ボッサ調ジャズロック。
抜群の運動性能でありながら抑制されたタッチ(エレクトリック・ピアノ秀逸!)で迫る。
サットンの饒舌なベース・ランニングがカッコいい。
アコースティック・ピアノがリズムを打ち出せば、歌はサックスが引き受ける。
アコースティック・ギターのリズミカルなオブリガートで歌うバス・フルートは豊かに洒脱。
終盤のアコースティック・ギターのストロークと荒ぶるファズ・ベースのデュオによるブリッジは鳥肌が立つほどカッコいい。
傑作。
「Grass And Concrete」
「Taxi To Brooklyn」
「Speak Easy It's A Whiskey Scene」
「Tramp And The Young Girl」(5:01)湿った煙霧にまかれるような幻想曲。
アコースティック・ギターとダブル・ベースの抑えたバッキングとこらえきれないため息のようなオブリガート、そしてヴィブラフォンの響きに酔う。
フルートが現れると最初期 KING CRIMSON に最接近。
緻密な演出による幻想的なアンサンブルが冴える、珠玉のバラード。
「Love」(10:57)アコースティック・ギターを主にした中世音楽、クラシック、民族音楽から、すべてを呑み込む野放図なブルーズへとダイナミックに展開する力作。
デリケートなのに悪食というべき奔放な吸収力はまさに英国気質。
ドラマあり。
「Renaissance」
「Prelude」
「Pickup」
「Hotel Backstage」
「Song For You」(8:36)ソウル調のヴォーカル・ハーモニーとジャジーなエレクトリック・ピアノをフィーチュアするへヴィ・ブルーズ風の作品。
サックス、アコースティック・ギターの点描的な表現が冴える。
(BTS 27 / UICY-3328)
Jon Mark | lead vocals, classical guitar, twelve-string guitar, guitar, percussion |
Johnnie Almond | baritone & alto & tenor & soprano sax, vibraphone, concert & alto & bass flute, percussion, harmony vocals |
Tommy Eyre | concert piano, electric piano, flute, guitar, harmony vocals, percussion |
Roger Sutton | bass, vocals, percussion, cello, harmony vocals |
Dannie Richmond | drums, percussion, harmony vocals |
71 年発表のアルバム「Mark-Almond II」。
内容は、前作同様、ジャズのエッセンスをたっぷりと盛り込んだ弾き語り。
フルートの涙でといた薄墨でアコースティック・ギターの爪弾きが描いた風景に人の営みがほのかに色づく、淡くデリケートな世界である。
ただし、ドラマーが加入し、テンションの高いアンサンブルを繰り広げるシーンが現れた。
エレクトリック・ピアノの魔術とともにモダン・ジャズを飛び出して一気にロックの方へとクロスオーヴァするかと思えば、ブルージーなサックスがビバップ調へと引き戻し、やがては気怠い薄明かりの幻想へととけこんでゆく。
ジャズとフォークを絶妙にブレンドすることで新しい音を生み出した前作とは異なり、乖離もあえて辞さずにジャズ、フォークのそれぞれの彫りをとことん深くした試みととらえている。
それはそれでコントラストの妙があり、やはり新しい世界が拓けている。
フォークの表現にはトラッド的、中世音楽的な響きもあり、その素朴で熱気ある表現がジャズへと矛盾なくつながることが発見だ。
また、メローにこなれた AOR の萌芽もあり。
クールな幻想味はほぼ変わらず、R&B 的な熱さはやや減退し、新たに開放的で穏やかな表情が加わった。
第二組曲の最終曲は現代音楽的なセンスを生かしたプログレッシヴな力作。
プロデュースは、トニー・リピューマ。
「The Sausalito Bay Suite」サウサリートはサン・フランシスコ北岸の風光明媚な街。
「The Bridge」(5:52)序破急の調和の美というべきジャズ・フォークの傑作。中盤のジャズ・コンボは圧巻の迫力。
「The Bay」(5:31)深い霧に沈んでゆくような幻想的バラード。フルートの雅。独特のベース音はダブル・ベースかエレクトリックのフレットレスか。
「Solitude」(6:05)曲折した RETURN TO FOREVER(それは SOFT MACHINE のことか?) のような作品。アコースティック・ピアノのみごとな存在感。転調の妙。
「Friends」(4:10)トラッド風味ある、フォークソングらしい作品。
「Journey Through New England」開拓史の香り豊かな東海岸の古い街の物語。
「One Way Sunday」(5:30)ハーモニー・ヴォーカルなど、なぜか西海岸風の開放感のあるソフト・ロック作品。
「Sunset」(6:25)フルートとPENTANGLE ばりのアコースティック・ギター・プレイをフィーチュアしたペーソスあふれるトラッド・ソング。
「Ballad Of A Man」(11:42)前曲で少し姿を見せたサックスが大見得を切り、ピアノが近代クラシック風の和声で迫る。
PROCOL HARUM を連想させる文学的で重厚なバラードである。
間奏部のブルーズ・ロック(荒れ気味のギターがいい)など、英国ロックらしいプログレッシヴな姿勢を最終曲で大いに示した。
(BTS 32 / UICY-3329)
Jon Mark | lead vocals, classical guitar, twelve-string guitar, guitar, percussion |
Johnnie Almond | baritone & alto & tenor & soprano sax, vibraphone, concert & alto & bass flute, percussion, harmony vocals |
Ken Craddock | concert piano, electric piano, classical guitar, guitar, vocals, percussion |
Geoff Condon | flugelhorn, trumpet, cornet, concert flute, tenor sax, oboe, harmony vocals, percussion |
Colin Gibson | bass, harmony vocals, percussion |
Dannie Richmond | drums, percussion, harmony vocals |
72 年発表のアルバム「Rising」。
米国レーベルから発表された第三作。
アイア、サットンのコンビがジンジャー・ベイカーのグループ出身のケン・クラドックとコリン・ギブソンに交代し、第二の管楽器奏者も加入する。
内容は、英国フォーク、ジャズ、ブルーズ、ブラス・ロック、ボサノヴァ、ウエストコースト、アフロなどを融通無碍に巡るアダルト・ロック。
それでいて荒れることなく、雰囲気に合わせて品のある精緻な音を的確に丹念に紡ぎだす、まさにセンスの塊のような作品集である。
英国フォークらしい幻想的でメランコリックな作品とクールなジャズが難なく並置される絶妙の雰囲気作り。
さらに、フォーキーな味わいに開放的な西海岸風味が加わり、またサックスのプレイなど、もろにスタン・ゲッツのジャズ・ボッサを意識したところもある。
しかしながら、かようにアメリカ大陸に寄っても、投げやりで気だるいのにどこか決然としたジョン・マークのヴォーカルがすべての憂いと翳りを引き受けて英国趣味を貫いている。
夜更けのとりとめのないもの想い、日々のうちにふと陥るエア・ポケットのような時間、思い出せない目覚め前の夢、そういったすべての儚いものを音にしているようだ、というとカッコよすぎるだろうか。
ひそかな身もだえのようなバス・フルートの響きが切ない。
6 曲目はギターやアフロな打楽器を大きくフィーチュアした異色のへヴィ・ブラス・ロック。
プロデュースは、ブルース・ポトニック。
「Monday Bluesong」(4:19)これ以上ないほどにタイトル通りの曲。ミュートしたトランペット・ソロにしびれる。
「Song For A Sad Musician」(4:41)ギターも歌うブルージーで幻想的な弾き語り。管楽器、鍵盤、打楽器、すべてが絶妙の配置にある。
「Organ Grinder」(2:23)英国フォーク直球。愛らしく素朴な中に大胆でアナーキーな響きがある。
「I'll Be Leaving Soon」(2:31)フォークにボサノヴァをブレンドしたソフト・ロック。リード・ヴォーカルはクラドック。
同じフォーク風味ながらも前曲との味わいの違いが興味深い。
「What Am I Living For」(5:10)カントリー・フレイヴァーある西海岸フォークロックとロンドンの煙霧が交わる不思議な曲。そういえば、真夏のサンフランシスコは深い霧に沈むことがある。
「Riding Free」(8:38)エネルギッシュでファンキーなブラス・ロック。終盤アフロな展開に。
「The Little Prince」(5:35)RTF の一作目のような、ミステリアスで美しいバラード。
「The Phoenix」(7:28)高貴なロマンの香りに満ちた、このグループらしい傑作。
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