アルゼンチンのクラシカル・ロック・グループ「MIA」。 76 年結成。 キーボードの天才リト・ヴィターレを中心に、三枚のアルバムと一組のライヴ・アルバムを残す。 80 年解散。 ヴィターレは、グループ解散後もソロとして活動を続ける。
Lito Vitale | drums, organ, synthesizer, piano, teclados |
Liliana Vitale | drums, flute, percussion, vocals |
Juan del Barrio | drums, piano, organ, vibraphone, vocals |
Daniel Curto | guitar |
Nono Belvis | bass, guitar |
guest: | |
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Kike Sanzol | drums |
76 年発表の第一作「Transparencias(クリスタルの海)」。
内容は、テクニカルなクラシック・キーボードを中心としたシンフォニック・ロック。
リコーダー、アコースティック・ギター、スキャットなどを配した室内楽アンサンブルや、ジャジーなインプロヴィゼーションも交えている。
キーボードは、印象派風のリリカルなピアノから攻撃的なハモンド・オルガン、シンセサイザーと多彩である。
ラフながら技巧的な演奏の醍醐味と、ラテン風のロマンチシズムをともに味わうことができる。
「Reencontrando El Camino(再会)」(2:42)
重量感のあるピアノと、やや危ういながらもタイトなドラミングによる緊張感あるインストゥルメンタル・ナンバー。
ピアノはジャジーなオープニングから巧みに表情を変えて、印象派調の本格的なクラシック・ソロを聴かせる。
「El Casamiento De Alicia(アリシアの結婚)」(7:28)
クラシックのモチーフをオルガン、シンセサイザーを駆使したタイトなバンド・アンサンブルではさんだ、三部構成の作品。
ハモンド・オルガンをフィーチュアしたテクニカルなジャズロック風のアンサンブルは、華麗なシンセサイザー・ソロへとなだれ込み、再びハモンド・オルガンの提示するテーマの演奏を経て、エルガーの「威風堂々」のテーマへと到達する。
オルガンの響きがよく、リズムの入りも自然。
クラシックの取り込みとしては、みごとなできばえであり、ずっしりと心に響く。
最後は再びシンセサイザーが現れ、オルガンの提示したテーマを繰返す。
ジャズロック風に変化するタイミングがみごと。
「Imagen II(イメージ II)」(3:14)アコースティック・ギターのアルペジオとリコーダーが美しい室内楽風のアンサンブル。
伴奏のオルガンからピアノ・ソロへと鮮やかに切りかわる。
ピアノは、そのままバッハの平均率第一番のモチーフを奏でつつ消え、再びリコーダーとアコースティック・ギターのアンサンブルが静かに奏でられる。
端正でリリカルな作品だ。
「Contrapunto Ritmico(インタープレイ)」(6:30)再びタイトなリズム・セクションとともに繰り広げられる、クラシック風味のジャズロック・ナンバー。
オルガンは、リズムに乗ってクラシカルかつ挑戦的なプレイを繰り広げる。
ベースとドラムスのソロもフィーチュアされる。
かなりラフな演奏だが、一気加勢の迫力はなかなかのもの。
「Transparencias(クリスタルの海)」(20:10)ラテンの香り豊かなピアノとアコースティック・ギターのアンサンブルからスタート。
シンセサイザーとギターのデュオから、ピアノが加わったジャジーなトリオへ、そして一気にオルガンによるシンフォニックな演奏へ飛び込む。
一転、またもリコーダーとギター、ピアノの室内楽アンサンブルへ。
リリカルなピアノとリコーダーの響きには、フォーク・ソングのイメージも。
ピアノが再びクラシカルかつ劇的な演奏へと変化。
オルガンが静かに響き、シンバルのざわめきとともにリコーダーが典雅に歌う。
重厚なオルガン。
そしてベースのリードでアンサンブルは次第に熱気を帯び始める。
ピアノとシンセサイザーによる優雅な演奏にヴォカリーズが重なり、さらに優美な雰囲気へ。
アコースティック・ギターとリコーダーの品のいいデュオから、シンセサイザーとピアノの伴奏で混声ヴォカリーズが流れる。
オルガンが飛び込み、重厚な和音を響かせる。
たたみかけるように女性のヴォカリーズが重なりドラマチックな雰囲気が高まる。
リズムが入りオルガンが朗々と歌う。
ピアノ伴奏でうねるようなギターが入る。
リズムが消え、ピアノが湧き上るようなアルペジオを響かせる。
ギターは、さらにメランコリックなメロディで歌う。
オルガンとヴォカリーズスが重なる。
落ちつきあるピアノと厳かなオルガン、ヴォカリーズとギターが一体となって進む。
オルガンが決めを連発しピアノのアルペジオとヴォカリーズを経て、すべてが夢のようにフェード・アウト。
ヴォカリーズが虚空へと響きオルガンが和音を刻む。
キーボード・アンサンブルを中心にソロも交えつつ、かなり強引に場面を展開してゆく大作。
プレイそのものはテクニカルである。
彼等の多彩な音楽の引き出しをすべて使っているといっていいだろう。
以下ボーナス・トラック
「Primera Inspiracion(インスピレーション 1)」(3:18)クラシカルな中に仄かにジャズの色合いもあるドラマチックなピアノ・ソロ。
典雅で端正そして幻想的なピアノの魅力でいっぱいの作品だ。
ライヴ録音。
「Segunda Inspiracion(インスピレーション 2)」(9:05)クラシックのモチーフを盛り込んだフリージャズ的ピアノ・インプロヴィゼーション。
エンディングのクライマックスへ向けて熱く盛り上る。
全体にジャズ的な荒々しい運動性能よりもクラシック・現代音楽的な線の細さがある。
ピアノという楽器の多彩な魅力とともにヴィターレの高度な音楽的素養がうかがえる。
ライヴ録音。
「Tercera Inspiracion(インスピレーション 3)」(9:28)一転して静謐なイントロから始まるピースフルかつ宗教的ピアノ・ソロ。
2 と同じモチーフが現れるが、今度は全体がモーツァルトのような端正なクラシックである。
途中クラシックとジャズ・ピアノの間を巧みに揺れるがジャズ・ピアノの腕前も本格的。
超絶技巧を繰り広げエネルギッシュに弾き倒してゆく後半はただただ圧巻。
ライヴ録音。
「El Joven Almendro(青い果実)」(10:00)フリーなジャズ・ピアノ・トリオからシンフォニックなオルガン・ロックへと変化。
やがてストリングス、シンセサイザー・ソロとキーボードがフィーチュアされたプログレッシヴなサウンドへ。
再びピアノに戻るとジャジーで幻想的な演奏が繰り広げられる。
ヴィターレの独壇場だ。
ライヴ録音。
整然とした技巧をもつクラシック的なアンサンブルと、ジャズ的なリズム、アドリヴさらにはラテン・アメリカ風の情感豊かなメロディがとけあったシンフォニック・ロック。
サウンドの要は、クラシックとジャズをハイレベルで習得しているヴィターレの高度なキーボード・ワークであり、彼の天才が遺憾なく発揮された作品ということになるだろう。
この時期のメイン・ストリームのサウンドにありがちなフュージョン・テイストはあまり感じられず、英米プログレの影響すらも露には感じられない独自の世界がつくられている。
自信と情熱に満ちたエルガーのテーマは感動的。
(BELLE ANTIQUE 9476)
Lito Vitale | piano, organ, synthesizer, mellotron, vocals |
Liliana Vitale | drums, vocals, flute |
Alberto Munoz | electric & acoustic guitar, bass, vocals, |
Nono Belvis | electric & acoustic guitar, bass, vocals |
77 年発表の第二作「Magicos Juegosdel Tiempo(不思議な時の炎)」。
若干のメンバー・チェンジを経た本作では、前作のキーボード中心のクラシカル・ロックから一転して歌物路線へと変化している。
優美なメロディによるヴォーカルとコーラス・ワークが曲の中心だ。
素朴さとたおやかな美感が微妙なバランスをもつ歌曲は、厳格さという点ではトラッド・リヴァイヴァルやクラシックとは異なる甘さや緩やかさがあり、かといってポップスやニューエイジ風のこなれた音とも異なるニュアンスをもっている。
やはりオリジナルなものとしかいいようがない。
そして主役こそ歌に譲るも、キーボードは 4、5 曲目で再びクラシック、ジャズと多彩な音楽性で魅了するみごとなプレイを見せる。
EL&P 風の演奏もあり。
基本は、暖かみと優しさに満ちた歌に酔える作品だ。
ボーナス・トラックはライヴ録音。
「Lirica Del Sol(太陽の詩)」(3:25)たそがれた男女のヴォーカル・ハーモニーと軽やかだが表情の険しいピアノによるクラシカルな歌曲。
コーラスのアレンジは遁走曲風でもあり、なかなか複雑だ。
「Crisalida, Mi Nina(蛹の中の少女)」(5:24)二声の男性リード・ヴォイスにたおやかな女性ヴォーカルがスキャットなどでハーモニーをつけるバラード。
寄る辺ない無表情な歌唱には、長調への転調とともに光が射し、広がりが生まれる。
伴奏はピアノ、ギター。
後半はドラムスも加わってバンド演奏になる。
「Los Molinos De La Calma(静寂を生むもの)」(4:23)
「Antiguas Campanas Del Pueblo(村外れの鐘)」(6:14)
「Archipielagos De Guernaclara(グェルナクララ列島)」(10:59)
「Romanza Para Una Mujer Que Cose(ある女に捧ぐ愛の詩)」(5:40)
「Corales De La Cantata Saturno(サトゥルヌス讃歌)」(3:51)
以下ボーナス・トラック。
「Egloga A La Primera Carta De La Manana(牧歌)」(4:26)
「La Caja Del Viento(風の器)」(3:17)
「Las Brujas De Calamita(魔女と雨蛙)」(5:37)
「El Triste De Los Mares I(悲恋 I)」(5:32)
「El Triste De Los Mares II(悲恋 II)」(5:33)
(BELLE ANTIQUE 9477)
Lito Vitale | piano, organ, synthesizer, mellotron, accordion, clavinet, celeste, percussion, vocals |
Liliana Vitale | drums, bass, celeste, recorder, contralto recorder, percussion, vocals |
Daniel Curto | electric & acoustic guitar, bass, flute, contrabass, organ, mellotron, percussion |
Alberto Munoz | electric & acoustic guitar, bass, vocals, |
Nono Belvis | bass, electric guitar, percussion |
Emilio Rivoira | tenor sax |
chorus | |
Kike Sanzol | drums |
78 年発表の第三作「Cornonstipicum」。
最後の大作に代表されるように、キーボード中心の激しい演奏が目立つ作品。
一作目のクラシカル・ロックをさらにデフォルメし、ダイナミクスを広げるとともに攻撃的な面も打ち出したサウンドである。
テクニカルかつアグレッシヴなプレイのおかげで、いわゆるシンフォニック・ロック然としている。
ヴィターレは、ピアノにシンセサイザーにと正に八面六臂の活躍。
一方ギターは、抒情的な演奏が際立つ。
フルートやリコーダーにギターのアルペジオといったアコースティック・アンサンブルも非常に美しい。
また、インプロヴィゼーションを次々と継ぎ接ぎしてゆくような手法もおもしろい。
初期の KING CRIMSON や GENESIS などの影響も見受けられ、いわゆるスタイルとしての「プログレ」という点では本作が一番だろう。
本作の後ライヴ・アルバムを発表して、グループは解散する。
(本 CD のボーナス・トラックがそのライヴ盤からの抜粋と思われるが、アコースティック・ギターのみの演奏が主であり、音楽の幅広さはさほど感じられない)
メンバーはヴィターレを中心にそれぞれソロ・キャリアを歩んでいる。
各曲も鑑賞予定。
「La Coronacion Del Farre」(4:20)
「Imagen III」(4:53)
「Crifana Y Tamilstenes」(7:43)
「Las Persianas No」(0:45)
「Piedras De Color」(2:02)
「Cornonstipicum」(17:34)
以下ボーナス・トラック。
「Melusina」(7:24)
「Joe Pirata」(2:56)
「Iridio Puro」(1:48)
「La Caja Del Viento」(4:35)
「Los Gatos De Zully」(5:37)
(CD 50004 )
Lito Vitale | YAMAHA CP70, YAMAHA CASCOS, Moog, ARP, Moog taurus, bass, guitar, drums |
81 年発表のソロ第一作「Sobre Miedos, Creencias Y Siperstriciones」。
内容は、神秘的な音空間をクラシカルな気品と哀愁で貫いたシンフォニック・ロック。
ペドロ・アズナールを思わせるヴォカリーズと、シンセサイザーを中心とする丹念なインストゥルメンタルによる、優美な作品だ。
作曲、アレンジから演奏まで、すべてヴィターレによる。
ピアノを残してアコースティック色は後退するも、繊細な音色のシンセサイザーと品のあるアンサンブルは、MIA のサウンドに直結する。
テーマは、エレガントながらも決然たる表情とうっすらとしたメランコリーを持ち、ソロには、華やかにして繊細な表情がある。
バンド編成ではないだけにリズミカルな演奏でやや活気を欠くのはしかたないとして、豊穣なる BGM という意味では、かなりのものだ。
また、シンフォニック、クラシカルであるとともに、リラックスしたジャズ・フュージョン/エキゾティックなニューエイジ・テイストも現れており、作風面での後の作品への橋渡しにもなっているようだ。
全体に、女性的な優しさが印象的な作品であり、一人多重録音ものとしては破格の内容といえる。
オリジナル・アルバムの終曲「結末」のレクイエム調のストリングスに身も引き締まる。
ボーナス・トラックは 87 年の作品「Lito Vitale Cuarteto」(再発希望)より 4 曲抜粋。
ラテン・フュージョン調だが、内省的かつ大胆な表現を用いたインストゥルメンタルである。
ペッカ・ポーヨラの諸作と通じるものがあるのは、正統的なクラシック音楽教育を受けたミュージシャンが時代とともにジャズ・フュージョンを吸収し独自のものとしていった道のりが似ているということなのだろうか。
「Baguala De Los Hueseros(荒馬)」(11:33)
「Alumbrando A Las Animas(晩鐘)」(4:05)
「Pueblos Y Caminos(遥かなる道程)」(6:39)
「Noche De La Salamanca(魔法の夜)」(8:41)
「La Luz Mala, En El Campo(邪悪な光)」(8:00)
「Dios, El Fin(結末)」(5:08)
「El Chupetin Paleta(不思議なチョッキ)」(3:45)ボーナス・トラック。
「Manana Es Mejor(マニャナ)」(8:37)ボーナス・トラック。
「La Enfermeria, Sala 4(病院、4 号室)」(5:21)ボーナス・トラック。
「Himno Coya(皇女の讃美歌)」(11:05)ボーナス・トラック。
(BELLE 9586)