THE NICE

  イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「THE NICE」。 67 年結成。 70 年解散。作品は五枚。 解散後キース・エマーソンは EL&P 結成へ向かう。
  クラシック、ジャズに造詣あるエマーソンの破天荒なキーボード・プレイをフィーチュアした過激なアートロック。

 Five Bridges
 
Keith Emerson keyboards
Lee Jackson bass, vocals
Brian Davison drums, percussion
Joseph Eger conductor
Sinfonia of London Orchestra 

  70 年発表の第四作「Five Bridges」。 解散発表と同時に発表されたライヴ・アルバム。 クラシックとジャズ、ブルーズといったポピュラー音楽との垣根を取り払うという一貫したアイデアの下、フル・オーケストラと共演し、なおかつ管楽器セクションとしてアラン・スキッドモアらブリティッシュ・ジャズメンのサポートを得ている。 A 面を占めるオリジナル大作「Five Bridges」組曲は、数あるロックとオーケストラ共演作の中でも屈指のダイナミックさをもつ好作品。 弦楽奏による高雅な世界と饒舌すぎるピアノをフィーチュアしたジャズ・コンボが入り交じる、変化に富んだ、ある意味奇天烈な演奏が楽しめる。 頼りなげなヴォーカルをどう見るか、チェロのプレイは専門家に任すべきだったのでは、など思いは乱れる。 B 面は、エマーソンと指揮者のジョセフ・イーガーとの共編曲による、自家薬籠中のクラシック編曲もの。 「Intermezzo "Karelia Suite"」は、オーケストラのテーマから破天荒なバンドのプレイへと鮮やかに変化する。 「Country Pie/Brandenburg Concerto No. 6」は、ボブ・ディランの作品のオルガン伴奏をブランデンブルグ協奏曲第六番第一楽章で行うという奇抜なアイデアが決まった作品。 (ブランデンブルグ協奏曲は、第二作収録の「Brandenburger」でも第三番第一楽章を取り上げている) 旧 A 面の大作は、大胆なアイデアとアヴァンギャルドな表現という意味ではすばらしいが、キーボードを軸としたバンドのプレイの切れのよさという点では、原曲のある旧 B 面の方が優れていると思う。
  エマーソンのプレイはモダン・ジャズを越えてラグタイムやホンキートンク、ゴスペル調にすら変化する。 黒人音楽の影響がかなり強いようだ。 またジャクソン、デヴィッソンのリズム・セクションのプレイも非常にジャズ的である。 この作品からオーケストラを取り除いてムーグ・シンセサイザーを導入したのが「展覧会の絵」であると考えると、エマーソンという人は早熟型の天才であり、自ら最初に描いた理想形に固執し続けたのだといえるだろう。 彼にとってどのグループの属するかということは問題ではなく、どんなパフォーマンスを生み出すかに力点があったのだろう。 実際、キーボードのパフォーマンスに EL&P 時代の演奏と同じアイデア、プレイ(手癖か)が散見できる。 「展覧会の絵」が、本作品のアプローチの完成形ということもできそうだ。
   THE MOODY BLUES が試行したクラシック・ロックをエマーソンの豊かなテクニックと着想が完成へと導いた。 代表作。

  「The Five Bridges Suite」エマーソン、ジャクソン共作の管弦楽ロック。
    「Fantasia. 1st Bridge / 2nd Bridge
    「Chorale. 3rd Bridge
    「High Level Fugue. 4th Bridge
    「Finale. 5th Bridge

  「Intermezzo "Karelia Suite"」シベリウスの翻案。
  「"Pathetique" Symphony No. 6, 3rd Movement」チャイコフスキーの翻案。オルガンが冴え渡る。
  「Country Pie / Brandenburg Concerto No. 6」バッハ、ボブ・ディランの翻案。2 コーラス目からのオルガン伴奏は、バッハ。
  「One Of Those People

(CAS 1014)


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