イタリアのプログレッシヴ・ロック・グループ「PLANETARIUM」。 メンバーなどの情報が一切ない謎の集団。 アルバム一枚、シングル二枚を発表。VICTORY レコード。
Alfredo Ferrari | keyboards |
Franco Sorrenti | guitar |
Mirko Mazza | guitar |
Piero Repetto | bass |
Giampaolo Pesce | drums |
71 年録音の唯一作「Infinity」。
管弦楽含めさまざまな音響効果を用いて「世界」そのものを描写しようと試みた意欲作。
ヴォカリーズ以外はすべてインストゥルメンタル。
レーベル・サイドの要請か、メンバーの本名は隠され、60 年代から活動する職業作曲家の(A.Ferrari)のみがクレジットされている。(上記メンバー名クレジットは後年発見されたもの)
CD は VINYL MAGIC からの再発盤。
1 曲目「The Beginning」(3:13)雄大なドラマの幕開けを暗示する雷鳴。
コラールとハモンド・オルガンが厳かに轟く。
ストリングスも加わって壮大なイントロダクションとなる。
2 曲目「Life」(7:05)驟雨の音に続き、アコースティック・ギターとメロトロン・フルートによる静かなアンサンブル。
エレクトリック・ピアノがきらめきアクセントをつける。
雨の音は冷却と豊かな水分を意味し、命の誕生を暗示するのだろうか。
演奏が静まるとともにジャーマン風のパーカッションが訥々と鳴り始める。
一転してジャジーなピアノの伴奏にのせてブルージーながらも穏やかなヴォカリーズが流れる。
ベースも加わってすっかりジャズ・コンボ化。
ドラムスのピックアップから、遂にギター、メロトロン・ストリングスが湧き上がり、一気にシンフォニックなアンサンブルへと変貌する。
堅実なハイハット・ワーク、メロトロンの騒めきをバックにジミ・ヘンドリクス流に憧れる奔放なギター・ソロが続いてゆく。
前半の哀愁のアコースティック・アンサンブルから、ジャジーなインストゥルメンタル、ヘヴィなシンフォニーとテーマが変奏される面白い構成である。
おそらくは、地球が冷えて現れた、最初の「生命」とその多様化をイメージしているのだろう。
ジャジーなピアノやシンフォニックなメロトロンの演奏もよし。
メロトロンは、すべての命を見守って、その活動=生を推し進めてゆく力の象徴かもしれない。
3 曲目「Man(part 1)」(1:53)クラシカルな 12 弦アコースティック・ギターとハモンド・オルガンによる静謐なるアンサンブル。
アコースティック・ギターは、丹念なアルペジオによる味わい深い演奏。
薄暮の太陽のようなぼんやりとした陰りのあるオルガンに酔いしれる。
4 曲目「Man(part 2)」(3:57)前曲目と同じアルペジオを奏でるアコースティック・ギターと冬枯れのフルートによるアンサンブル。
つまり、3 曲目の変奏である。なかなか凝った作りだ。
ここのテーマ演奏はクラシック風味とともに哀愁あるポップス風味もある。
デュオが終るとオーケストラのチューニング風景のような SE が入る。
そして、ピアノとストリングスによってテーマがロマンチックに再現される。
優美だが甘過ぎず、深みと品のある演奏だ。
オブリガートするピアノは印象派風であり震える水滴のよう。
テーマを奏でるストリングスの響きには透明感とともに強い哀感がにじみ出る。
人間という存在の儚さや哀しさを音に託したような作品だ。
5 曲目「Love」(2:46)
シューベルトを思わせるピアノとチェロによるロマンチックなデュオ。
重なるストリングスは次第に厚みを増し、静かに加わるギターのアルペジオは湧き立つ泡のように静かに弾けてゆく。
悲しみの裳裾を翻す優雅なるストリングス、低音が美しい。
優美な響きが次第に切なさを胸に募らせるバラード。
心に秘めた悲恋の思い出をかき立てるように切ないピアノとストリングス。
アコースティック・ギターも美しい。
6 曲目「War」(2:42)
サイレンに導かれる勇壮な行進曲。アナログはここから B 面。
ひさしぶりにベース、ドラムスがビートを刻み躍動する。
ブラスとストリングスによる重厚なテーマに、爆音や爆撃、機銃掃射の SE が重なる。
抵抗できない大きな力に後押しされて進まざるを得ない様子が、見事に表現されている。
根底に流れるのは、避けられぬ運命に対する憤りと哀しみのようだ。
サイレンは声にならぬ怒りの暗喩か。
7 曲目「The Moon」(4:03)
丹念なドラム・ビートが支えてファルセットのヴォカリーズが躍動するイントロダクション。
ブレイクから一転、幸福感に満ちたスキャットとストリングスによる夢想的なテーマが始まる。
しかし再び雰囲気は一転し、軍靴の響きを思わせるドラム・ビートともに、不気味なオルガンが高鳴り、ファズギターが蠢く。
一瞬の不安を拭い去るかのように、ストリングス、オルガン、ヴォカリーズによる典雅なテーマが再現する。
浄福感ある演奏からややヘヴィなブリッジで変化をつけて再び穏やかなテーマへと回帰する構成。
夢見がちな心に現実を突きつけるような中盤のギター、オルガンによる一瞬の暴虐が効果的。
8 曲目「Infinity」(4:21+6:41)
ドラマチックなオルガン・ソロによる大上段に振りかぶるようなイントロダクション。
「Tarkus」が生んだプログレッシヴ・ロックらしい演奏である。
ブレイクを経て、トーン・ジェネレータの電子音が舞い散る中で律儀なパーカッションがリズムを刻み、オルガンが歌いだす。
主役はヴォカリーズ、オルガンは小粋なオブリガートで絡む。
ベースものたくり始め、うねりとともに魔術的なムードも生まれ、ほのかな民族音楽風味がジャーマン・ロックに通じる。
オルガン、電子音、ピアノが混沌をなし消えてゆく。
ドラムンベースによる CAN のような演奏がスタート。
どこか垢抜けない、それでも跳ねるような調子が独特だ。
痙攣するようなギターとなめらかなオルガンがコントラストを成しつつ、演奏に加わる。
サイケデリックなパワーを一気に放ち、躍動する演奏。
酸味と熱気と毒気があふれる。
ドラムス・ロールをきっかけに、オルガンとヴォカリーズが前面に出て演奏をメロディアスに、シンフォニックにリードする。
それにしても極太のリズム・セクションが独特だ。
力強くすべてを推し進める。
そして、オルガン、メロトロンとヴォカリーズによる厳粛なテーマ演奏へと回帰する。
いつしか、風と雷鳴が。
オルガンがリードするハード・ドライヴィンな最終章。
ズンドコなリズム・セクションが道案内するヘヴィな演奏からシンフォニックなエンディングへと向かってゆく。
もっとも、トーン・ジェネレータの電子音だけはさすがに時代がかって聴こえる。
エンディングでは、コラールとオルガンの調べから、タイトル通りに 1 曲目の頭に戻り、輪廻を描く。
深遠である。
オール・インストで「世界」という壮大なテーマを描く作品。
交響楽及び室内楽とロックの融合という、プログレッシヴ・ロックならではの典型アプローチの一つだ。
ポスト・モダニズムを経てプラグマティックな物質界の充実を見ている現在の感覚では、ロックにここまで重厚な意味を持たせようとすること自体が、驚きである。
時代錯誤と切り捨てられないのは、深刻さばかりでなく、溌剌とした精神の躍動が感じられるからだろう。
細部の展開はシンプルにして、むしろ、大きな流れを強調する作風が明快でいい。
メロトロンとオーケストラで世界をイメージさせる背景を組み立て、フルートやアコースティック・ギターによるアンサンブルで揺れ動く生の機微を描いている。
そして、ギターやオルガン、ドラムスがダイナミックにアクセントをつけている。
弱点があるとすれば、分かりやすさに重きをおいた結果、やや演奏の細やかさを欠いていることだろう。
もう少し綿密な構成の方が、楽しみも長続きしたに違いない。
また、いい状態の録音で聴いてみると評価の変わりそうな音とも思う。
(VY/LP 10051 A / VM 019)