スウェーデンの作曲家「Ralph Lundsten」。 1936 年生まれ。スウェーデンにおける電子音楽のパイオニアであり、星の王子様。楽器も自作したらしい。作品多数。
Ralph Lundsten |
71 年発表のアルバム「Fadervår」。
内容は、ファンタジックかつ素朴な電子音楽。
鳥のさえずりや雷鳴、コラールなどのサンプリング、そしてオルガンの響きに、腫れぼったいノイズやパルスを重ね合わせて、厳かではあるがやや悪夢に近い幻想世界が描き出されている。
さて、「素朴」には二重の意味がある。
まず北欧らしい、幼年向けといっていいような素朴さであり、そして電子音楽として非常にプリミティヴという意味である。
ただし、たとえシンプルなノイズやシグナル、パルスを多用した表現であったとしても、必ずしも技術の素朴さが音楽の魅力を損なうわけではない。
本作品では、サンプリングも含め、さまざまなノイズをエコーと変調で加工し、重ね合わせ、反復させて独特の音響空間を構築する手法が取られている。
テクノロジーの先進性のみが特徴である作品は当然ながら陳腐化も早いが、この作品は大胆さと無茶さ加減が飛びぬけているため、その法則には従わなさそうだ。
どの時代のリスナーもあっけにとられるに違いない。(軟弱な音に慣れた聴覚には刺激が強すぎて頭が痛くなるかもしれない)
そういう意味で独特の位置を占める作品となっている。
序盤は音が散りばめられた比較的静かな展開だが、低音のパルスが現れる辺りから、フランコ・バッティアートの初期作品のような危うさがしみ出してくる。
技術的な制約なのか何なのか、起承転結がよく分からないところも特徴的である。
フワーッと始まり、いきなりブツッと終わったりする。
リゲティのレクイエムのようなうめき声の効果も使われている。
そして、後半の地獄編ではかなりキツいノイズが生々しく突っ込まれて、賛美歌とオーヴァーラップし始める。
鐘の響きにグリッサンドで狂乱するオルガンと低音ノイズが爆音のように渦を巻いてリスナーに襲いかかるのだ。
まさしく、幻想夢での酩酊の果てのサイケデリックな地獄である。
「Amen」と題された最終曲は、エコーでにじみぼやけるコラールである。
本作品はトーレ・アンドレイなる高僧による「Ourfather」なる著作からインスパイアされたものらしい。
この電子音が綾なす作品をバックに大真面目な宗教劇を演じたりするとかなりおもしろいかもしれない。
後のメルヘンティックな作風とはかなり異なるが、批判を受け付けないような大胆さはすでに本作品の底流にあると思う。
(EMI E 061-34608)
Ralph Lundsten |
77 年発表のアルバム「Universe」。
RALPH LUNDSTEN AND THE ANDROMEDA ALL STARS 名義の作品。
アルバム・ジャケット上の表記は「Ralph Lundsten's Universe Featuring The Andromeda All Stars」である。
内容は、ノイズを含むさまざまな音を散りばめた静謐にして奇天烈なる電子音楽。
この奇妙な味わいは、人間の理解を超えた宇宙の姿を描いているからだろう。
バンドによるのどかなアンサンブルも、丸ごとサンプリングされた標本のように、奇妙な歪みを与えられて位相が変化している。
「何かに似ている」という表現をほぼ拒絶する孤高の作風だが、かろうじて、フルートやパーカッションを使用したフォーキーで民族音楽的なノリにはドイツ・ロックに通じるものがある。
B 面では吶々としたジャズロック、ファンク調の展開もあるが、名手ゲオルグ・ワデニウスのファズギターは真面目なのかどうかが判然としない。
本作は現代社会に毒された人にとってメンタルヘルスを回復するのに役立つ、と作者堂々のコメントがジャケットに書いてあるが、「回復」というよりも「涅槃への帰らざる旅立ち」といった方が適切に思う。
(EMI C 062-35340)