ブラジルのプログレッシヴ・ロック・グループ「RECORDANDO O VALE DAS MAÇÃS」。 自然の懐で想を練った三人のミュージシャンを中心に 73 年結成。82 年解散。 作品は一枚。 92 年再結成し、CD 作成とライヴを行う。
Fernando Pacheco | electric & acoustic guitars |
Miltom Bernardes | drums, percussion |
Eliseu Filho(Lee) | keyboards, violin |
Ronaldo Mesquita(Gui) | bass |
guest: | |
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Fernando Motta | acoustic guitar on 5,6 |
Domingos Mariotti | flute, digital horn |
Fernando Ramos | keyboards |
93 年発表のアルバム「As Crianças Da Nova Floresta」。
78 年のオリジナル第一作から 1 曲(ただし再演/再録)、ギタリストのフェルナンド・パチェコのソロ作品から 1 曲、そして未発表曲 4 曲を収録した編集盤である。
全曲インストゥルメンタル。
ジャケットは 78 年のオリジナル LP と同じだが、内容は上述のように異なるので、ご注意ください。
内容は、キーボード、フルート、ヴァイオリンを使った、カラフルでリズミカルなシンフォニック・ロック。
クラシック風のアンサンブルを取り入れたシンフォニック・ロックに、ほのかなラテン、民族風味を加えた、フレッシュな演奏である。
ジャケット・アートの通り、取れたてのリンゴのように新鮮で弾けるような瑞々しさがある。
ギターやシンセサイザーが歌い上げるフォーキーのテーマは素朴で愛らしく、そのメロディにフルートやヴァイオリンが寄り添ってふくよかな張りを与えている。
電気楽器が主導となるパートでも、常にこのアコースティックでデリケートなフォーク・タッチが感じられるところが特徴だろう。
シンセサイザーは、ストリングス系と金管楽器系が主であり、音にナチュラルな透明感がある。
デジタルな華やかさよりも、生音っぽい素朴なテクスチュア(電子音ながらも)があるのだ。
一方、エレキギターは、ピッキング主体のムチャ弾き系に陥りがちだが、コンプレッサを活かしたテーマやソロにおけるエモーショナルな表現はみごと。
スローなパートでのリズム感の危うさなど欠点もあるが、やや弾き過ぎながらも丹念なプレイが結局は感動を呼ぶ。
それでも、エレアコやアコースティック・ギターを用いた柔らかなアルペジオ、コード・ストロークなどバッキングにおいては、アンサンブルにデリケートなニュアンスを加えることに成功している。
こういった音を基本に、楽器同士が互いに快活に歌い合うような演奏になっている。
リラックスしたジャズ/フュージョン風味は、ラテン風味の自然な延長上と見るべきだろう。
5 曲目、ギタリストのソロ・アルバムからの作品は、ホーンが入るせいもあり、ややフュージョン・テイストが強まる。
しかし、大きな違和感はなく、全体にとけ込んでいるといえるだろう。
イメージとしては、メキシコの ICONOCLASTA をぐっと繊細に、ソフトにしたような感じである。
リズミカルな曲調を支えるドラムスが、元気のあまりやや安定を欠き、演奏をせわしなくしてしまっている面はあるものの、風と土の香りのする純朴さと 70 年代後半風のノスタルジックな音が素直に心にしみてくる佳作。
技術に余裕のあるアルゼンチンのグループのもつ洗練されたリリシズムとは異なる、独特の詩情が感じられる。
さすがに都会の喧騒を避け、自然の懐で想を練ったグループだけある。
ぜひオリジナル LP も聴いてみたいものです。
「Remembering Apples Valley II」(5:10)フルート、ヴァイオリンがリードするクラシカルで牧歌的なネオ・プログレッシヴ・ロック。
キュートなテーマでリズミカルに跳ねる。
チェンバロ風のアコースティック・ギターやストリングス・シンセサイザーによるクラシカルなアレンジがいい。
「The Children Of The New Forest」(13:30)
オリジナル LP の作品の再演。
オリジナルはヴォーカルが入ったが、ここではインストゥルメンタル。
四部構成。
第一部は、アコースティックなミドルテンポの演奏。
第二部はギターが主役。リズミカルで優しげなソロが朗々と続く。
第三部はキーボードが主役。ピアノから始まって、ストリングス系と管楽器系を使い分けたシンセサイザー・アンサンブルにギターが加わり、トリッキーなリズム・チェンジをこなしつつ、エレガントになめらかに走り続ける。
第四部は第三部のアンサンブルがシャフル気味のリズムで調子よく進んでいく。終盤のピッコロのような音もキーボード?
誠実で素朴で愛らしい、メロディアスなシンフォニック・チューンです。
「Water」(6:22)泣きのギターがリードするジャジーな作品。キーボードはバンドネオン風の音も。転調を繰り返すが、基本はリラックスした爽やか系。ただし、中盤から重みが増し、エンディングは妙にシリアスになる。
「The Hermit」(11:13)素朴なテーマをさまざまな器楽が巡るエレクトリック・フォークロック。
ホィッスル系などシンセサイザー、オルガン、エレアコ・ギター、そして決め手は延々と続く泣きのギター・ソロ。フォークと演歌は近接していると知る。
弾き過ぎは音楽に毒ではあるが、ギタリストの作品ならば仕方がない。
7 分付近の哀愁あるブリッジで救われる。
「Himalaia」(12:54)フルートとアコースティック・ギターのフォーキーなデュオで幕を開けるも、サックスも加わるジャズロック調の演奏になだれ込む。
素朴なフォーク的な感覚を常に持ちながらも、ロマンティックなムードに酔いメロディアスな展開へと流れるところがネオプログレ的である。
フェルナンド・パチェコのソロ作より。
「Seeds Of Light」(3:38)やさしくももの悲しいフルートのテーマが貫く叙情小品。メロトロン・クワイア風のスキャット入り。アコースティック・ギターのアルペジオがフルートを支える。
(PRW 010)
2002 年発表のアルバム「Recondando O Vale Das Masas 1977-1982」。
ついに再発されたオリジナル LP バージョンの第一作。
ボーナスに 82 年のシングルを 2 曲。
内容は、カラフルでたおやか、素朴なペーソスとともに THE BEATLES の影響を隠さないなどの洒落っ気もあるフォーク・ロック。
スペイシーなエレクトリック・キーボードや管楽器をフィーチュアした作品でも、クラシカルというよりは、フォーキーな哀感やにぎにぎしさが基調である。
そして、70 年代後半らしいこなれた R&B タッチ、ジャズロック・タッチなども交えてくる。
再発 CD に収録された「The Children Of The New World」の原曲のみが、ここではやや異色となる構築性のある多面的で劇的な作品である。(再録版では割愛されたヴォーカル・パートも美しい)
全体に、キレのいいロック・アルバムとして、十分に秀作。
82 年のシングル盤の作品も、基本的に作風は変わらず、ややメローではあるものの牧歌調が基本である。
ヴォーカリストは男女複数。
ひょっとすると盤起こしかもしれません。
(GTA LP 029 / RSLN 058)
Fernando Pacheco | guitars, violin, guitar synthesizer |
Lourenço Gotti | drums |
Ronaldo Mesquita | bass |
Moacir Amaral Filho | flute |
Eliseu De Oliveira Filho | keyboards |
86 年発表のアルバム「Himalaia」。
LP で発表され、99 年に CD で再発。
RECORDANDO O VALE DAS MAÇÃS のリーダー格フェルナンド・パチェコのソロ作品。
内容は、グループと同じ作風の系統にあるフルートやヴァイオリンをフィーチュアしたフォーキーなシンフォニック・ロック。
アコースティックなサウンドを活かした、溌剌とした演奏だ。
特徴は、朴訥とした誠実さと清々しさ、健やかな爽快感、そしてそこから生まれる上品な官能美。
アレンジや演奏面でバランスを取りきれないところもあるが、素直に旋律を歌い上げる明快なアンサンブルがいい。
また、エレクトリックな音が増えると、なぜか場末のスーパーで流れるイージー・リスニング色が強くなるのもおもしろい。
リラックスした表現などにほんのりフュージョン・タッチもあり。
全編インストゥルメンタル。
「Sonho」(2:30)モッタ、メズキタ作。ギターとヴァイオリン、フルートらによる、エキゾティックな哀愁とブルーズ・フィーリングが交じったようなひなびた作品。
「Himalaia」(13:05)モッタ、パチェコ作。
フォーキーな哀愁と暖かみが一つになったシンフォニック・チューン。
全体に 「As Crianças Da Nova Floresta」 収録版よりもアコースティックなフォークロックのニュアンスが強い。
中盤はフルートがリリカルに、時に熱っぽく演奏をリードし、その存在感が際立つ。
終盤にかけてヴァイオリンが現れて(音程はやや危うい)、ギターと哀愁あふれる演奏を繰り広げる。
ギターはナチュラル・トーンによる SHADOWS か VENTURES のようなプレイである。
「Progressivo L-2 Sul」(4:31)パチェコ作。
シンセサイザーによるバロック・トランペット風の管楽器、フルートをフィーチュアした、クラシカルで典雅な作品。
アコースティック・ギターのアルペジオ、トレモロが生む哀愁トラッド色と、シンセサイザー・ウィンドとヴァイオリンによるバロック・テイストが絶妙に交じり合う。
ドラムレス。エレクトリック・ベースはあり。
「Ciclo Da Vida」(16:57)ミルトン・ベルナルデス(RECORDANDO O VALE DAS MAÇÃS のドラマー)作。
本作の基本の味わいは維持しつつもアリーナ・ロックを意識した華美なポップ・テイストが仄かに香る作品。
ソロをフィーチュアし、複数パートに分かれている。
ギター・ソロは、その垢抜けなさが一種独特の迫力で詰め寄ってくる。
なかなか過激な演出もあり。
基本的には、ハードでエキセントリックな表現よりも、叙情的で素朴な表現のほうが得意なようだ。
「Civilização Maia」(0:50)パチェコ作。フルート、アコースティック・ギターによるおだやかな終曲。
(FS-LP-002 / PRW 044)