SEMIRAMIS

  イタリアのプログレッシヴ・ロック・グループ「SEMIRAMIS」。 72 年結成。 74 年解散。 作品は一枚。 メンバーのミケーレ・ザリッロはソロ・キャリアを積み成功する。 グループ名は、神話上の美しく聡明なアッシリアの女王。 (「三文オペラ」にも出てきたぞ)TRIDENT レーベル。

 Dedicato A Frazz
 
Paolo Faenze drums, percussion, vibraphone
Marcello Reddavide bass, chorus
Giampiero Artegiani classic guitar, acoustic 12 string ovation, synthesizer
Michele Zarrillo electric & acoustic guitar, vocals
Maurizio Zarrillo Eminent string ensemble, grand piano, electronics, cembalo, sistro, synthesizer

  73 年発表の唯一作「Dedicato A Frazz」。 内容は、アコースティック、エレクトリック二つのギターと鍵盤打楽器を軸にしたエキセントリックなシンフォニック・ロック。 アイデアを詰め込み過ぎたくるくると変わる曲調と、足がもつれそうなほど性急に突き進むアンサンブルが特徴だ。 ノイズに近いシンセサイザーやオルガンがチャーミングなテーマを担い、けたたましいファズ・ギターが破天荒なオブリガートやアドリヴで突っ込みを入れ、これだけだとラリラリに乱れて崩壊するのを避けるため、アコースティック・ギターの丹念なアルペジオとコード・ストロークで調子を整えて事なきを得ようとする。 ヴォーカルはひたすら情熱的で濃厚であり、アッパーなノリをキープし続ける。 ネジが外れたようなヴィヴラフォンやマリンバの音を多用するのも特徴だ。 本来はクールダウンに効果のあるはずのヴァイヴが、ここではアヴァンギャルドな勢いの火に油を注ぐ。 全体に攻撃的でせわしなく、HR/HM 的なセンスに支配されていると思う。 イタリアン・ロックらしさは、過激な急展開の応酬にもかかわらず歌唱表現はフォーク・ソング風の弾き語りであり、さらにピアノやオルガンの真っ当なクラシック・スタイルが無造作に投入されるところに見える。 作曲からギター、リード・ヴォーカルは、弱冠 16 才のミケーレ・ザリッロがこなしている。 コラード・ルスティチに並ぶ早熟の天才である。 その事実を知ると、荒削りなサウンドによる過激な曲調の変化にもアーティスティックな気負いがあるのだなと思えて微笑ましい。
   サウンドはやや荒っぽいが、演奏は徹底したアンサンブル志向であり、クラシックのオーケストラ風である。 近現代クラシック調のフレーズの巧みな割り振りとトゥッティの勢いで曲ができているのだ。 全体に、フレーズはメロディアスというよりは緊迫したものが多い。 ギターのハードロック調、キーボードの純クラシカル・タッチは随所に現われるが、普通に考えられる係り結びからそれらをちぎり取って、思い切りよく再配置したようだ。 通常の脈絡がぶっ飛んでいるところがあり、たとえば、邪悪な反復フレーズの嵐がすっとアコースティックな歌へと変化するかと思えば、みるみるシンフォニックに高まってゆく。 こういう目まぐるしい変化をこなして、カッコよく聴かせているからすごい。
   フロントで弾き捲くるギタリストのプレイは、いわゆるロック・ギターにとどまらず現代音楽やクラシックの素養を強く感じさせる。 肩に力の入ったストイックなプレイ・スタイルがリスナーにも重苦しさを押しつけてくる。 ステージを確保し、オーケストラ的な効果を引き受けるのは、ストリングス・シンセサイザー、モノフォニック・シンセサイザー、アコースティック・ピアノ、エレクトリック・ピアノ、チェンバロなど、多彩な音色のキーボードの役割である。 特に、ストリングス・シンセサイザーが、音こそ安っぽいながらも音響に広がりを与えている。 クリアーな音でアクセントとなるアコースティック専任ギタリスト、音数多く演奏を支えるベーシストの腕前も相当なものである。
  しかし、作曲と演奏がともに完璧なわけではない。 頻繁に曲調とリズムが切りかわるあまり、忙しなく感じられるところや、作曲意図を再現するにはテクニックが追いついていないようなところがある。 各人はかなりの技量の持ち主らしいが、まとまりはあまりない。 それでも、そのラフさが一種の魅力になってしまうのは、この時代の音楽特有の空気のもつ説得力に加えて、若々しく潔い姿勢が現れた楽曲の切れ味のおかげだろう。 アヴァンギャルドかつ熱狂的なプレイに悪酔いしそうになると、タイミングよくアコースティックなプレイが現れて素朴な詩情をふりまくのだ。 眩暈がしそうな落差なのに、フォーク・タッチの歌に含まれるイタリア特有のマジックが心穏やかにするから不思議である。 クラシカルな音作りが主であるなか、ヴァイブの存在が唯一ジャズに通じるようだが、ジャズ風というよりは、あくまで眩惑的な音とフリーキーなプレイでアクセントをつけることを目的にしているようだ。
   演奏に慣れてくると、凝りに凝った構築物がついには自分で自分を発展させようと軋みながら躍起になっているイメージも湧いてくる。 そうなると、この荒っぽさは欠点ではなく、ロックにとどまらない幅広い音楽性の噴出、知性を凌駕する感性の衝動ととらえられる。 結論は、イタリアン・トラディショナルなテーマをクラシカルなアンサンブルに適用し、ロックのハードネスと何憚ることのない自由な感覚を盛り込んだ野心作である。 タイトルの FRAZZ とはメンバー全員のラスト・ネームの頭文字を並べたものらしい。 メロトロンはあるのだろうか?

  「La Bottega Del Rigattiere」(6:01)フォーキーなメロディとハーモニー、せわしないリズム、ワイルドな早弾きギターらによる傾いだアンサンブルらが強烈にコントラストしつつ、朗々たるシンフォニーへとまとまってゆく傑作。 チープなストリングス系キーボードによる包み込むような効果と飛び散るようなヴァイブがいい対比を成す。 演奏は荒っぽく音のバランスも悪いが、全体としては、ヴォーカル中心にパストラルな雰囲気がキープされている。

  「Luna Park」(4:29)唐突に調子の変化するオムニバス風のアレンジにもかかわらず、中心となるヴォーカルが泣かせるバラード風の作品。 目まぐるしくリズムとぺースを変えつつも、3 拍子のノリのよさを巧みに活かしている。 エレキギター、アコースティック・ギターのクラシカルなリフ、オブリガートを軸に次々と場面が移ってゆく。 ドラムレスのパートではヴァイブがアクセントとなる。 ベーシストの腕前もなかなか。 オルガンはクラシカルなアンサンブルに欠かせない。 ブリティッシュ・ハードロック風のバラードと違うのはフォーク風の音が自然と交わるところだ。

  「Uno Zoo Di Verto」(5:57)ミステリアスなへヴィ・プログレ・チューン。 アコースティックな音を活かした伸びやかなオペラ調の序章は、ミステリアスなチャーチ・オルガンの迸りを経て、あっという間にギターがリードする IL BALLETO DI BRONZO 風の邪悪極まる演奏へと変転、しかし、再びウソのように爽やかなアコースティック・ギターとヴォカリーズが湧きあがる。 ヘヴィなパートの迫力は凄まじい。 この極端は変化は、「天国地獄そして煉獄」のアナロジーだろうか。 後半は、ヴァイブ、パーカッションによる「Moon Child」ばりの即興演奏。 インフェルノ、パラディソ、パガトリウムの極端なコントラストの冴える怪曲。 HR/HM として生き残ったであろう音である。

  「Per Una Starda Affollata」(5:01) クラシカルにしてチープなシンセサイザーがリードする快速チューン。 転がるような 8 分の 6 拍子。 スピード感を演出するのは、せわしないギターである。 アンドレス・セゴヴィア風の正統古典ギター・ソロをはさみ、ギターとキーボードによる対位的なアンサンブルが続く。 開放弦を使った跳躍快速フレーズや鋭いピッキングのトレモロによる反復フレーズなど早熟のギタリストのプレイは、単なる技巧ではなく、音楽的な効果をつかんだアイデアの賜物である。 中学生くらいでスティーヴ・ハケットに近いセンスがあるということだ。すごい。 付点の跳ね具合がいかにもイタリア、ルネッサンス風。

  「Dietro Una Porta Di Carta」(5:42) ノスタルジックなテーマが泣かせるイタリアン・ポップスとクラシカルなインストゥルメンタルの合体。 角張ったオルガン、伸びやかなシンセサイザー中心の伴奏とメロディアスなヴォーカル・ハーモニー。 ギターはここでも性急で忙しないフレージングで存在感をアピールする。 キーボードをフル回転し、中盤以降ギターとキーボードが刺激し合うけたたましくも邪悪重厚なインストが爆発するも、クラシカルなブリッジを経て、意外やポップな聴き心地のよさが残る。 改めてクラシックとポップスに境界がないイタリアン・ミュージックに感激。 GENESIS に聞こえるところあり。

  「Frazz」(5:09) アコースティック・ギターのアルペジオ伴奏によるポップな歌ものを、ノイジーながらクラシカルなキーボード・サウンドとワイルドなハードロックで味付けして捻り上げた、本アルバムを象徴する怪作。 テンポ、曲調はどんどん変化し、イントロ含め、奈落へと転げ落ちてゆくような邪悪な高まりも見せる。 終盤はシンフォニックに高まる。 ごちゃごちゃと変化する割合が高いため、普通にブルーズっぽかったり、普通にメロディアスに歌う場面が一層引き立つ。 ヘヴィなギターはブルーズ・ロックがかると JETHRO TULL に近い。 ハイトーン・ヴォイスと無理やりな加速は HR/HM に通じるものがある。 うねるような音数の多いベース・ラインが印象的。

  「Clown」(4:34)得意の 3 連高速フレーズとヴァイブによるせわしない演奏に、伸びやかなヴォーカルとエレクトリック・ストリングスが重なる派手なオープニング。 前半は、7 拍子の破壊的なギター・リフ、目まぐるしいリズム・チェンジを用いた悪辣なハード・シンフォニック・チューンであり、ギターとドラムスを大きくフィーチュアしている。 中盤、ぐっと引いてアコースティック・ギターがささやき始める辺りから、70 年代の芳しき香りが立ち込め始める。 泣かせるエンディングだ。

(TRIDENT TRI 1004 / VM 007)


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