イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「STILL LIFE」。 英国ロック・プログレ関連ディスコグラフィーで「謎のグループ」として名高い。 VERTIGO レーベルからの唯一作で知られる。 2002 年、インターネットの力によって、オリジナル・ドラマー経由でメンバー名が明かされる。 「Still Life」は、「静物」の意。
Martin Cure | vocals |
Terry Howells | keyboards |
Graham Amos | bass |
Alan Savage | drums |
唯一作、70 年発表の「STILL LIFE」。
内容は、ハモンド・オルガンのノスタルジックな音が全編を貫く、典型的オルガン・ロック。
PROCOL HARUM や VANILLA FADGE に通じる、クラシカルでスワンプ、R&B テイストもある音だ。
ファルセットのコーラスを多用するヴォーカルとブルージーかつポップなメロディ・ラインには、アメリカンな華やかさ、男性的な土臭さ、そして、甘酸っぱい繊細さが同居する。
プロデュースはステファン・シェイン。
アルバム・オープナーは「People In Black」。
アコースティック・ギターとフルートのデュオによるメランコリック、いや、うらぶれたイントロダクション。
「木枯し紋次郎」が現れそうなフォーク・ソング調である。
叩きつける様にソウルフルなリード・ヴォーカル、そして、追いかけるファルセットのハーモニー。
熱いのに翳りがあり、身悶えるような切なさにあふれる。
淡々と 8 分の 6 拍子。
間奏は、ほんのりブルージー、やや抑え目のオルガンによる哀愁のソロである。
シングル・トーンのメローな音色なのに、胸にぐさっとくるような説得力がある。
丹念なベース・リフのリードで 8 ビートへチェンジ、そしてテンポ・アップ、オルガン・ソロはシャープにジャズ風味を増してゆく。
エレクトリック・ピアノ、クラヴィネットのような和音も聴こえる。
オルガンとドラムスのドカドカな絡み、そしてエキサイトする演奏。
再び、メイン・ヴォーカル・パートへ。
今度は熱気が違う。
熱いオルガンが走り出し、ハーモニーをしたがえて疾走が始まる。
エネルギッシュにロック。
歌詞は「...Writing letters of protest」しか分からないが、タイトルと合わせると、切実なメッセージを持った歌のようだ。
嵐のように荒れ狂う演奏と、ヴォーカルが追いかけあう。
オルガンとともにエレピもコードを刻み、バッキングしている。
火のついたような激しい演奏が、オルガンのリードで続く。
オルガンはカデンツァ風のプレイを繰り返して、一気に演奏はクライマックスへと高まる。
そして最後のヴォーカル・パートへと突進。
一転、静かなオルガンによるテーマ演奏へと回帰。
爆発しそうでいて、クールに抑制されたオルガン・ソロ、饒舌なベース・ライン、オルガンが叩きつける和音の轟音。
そして大見得。
ドラムスとの応酬。
メランコリックなフォーク・ロックから、激情に任せたままハードなロックへと展開する劇的な作品。
リズムのチェンジがそのまま曲調の変化になり、一気呵成に上昇気流に乗る。
全体の流れに大したまとまりはないが、勢いだけはたっぷり。
噛み付くような凶暴さのあるヴォーカルは、確かにパンク風になったときのピーター・ハミルに近いかも。
シングル・トーン主体のオルガン・ソロは、やや線が細めながらも、フォークと R&B の配合が絶妙。
この、黒っぽさからの微妙な離れ具合が英国なのでしょう。
ニューロック的なアシッドな爆発力もある。
中盤以降は、昔の TV のクライマックスで流れる BGM のようです。
上昇と下降を繰り返すエンディングの狂乱は、ドラマチックだが少しやりすぎか。
2 曲目はラブソング「Don't Go」
センチメンタルなオルガン・ソロによるオープニング。
切ないメロディ・ラインを刻むと、ドラムス連打とともに、オルガンも激しく和音を叩きつける。
いったんぐっと沈み込み、オルガンとともにオーセンティックなヴォーカルが始まる。
前曲とはヴォーカリストが異なるようだ。
パンキッシュではない、豊かな声量と R&B タッチを生かした、いわばウィンウッド路線である。
ファルセットのコーラス、そして、オルガンはロング・ノートから和音を刻むバッキング。
ピアノが和音を刻むので、ゲイリー・ブルッカーのイメージもあり。
アメリカンなメロディ・ラインがなんとも懐かしい。
スキャットにオルガンが寄り添い、サビで大きく盛り上がる。
終わったかと思うほど長いブレイクを経て、オルガンとともに、賛美歌風のヴォカリーズがリプライズする。
バロックなメロディを高らかに歌い上げるオルガンと、慈愛に満ちたコーラスが響き渡り、やがて消えてゆく。
「A Whiter Shade Of Pale」を思わせるセンチメンタルでシンフォニックなバラード。
歌メロは、スワンプ的な味わいを感じさせるスタイル。
こういうメロディがポップだった時代の歌なのだ。
最後のヴォーカルとハーモニーのせめぎあいや、むちゃくちゃクサいエンディングが許せる曲調である。
オルガン・ソロでは、左チャネルからオルガンの音に沿ってファズのようなノイズがつきますが、マスターの不具合?。
単に音が割れているだけかもしれない。
3 曲目「October Witches」
なんとも意味ありげなオルガンのイントロダクション。
ジャジーにしてメランコリック。
歌メロは、ハードかつパワフル。
そして、サビは一転 THREE DOG NIGHT なメローさ。
その後のスタッカートするリフレインが、いかにも英国流のひねりなのだろう。
オルガンのグリッサンドの嵐が吹き荒れると、短いソロからヴァースへ。
メローなサビから、すっと沈んでクールなリフレインを刻みつける。
ここがカッコよさの肝かも知れぬ。
グリッサンドとリフを繰り返しながら、力を溜め込むオルガン。
ソロは、冒頭と同じく落ちついたフレーズから始まるが、次第に加熱する。
ピアノも加わり、切なくもパワフルにドライヴ感が強まる。
こんなに熱いのに旅は哀しみでいっぱいなのさ。
激しいグリッサンドとリフ。
再び演奏は空ろに沈み込み、ベースの静かなリフにリードされて、三度ヴォーカル・パートへ。
ここでは、カノン風の追いかけコーラスである。
リズムが戻り、ヴォーカルはラウドにラフに歌を叩きつけ、呼応するように、オルガンもイントロと同じようにブルージーにジャジーに黒っぽく響く。
ヴォーカル・リフレイン、そしてオルガンの一人かけ合い。
再びヴォリュームが落ち、ドラム・ロールとともにオルガンがたゆたい、ドラムスの乱れ打ちで終わる。
ジャジーなオルガンと凝った歌メロが冴える R&B 風の作品。
ソウルフルなメイン・ヴァース、キャッチーなコーラス、意外な切り返しで巧みに雰囲気を操る。
ポップなようで悩ましく、弾けているようで鬱屈している。
オルガンは、鮮やかなグリッサンドを交えた鋭利なバッキング、対照的にまろみを帯びたソロで全編を支える。
すべり出すようなテンポ・アップがカッコいい。
シンプルなリフレインによって、どんどん曲が膨らんでゆく。
主張があるような、ないような、でも何かいわずにいられない、そういう時代の物語り。
4 曲目「Love Song No.6」
乾いたアコースティック・ギターのストロークとドラムスがかけあう、軽快なイントロダクション。
軽めのフォーク風ハーモニーは、ややイコライジングされている。
メイン・パートは、切ないツイン・ヴォーカル(おそらく 1 曲目と 2 曲目のそれぞれのヴォーカリスト)だ。
イタリアン・ロックに近い世界である。
再び、ハーモニーから、メローなバラードのように粘っこいツイン・ヴォーカル、コーラス。
イントロと同じアコースティック・ギターのストロークに、ピアノの和音が重なり、ドラムスがエキサイトする。
フォーキーな哀愁が熱気へと変貌すると、御大オルガン登場。
入りのトーンは一瞬レイ・マンザレイクを思わせる。
シングル・トーンによるメロディアスなフレーズから、得意の激しいグリッサンドと攻めたてるようなフレーズの応酬。
イン・テンポで、再びメイン・ヴォーカルへ。
ソロ・ヴォーカルが、男臭く切なく歌い上げる。
「...I never love you 'cause you never love me」。
沸騰するようなオルガンとピアノのかけあいを、ドラムスがさらに加熱し、強烈な決めを連発。
再びヴォリュームが下がると、リリカルなオルガン・ソロ。
伴奏は、対位的によく歌うベースとクラシカルなピアノ。
湧きあがるオルガンの和音と重なるように、ほのかにコーラスが加わる。
次第に熱を孕んでゆくアンサンブル。
再びヴォリュームが下がり、ピアノとオルガンが刻むユニゾンのリフを毛羽立った声が昇り降り。
そしてメロディアスなコーラス。
オルガンは低音から駆け上がっって爆発、そして熱っぽいシャウト。
ピアノも暴れる。
ドラムスとオルガンのスリリングな応酬は、やがて断ち切るようなエンディングを迎える。
激情を叩きつける、ロマンティックなハードロック。
序盤はフォーキーだが、情熱的なヴォーカル・パートのおかげで曲はどんどんハードになってゆく。
中盤、オルガン・ソロ以降は、センチメンタルなヘヴィ・メタルといった方がいいだろう。
ドラムスが曲展開で重要な役割を果たす。
また、フォーク風のオープニングとハードロックへの不可逆進行は、きわめてイタリアン・ロック的である。
5 曲目「Dreams」
ベースのシンプルなリフレインが繰り返され、オルガンが遠くで響くイントロダクション。
語り調のヴォーカルがフェード・イン、ヴォリュームが上がってくるとともに、ヴォーカルも熱を帯び始める。
オルガンもスリリングにヴォーカルに絡む。
シャウトとオルガンの低音の爆発、そして細かいリズムで演奏が動き出す。
アップ・テンポでヴォーカルが走る。
オルガンのシャープなバッキング。
ジミヘン風のサビには、コーラスも入る。
オルガンの間奏から 2 コーラス目。
独特の粘りとノリ。
間奏はオルガンだ。
ノイジーにアグレッシヴに攻めたてる。
クラシカルなフレーズを放つとベースが続き、ピアノが反応する。
さらにアドリヴが続く。
そして、ヴォーカルが戻り、サビのコーラス。
エンディングへ向けて、オルガンが快調に飛ばし、和音を繰り返しリタルダンド。
しかし、リズム・ブレイクからバラードが始まる。
ソウルフルなヴォーカルを追いかける、物悲しいファルセット・コーラス。
ベースが巧みにヴォーカルを支える。
ピアノも散りばめられる。
ピアノがシンバルを呼び出し、リズムが静かに戻る。
今度は、オルガンが沈み込んだ調子で伴奏する。
オルガンのリフレインとファルセット・コーラスのかけあいから、最後の盛り上がりを見せ、ドラム・ロールとともに消えてゆく。
ギターの代わりにオルガンが暴れまくる、ジミヘン/URIAH HEEP 系のドラマチックなハードロック。
前半は、アルバム中でもっとも直線的かつハードな展開である。
明らかに終盤の泣きが得意技である。
6 曲目「Time」
鮮やかなオルガンのイントロから、ギターとオルガンのユニゾンを繰り返すと、激しいドラムスの連打とともにファルセット・コーラスが歌う。
オルガンにリードされて、ヴォーカル登場。
屈折したメロディとエネルギッシュなサビ。
圧倒的なオルガン。
スキャットとオルガンの上昇リフとのかけ合い。
オルガンのリードで歌い出すが、このオルガンのフレーズがいい。
そして、パワフルなサビは、バッキングでもオルガンがひたすら弾きまくる。
オルガンとスキャットのかけ合い。
派手なオルガンのフレーズからソロへと突入するが、リズムが引いてヴォーカルが哀しげな表情を見せる。
オルガンとともにドラムスが次第に戻ってくるが、この甦り方もカッコいい。
途中でピアノも絡んでくる。
長い坂道を登り詰めるような、じわじわとしたスリル。
再びペースは元に戻り、オルガンがリードするアンサンブルが堂々と進む。
けたたましく情感豊かなオルガンのメロディ。
和音をたたみかけ、3 連のアルペジオで攻め、再び和音を響かせつつドラムスとかけ合い、最後はフリーなジャムとなってピアノも登場、ノイジーなオルガンとともにピアノの余韻が残る。
イントロの明確なオルガンの響きが印象的。
メランコリックなヴォーカル・メロディはアグレッシヴなオルガンとの対比がくっきりとしていいがサビはちょっと平凡。
とにかくエンディングへ向けてのインストが圧倒的だ。
ファルセットとオルガンやドラムスとオルガンなど、迫力いっぱいのかけ合いや絡みが堪能できる。
アンサンブルの主導権を完全に握ったオルガンが縦横無尽に弾きまくる。
泣きのヴォーカルとオルガンをフィーチュアした、熱く切なく男くさいオルガン・ロック。
ハードロックにバラードにと、オルガンを堪能できるアルバムだ。
ほとんどギターなしで、オルガンにピアノも加わった、ツイン・キーボード状態である。
けたたましく古臭いオルガンの音色とシングル・トーン主体のソロは、カッコいいを超越し、もはや愛らしい。
そして、ヴォーカル・ハーモニーは、ソウルフルにしてポップな聴きやすさのある本格派だ。
とにかく、どえらく懐かしいメロディ・ラインなのです。
PROCOL HARUM、VANILLA FUDGE、DOORS、THREE DOG NIGHT、URIAH HEEP などが次々に頭をよぎりますが、もしかするとどれよりもまとまりよく、聴きやすい音かもしれない。
プログレという観点では、激しいオルガン・プレイとメランコリックなヴォーカルがカッコいい、めまぐるしい展開の 4 曲目。
歌メロは 3 曲目、そして、最後の作品もすさまじい迫力だ。
ちなみに、裏ジャケは思わずドッキリの物言わぬ究極の静物、しゃれこうべ。
唯一残念なのはオルガン・ソロで音がにじむことだが、この内容なら我慢でしょう。
(Vertigo 6360026 / REP 4198-WP)