TRIADE

  イタリアのプログレッシヴ・ロック・グループ「TRIADE」。 73 年結成。作品は一枚。鍵盤奏者ヴィンセンゾ・コチミグリオのバンド。 Derby レーベル。

 1998:La Storia Di Sabazio
 
Vincenzo Coccimiglio keyboards
Agostino Nobile bass, acoustic guitar, vocals
Giorgio Sorano drums

  73 年発表のアルバム「1998:La Storia Di Sabazio」。 内容は、キーボードを中心にしたクラシカルなもの。 ピアノのプレイは、本格的なクラシックのスタイルだ。 そして、ハモンド・オルガンは、バロック風のフレーズを攻撃的にアレンジした THE NICE 調のプレイ。 とはいえ激しさはさほどでなく、キーボードのプレイも、ロックというよりは現代音楽含めたクラシック寄りである。 イタリアン・ロックでいえば、L'UOVO DI COLOMBOMUSEO ROSENBACH らに近い音である。 また、アクセントとしてチェロが不思議な効果をもっている。 全体に、地味ながら、格調の高い作品といえるだろう。 CD ジャケットは「運命の三人の女神」をイメージしているのでは? なお、メンバークレジットは、再発 CD に記載がないため、ItalianProg サイトに拠った。
  裏ジャケットに書かれている詩のような文章は、このグループの姿勢を讃えるもののようだ。

  「Sabazio」近現代クラシック風の幻想的な組曲。 インストゥルメンタル。 キーボード、ベース、ドラムスに加えて、チェロ、ヴィブラフォン、パ−カッションが使われている。 即興的。
    「a) Nascita」(3:00)オルガンとチェロによるミステリアスなアンサンブル。 ドラムスはティンパニも用いているようだ。 ドビュッシー「牧神」風の神秘的なオープニングから、無調風のねじれたアンサンブルへと発展する。 序盤でオルガンが波が打ち寄せるように現れ、チェロがむくむくと起き上がるところは劇的。 中盤からは変拍子アンサンブルをオルガンが強力なプレイでリード。
    「b) Il Viaggio」(2:39)オルガン、ベース、ドラムスによる不恰好な行進曲。 テーマはユーモラス。 オルガンの気まぐれなリードで、調子がぱたぱたと変化する。 ベース、ドラムスもみごとに一体となって、せわしない動きをみせる。 チェロとチェンバロもあり。 奇妙な味わいの曲だ。 後半は、一転してストリングス・シンセサイザーとオルガンによるストラビンスキー的朝焼けを思わせるファンタジックな演奏に。
    「c) Il Sogno」(3:19) オルガンとチェロ、ドラムスによる現代音楽風のアンサンブル。 不気味なテーマそしてユニゾン、繰り返し。 中間部には、クロスフェードからランニング・ベース・ソロを経て、ヴァイブとパーカッションによる幻想的な演奏が唐突に挿入される。 不安を高めるようなオルガンは、ティンパニ、ベースと呼応しつつ、次第に穏やかな響きを取り戻し消えてゆく。 極端な曲の表情の変化がおもしろい。
    「d) Vita Nuova」(3:04)幻想的なピアノ・ソロ。 パスカル・ロジェ風の印象派スタイルである。 オープニングは「夜のガスパール」か。 夢のように美しい。

  「Il Circo」(2:50) パーカッシヴなハモンド・オルガンをフィーチュアした EL&P 風クラシカル・ロック。 シンフォニックなテーマを引きずり回す、いわゆるプログレらしい作品である。 オルガンを支えて、たまに追い越す負けず嫌いのドラムス。 切れ味はさほどでもないが、ていねいな演奏である。

  「Espressione」(5:06) イージー・リスニング風のシンセサイザーとピアノ伴奏によるギター弾き語り。 ヴォーカルの最初のバースで、緩やかな 4 拍子から 3 拍子の舞曲に変化する。 フォーク風の弾き語りにクラシカルで端正なピアノが付き従う。 ピアノはここでも多彩な表情を見せ、二つのギターの表情の変化も巧みだ。 分散和音のリタルダンドが美しい。 ドラムレス。 ストリングス・シンセサイザーは、この時代ならではの、えもいわれぬチープな味わいだ。

  「Caro Fratello」(5:06) 素朴な弾き語りフォークをオルガン、シンセサイザーによる勇壮なインストゥルメンタルではさみ込んだドラマティックな作品。 アグレッシヴなバロック・オルガンがけたたましく暴れる EL&P 風のオープニングから、弾き語り風の素朴なヴォーカル・パートへといったん沈み込み、シンセサイザーとともにぐんぐん駆け上がる。 エンディングも、教会風の厳かなオルガンによるインプロヴィゼーションである。 序盤の緊迫感あふれるオルガンのプレイは出色。 ヴォーカル・パートにおける濃厚な味わいは、きわめてイタリア的。 終盤、アコースティック・ギターのストロークに守り立てられたシンセサイザーのテーマもカッコいい。

  「1998(millenovecentonovantotto)」(6:19) 哀愁ポップス風のクールな歌ものをオルガン、シンセサイザーのクラシカルなプレイで拡充した作品。 アコースティック・ギター・ソロによる情熱的なイントロダクション、ギター弾き語りのヴォーカル・パートを経て、後半は、安定したビートに支えられたオルガン、シンセサイザーのユニゾンの独壇場となる。 ヴォーカルのオブリガートと間奏部は、ハモンド・オルガン、シンセサイザーが朗々とたなびく。 特に、間奏部のオルガン、シンセサイザー、チェンバロのアンサンブルによるクラシカルな味付けがいい感じだ。 広がりのあるシンフォニーである。

  キーボードを中心としたクラシカル・ロック。 おおざっぱにいって、EL&P ほどダイナミクスはなく LE ORME ほど詩情あふれるという感じでもない。 曲つくり、演奏ともにていねいだが、なぜか全体に表情に乏しく自信なさげである。 どちらかといえば、クラシカルなプログレ風味よりも、後半のアコースティック・ギター弾き語りによる牧歌的な歌ものの味わいの方が勝っているようだ。 イタリアン・ローカルの魅力の強みである。 ピアノ・ソロは抜群。

(VM 038 / Derby DBR 65801)


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