ドイツのプログレッシヴ・ロック・グループ「TANGERINE DREAM」。 67 年結成。 70 年「Electronic Meditation」でアルバム・デビュー。 Virgin 時代の一連の作品でシンセサイザー・ミュージックの代名詞となり、ポピュラリティも高まる。 無限のサスティンと任意のヴォリューム変化というエレクトロニクス・インプリメンテーションが可能ならしめた、新時代の音楽の一つ。
Edgar Froese | |
Kraus Schulze | |
Konrad Schnitzler |
70 年発表のアルバム「Electric Meditation」。
本作は、リハーサルを編集したものであり、その内容は、Virgin レーベル時代以降の本グループのイメージとはかけ離れている。
後年の作品に親しんだ耳には衝撃的といっていいだろう。
その内容とは、ギター、ドラムス、オルガンらによるインプロヴィゼーション。チェロやフルートも駆使して、エネルギッシュに憂鬱に落差大きく迫る。
酔っ払っているのかもしれないが、ヴォルテージは高い。コワれたハードロック、いや、乱調気味のブリティッシュ・ロックか。
ものすごい勢いで爆発的な高揚を見せるかと思えば、厳かな表情も見せ、そして、呆けたような調子にもなる。
また、静かに始まったかと思えば、突如ドシャメシャになる。
おそらく力点は、まとまった演奏よりも衝撃的な音そのものにあるのだろう。
ギターがサイケ調であり、突如オルガンが荘厳に高鳴るため、個人的には、あまりブルージーでなくやや頭の悪い PINK FLOYD (特に「Ummagumma」や「A Sourceful Of Secret」付近)といった印象をもった。
クラウス・シュルツがドラムスを担当し、パワフルなドラミングで強引に全体を引き締める。
そして、これだけいい加減な作品ながら、聴き心地はさほど悪くない。
おそらくそれは、この音に何か伝えたいことが(本人たちの意識、無意識にかかわらず)込められている(正確には、何かを伝えたいがために練習している最中の音だが)せいだろう。プロデュースはエドガー・フローゼ。
「Genesis」(5:57)
「Journey Through A Burning Brain」(12:32)
「Cold Smoke」(10:48)
「Ashes To Ashes」(3:58)
「Resurrection」(3:21)
(CMACD 554)
Chris Franke | VCS3 synthesizer, cymbals, keyboards |
Edgar Froese | glissando guitar, generator |
Peter Baumann | VCS3 synthesizer, organ, generator |
guest: | |
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Steve Shroyder | organ |
Florian Fricke | Moog synthesizer on 1 |
Christian Vallbracht | cello |
Jochen Von Grumbcow | cello |
Hans Joachim Brüne | cello |
Johannes Lücke | cello |
72 年発表のアルバム「Zeit」。
ペーター・バウマン初参加作品。内容は、オルガン、シンセサイザーを駆使したスペイシーで瞑想を促す音楽である。
作品名からすると「宇宙」のイメージの音のようだ。
発信音やノイズのうねりが生々しく迫っては過ぎ去る。
外から投げかけられたはずの音が幻聴のように自分の中だけで響いているように思えてきて不安になる。
空間的ではあるが、いわゆる環境音楽というには刺激が強い。
むしろ、サイケデリック・ロックの混沌からビートとメロディを取り去った残滓を思い切り電力でデフォルメしたような、幻想的でアナーキーな世界である。
あるいは、KING CRIMSON や PINK FLOYD のメロトロン・パートだけを抽出して変調させたというべきか。
エレクトリックな音響効果の渦巻く中、重なり合うチェロのドローンが哀感や無常感へと昇華する。
断片的な光が不規則なパルスのように走るだけの暗黒の空間(無人の星や深海、地中深くなど)に連れ込まれたときに聴こえてくる音だ。
しかしながら、次第に、幽鬼の叫びのように不気味に波打つ虚無的で茫漠たる音響空間、人間精神不在と思われる空間に、厳粛さや清潔さが感じられるようになる。
個人的には、音楽は鏡である、という言葉を噛み締めた。
プロデュースはグループ。
LP 二枚組。
ESOTERIC の再発 CD は二枚組であり、本編は CD#1、CD#2 は 72 年ケルンでのライヴ録音。
「Largo In Four Movements」
「First Movement : Birth Of Liquid Plejades」(19:55)
「Second Movement : Nebulous Dawn」(17:54)
「Third Movement : Origin Of Supernatural Probabilities」(19:33)
「Fourth Movement : Zeit」(17:01)
「Klangwald (Part One) 」(37:23)
「Klangwald (Part Two) 」(40:41)
(OMM 2 56021 / EREACD 21017)
Edgar Froese | |
Chris Franke | |
Peter Bauman |
73 年発表のアルバム「Atem」。
トラジックな暗さ、絶望感、暴力性、湿り気、そして運命的な悲劇を超克するかのような不気味なエネルギーの蠢きを感じさせる作品である。
パンク、インダストリアル・ミュージックの先駆けということもできそうだ。
メロトロン、シンセサイザーとともにシーケンサ(もしくはその原型)も使用されているようだ。
前作「Zeit」の流れに沿った作品であり、後に Virgin レーベルで確立する作風を提示した作品である。
プロデュースはエドガー・フローゼ。
邦題は、「息」。
「Atem」(20:24)
ライナーノーツにあるとおり、巨大な墳墓に石を積み上げる無数の奴隷たちが口ずさむ労働歌、もしくは、邪悪な儀式で生贄を捧げるドルイド僧の呪文のような、絶望感極まる導入部があまりに強烈。
ドラミングは絨毯爆撃のようだ。
6 分付近で人知を超えた世界に足を踏み入れ、三半規管の性能を試される。
静寂に耐えられずに脳が生み出すノイズを再生したような音である。
「Fauni Gena」(10:45)深夜の密林で奏でるメロトロン。中盤からメロトロンが他を圧して膨れ上がる。
「Circulation Of Events」(5:49)
「Wahn」(4:29)
(ESM CD 348 GAS 0000348ESM ACO)
Edgar Froese | mellotron, guitar-bass, vcs3 synthi, organ |
Chris Franke | moog synthesizer, keyboards, vcs3 |
Peter Baumann | organ, e-piano, vcs3 synth, flute |
74 年発表のアルバム「Phaedra」。
Virgin レーベル移籍後、初の作品である。
「Phaedra」は、ギリシャ神話中の女性であり、クレタのミノス王の娘。ギリシャ王テーセウスに嫁ぐも、義理の息子ヒッポリュトスとの悲恋に命を落とす。
内容は、キーボードの可能性を強く感じさせるものであり、いわばメロトロンの語るシンセサイザー誕生夜話である。
メカニカルなビート、効果音と対照するエモーショナルなメロディがすばらしい。
エレクトリックなシーケンスによるポップ・ミュージックがここに誕生した。
「Phaedra」(16:45)シンセサイザー、ベースの刻むビートで疾走しつづけるミステリアスな曲。通り過ぎる風景の様にメロトロンやフルートが現れては消えてゆく。ひたすら続くシンセサイザー・ビートに酩酊し、眩暈を起こしそうだ。ビートが消えた後の荒涼とした空間に、悪夢のような生き物の鳴き声と星のささやきが満ち始める。そして決めはエンディングのメロトロン。古の機械のたてる轟音のような響きはどこか物悲しい。
「Mysterious Semblance At The Strand Of Nightmares」(10:35)でも重厚なメロトロンが交響楽のような感動を引き起こす。背景では寒風が吹きすさびシンセサイザーがメロディを揺るがせて通り過ぎるが、メロトロンの旋律はただ朴訥に力強く響いてゆく。
「Movements Of A Visionary」(7:55)テンポを刻むシンセサイザーの上にさまざまな音が去来する。どこかへ連れ去られてしまいそうな心持にさせるビートである。やがてアフロ・エキゾティックなリズムへと変化し、その上でオルガンが響き渡る。
「Sequent 'C'」(2:17)ポリフォニックな旋律美が宗教的高揚を巻き起こす。
(VIRGIN 7243 8 40062 28 TAND 5)
Edgar Froese | mellotron, guitar-bass, vcs3 synthi, organ, gong |
Chris Franke | double moog synthesizer, synthi a, organ, modified elka organ, prepared piano, gong |
Peter Baumann | organ, synthi a, e-piano, prepared piano, organ, arp 2600 |
75 年発表のアルバム「Rubycon」。
さまざまな音が即興風に散りばめられるためか、前作よりもシンセサイザーのビートが強調されて感じられる。
演奏は、特定の像を描くというよりは、抽象図形を描くような印象である。
音のうねりが収まり、空間が強調されると、無機的な神秘性を越えて不気味さも醸し出されてくる。
ルビコンはローマの将軍カエサルが一大決意で渡河した川の名称。
「Rubycon Part.1」(17:17)序盤は、電子音の大きなうねりとともに幽玄たるシンセサイザーの調べが美しく響くリズムレス・パート。
メロトロン・クワイアも要所で厳かなアクセントとなる。叙景的とはいえ虚空をさ迷うような展開だが、7 分半辺りから重々しいシンセサイザー・ビートが刻まれて、ベクトルが生まれる。もっとも、それでも、そのビートの上を、音は気まぐれに去来する。
メロトロン・ストリングス、トーン調節したエレクトリック・ピアノ、木管楽器のようなシンセサイザー、変調したオルガンらが腫れぼったい音でリフを提示し、荒々しいビートとともに走りぬけてゆく。
このリズムの強調されたパートは今聴くとレトロ・フューチャーの味わいが強い。
終盤、メロトロン・フルートによるラヴェルのボレロのようなテーマをきっかけに、きわめてゆっくりとビートレスの混沌世界へと回帰する。
「Rubycon Part.2」(17:34)メロトロン・クワイアだろうか、不気味なサイレン、あるいは映画「2001 年宇宙の旅」のサウンド・トラック・ミュージックを連想させるコラール調のハーモニーが、序盤を不気味にリードする。
リズムはない。
4 分付近で、コーラスから波打つような弦楽風メロトロンまたはシンセサイザーへと変化し、シーケンスも出現する。
終盤のメロトロン、または VCS3 は、KING CRIMSON の「Starless And Bible Black」と同じ音がする。
儚くも慈愛の歌である。
(VIRGIN 0777 7 86091 2 4 V2-86091)
Edgar Froese | |
Chris Franke | |
Peter Baumann |
75 年発表のアルバム「Ricoche」。
ヨーロッパ・ツアー中にフランスと英国で収録されたライヴ・アルバムである。(ただし、こういう音のアルバムなので、収録語にスタジオで加工された可能性は高い)
無機質なシンセサイザー・ビートの上で重厚極まるシンセサイザー・シーケンスが肌理の細かいテクスチャを成し、未知の惑星の宗教音楽か、はたまた巨大な人工知能との魂の対話かといったイメージを喚起する、厳かで重みのあるパフォーマンスが繰り広げられる。
前半はギター・リフとトライバル・ビートがリードし、シンセサイザーのテーマが重なり合うやや前時代臭もする呪術的なシーンから、メタリックなシーケンスにファズ・ギターが絡みつくサイケデリックかつテクノな展開へ。
陰鬱なクラウト・ロックらしさは満点。
終盤はシンセサイザーの細やかなフレーズが重なり合い幾何学文様を成しつつ、アグレッシヴなビート感とともにやがてシンフォニックに高まる。
スリリングな展開だ。
後半は、間違いなくプログレ・ファンに突き刺さる郷愁あふれるメロトロンの重奏で幕を開け、スペイシーかつ躍動感ある演奏が続くが、基本的には 1 曲目よりもタッチは軽く、音は「走る」。
シーケンスも重量感よりふわっとした柔らかさが先立つ。
ピアノやギターによるワンポイント・アクセント、インダストリアルな SE なども巧みに散りばめられている。
沸騰するビートとともに追いかけあい重なりあうシーケンスの奔流からポップなまろやかさが浮かび上がる瞬間があり、かなり感動的。
シンセサイザー・ロックという表現があるのかどうか知らないが、その言葉のイメージにかなり近い作品だと思う。
「Ricoche」には「跳ね返ること」から「跳弾」の意味がある。
そういう予期せぬ危うさ、一瞬にして日常から逸脱してしまうようなスリルは確かにある。
「Ricoche Part.1」(16:59)
「Ricoche Part.2」(21:05)
(VIRGIN 7243 8 40064 26)
Edgar Froese | mellotron, moog synthe, 12 & 6 string guitar, grand piano, bass, mouth organ |
Chris Franke | moog synthe, organ, percussion, loop mellotorn, harpsichord |
Peter Baumann | moog synthe, project electronic rhythm computer, e-piano, mellotron |
76 年発表のアルバム「Stratosfear」。
内容は、メロディとビートをメロトロン、シンセサイザーとループで実現したエレクトロニック・ロック。
いってみれば、ロック・バンドの運動性や音楽の展開をキーボードでシミュレーションしたものである。
もっとも、ギターやベースも用いており、いわゆるところの「シンセサイザー・ミュージック」に比べると、はるかにロックとしての体裁がある。
したがって、今やこの手の音楽についてまわる「静謐」、「心安まる」、「リラクゼーション」といったイメージは、ものの見事に覆されている。
シンセサイザーやメロトロンによるエモーショナルでスリリング、ひたすらにライヴなフレーズが聴きものだ。
ただ、元々立体感のある音が組み合わさるためイメージを喚起しやすく、結果的に一種のヒーリング効果が生じるということはあり得るだろう。
前衛的な音響主義から、メロディやリズムや和声といったポップ・ミュージック的予定調和へとシフトしたという厳しい見方もあるようだが、個人的には人工的なサウンドとバンド的なグルーヴの奇跡的な融合に拍手を送りたい。
分かりやすさは何より侮れない長所である。
シンフォニックで幻想的な幕開けからシンセサイザー・ビートとともに走り始める 1 曲目の快感は何物にも変えがたい。
ムーグ・シンセサイザーの音色には確固たる存在感があり、サイケデリックなギターも圧巻だ。
ギターのアルペジオが導く終章は哀愁あふれる余韻を残す。
2 曲目は、メロトロン・フルートのリード、ギターのアルペジオ、ベース・ラインというアコースティックなアンサンブルから始まり、次第にエレクトロニックなキーボード演奏へとシフトしてゆく。
メロトロンによる古色蒼然たる幻想サウンドが大幅にフィーチュアされ、シリアスな現代音楽風のニュアンスも感じられる。
1、2 曲目ともに、イントロダクションがなかなか意表を突いている。
3 曲目も、電子音にマウス・オルガンがオーヴァーラップするセンチメンタルなイントロから、宇宙のささやきのような雄大なメロトロン/シンセサイザー・オーケストレーションへとなだれ込み息を呑む。
ミステリアスなメロトロン・コーラス、重厚なムーグなど、いわゆるキーボード・プログレの音が充実している。
4 曲目も、ギター、パーカッション、シンセサイザーがそれぞれに活躍し、ピアノとメロトロン・フルートの終章へと流れ込む感動作。
間違ってもピコピコ・テクノではない。邦題は「浪漫」。
「Stratosfear」(10:35)
「The Big Sleep In Search Of Hades」(4:26)
「3am At The Border Of The Marsh From Okefenokee」(8:49)
「Invisible Limits」(11:24)
(VIRGIN 7243 8 40065 25 TAND 8)
Steve Jolliffe | vocals, flutes, cor anglais, clarinets, keyboards |
Edgar Froese | keyboards, guitars |
Chris Franke | keyboards |
Klause Krieger | drums |
78 年発表のアルバム「Cyclone」。
PINK FLOYD 調の瞑想的にしてメロディアスなヴォーカル・ナンバーや軽快なロックンロール・ノリなど、ポップなアプローチを見せる異色作。
神秘性や幻想性を期待し過ぎず、シンセサイザー・ミュージックという言葉にもとらわれなければ、聴きやすいなかなかの名作だろう。
シンセサイザー・ビートが独特の切迫感を生むが、その上で踊るメロディそのものは、わりとイージーである。
3 曲目の大作の終盤では、珍しくクラシカルで重厚なロマンティシズムも漂わす。
いずれにせよ、グループのイメージを覆しており、発表時に賛否の嵐を呼んだのは想像に難くない。
管楽器(STEAMHAMMER の第二作に参加したスティーヴ・ジョリフが担当)やキーボードなどでアコースティックな音も多く使っている。
「Bent Cold Sidewalk」
「Rising Runner Missed By Endless Sender」
「Madrigal Meridian」
(GCD 246-2)
Edgar Froese | keyboards, bass, guitar |
Chris Franke | keyboards, guitar |
Klause Krieger | drums |
79 年発表のアルバム「Force Majeure」。
ソリッドなドラムスとギターを大幅にフィーチュアしたタイトル・ナンバーは、ロック的なカッコよさでいっぱいの作品。
シンセサイザーが幾重にも積み重なる幻想空間でギターがうねる。演奏は、明確な展開とドラマを持つ。
このグループとしては、異色の作品かもしれない。
ただし、本作でも、オーロラのように空気の色を変化させるシンセサイザーがすばらしい。
特に、エンディングへと向かうファンファーレを奏でるブラス系シンセサイザーは、どこまでも美しく逞しい。
いわゆる電子音楽独特の荒さやノイジーなところはなく、プログレッシヴ・ロック風に生真面目かつ丁寧に組み上げられている。
左が GEFFIN の USA 版 CD のジャケット。右がオリジナル・アナログ LP のジャケット。
「Force Majeure」(18:23)
「Cloudburst Flight」(7:28)
「Thru Metamorphic Rocks」(14:29)
(GCD 350-2)
Edgar Froese | |
Chris Franke | |
Johannes Schmoelling |
80 年発表のアルバム「Tangram」。
ヨハン・シュメーリングを新メンバーに迎える。
シンセサイザー・シーケンスを大きく取り上げながらも、基調にはロマンティックで優美な表現が貫かれている佳作である。
数多くのキーボードが使用されていると思うが、ギターやアコースティック・ギターもアクセントとして使われている。
全体として、幅広いリスナー層を獲得しそうな、アクセスしやすいシンセサイザー・ミュージックである。
「Tangram Set 1」(19:47)メロディアスかつシンフォニックで愛らしい名品。
いかにもシンセサイザーらしいホイッスル系サウンドとシンセサイザー・ビートによる 3+4、4+4、3+3 拍子のシーケンスを交錯させながら、きらめく音が描いてゆく甘美なファンタジーである。
ミニマルな、いわゆるシンセサイザー・ミュージックながらも、クラシカルなマーチやエレクトリック・ポップ調、マイク・オールドフィールド風、交響楽風といった、多彩な音楽要素が織り込まれている。
流行りのニューエイジ風味ももちろんある。
「人工音による叙景」を営々と試みてきたグループだけに、「ニューエイジ」や「癒し」などは周りがようやく追いついたというべきだろう。
エンディングは再び夢の世界に誘われるように美しく、万感が胸に迫る。
「Tangram Set 2」(20:28)途切れぬ音のタペストリが層を成して迫り、聴覚を刺激するとともに次第に心を静めてゆく。
美しいシンセサイザーの音色が優美にして活き活きとした印象を与えるも、ややビートが強調されている。
(CAROL 1805-2)
Edgar Froese | synthesizer |
Chris Franke | synthesizer |
Johannes Schmoelling | synthesizer |
82 年発表のアルバム「Logos」。
欧州ツアー終盤、イギリス、ロンドンのドミニオン・シアターにおけるライヴ録音。
限りなくライヴとスタジオが接近してしまうサウンド(即興フレーズをその場でループに乗せるというようなアプローチはあると思うが)だけに、あえてライヴ盤(スタジオ・レコーディングをステージで再現しているのかもしれない)をつくる意味合いもよく分からないが、本作でのパフォーマンスは後々語り継がれるだけのすばらしいものである。
管弦に近い呼吸のフレージング含め、メロディの冴え、アンサンブル、エレクトリックな音を組み合わせたストーリー・テリングの巧みさには舌を巻かざるをえない。
メロトロン・ストリングスらしき肉筆風の淡いメロディとデジタルで硬質なシーケンス・フレーズの交錯と対比だけでも、ドラマティックである。
9 パートに分かれた表題作は、シリアスな音響ものから軽快なポップ・ナンバーまで多彩にして自然な流れを持っている。
アンコールらしき 2 曲目は、溌剌とした感じがいかにも 80 年代的なシンセサイザー・ポップ。
2 時間のコンサートのうち、約半分が再録されたらしい。
「Logos」(45:06)
「Dominion」(5:44)
(7243 8 39445 2 1)
Edgar Froese | |
Chris Franke | |
Johannes Schmoelling |
82 年発表のアルバム「White Eagle」。
反戦反核というメッセージがあるのかもしれないが時は 70 年代が終わって早三年。
冷戦の緊張感も薄れてきて身の回りの暮らしの豊かさを楽しむことに忙しくなってきた。
そういう時代に気づいたのかどうか、作風には、未来志向の電子サウンドにすっかりなじんだオーディエンスをアブストラクトながらも 60、70 年代ロックのエッセンスたっぷりのポップなノリを交えたシーケンスの魔術で楽しませるというなかなかしたたかな娯楽志向が見えてくる。
人工の極致というべきサウンドをフルに活かして往年のロックのセンスも封じ込めたテーマを転調しながら反復し、ダンサブルなグルーヴとインテリジェントな想像力をともに刺激するという小粋でニューロマンティックなデカダンスぶりっ子がいかにも 80 年代だ。
つまりテクノロジーがオシャレ・アイテムになったのだ。
そうなったときに「らしさ」を求められて自らの音の再現を重ねるうちに初期衝動を見失わずにいられたのだろうか。
ヴァージン時代も後期に入った。
この頃、最新のテクノロジーを携えたこのグループすらも、ほかのプログレ、オールド・ロックの連中と同じく、時代との確執を味わい始めたのかもしれない。
硬質でクリアーなサウンドが切り込んでくる、そういった技術革新の恩恵の迫力という点では名作といえるかもしれない。
「Mojave Plan」(20:06)前半のギター(あるいはキーボードか)のテーマはマイク・オールドフィールド風。
「Midnight In Tula」(3:59)テクノ・ポップ。
「Convention Of The 24」(9:35)重量感あるシーケンスの上でギターがフィーチュアされる。
「White Eagle」(4:34)ドリーミーな名曲。
(V2226 / 7243 8 39444 2 2)
TV などで、シンセサイザーの音が宇宙や深海、深いジャングルや砂漠の映像と組み合わされて使われることが多いのはなぜだろう。 風の音や潮騒といった自然の音では「薄味」なので、シンセサイザーで模倣、デフォルメして、より濃い目の味で映像の印象を強めるためだろうか。 それとも、自然が発する不規則な音よりも秩序立った音の方が心地よいためだろうか。 人間不在の自然の情景を描くにあたり、なるべく人間臭さを感じさせない音としてシンセサイザーのサウンドを採用しているのだろうか。 いずれにしろ「大自然の情景」と「シンセサイザー・サウンド」の組み合わせが興味深い。 シルクロードの映像にシンセサイザーの BGM を使うのがとても不思議なことに思えるのだ。 シルクロードの映像の背景にローリング・ストーンズの曲を使うことはあまりないと思う。