ベルギーのアヴァンギャルド・ロック・グループ「X-LEGGED SALLY」。 ピエール・ヴェルヴローゼムとペーテル・フェルメールスらを中心に結成、90 年 Knitting Factory のライヴで注目を浴び、91 年アルバム・デビュー。 97 年解散。 作品は六枚。 絶叫型フリー・ジャズ、ファンク、ロックが合体したしなやかにして凶暴なサウンド。 パワーとスピードを備える近未来型ヘヴィ・ジャズロックの急先鋒だ。
Danny Van Hoeck | drums | Bruno Deneuter | bass |
Pierre Vervloesem | guitar, vocals | Jean Luc Plouvier | keyboards |
Michel Mast | bariton & tenor sax | Eric Sleichim | alto sax |
Sally C.S. | x-noise, twists | Peter Vermeersch | tenor sax, clarinet |
91 年発表の第一作「Slow Up」。
内容は、凶暴にしてスピード感あふれるフリー・ジャズロック。
ビッグ・バンド調のホーン・アンサンブルの押し出す強烈なユニゾンと過激に突出するソロ、メタリックなギター、さらにはハードロック風の切れ味をもつリズム・セクションが、スピーディなプレイの応酬を繰り広げる。
エネルギッシュかつ小気味いい疾走を基本に、レコメン風の反転/屈折やサディスティックな狂気やせせら笑うようなユーモアも散りばめられている。
ほぼ全曲インストゥルメンタル。キーボーディスト、ジャン・リュック・プルヴィエールは、後期 UNIVERS ZERO のメンバー。
プロデュースはビル・ラズウェル。
1 曲目「Ffwd」(5:35)
サックス・アンサンブルを核に、けたたましいリフでたたみかけ、疾走するジャズロック・チューン。
金属的なギターには生音に近いニュアンスもあり、それに気がつくと全体にアコースティックなイメージになる。
しかしそれでも十分過激でデンジャラス。
切れ味鋭いベースと叩きまくるドラムスの生む硬質なリズムがなんとも凄まじい。
オルタナティヴ風味もたっぷりの過激なジャズロックだ。
2 曲目「Zippo Raid」(4:19)
シリアスなオープニングを経て、サックス・アンサンブルが中心になって走るジャズロック・チューン。
ピアノ、ドラムス、ベースとそれぞれに壮絶なプレイを繰り広げつつ疾走し、中盤のサックスではかなりフリー・ジャズになる。
後半、ノイジーなギターとサックスが反応しあう展開は、攻撃的かつモダンなスリル満点。
3 曲目「Xls」(6:53)
走っては停まり発散しては収束するという、自立的な運動性を持つ不気味な生き物のようにエネルギッシュなアンサンブル。
ベースのスラップやサックスによるサスペンス映画風のテーマなど、カッコいいところはいろいろある。
しかし全体を通して感じられるのは、KING CRIMSON と AREA が合体したような、パワフルでミステリアスな危うさである。
崩壊寸前の狂気を孕むハイ・エナジーの名曲。
4 曲目「Down At The Dinghy」(4:34)
アルト、テナーのサックスとクラリネットによるアンサンブル。
ムーディなジャズ風のソロとリフの組み合せが、いつしかクラシカルな室内楽のイメージに近づく。
不気味な低音のリフが常に悪い予感を抱かせるため、緊張が解けず、前曲までですでにかなり消耗した耳を完璧に休めるには至らない。
それでも一息という感じではある。
ドラムレス。
5 曲目「Bacon & Eggs」(5:25)
メタリックなギターと狂気のヴォーカルを前面に押し出した世紀末ハードロック。
キャプテン・ビーフハートを思わせるパンキッシュなヴォーカルとヘヴィなギターの応酬から、凶暴なギター・ソロを経て、終盤一気にスカパラ風のゴージャスなビッグバンドへ突っ込む。
ピアノの使い方も面白い。
わめき散らすヴォーカルの頭悪そうなイメージとは裏腹に、シャープで綿密な演奏が冴え渡る。
痛快。
6 曲目「34th Street」(4:59)
サックスによるビッグバンド風のユニゾン・リフを軸に繰り広げられるジャズ。
シャープなリフとミドル・テンポの落ちついた演奏が意外。
いい曲です。
7 曲目「Blackhead Blue Blues」(5:08)
珍しくスローテンポのバラード調インストゥルメンタル。
初めはサックスとクラリネットの不気味なリフレインにどうなることかと心配したが、ギターやキーボードが穏やかにしっかりと歌っておりグルーヴィな作品にしている。
テナーとギターのバトルもあるが、今回はギターが一歩先んじた感じ。
まあ他の曲であんまり前面に出ないからね。
8 曲目「Lacto B.」(1:06)
ストレス解消か。
大爆発 1 分間。
ぐわあああああああああああ。
9 曲目「Fuck & Coffee」(2:50)
クラリネットをフィーチュアしたエロティックなムードの横溢するミドル・テンポのバラード。
メロディアスにしてモダン・ジャズ調のスリリングなクラリネットのテーマに、サックスとオルガンが寄り添い絡み合う。
後半は管楽器の提示したテーマを大胆にエフェクトしたギターが変奏する。
古典的、オーソドックスなジャズ・コンボをエレクトリックなギターとベースが揺らがせるイメージである。
最後はベースが激しく暴れる。
10 曲目「Turkish Bath」(5:21)
7 拍子による変態ジャズロック。
シャープな変拍子リフと自由に暴れまわるサックス群。
ベース、ドラムスが弾むようなビートをキープし、ギターのコード・カッティングが、ファンキーではあるが比較的ストレートなノリを生み出している。
アルト・サックスとクラリネットのリードするテーマから、サックスやクラリネットのソロを経て、終盤はダイナミックで肉感的な管楽器による力強い演奏が続く。
11 曲目「Little Hearts」(4:24)
再び現れたパンク調のヴォーカルを中心とした快速オルタナティヴ・ロック。
小刻みなサックスのリフに支えられたヴォーカルとナチュラルな金属音が特徴的な凶暴ギター、ベース、ドラムスが快調に走り続ける。
KING CRIMSON のような荒々しさをもつギターと種馬のように雄々しくブロウするサックス。
終盤はクシャクシャにエフェクトされたギターとサックス、オルガンが重なり合うながらまるでもつれつように突っ走る。
扇情的で挑戦的なナンバーである。
12 曲目「Liquid」(4:06)
重苦しいティンパニが轟き、ギターとサックスがおどろおどろしくささやくゴシック風味あふれる暗黒ジャズ。
巨大な古代機械が蒸気を噴き出しながら恐ろしい音を立てて動き出すイメージである。
重厚な儀式を思わせるビートの上で、管楽器を組み合わせた祈りのようなテーマが流れる。
オルガンやスライド・ギターそしてサックスもおり触れては浮上し、何か一言騙るが再び沈み込んでゆく。
陰鬱。
13 曲目「Picocchio」(5:05)
快調なブギー風のジャズ・ビートにのって繰り広げられるビッグバンド演奏。
モードまたは不協和音のせいで傾いだようなイメージのあるアンサンブルが、次第にシャープに切れ味を増し、クールな演奏へと進化する。
三人が連続して現れるサックス・ソロは本格ジャズを思わせるみごとなもの。
中盤のフリー・ミュージック空間はさほど効果を感じないが、変化をつけるという程度の意図だろう。
しかしバラけてしまった演奏が、ドラムスのピック・アップで一気に復活するカッコよさは格別だ。
最初期のジャズロックという見方もできるだろう。
14 曲目「Memphis」(4:49)
ソロ回しの充実したファンキーでパワフルなビッグバンド・ジャズロック。
再びスカパラを思わせるゴージャスな演奏である。
アルト、ギター(ソロも冴えているがバッキングがまたカッコいい)、テナーのソロが続き、その合い間にインタープレイやピアノのアクセントが放り込まれている。
本作ではかなりまともでカッコいい部類のジャズロックに入る。
15 曲目「Ongenaam」(1:54)
サックス・アンサンブルによるバロック対位法的な現代音楽小品。
ミステリアスで宙ぶらりんな後味の悪さがある。
聴いたことのない種類の音楽である。
形容に困るが、敢えていうなればハードロックのグルーヴを基本にフリー・ジャズが駆け巡り、ヘヴィ・メタルになったりモダン・ジャズへと逆転したりと変容を重ねつつ不気味に蠢き続ける音楽である。
ギターとリズム・セクションに象徴されるメタリックで鋭角的・メカニカルなものと、サックス・アンサンブルに象徴されるジャジーな人間臭さが一つになったサウンドといってもいいだろう。
フリー・ジャズの混沌をメ一杯持ったまま疾走するため、悪酔いすることうけあいの疾走型ハイパー・ジャズロック。
このサディスティックで邪気たっぷりの音楽を聴いていると、ユーモアと深刻さが表裏一体であることを改めて感じる。
落ちつきのないミドル・テンポのナンバーに妙にアトラクティヴなメロディが浮き上がる不気味さ。
そして変拍子こそさほどではないものの、急停止と全力疾走を一瞬で切りかえる激しいテンポの変化をニヤニヤしながら何気なくこなしてしまうセンス・テクニック。
開いた口がふさがらない。
さらに恐るべきは本当の不気味さは疾走する曲よりもミドル・テンポの曲やバラードの方にあるのだ。
怒涛の 15 曲はモウ死にそう。
(SUB ROSA SUB CD024-46)
Danny Van Hoeck | drums | Paul Belgrado | bass |
Pierre Vervloesem | guitar, vocals, shaker | Jean Luc Plouvier | keyboards |
Michel Mast | saxes | Bart Maris | trumpet |
Peter Vermeersch | clarinet, vocals |
93 年発表の第二作「Killed By Charity」
第一作同様ジャズをコアにしながらも、勢い余ってさらにとんでもない方向へと弾け飛んでいる。
テクニカルにして素っ頓狂、切れ味とコワレっぷりはたいしたものである。
トランペットの加入とサックスの減少という管楽器編成の変化のせいか、ビッグ・バンド的なニュアンスよりも、即興/フリー的なエネルギッシュでスピーディな面が強調されている。
ユーモラスで危うくてカッコいいのです。
昔のヤンキーみたいな感じです。
プロデュースはビル・ラズウェル。
1 曲目「Eddies」(1:26)
「コッケコッコー」で幕を開ける凶暴にしてスピーディなジャズロック。
デンジャラスにして舌足らずなギター・リフと管楽器が猛烈にたたみかけ、蹴っつまづきながらもグルグル渦を巻くようなオープニングである。
倍速村祭りのように、強烈なアクセントのリズムで突っ走り、噛みついてはすばやく退く。
ブレイクでは、奇妙なホイッスルとブリキでできたチューイン・ガムをくちゃくちゃ噛んでいるようなベース・スラップが怪しくうろつく。
ストリート系のヤクザなドラムスがカッコいい。
バンドが一丸となってむちゃくちゃに暴れまわる。
2 曲目「Dum Dum」(3:34)
キナ臭いベース・リフ、ギターのホワイト・ノイズが噴出し、ドラムスが乾いたヤクザなリズムをフィルたっぷりに叩き出す。
へヴィなギター・リフは管楽器セクションに応酬され、オルガンがひそひそと受け止める。
パワフルな全体演奏でテーマを繰り返し、リズムを強引に捻じ曲げる。
半音進行でこねくるようなフランク・ザッパ風の超絶ギター・ソロ。
バッキングの管楽器の煽りがものすごい。
トランペット・ソロもジャジーでカッコいい。。
息せき切って突っ走り、最後もアッパーな変拍子テーマの壮烈な全体演奏。
エネルギッシュなビッグバンド・ジャズロックである。
1 曲目と 2 曲目の間に切れ目はない。
ひょうきんでカッコいいオープニング・チューンだ。
3 曲目「Still Life With Ray」(3:38)
フィードバックのようなサックスの金切り声でスタート、HM ギター・リフとともに不良っぽいリズムが飛び込む。
ヒョロヒョロなヴォーカルは、肺病病みのエイドリアン・ブリュー。
まずはオルガン、続いて管楽器は意外やメロディアスなオブリガートで迫る。
ガンガン突っ込むドラムス、そしてロレツの回らないトランペット、キーボードはむやみに元気だ。
素っ頓狂なブラス・セクションは、モノローグ風のヴォーカルをスリリングに守り立てる。
オルガンのアドリヴとヘヴィなギターがこんがらがり、管楽器セクションが攻め立てる。
最後はなめらかなブラスのテーマでキメ。
スカパラや渋さ、TALKING HEADS を連想させるパワフルなファンク・ロック・チューン。
オルガンをフィーチュア。
4 曲目「Spix & Chaco」(4:19)
キャッチーでやや東洋風のチンドン屋お下品ジャズ。
饒舌なサックス、ペーソスあるクラリネットが品こそ無いが丹念にリードする。
ユーモラスながらもまとまりある、逞しい演奏だ。
パンチのあるユニゾンがいい。
後半は、ナチュラル・トーン・ギターの変態ソロがお祭りブラス・セクションとせめぎ合う。
中近東風のモードもある。
日本のライヴ・ハウスで演奏されると似合いそうな曲である。
5 曲目「The Shah Of Blah」(2:50)
ミドル・テンポの温泉場ジャズ。
ひょうきんなギターの提示するテーマにサックス、シンセサイザーが応じ、トランペットや管楽器がオブリガートする。
安定した、しかしやっぱりちょっと下品な感じの演奏である。
ユーモラスなユニゾンは、どこかの民族音楽風、いや昭和歌謡曲風か。
脈絡無視で暴れまわるノイズはシンセサイザーだろうか?
さりげなくポリリズミックなブリッジ。
6 曲目「Bleedproof」(5:51)
正統レコメン・アヴァンギャルド・ジャズロック。
骨折リズムと管楽器群の爆発と狂乱するインタープレイ。
最初は、木管楽器の音が主導し、オルガンらが応じている。
1:30 を過ぎるとカタストロフィックなピアノのノイズとともに秩序は霧消する。
2:30 くらいからサックスのツッコミともに一体感が一時的に復活、クラリネット・ソロが走る。
バッキングは狂乱のディストーション・ギター。
4:10 からクラリネットのリードとギターのバッキングで凶暴なアンサンブルが走る。
ピアノによるサーカスじみたツッコミが演奏を一気にコミカルに変化させて、再び無秩序へ。
最後は壮絶なトゥッティによる大見得変拍子大会である。
この曲が最初のピーク。
7 曲目「Break Too」(3:56)
ヴォーカル入りのエレクトリック・ビッグバンド・ジャズ。
サスペンスフルに高まるブラス・セクション、スタイリッシュでお馬鹿なシンガー。
間奏のブラスとオルガンのやりとりもカッコいい。
後半はピアノも加わって、変態ラウンジ・ジャズである。
ギター・ソロはアームを使ったクレイジーなパワープレイ。
8 曲目「Did You Get Your Milk, Stewart?」(2:30)
フレットレス・ベース、ブラシによるリズム、サックス、クラリネットの二管、ピアノ。
8 分の 6 拍子のモダン・ジャズ小品である。
メロディアスなサックス・ソロ、やればできるんじゃん。
DJ 風の SE もいい。
他の曲が強烈なだけに、きわめて新鮮なアクセントになっている。
9 曲目「Mysterious Angelic Voices」(2:56)
お座敷 HM パンク・ジャズ。
ヘビメタ轟音ギターが唸りをあげてザクザクにリフを刻み、ピアノが騒ぎ立て、調子っぱずれの管楽器が舞い上がる。
ブラス・セクションの寸断変拍子アジテーションが強烈だ。
ギター、キーボードで走るとプログレっぽいが、管楽器の狂気はフリージャズ直系である。
終盤、唐突な即興、緩衝空間が生じるところがレコメンっぽい。
10 曲目「am tisch!」(2:16)
ベース、ドラムス、オルガンのトリオによるファンク・ジャズロックもどき。
パロディのような、酔っ払っているようなオルガンがキテレツなソロを繰り広げる。
骨折ドラミングには乗ろうにも乗れないので、オルガンは勝手に暴れる、それなのに切りかえはばっちり合ってるから恐れ入る。
11 曲目「The Look Of Love」(3:28)
バカラックのカヴァーであることはテーマで分かる。
どこかの野蛮な土人がいけにえを捧げる際の音楽のようだ。
珍しく上物ではなく、ドラムスが泥酔している。
12 曲目「Killed By Charity」(4:21)
小気味いいビッグバンド・パンク・ジャズ。
管楽器、キーボードのユニゾンでがっちりと守り立てて進む。
ギターはワウワウでファンキーにバッキング。
間奏はジャズ・ピアノだぜ。
アウトなソロ・ピアノとブラス・セクションの交差がカッコいい。
ギターはスペーシーな、ロバート・フリップばりのソロ。
抜群の安定感で進み、最後までスタイリッシュです。
13 曲目「It's A Baby」(4:41)
HM ビッグバンド・ジャズロック。
ヘビメタギターとともに快調にすっ飛ばす前半。
中盤でダンス・フロアのハコバンと化し、メロディアスにムーディに迫る。
2:30 再び快速へヴィ・メタル・ジャズと化す。
轟音ギター・リフとサックスの疾走は、トランペットの狂乱へ。
3:35 くらいから、圧迫感のあるアンサンブルへ、そして発進、停止、再発進。
ピアノ、管楽器、ギターが舌をかみそうなユニゾンで突っ走る。
改めてフランク・ザッパの作風を連想させます。
14 曲目「Shedded」(1:20)
テナー・サックス、トランペット、クラリネットがユーモラスなアンサンブルを成して、ゆったり歌う。
こみ上げるペーソス、夕暮れの帰り道、カラスがカー、ニワトリがコケコッコ。
短めの曲(最長で 6 曲目の 5:53)が次々に現れるが、密度が高く常にハイ・テンションなため、振り回されながら聴きとおすために体力が要る。
デンジャラスな音が多いが、聴き慣れるにしたがって、それよりも恐ろしいのは独特の「軽薄さ」だと気づく。
凶暴なだけではなく、限りなく性急で歪んだユーモアがあるのだ。
エネルギッシュなサックス、間の抜けたトランペット、ただただ変なクラリネット、デンジャラスなギター、弾けるリズム・セクションが、刺激しあって爆発して死に絶えて復活してまた全力で走り出す。
力いっぱいだった前作を飄々と乗り越えた名作である。
聴きつづけたら廃人になりそ。
(SUB ROSA SR 69)
Danny Van Hoeck | drums | Paul Belgrado | bass |
Pierre Vervloesem | electric guitar | Peter Vandenberghe | keyboards |
Michel Mast | tenor & bariton sax | Bart Maris | trumpet |
Peter Vermeersch | tenor sax, clarinet |
ダンス・パフォーマンスのための音楽として作編曲された 94 年発表の「Eggs And Ashes」。
いかにもヨーロッパ風ののどかなワルツが、サイバー・テロリスティックなサウンドにオーヴァーライドされると、そこはもう危険極まる XLS ワールドである。
映画のワンシーンを思わせる音声をコラージュしながら進み、サウンドそのものはあいもかわらずデンジャラスな疾走型ハイパー・ビッグバンド・ジャズロック。
キナ臭いヴェルヴローゼムのギターと、饒舌にして狂気を孕むフェルメールスのリードを重金属的なリズムが支えるスタイルは、さらにパワー・アップしている。
今回も、突き抜けるようにクリアーなトランペットの存在がいい感じだ。
剥きだしの鉄骨のように硬質でざらついた音と刃物のような切れ味をもつ演奏は、やはりこのグループならではのもの。
打ち込みファンクやノイズ・アヴァンギャルドから、持ち前の「ハードコア・ジャズ」ともいうべき超速サウンドまで多彩。
管楽器のワイルドにしてなめらかなアンサンブルとファンキーなリズムが充実しており、スカパラや渋さ知らズ、エゴ・ラッピンのファンへもお薦め。
「lulu」(2:40)
「laut und leise」(3:39)
「midwave」(9:47)ビッグバンドによる濃密なファンク・ジャズロック。マイルス・デイヴィスを思わせる瞬間もあり。なぜかオゲレツだが、一押し。
「hate song」(4:27)歌うような金切り声サックス、スティール・ドラム風のシンセサイザーによるアフロ・ビート、猛獣の唸り声のようなギターらによる危なすぎるインプロヴィゼーション。
「turkish bath」(7:06)第一作にも収録された西アジア風変拍子ファンク・ジャズ。
唸るサックスを中心に 4+3 でリズミカルに迫る。ギターのコード・カッティングもカッコいい。
「immer carto」(1:46)いかにもヨーロピアンな歌もの。
ヴァイオリン、トランペットの伴奏とたどたどしい老人のヴォイスがペーソスを生む。
「sparadrap」(7:15)
上ずりっ放しクラリネットが特徴的な轟音ハードコア・ジャズロック。
あえて規則的なリズム・パターンを避けるような奇怪なユニゾンで攻め立てる。
ドラムスはビートというより、無闇な打撃の連続である。
金属ノイズでひた走るギター、ベースもカッコいいです。
XLS らしさは本作品が一番。
「two volcanoes」(4:37)アコースティック・ギター、オルガンによる黄昏のチンドン屋。
後半のトランペット、アコーディオンがいい感じだ。切なく愛らしいです。
「mask」(17:24)うねうねしたベースと過剰に突っ込む管楽器による変拍子ジャズロック。
キレのいいリフと妙にぐねぐねとしたアドリヴのコントラストがおもしろい。
本作品もこのグループの音楽性を示す好例。
(SUB ROSA SR77/KKCP 45)
Danny Van Hoeck | drums, percussion | Paul Belgrado | bass |
Pierre Vervloesem | electric guitar, percussion | Peter Vandenberghe | keyboards |
Michel Mast | saxes | Bart Maris | trumpet |
Peter Vermeersch | clarinet, voice on 17 | Thierry Mondelaers | vocals |
Christian Martin | stick on 12 |
95 年発表の「The Land Of The Giant Dwarfs」。
過激かつ快調な演奏はそのままに、不気味なヴォーカルやリリシズム(?)、ペーソスも盛り込んだ野心作。
演奏は、爆発的な変拍子ジャズロックからファンク、ハードロック、ユーモアとパロディ精神に満ちた大道芸にまで多岐にわたり、いわば、凶暴な鋭さと逸脱感が矛盾なく融けあう ビッグ・バンド風 HM ジャズロックである。
フランク・ザッパのバンドと同じく「冗談ばかりのようでいてテクニカル」、「グルーヴィな変拍子」な超絶演奏なのだ。
強引なリフで押し捲り、しなやかにしてゴリゴリなラインで突進、そして、意外にも軽やかに寂しげに舞う。
エレクトリックで尖がった、アカデミック・パンクなイメージもさることながら、なんと STORMY SIX や北欧ものを思わせるペーソスがたっぷりあるのだ。
通低するのは、押しの強さ、素っ頓狂さ、意地の悪さ、皮肉っぽさと苛立ち。
そして、熱狂的に攻め立てるのにどこかナンセンスなムード。
このグループの管楽器セクションのカッコよさには定評があり、特に独特の気持ちいいヒネリの源として、ヴァミーッシュのクラリネットの存在が光る。
ヴァーサタイルなノイズ・ギター、そしてリズム・セクションも肩で風切るチンピラのようでいて実は凄腕という小面憎さである。
SE や歌詞から判断して、アルバム・タイトルはアメリカ合衆国を皮肉っているらしい。
とすると、冒頭のメロディは「双頭の鷲の旗の下に」なのかな。
今までの作品と比べると、怪我をしそうな過激さよりも、ジョーク(女性アナウンサーのコメントはケッサク)を撒き散らしながらもセンスよく華麗にまとめている感じが強い。
アーティスティックな完成度という点ではみごと。
馬鹿ロックをやってるのに実は頭いいのがチラ見えしてる、そんな感じです。
「The Land Of The Giant Dwarfs(Anthem)」(1:06)
「Fes II」(4:56)
「R.I.P」(3:38)
「Yesbody 2(Yesbody Goes for the Swallow-Juice)」(2:42)
「Skip XXI」(6:29)
「Yesbody 4(Yesbody Enjoys the Envious Eyes of His Moontan)」(2:11)
「Charge」(2:11)
「Yesbody 3(Yesbody's in Love and Looks for a Girl Now)」(1:50)
「Lie To Me」(1:34)
「Glad You're Dead」(1:27)
「Home」(3:05)
「Hair」(5:07)
「Poor Man's Rain」(4:51)
「Starfinger」(7:28)
「Mono Dolby」(1:01)
「Owl Harrry」(3:11)
「Quorns」(3:27)
「Yesbody 1(Yesbody Swallowed the Key)」(2:45)
(BANG! 20517)
Danny Van Hoeck | drums |
Paul Belgrado | bass |
Pierre Vervloesem | electric & acoustic guitar, banjo |
Peter Vandenberghe | keyboards, accordion |
Peter Vermeersch | clarinet, tenor sax |
The Smith Quartet |
96 年発表の「Bereft Of A Blissful Union」。
弦楽カルテットとの共作であり、舞台音楽として企画された作品のようだ。
弦楽カルテット主導の作品は、まあ普通の現代音楽調の作品である。
聴きものは、2 曲目のオムニバス大作。チンドン、ヴォードヴィル調を見せながら、安定したエネルギッシュな演奏が繰り広げられる。
ただし、初期二作のような過剰なまでのアグレッシヴさは後退、さまざまな音を操った、ある意味「華麗」なパフォーマンスになっている。
「円熟」という言葉はあまり似つかわしくないバンドだが、まさにそういうことのようだ。
すでに次のフェーズへの移行がはじまっている、そんな内容である。
(KICP554)