ABEL GANZ

  イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「ABEL GANZ」。 80 年結成。 ネオ・プログレッシヴ・ロック・ブームの牽引車の一つ。 作品は六枚。最新作は 2020 年の「The Life Of The Honeybee & Other Moments Of Clarity 」。 GENESIS 流のアコースティックな面を強調した作風。


 The Life Of The Honeybee And Other Moments Of Clarity
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Davie Mitchell guitars Denis Smith drums, vocals on 6
Stephen Donnelly bass Mick Macfarlane vocals, guitars, bouzouki
Jack Webb keyboards David King guitars, keyboards on 1,6, drum programming on 6
guest:
Snake Davis saxophone on 1 Alan Hearton keyboards on 1,5,6, vibraphone on 5
Alex Paclin harmonica on 1 Fiona Cuthill fiddles & recorders on 1
Emily Smith vocals on 2 Frank Van Essen strings on 4
Stevie Lawrence low whistles on 6 Signy Jakobsdottir congas, percussion on 6
Marc Papaghin French horns on 6

  2020 年発表のアルバム「The Life Of The Honeybee And Other Moments Of Clarity」。 内容は、アダルトな風格とセンチメンタリズムを併存した英国モノらしいメロディアス・ロック。 エレクトリック・アコースティック・ギターのアンサンブルに GENESIS の片鱗を感じさせるものの、メロディ・ラインやハーモニーには古びたスタンダード・ナンバーと同じく大切に磨かれたヴィンテージ品の手ざわりがある。 キーボードをフィーチュアした変拍子のアンサンブルや丁寧な打撃が特徴的な弾力あるリズム・セクションが演奏をドライヴするパートもあるのだが、主となるのは、ジャジーでノスタルジックなメロディや和声によるバラード調の展開である。 そして、ストリングスやピアノ、アコースティック・ギターのフレージング(巧みなアルペジオ)によるクラシカルな演出が優し気なメロディ・ラインの味わいを深めている。 しかしながら、ソウルフルな歌唱とホーンに引っ張られても AOR になり切ってしまわないのは、ギターとキーボードがリードするアンサンブルやさりげないオブリガートなどに、プログレ心というか英国流の反骨心というか、安住を回避するようなテンションとヒネリがあるからだと思う。 男女のヴォーカル・ハーモニーでふと気づいたが、この反骨心はフォークの素朴な力と詩的なセンスによるものではないか。 キリキリ舞いするようなエレクトリックなアンサンブルも基調はスピーディでダンサブルなフォークソングが底流にあるような気がした。 そしてそこから、人生に何かを渇望する若々しい姿勢、年齢に胡坐をかかない姿勢が垣間見える。 養蜂という不思議なテーマも牧歌調に隠された逞しさや若々しさに思い及べばさほど唐突ではないのかもしれない。
   プロデュースは二代目ドラマーのデニス・スミス。 作曲者とリード・ヴォーカリストは STEELY DAN のファンに違いない。 ふと気づけば ヒュー・カーターやヒュー・モンゴメリーらオリジナル・メンバーはすでに残っていない。

  「The Life of the Honey Bee and Other Moments of Clarity」(12:37)
  「One Small Soul」(5:52)
  「Arran Shores」(2:40)美しいアコースティックギター・ソロ。
  「Summerlong」(5:22)
  「Sepia And White」(13:31)
  「The Light Shines Out」(6:16)
以下ボーナス・トラック。
  「One Small Soul (radio edit)」(3:57)
  
(ARAG004CD)

 Gratuitous Flash
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Kenny Weir drums
Hugh Carter bass, keyboards
Malcolm McNiven guitars
Hew Montgomery keyboards
Alan Reed lead vocals

  84 年発表のアルバム「Gratuitous Flash」。 オリジナルはカセット・リリース。91 年に CD 化。 内容は、GENESIS クローンと謳われた典型的なネオ・プログレッシヴ・ロック。 甘いのだが甘すぎない、ほのかな苦味がいいヴォーカルと透明感あるハーモニーが楽曲をリードし、キーボードとギターがきらめきながらもゆったりとした調子で守り立てている。 (時代のせいか、ギターよりもキーボードがアンサンブルをし切っている。もちろん、キーボード奏者が二人いるせいでもあるだろう) ギターのアルペジオとメロトロン・フルート風シンセサイザーのコンビネーションなどには憧憬とこだわりが息づいている。 そういうものを自然に表現に入れ込むプロっぽさもある。(マンマなところももちろんあるが...) シンプルすぎるドラム・ビートは当時の標準なのでしかたがないが、そういう中でも健闘はしていると思う。 逆に、このストリート風のビート感とクラシカルで過剰なキーボード・サウンドの組み合わせが個性ともいえる。 80 年代の音なので売線のハード・ポップ志向も当然あるが、割合としては 70 年代中盤までの英国ロック、プログレのスタイルへの依拠が勝っている。 また、ネオプログレ特有の華美なサウンド、エモーショナルな泣き、シンセサイザーのオスティナートといったクリシェをすべて抑え目にしているために、メロディアスなロックとしての本来の良さがしっかりと訴えられている。
   全体に、GENESIS のコピーのような表現の手際のよさは当然として、それを交えつつも本人たちの自然なロマンチシズムや叙情性を音にできているところが他のクローンとの大きな違いだろう。 ちなみに、素養のほとんどは GENESIS であり、それに加えて PINK FLOYD も少しある。 要は、英国ロックの王道に近いところにいる作品ということだ。 ピーター・ゲイブリエル直系のスコティッシュ・ヴォイスの逸材であるアラン・リードは後年 PALLAS に加入する。

  「Little By Little」(7:49)長すぎる序奏か、初めからのインストゥルメンタルの見せ場か、開巻劈頭華やかなキーボード・サウンドが破裂する、ネオ・プログレに多い作りの作品。 構成/演奏に凝った若々しい英国ロックとしては極上。シンセサイザーがリードする GENESIS 風味たっぷりの間奏部がいい。

  「Kean On The Job」(6:54)ヴォーカリストがピーター・ガブリエル風の表情で物語を紡ぐ。 何気ないピアノとギターのアンサンブルがみごとに歌唱を彩る。と思っていたらいきなり PINK FLOYD のパxリが。

  「You And Yours」(6:02)ニューウェーヴもオールドウェーヴもなく、メロディ・ラインにひたすら英国ロックらしさあふれるポンプ・ロックの力作。泣きの訴えかけと元気なリフが渾然一体となり、センチメンタリズムにも何かを動かす力があると確信している曲調だ。ギターのアルペジオとフルート風のキーボードは GENESIS の伝統。

  「The Scorpion」(4:47)インストゥルメンタル。リズムはロカビリー調なのにシンセサイザーが捻じれを持ち込み、シンフォニックなプログレ色がどんどん現れてくる。パワーも活かした佳作。GENESIS 大好き。

  「Gratuitous Flash」(6:23)サスペンスフルなモチーフとアッパーなノリで迫るニューウェーヴ風のインストゥルメンタル、と思ったら、最後の二分くらいでようやく歌が現れた。

  「The Dead Zone」(16:40)演劇的なヴォーカル表現と劇的な展開を盛り込んだシンフォニック・ロックの力作。 ヴォーカリストのメロディに寄り添った丹念な語り口がみごと。 さざなみのようなギターとするすると流れるシンセサイザーの調べ。 閉塞感と開放感を切りかえながら、心の機微をそのまま音に映したような演奏を繰り広げる。 ガブリエル氏が吹いているとしか思えないフルートのような音はシンセサイザーだろうか。 43 分あたりの静かな展開など、しっかりした深みがあるところが、凡百のクローン・バンドとは格が違うところである。
  
(UGU 00891)

 Gullibles Travels
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Gordon Mackie bass
Kenny Weir drums
Hew Montgomery keyboards
Paul Kelly vocals, guitar

  85 年発表のアルバム「Gullibles Travels」。 オリジナルはカセット・リリース。91 年に CD 化。 なぜかリーダー格のベーシスト、ヒュー・カーターが脱退(次作で復帰)、リード・ヴォーカリストの逸材アラン・リードも抜けて(次作以降にゲスト参加はあり)かなり危機的な状況であったことが想像に難くない。 内容は、キーボードを中心にした派手目のサウンドとお約束気味の変拍子によるスピード感の演出を効かせたアレンジではあるが、エモーショナルで力強いシャウトが映えるなかなか骨太のロックである。 多彩なフレーズの積み上げと緩急の変化による多面的で細やかな表現は英国ロックならではであり、そういう面では本家 GENESIS にも迫る出来映えだと思う。 テーマになる旋律は勇ましくもウェットで、訴えかける力がある。 ヴォーカリストはダミ声に漂う悲壮感が特徴であり、ハードロック系らしきことが分かるものの個性はさほどでない。 しかし自然な表情付けがいい。 FISH やジェフ・マンのようにエキセントリックに迫って成功するヴォーカリストも多かったが、この人の場合は地声を生かしたナチュラルな歌唱が合っている。 3 曲目のような劇的な作品でも過剰にならない表情の変化がいい味を出している。(もちろん、アラン・リードが歌ったらもっとよかったとは思うが) キーボードはきらびやかでスペイシーなサウンド(80 年代っぽいデジタルな和音の迸り!)とコンスタントかつ俊敏なプレイでリフやテーマを組み上げて演奏の中心になっている。 ギターは堅実なアルペジオでバッキングし、出るべきところではストレートな泣きのフレーズで前面に出てヴォーカルの作り上げたイメージ、ヴィジョンを支えている。 ヴォーカルの悲嘆を追いかけるようになぞってゆくプレイが印象的だ。 ドラムス、ベースともに音数は多めで、特にベースはアタックの強い硬質なサウンドでビートを支えてダイナミックなうねりを演出している。 バラードでもメロディに流されないパワフルな表現が可能なのは、リズム・セクションに負うところが大きい。 最終曲の安定感から並々ならぬ演奏力が分かる。 音楽技術的な力量とレコード会社から求められるものとのアンビバレンスに悩みそうなタイプであり、プログレを目指したのはもはや運命的必然としかいいようがないだろう。 大半の曲がフェード・アウトするところが難点。 タイトルは、スウィフトの「ガリバー旅行記(Gulliver's Travels)」のパロディだろうか。

  「The Unholy War」(5:53)ネオプログレど真ん中の快速変拍子チューン。勇ましく、軽く、ウェット。前作の一曲目同様序章のインストゥルメンタルが長い。

  「Gullibles Travels」(4:13)繊細で屈折したヴォーカル・メロディが印象的なバラード。熱っぽさとひねくり回し方がややジェフ・マン似。 Gullible は「だまされやすい人」のこと。

  「The Hustler」(8:09)シャフル・ビートで走るスタイリッシュなニューウェーヴから魂の絶叫へ。 PINK FLOYD ばりのドラマがある。 終盤の救済感は、初期の MARILLION によくあったような気がする。 力作。

  「The Pretender」(6:26) 前曲の前半と同じく、アリーナ・ロックやチャート向きニューウェーヴのようでどうしても屈折してしまうところが特徴的。 その点は PALLAS あたりも同じだろう。 中盤の苦悩から力強く復活してゆく展開はネオ・プログレらしさ満点。 泣きべそメロディは初期の MARILLION そっくり。

  「Whose World」(5:32) 軽快なハードポップになりそうでならないのは、スタイリッシュでハードボイルドな表情のヴォーカルのおかげか。 TWELFTH NIGHT と共通するスタイルである。 というか、DURAN DURAN か? 2:53 で飛び込むキーボードのリフの「こちら側への」流れに引き寄せるパワーに感動。

  「Dream Away」(7:10) ブルージーかつジャジーな(このグループの作風としては)異色のバラード。 DEACON BLUE なら普通の作品。 もっとも、唐突なジャズ志向は英国ロックの流行としてたびたび訪れるようにも思う。
  
(UGU 00791)

 The Dangers Of Strangers
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Hugh Carter bass
Al Esis drums on 4,5
Denis Smith drums on 1,2,3
Malky McNiven guitar
Hew Montgomery keyboards
Alan Reid vocals on 4,5
Paul Kelly vocals on 1,2,3

  88 年発表のアルバム「The Dangers Of Strangers」。 オリジナルはカセット・リリース。91 年に CD 化。 2008 年に発表二十周年のスペシャル・エディションが発表された。ヒュー・カーター、アラン・リード、マルコム・マクニーブンが復帰し、ドラマーは新メンバーとなる。 (前作は鍵盤奏者主導の別動隊による作品とみるべきかもしれない)
  内容は、同時代のダンサブルなグルーヴのロックの抒情的な面を深彫りしたようなブリティッシュ・ロック。 メロディアスなギターや音色に光沢のある可愛らしいデジタル・キーボード、典雅なアルペジオによる、シンプルだが丹念で誠実なイメージを与える演奏である。 70 年代風のブルージーな重苦しさ、グラマーさ、80 年代風のデカダンスや軽薄さはなし。 メランコリックだが優しく、厳かな時にも透明感があるのがいい。 ただ、軟弱といわれると否定できないのも確か。 墜ちるときの闇の深さと病み具合も英国ものならでは。

  「The Dangers Of Strangers - Part I & II」(12:10)MARILLION 系の正統ネオ・プログ・チューン。 虚弱な泣きのヴォーカル、シンプルなリズム、大仰なシンセサイザー・サウンド、メロディアスなギター・フレーズなど王道。 声のひっくり返りやすいケリー氏の線の細い歌唱が本曲には合っている。 90 年代の前半くらいまでこういうバンドがたくさんいましたっけ。

  「Rain Again - Part I, II & III」(8:13)

  「Hustler II」(6:00)ジェフ・マンが歌ってもよさそうなネオ・プログ・チューン。

  「Dreamtime」(7:59)

  「Pick A Widow」(4:40)ベースがやたらと目立つ。
  
(PG 1211)

 Shooting Albatross
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Hugh Carter bass, guitars, keyboards, chorus, vocals , sitar, fluteStevie Lawrence bouzouki, mandolin, low whistle, tenor banjo
Denis Smith drums, chorus, backing vocals, keyboardsDavid Mitchell bass, classical guitar
Hew Montgomery keyboardsJack Webb piano, organ, synthesizer, keyboards
Chris Fry slide guitar, guitarsDeepak Bahl chorus
Raymond MacDonald chorusSteve Donnelly bass
David Mitchell guitarAlan Reid vocals
Fiona Cuthill violin, electric violin, whistle, recorderMick Macfarlane vocals

  2008 年発表のアルバム「Shooting Albatross」。 十五年ぶりの新作。 内容は、ケルト色のあるフォーキーで穏やかな基調に、込み入ったトゥッティやキーボードらのクラシカルなプレイがさりげなく交ぜ込まれた極上のプログレッシヴ・ロック。 PALLAS がネオ・プログレのハードロック面を担っているとすれば、こちらは間違いなく数少ないフォーク面を担う作風である。 (今では BIG BIG TRAIN という傍流もあるが) 音は決して豪奢ではないのだがセンスある製作のおかげで腰の据わった安定感がある。 ギターとシンセサイザーがなめらかなテクスチャを成して流れ出すと、アンソニー・フィリップスがいた頃の GENESIS にも迫る。 ロックなやんちゃさをキープしたままちゃんと大人になって分別がついた感じです。 波打つムーグのオスティナートにオルガンがわーっとオーヴァーラップするとプログレらしい醍醐味あり。

  「Looking For A Platform」(15:06)英国フォーク一流のデリカシーと伸び伸びとメロディアスに歌い上げる若々しさが印象的な躍動感あるシンフォニック・ロック。 アンソニー・フィリップスそのものなアコースティック・ギターのさざめき、スライド・ギターの叫び、ピアノの滴りなど細かいブリッジでの表現が光る。 エンディングに向けてのせめぎ合うような木管風のシンセサイザーとギターのアンサンブルもいい。

  「So Far」(23:31)メロディアスな大河物語風ネオ・プログレッシヴ・ロック。 英国ロックというのは村祭りのお囃子に電気楽器を交えたところに根っこがあることがよく分かる。 終盤、深淵に臨むような神秘的なシーンからお約束の変拍子アンサンブルへの展開にすれっからしのわたしでもドキッとさせられた。 全体に大仰でなく軽妙かつ緩やか、ホイッスルや弦楽器を生かした薄目の音がいい。 ほのぼのとした語り口が一貫している。

  「Sheepish」(12:55)カーターの歌唱はやや頼りないが、硬質な演奏とのミスマッチが音楽の幅を広げているともいえる。ギターがバグパイプに聴こえてくればしめたもの。

  「Ventura」(14:38)初期 GENESIS 風の美しいアンサンブル。名曲。
  
(ARAG001CD)

 Abel Ganz
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Hugh Carter acoustic guitars, bcking vocals Stevie Lawrence tin whistle, low whistle, 12-strings on 5
Denis Smith drums, chorus, backing vocals David Mitchell guitars
Jack Webb piano, mellotron, organ, synthesizer Ed Higgins congas, percussion
Sarah Cruickshank oboe Frank Van Essen violin, viola
Iain Sloan pedal steel guitar, 12-strings on 13 Stevphen Donnelly bass
David Mitchell guitars David Carlton flute on 5
Fiona Cuthill recorder Mick Macfarlane lead vocals, guitars
Hew Montgomery synthesizer pogramming on 4 Stephen Lightbody church organ & synthesizer on 5
Alastair McGhee trumpet & flugelhorn on 8,13 John Milne tuba & trombone on 8
Joy Dunlop vocals on 9 Malcolm Jones accordion on 11
William Barbero guitar solo#1 on 13 Andrew Brodie sax on 13
David MacDonald sax on 13 John Milne trombone on 13
Tom MacNiven muted trumpet on 13 Brass Band Of Johnstone conducted by Paul Kiernan 

  2014 年発表のアルバム「Abel Ganz」。 内容は、叙情味あふれる王道的なブリティッシュ・ロック。 アコースティックなサウンドによるバロック宮廷音楽や英国フォークロアを基調とした、感傷的で優しく、活気あるアンサンブルにすらそこはかない無常感を漂わせる作風である。 帝国主義をリードした英国が心に抱えた闇の部分を癒すために自ら作り上げた哀しくも清々しく美しい音だ。 ジャズのエッセンスを交えるところも多いためアダルトなイメージもあり。 管楽器を的確に配してアコースティック 12 弦ギターをフィーチュアした田園幻想風のデリケートなタッチは、アンソニー・フィリップス時代の GENESIS を彷彿させる。 スライド・ギターやオルガンがリードするリズミカルで素朴なアンサンブルは STRAWBS のよう。 ブルージーなのに甘みのあるリード・ギターが走れば CAMEL 直系である。 英国ロックのソフトで繊細な面が好みの方、あるいは英国ジャズロックの黄昏色に魅せられた方にはお薦め。 アオハルなポンプ臭は皆無。 メンバー交代の過渡期に制作されたようだ。 オリジナル・メンバーであるヒュー・カーター、ヒュー・モンゴメリ参加の最後の作品となった。

  「Delusions Of Grandeur」(2:11)滴るようなピアノと典雅なオーボエ、重厚なストリングスらによる哀愁と緊迫と憂鬱の序曲。ディズニー映画っぽいといえなくもない。
  「Obsolescence」本家の「Stagnation」からさらに進んだ(退いた)タイトルの病み方がいい。
    「Sunrise」(3:40)アントンそのものなアコースティック・アンサンブル。雅にして気怠い。
    「Evening」(4:41)前曲に似た編成でリズミカルなフォークロックへ。ピアノが舞い、リコーダーがさえずる。パーカッションやカントリー風のスライド・ギターもいい。
    「Close Your Eyes」(5:01)デカダンでグラマラスなタッチを強調。これもまた英国ロックの一つの面。 シンセサイザーのリードする間奏部でネオプログレというお郷が知れる。
    「The Dream」(6:12)再びアコースティック・アンサンブルによるファンタジックなバラードへ。 後半はチャーチ・オルガンが導きシンセサイザーが高鳴る THE ENID 調の雄大なシンフォニーに展開する。
    「Dawn」(3:49)ブルーズ・フィーリングあふれるソロ・ギターの語り口、オルガンの響きなどイメージは CAMEL に激似。インストゥルメンタル。
  「Spring」(2:25)アコースティック・ギター・ソロ。
  「Recuerdos」(4:20)金管楽器セクションが伴奏する幻想的なギター弾き語り。
  「Heartland」(5:08)呪文を思わせるエキゾティックな女性ヴォーカルとフルート、ストリングスの描く強い哀感のある情景。 凡百のヒーリング・ミュージックとは次元の異なる浸透力あり。
  「End Of Rain」(5:33)フルート、ギター、エレクトリック・ピアノらによる幻惑的なミニマル・ミュージック。 インストゥルメンタル。要はマイク・オールドフィールドということです。
  「Thank You」(6:57)西海岸風味が本作では異色だが、このグループの芸風が BJHSTRAWBS の系譜にあることが分かる。
  「A Portion Of Noodles」(3:22)アコースティック・ギター・ソロ。
  「Unconditional」(14:05)アダルトなタッチの変拍子ネオ・プログレッシヴ・ロック。 ジャジーでソフトな音も多いが、その交え方自体がそもそも尖がっていて、プログレ・スピリッツは満載。
  「The Drowning」(5:25)夕暮れを思わせるトランペットが印象的なバラード。
  
(ARAG003CD)


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