ACHE

  デンマークのプログレッシヴ・ロック・グループ「ACHE」。 68 年結成。 作品は、再結成後のニ枚を含めて計四枚。 前期は、ヘヴィかつクラシカルなオルガン・ロック。 PROCOL HARUMTHE NICE を目指していたようだ。

 De Homine Urbano
 
Finn Olafson guitar, vocals
Peter Mellin organ, piano
Thorsten Olafson bass, vocals
Glenn Fisher percussion, drums

  70 年発表の第一作「De Homine Urbano」。 内容は、ファズ・ギターとオルガンのヘヴィなサウンドによるクラシカルなシンフォニック・ロック。 RARE BIRD、または BEGGER'S OPERA など 渦巻き VERTIGO レーベルのオルガン・ロック(のレベルの高い方)を思い出していただいていい。 荒々しく毛羽立ったサウンドにもかかわらず、オルガンの奏でるテーマにはえもいわれぬ風格があり、演奏全体から立ち昇るのは、前世紀的なロマンチシズムである。 冒頭の 2、3 小節や、なめらかなテンポアップなど FOCUS に通じる優美なロマンを感じさせるところもある。 ファズ・ギターのリフやオルガンとギターとの絡みにも、サイケデリックな荒々しさを越えた、端正なまとまりがある。 一方、カタストロフィックな場面では、ハードロック的な単純なワイルドネスに留まらないアヴァンギャルドな現代音楽タッチが出てくる。 この辺りもユニークである。 英国ロックをしっかりとなぞった早期のプログレッシヴ・ロックとしては、出色のでき映えだろう。 A 面の表題作は、ロック・バレエの劇伴音楽だそうだ。 ヴォーカルは英語。

  「De Homine Urbano」(19:01) 10 パートから成る同名劇の劇伴作品。 ファズ・ギターとオルガン、太いベース・ライン、バタバタしたドラミングを縦横無尽に駆使した逞しい演奏が続く。 押し引きを繰り返す比較的単純な展開だが、押し捲るときの潔い勢いゆえにドラマにしっかりとメリハリが出ている。 アラビアン風味が出ると、初期の CAMEL をヘヴィにしたようなイメージにもなる。 終盤は R&B 調もあるこなれた演奏を繰り広げ、エンディングは、なぜか LED ZEPPPELIN の「How Many More Times」風のブルーズ・ロックとなる。 現代音楽的な要素も含み、イタリアン・ロックの一歩先をゆくクラシカル・ロック・インストゥルメンタルの傑作。

  「Little Things」(18:33) THE BEATLES の「Every Little Thing」をモチーフに、気まぐれ風のサイケデリックなタッチで綴る大作。 泥酔気味のヴォーカルと失調気味のモノローグも取り入れ、SE も使った野心的かつ破綻すれすれの大胆な長編である。 演奏の主役は、ハモンド・オルガンとギターだ。 全体のストーリーはともかく、ブルーズ・スタイルのギターは堅実で味のあるプレイを見せる。 オルガンは、歯切れのいいバッキング、思いきりクラシカルなリフレインやソロ、すべてカッコいい。 ピアノもみごとなアクセントになっている。 ほんのりメランコリックな翳りとそこへ差し込む薄日のような音。 10:00 辺りからのタイトな演奏が「乱調からの再生」をイメージさせて感動的だ。 イタリアン・ロックも真っ青なアヴァンギャルド・シンフォニック大作。

(FR 2002 / Philips PY 841 906)

 Green Man
 
Finn Olafson guitar, vocals
Peter Mellin organ, piano
Thorsten Olafson bass, vocals
Glenn Fisher percussion, drums

  71 年発表の第二作「Green Man」。 内容は、重厚にして大胆なクラシカル・ロック。 プログレッシヴ・ロックらしく曲調の変化や展開に細かく気を使っている。 演奏は、オルガン、ピアノ、ギターをパワフルで手数の多いリズム・セクションがドライヴするハードロック的なものだ。 この時代のほかの多くのグループと同じく、オルガンに比重を置いてオーケストラ風の効果を上げようとしている。 オーセンティックでやや謎めいた歌唱や自信あふれる語り口は、明らかに PROCOL HARUM を意識しているのだろう。 ブルーズ・ギターのアドリヴが前作より拡充されているが、これまた、ロビン・トロワーと同じで違和感がない。 ただし、プレイそのものはトロワーよりもソフィスティケートされていると思う。 PROCOLS と同質のインテリジェンスや無常感もうまく取り入れている。 アレンジものに力を入れるところなどから、VANILLA FUDGE に通じる印象もある。 同時期の英国ロックをよく吸収しながらも、よりセンスよく音楽性を整理した佳作である。 タイトルは、確か 50 年代アメリカでの「地球人を誘拐する宇宙人」の通称だったと思います。

  「Equatorial Rain」(7:02)

  「Sweet Jolly Joyce」(3:48)

  「The Invasion」(5:57)「宇宙人」の侵略でしょうか。ギターをフィーチュアしたスリリングなオープニングから、PROCOL HARUM そのものな重厚なバラードへ。終盤のブラスを使ったポジティヴな展開もいい感じだ。

  「Shadow Of Gipsy」(4:34)

  「Green Man」(4:40)キャッチーなビート風の作品。

  「Acheron」(4:48)ジャジーな味わいのインストゥルメンタル。 エモーショナルなギター・ソロ、熱いオルガン、グルーヴィなピアノ、クールなヴァイブなど見せ場が続く。クラブ向け。

  「We Can Work It Out Working」(8:43)THE BEATLES の作品をモティーフにした大作。ワイルドでグルーヴィなオルガンがひた走る。ラウンジ・ピアノによる強引な展開はイタリアン・ロック風。

(FR 2002 / Philips 6318005)

 Pictures From Cyclus 7
 
Finn Olafson guitars
Peter Mellin keyboards, vocals
Steen Toft Andersen bass
Johnnie Gellert percussion, acoustic guitar on 6, guitar on 2,10, vocals
Stig Kreutzfeldt percussion, vocals
Gert Smedegaard drums

  76 年発表の第三作「Pictures From Cyclus 7」。 再結成後の第三作。 ヘヴィなオルガン・ロックから大変身を遂げ、ポップにこなれるとともに実験色も打ち出した秀作。 ほのかに哀愁あるメロディをピアノやオルガンの響きやギターのアルペジオで支えてしみじみと、また軽やかにしなやかに送り出してくる。 二人のリード・ヴォーカリストのビター・スウィートな歌唱とハーモニーもいい。 メロディアスなだけではなくソウルフルなパワーもある。 オルガン・ロックの矜持は、前半の大胆なピアノ・ソロや後半のインストゥルメンタル曲などに凝縮されているようだ。 ブルージーなギターとオルガンによる熱気あふれる演奏も健在だ。 しかし、そういった演奏力を発揮するシーンもメインのポップス・パートとの自然な連結が行われている。 まさにアレンジの妙だ。 とにかくクラシカルなタッチを基調にした 70 年代ポップスとしての出来がすばらしく、その作風には CARAVANSTACKRIDGE といったバンドと同等の安定感がある。 60 年代ビートポップの感覚を保ちながら 70 年代前半のアーティスティックな実験を経て、この音に結実したのだろう。 北欧らしい清潔感もあり。 普通のポップス・バンドになっちゃったんでしょ?と思って聴いていないプログレ・ファンには、ぜひ聴いていただきたい。 プロデュースはニルス・ハインリクセン。

  「Cyclus 7, Introduction」(3:20)
  「Roses (Registering)」(6:17)
  「Still hungry (Vampyre song)」(7:03)
  「What Can We Do?」(0:47)
  「Still registering」(2:53)

  「Our Lives」(5:53)
  「Last Part 1」(1:02)
  「Outtroduction」(4:07)
  「Last Part 2」(1:45)
  「Expectation」(6:48)

(CBS 81216)


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