ARACHNOID

  フランスのプログレッシヴ・ロック・グループ「ARACHNOID」。60 年代末から活動開始。唯一作は後発ながらも、フレンチ・シンフォニック・ロックを代表する一枚。

 Arachnoid
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Patrick Woindrich bass, guitar on 3, vocals on 1,3,4,5,8,9, chorus on 1,2,4,5Nicolas Popowski guitar, vocals on 1,3,4,5,8,9, chorus on 5
Francois Faugieres modified Farfisa organ, mellotron, vocals on 2,4,5Pierre Kuti acoustic piano, Fender electric piano, Korg MS 10 synthesizer
Bernard Minig drumsMarc Meryl lead vocals, tambourine on 10
guest:
Philippe Honore flute on 3, sax on 5Yves Javault vocals on 5
Christine Mariey spoken voice on 5Martine Rateau spoken voice on 5
Christine voice on 1

  78 年発表のアルバム「Arachnoid」。 内容は、暗くメランコリックなへヴィ・シンフォニック・ロック。 ギターは、歪み/位相系のエフェクトを多用してヒステリックにわななき轟々と突進して聴覚を刺激するかと思えば、緩やかにアルペジオを響かせてキーボードとともにセンチメンタルながらも不気味な空間を広げてゆく。 そして、ツイン・キーボードは、Korg MS10 や Farfisa オルガン、メロトロンなどでギターと連携して幻想性と不安感を演出し、ピアノなどアコースティックな音も芸術的に活かして、独特の暗い光沢のある音を生み出す。 ギターは最高潮に達するとリシャール・ピナスか SHYLOCK のような狂おしさでのた打ち回る。 ただし、こちらはどことなく品があり、おそらくはさほど手の込んだ製作ではないにもかかわらずサウンドも演奏も上等である。(1995 年にスタジオでサウンド面に手を加えたということではあるらしい) クローンバンドにありがちな素人臭さや不恰好さは皆無である。(キャリアを考えれば当然だろう) ドラムスはシンバルと細かく押し込むロールが特徴的。 これらによるアンサンブルは、へヴィなサウンドとは裏腹に意外なまでに細身であり、ソリッドな音というよりはか細くデリケートな音である。 変調されたシンセサイザーのシングルトーンはメカニカルなイメージが強く、メロディアスなソロでも耽美なロマンチシズムとセンチメンタリズムの中に拷問用の精密機械がキリキリとネジを巻くような不気味なスリルを孕んでいる。 一番の特徴は、エレクトリックでへヴィなサウンドと突き抜けきらずに渦を巻く曲調による追い立てられるような緊張感、圧迫感と衝撃、そしてその張り詰めた空気を吸い込むブラックホールのような深みと広がりである。 さらには、薄暗い物語り調のフランス語ヴォイスと幻想的なハーモニーも特徴だろう。 ANGE ばりの演劇調もある。
   かなりおおざっぱにいうと、ATOLLPULSARCARPE DIEM(の第一作)を合わせたようなスタイルである。 KING CRIMSON と対比されるのは、ギターを中心とした演奏の狂気を秘めた陰鬱さ、そしてそれと表裏一体の繊細な叙情性(思い切ってメロトロンのオブリガートといってもいい)のためだろう。 また、ATOLL とは切迫感ある密度の高い音と熱にうなされたようなヴォイス、PULSAR とはスペイシーで暗い叙情性が共通している。 一部でゲストによるフルートも使われている。 メロトロンは過剰投与気味だが、音そのものは非常にいい。
   ユニークなのは、あまりジャズやクラシック(キーボードなどは現代クラシックに触発されているんだろうが)側には振れずに、基本はロックンロールのままリズム、テンポ、和声の複雑さを窮めて、ヴァイオレントな表現に託してきたところだろう。 そういう点でリシャール・ピナスとよく似ていると思う。 この音楽から感じられるのは、小宇宙を打ち立てんと静かに決意しているような「思い込み超過剰」な姿勢(凡百のグループと比べるとはるかにソフィスティケートされてはいるのだが)であり、それはフランス・ロックの伝統のような気がする。 全編たるまずに最後まで一気に駆け抜けます。 ヴォーカルは 3 曲目以外はフランス語。

  「Le Chamadère」(13:49)本アルバムの代表曲。カッコいいです。
  「Piano Caveau」(7:18)ピアノが導き、幕を引く悪夢世界。 緊張感あふれる 8 分の 6 拍子は KING CRIMSON の伝統か。 パーカッションが骸骨のケタケタ笑いに聴こえます。
  「In The Screen Side Of Your Eyes」(4:03)後期 KING CRIMSON のジョン・ ウェットンの作風を思わせる歌もの。間奏は、明るくなったりジャジーなフルートが飛び込んだり、独特の弾け方を見せる。ヴォーカルは英語。
  「Toutes Ces Images」(8:04)後半、サイケデリックな混沌を切り裂く爆走が聴きもの。
  「La Guêpe」(8:39)狂気じみたモノモーグと複数のヴォイス、荒々しい演奏が交錯する「前衛らしさ」あふれる作品。Mécanique!
  「L'Adieu Au Pierrot」(0:57)GENESIS の作風によく似た美しい小品。
  「Final」(3;02)前々曲のインスト・パートを思わせるハイ・テンションの終曲。 LP では前曲と一組になっていたようだ。

  「L'Hiver」(4:14)ボーナス・トラック。1977 年ライヴ録音。『地獄の四季 第一部より「冬」』だそうです。
  「Le Pierrot」(5:07)ボーナス・トラック。1977 年ライヴ録音。アルバム収録の 6 曲目はこの作品の抜粋のような気がする。
  「L'Adieu」(3:20)ボーナス・トラック。1976 年ライヴ録音。
  「Piano Caveau」(7:15)ボーナス・トラック。アルバム収録 2 曲目のインストゥルメンタル・ヴァージョン。
  
(A 3304 / MUSEA FGBG 4126.AR)


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